HSPとは?セルフチェックして「10つの」状況別対処法を知ろう
最近よく耳にするHSP(ハイリーセンシティブパーソン)、実に5人に1人が該当すると言われています。今回はHSPとは何かを知り、8つの状況別対処法をプロの方に教えていただきました。チェックリストで自分が該当するかも確認してみてください。また、自分が当てはまらなくても、身近にいるHSPにどんな対応をすればいいのかがわかるので是非一読ください。
HSPとは
ハイリーセンシティブパーソン=HSP。他人の痛み、苦しみ、冷蔵庫のブーンというあの低い音など常に増幅して感じとってしまう人たちのこと。感受性が強く、共感力が高いがゆえに、疲れやイライラもひといちばい。周りに理解されず、ひとりで自分を責めてしまうことも多いけれど、実は5 人にひとりとか! デメリットだけではなく、しっかり物事の本質を見ようとするなど、いい面もたくさん。
イラストレーター 高野 優さんの場合
STトータルセッション 主宰・臨床心理士
佐々木智城先生
ささき・ともしろ/星槎道都大学社会福祉学部准教授。臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士。札幌と帯広にある心理臨床サロン「STトータルセッション」(https://www.st-total-session.jp)にて、トラウマ、HSPを中心に心理療法を提供。オンラインも受付。
心理オフィスK 主宰・臨床心理士
北川清一郎先生
きたがわ・せいいちろう/臨床心理士、公認心理師、産業カウンセラー、認定心理士ほか多数資格取得。横浜のカウンセリング専門機関「心理オフィスK」(https://s-office-k.com)の代表として、年間約1,200件のカウンセリングと多くの症例に触れている。
約5人にひとりいると言われている「HSP=ハイリーセンシティブパーソン」。日本語訳では「ひといちばい敏感な人」。音など五感の刺激が人より気になる、他者の気持ちを敏感に感じとってしまうため気疲れしやすい…このようなことに思い当たるあなたはもしかしたら“敏感さん”かもしれません。
「自分の気持ちより相手優先の行動をとってしまい苦しい、相手のイライラなど負の感情が入ってきて怖くなる、周囲の音が影響しすぎてフリーズする…などの悩みを抱えて来院される方が多数います。心身に不調をきたす場合もあり、適切な対処が“敏感”はあくまで気質。正しい理解と適切な対処を必要です」(佐々木智城先生)
こうした“敏感さん”はその「感じる力が強い」性質を正しく理解することでグンと楽に過ごしやすくなるもの。HSPの人の中には、相手の喜びや美しい芸術などプラスの情報にも刺激を受けて、才能を花開かせている人も、穏やかに過ごしている人もたくさんいると、心療内科医の明橋先生は言います。
「敏感さはあくまで先天性の気質。“HSP=ひといちばい敏感である”ことと、“敏感すぎる=不安症や神経症”は違います。治す必要のある病気ではないのです」(明橋大二先生)
“敏感さん”の特徴を理解することで、対処法も明らかに。詳しく知って上手にコントロールしていきましょう。
「HSS」と「HSP」はどこが違う?
好奇心旺盛で新しいこと・物が大好きな “刺激探求型”と呼ばれる性質のことで、“HSP”とは異なります。ただ、“HSP”兼“HSS”という人もいます。
“HSS=High Sensat ion Seeking(ハイセンセーション シーキング)”の略で、HSPとは全くの別もの。
「注意集中の方向が目まぐるしく変わり、刺激を求めるタイプの人のことを指します。あれこれと目についたことに飛びつきやすく、熱しやすく冷めやすい。一方で、頭の回転が早く、創造的な気質のもち主ともいえます」(北川先生)
「HSPの中の約30%がHSSに当てはまる、といわれています。この方々は刺激を求めて行動するのですが、HSPの特徴も併せもつので、刺激を受けて疲れます。そのため活動したいけれど疲れてしまうので、どうしたらいいかと悩んでいることが多いです。接するときは、本人に疲れていないか聞いたり、表情や顔色を見て休憩をとること。楽しくても疲れるので、新しい行動をとるときは休日の前がおすすめです」(佐々木先生)
セルフチェック
4つの特徴
- 【D】深く考えを巡らせる(Depth of processing)
脳の情報を深く処理する部位が活発で、1を聞いて10のことを想像し考える、物事を始めるまでにあれこれ考え時間がかかる、などの性質を指します。
- 【O】過剰な刺激を受けてしまう(Overstimulation)
非HSPの人にとって10の刺激が100の刺激。人混みや大きな音、ささいな言葉に敏感。楽しい時間を過ごしても帰宅後はどっと疲れていることも。
- 【E】感情が動きやすく共感もしやすい(Emotional response and empathy)
「共感する力」を生むミラーニューロンが活発で、人が怒られていると自分のことのように感じ、傷ついたりします。物語に感情移入することも多々。
- 【S】些細なことにも敏感(Sensitivity to subtleties)
冷蔵庫の機械音、強い光、近くにいる人の口臭など刺激物を察知する力がとても高い。カフェインや添加物など、体内での刺激にも敏感に反応。
チェックリスト
次の質問に、感じたまま答えてください。どちらかといえば当てはまるならチェックをしてください。全く当てはまらないか、ほぼ当てはまらない場合は、チェックはしないでください
- 周りの環境の微妙な変化によく気づく
- 他人の気分に左右される
- 痛みにとても敏感である
- 多忙な日が続くと、寝室などプライバシーが守られ、刺激から逃げられる場所に引きこもりたくなる
- カフェインに敏感に反応する
- 明るい光や強いにおい、ザラザラした布地、大きな音などに圧倒されやすい
- 豊かな想像力をもち、想像にふけりやすい
- 騒音に悩まされやすい
- 美術や音楽に深く心を動かされる
- とても誠実である
- すぐに驚いてしまう
- 短時間に多くのことをする場合、混乱しがち
- 人が不快な思いをしているとき、どうすれば快適になるか気づく(例/電灯の明るさを調節、席替え)
- 一度に多くのことを頼まれるのが嫌だ
- ミスや忘れ物をしないよう、常に気をつけている
- 暴力的な映画やTVなどは見ないようにしている
- あまりにも多くのことが身の周りで起こっていると、不快になり神経が高ぶる
- 生活に変化があると混乱する
- 繊細な香りや味、音楽を好む
- 普段の生活で動揺を避けることを重視している
- 仕事において、競争させられる・観察されると緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
- 子供の頃、「敏感」「内気」と思われていた
※上記チェックリストは『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』(SBクリエイティブ)ほか参考文献・取材に基づき、『美的』が作成。
→上のリストで12個以上がついた人は“HSP”の可能性大!
どんな心理テストよりも、実際の生活の中で感じていることのほうが確かです。たとえチェックがひとつ、ふたつしかなくても、その度合いが極端に強ければ、“HSP“かもしれません。「最近はそうでもないけど、少し前までいっぱい当てはまった」という人も。元々の気質がHSP寄りかもしれません。私は違うけれど、あの人がそうかも?ということもあるでしょう。HSPのこと、詳しく知って理解度を高めて!
「8つの」状況別対処法
【1】細かいことが気になり、業務時間が長引いてしまう
「メールを1本書くのにもAを添付したほうが親切かな、その前にBの資料を読むべきかな、そのためにはCさんにまず連絡を…といろいろ考えてしまうんです」(営業・28歳) など、“とりあえず進める”が苦手、という声が。「上司に要領が悪いと思われていそうで心配…」(マスコミ・30歳)という不安も。丁寧な仕事ぶりは決して悪いことではないけれど、「効率をもう少し良くしたい!」というお悩みへの対処法は?
Point
業務のリスト化をし、優先順位をつける練習を。焦らず、丁寧な仕事をしているという見方に転換してみても!「業務のリスト化をし、緊急度と重要度を基準として優先順位をつけて」(北川清一郎先生)
「優先順位の低いものまでやろうとしてしまいがちなので、意識的にすべては見ないようにすることも大事です」(明橋先生)
「HSPは細かいことまで気づいて準備をするので、始めるまでに時間がかかるのが特性。周囲から何も言われていないなら問題なし。急ぐとかなりの確率で失敗するので、最終的にいい仕事ができているかに焦点を当てて」(佐々木先生)
【2】業務変更などによる環境の変化が極端にストレス
自分自身の異動はもちろん、上司の異動などにも敏感に反応。「昔から環境の変化が苦手。直属の上司が変わったら業務の進め方にも変化が出て…しばらく慣れず残業続きでやつれました」(事務・32歳) 、「知らない人相手だと気疲れしてしまうので、毎年異動のシーズンになるとハラハラします」(総務・29歳)など、ストレスを感じてしまいがち。変化や変更の詳細をできるだけ早く知って、心構えしておくことが大事。
Point
可能な限り事前に情報収集し、心の準備を。変化後は日常のルーティンを維持して調子を取り戻すきっかけ作りに「周りに理解のある人がいれば『業務内容の急な変化に対応が難しいので、あらかじめわかっていることがあれば教えてほしい』と伝え、サポートをお願いしておくと◎」(北川先生)
「変化によって負荷が減り、元気になることもあると、まず考えましょう。状況が変化して調子をくずしてしまったときは、日常のルーティンを維持するのがおすすめ。朝起きて散歩をするなど、日頃の行動を継続することで、調子を取り戻すことができます」(佐々木先生)
【3】怒りっぽい人、声のやたら大きい人、威圧的な人などに気圧されてしまう
「職場に地声のとても大きな人がいて…怒っているわけではないらしいのだけど萎縮してしまいます」(福祉・25歳)、「隣の部署にしょっちゅう怒っている人がいます。自分が怒られているわけではないのに、気分が悪くなります」(経理・26歳)など、威圧的な存在感のある人に刺激を受けすぎてフリーズしてしまったり、弱ってしまいがち。「気にしない」が難しい“敏感さん“の場合、どう対応するのが正解?
Point
まずは極力避けること。難しい場合は胸元の辺りに書類を持っておくなど、心理的防御のために障壁を作っておく「心理的防御のために障壁を作ることが有効。マスクをする、胸の前で書類を持つ、テーブル越しなら相手との間に書類やコップを置く。これだけでも心理的な負荷が違います」(佐々木先生)
「どうしても避けられず会話をする必要がある場合は、声のトーンを落としてゆっくり、客観的&冷静な口調で。人には同調性があるので相手も同じテンションになっていきます。逆にこちらが影響されて声を大きくすると、さらに相手も大きくなってしまいます」(北川先生)
【4】イベントごとが苦手で、前後で体調をくずしがち
イベントのことを深く考えてしまうがゆえに、体調に影響が出てしまいがちな“敏感さん”。「クライアントを招いたパーティの担当になってしまい、本番当日まで本気で胃が痛くて。通院した程でした」(営業・31歳)などイベントの可否が気になってしまったり、担当者ではなくてもその場にいるだけで大勢の人や華美な音響・装飾などが刺激になって帰宅後はぐったりしてしまうことも。うまく対処する方法は?
Point
意識的に『ダウンタイム(=休息)』を取り入れる。また、イベントの不安な側面だけでなく肯定的な側面も洗い出し、バランスのとれた視点を身につける練習をしてみるのもおすすめです「HSPに覚えていてほしい言葉のひとつに“ダウンタイム=休息”があります。非日常的な出来事に敏感だからこそ、前後でしっかり休息を」(明橋先生)
「否定的な側面に着目しがちなので、メリットや成功した点など肯定的な側面の洗い出しを。その際、否定的側面をゼロにするのではなく、両面あることを発見することが大事。考えるときは思いきり考え、一定時間で区切り、切り替えを。お風呂に入るなど行動的に切り替えるといいでしょう」(北川先生)
【5】仕事でもプライべートでも、頼まれごとに「NO」と言えず引き受け、パンクしてしまう
「本当は予定があったけど、上司からどうしてもと頼まれた仕事を断り切れず、泣く泣く予定をキャンセルして残業したことが」(事務・25歳)など、相手の気持ちに敏感だからこそ、自分より相手を優先してしまいがち。ほかにもキャパシティを超えた業務を引き受けてしまう、仕事・介護と忙しい上にPTA関連まで引き受けてしまう、など…自らの生活を犠牲にしては本末転倒。まずは自分の気持ちを最優先に!
Point
自分の気持ちを大事に!他人と自分の間に境界線を引く『バウンダリー』を身につけて。部分的に引き受け、部分的に断るのもアリ「“バウンダリー=境界線”という概念が重要です。HSPは他者の感情が流入しがちなので、自分と他者は別人である、と明確に意識を。自分の時間や都合を守っていいんです。罪悪感をもつ必要はありません。引き受ける際は、今の自分にできることかを考えて」(明橋先生)
「その場でNOというのは苦痛かもしれませんが、その後の長期の後悔と天秤にかけて思い切ることも大事」(佐々木先生)
「Aは難しいけどBならできる、という手立ても」(北川先生)
【6】過剰なまでに他者の置かれている状況や気持ちが気になってしまい、疲れやすい
「会社の飲み会で、人の位置や飲み物、雰囲気が終始気になってしまい、毎回とても疲れます。やりたくないのに盛り上げ役をやってしまうこともしばしば…」(広報・33歳)、「お客様の世間話を受け流せず、気づけばカウンセラー状態に」(整体師・27歳)など、“気疲れ”してしまうという声が多数。気が利くのは美点でもあるけれど、他人のことばかりで自分のことはおざなりに…などとならないようにするには?
Point
気を遣いすぎているときは、自分を忘れている状態。ここも『バウンダリー(=他者との境界)』を大事に、自分の内面の声をきちんと聞いて「相手を優先しなくては、という気持ちに飲み込まれすぎないよう、ひと呼吸置いて。自分はどうしたいのか、まず心の声を聞きましょう」(佐々木先生)
「多くの場合、仮に相手が不快になったとしても誠実に謝ればだいたい許容されます。気遣いをする人は、不快にさせたくないと“予防的”にそうならないようにしており、精神的エネルギーを投資してしまっています。そうではなく、何か起きた後の“事後処理的”な部分にエネルギーの投資を」(北川先生)
【7】コロナ・事件、etc.負のニュースに引きずられ、具合が悪くなる
「昔から殺人事件や虐待などのニュースが大の苦手。詳細まで知ることができません」(主婦・31歳)など、負のニュースが流れると刺激が強すぎて本当に具合が悪くなりがち。特に最近は新型コロナウイルス関連の報道が多く「先行き不安でうつっぽくなりかけました」(受付・25歳)という人も。残念ながら心温まるニュースばかりではないのが現実。情報感度が高い“敏感さん”はどう向き合っていけばいい?
Point
視聴時間やニュースをチェックする癖を減らし、極力情報を遮断。触れるなら専門家による科学的な情報に。意識的に休息もとって「まずは情報から距離をとること。自分で時間や量を制御することが大事です」(明橋先生)
「ニュースにもよりますが、断片的な印象で負の側面に引き込まれないよう、客観的な情報をきちんと入手しましょう。たとえば新型コロナウイルスだったら漠然と怖がるのではなく、きちんと勉強し科学的なメカニズムを理解した上で適切な対処を行う、など」(北川先生)
「疲れたら休息を。安心できるものに触れる、場所に行くなどもおすすめ」(佐々木先生)
【8】冷蔵庫の音や蛍光灯の点滅など、特定の音や光、肌触りなどが猛烈に不快
感覚の過敏さにも悩みの声が多数。「蛍光灯の白い光が大の苦手」(主婦・29歳)、「エアコンの機械音がとても気になる。でも、ほかの人は全く気にならないみたいで衝撃を受けました…」(事務・24歳)、「デニムのような固い素材は、ゴワつきが気になってはけない」(企画・34歳)など、感覚の悩みは人それぞれ。繊細な気質は決して悪いことではないものの、感覚に関しては特に「つらい」と訴える人が多いよう。
Point
イヤホンや遮光メガネなどを活用して物理的に遠ざける工夫を。周囲の人に理解してもらうことも大事「自分にとって不快な感覚情報を減らす必要があります。ノイズキャンセラー機能つきのイヤホンや遮光アイテムなど影響を遮断する道具を賢く使って。触覚に関しては、触り心地の良いハンカチなどを常備しておくと安心できます」(佐々木先生)
「合わないものは合わないので、極力避ける、道具を使って軽減する。感覚の違いは理解されづらいので、自分はこんな音が本当に苦痛で頭が休まらないんです、など説明することも大事です」(明橋先生)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
あけはし・だいじ/精神病理学、児童思春期精神医療専門。真生会富山病院心療内科部長を務めるほか、児童相談所嘱託医など子供の問題に多数関わる。HSPの子供版“HSC”の日本における第一人者で、著作も多数。