健康・ヘルスケア
2018.4.24

女医に訊く#10|相手はペットでもOK!?情緒不安定になったら「気持ちを言葉に」

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環境の変化にともなって、大なり小なり心がざわつきやすい春。「モヤモヤする」「会社に行きたくない」「心配ごとがあって夜眠れない」。そんな情緒不安定なときにはどうしたらよいか、心療内科医の牧野真理子先生に教えていただきました。

苦しいことやストレスを言葉にすると気持ちが安定する

不安やモヤモヤが心の中に溜まってしまったとき、最も良いのは「今、抱えている気持ちを言葉にして話すことです」と、牧野先生。自分がどういう状態にあって、どんなことで苦しいのか。言葉にして話すこと。そしてそれを、理解してくれる相手がいるとベストです。

「患者さんと接していて、日々実感することですが、たとえば不眠が原因で来院しても、“なぜ眠れないのか”“理由や将来への不安”などを、医師である私に話すだけで症状が改善するケースが多いんですね。言葉にして話せる相手が身近にいることは、情緒の安定にプラスに働きます。相手は誰でもいいんです。友人でも、家族でも、聞いてもらうという意味では、ペットでもいいと思いますよ」(牧野先生)

しんどくなったら、まずは言葉にして“モヤモヤを手放すこと”を試してみましょう。とはいえ、心から話せる相手を見つけるのが難しい場合や、仮にそんな相手がいても正直に自分の弱い部分をさらけだすことに、抵抗感がある人もいるはず。そんなとき、気軽に気持ちを吐露する場所として、SNSなどインターネットの世界はどうなのでしょうか。

 SNS への投稿に頼りすぎるのはNG

「SNSなどネットのコミュニケーションに頼りすぎるのは、あまりおすすめしません。特に情緒不安定なときはなおさらです」と、牧野先生。その理由は、まずSNS は“顔の見えないコミュニケーション”であることです。

「SNS に投稿するときは、1人でモヤモヤしたり、気持ちが高ぶっている時が多いと思います。そんな時はどうしても、文章や表現が過激になりやすいんですね。直接会って話をする場合、“表情が変わったな”とか“こういう言い方をすると相手は驚くんだな”と、相手の反応を見て自分の感情にも抑制が効きます。しかし顔の見えないコミュニケーションの場合、感情が一方向にエスカレートしやすく、一概に情緒の安定にプラスに働くとはいえません」(牧野先生)

また過去に社会問題になった、“自殺したい人を集めるコミュニティ”のように、ネット上では、日常生活ではアクセスできないような、人や情報とつながることも可能です。これはネットの利点であると同時に「リスクでもあります」と牧野先生は語ります。

「また前回お話しした通り、SNSは“自分と人を比べてしまう”場面も存在するんですね。旅行や友人たちとの食事会の写真をアップしている人を見て“あの人は楽しそうなのに私は…”と、落ち込みの原因になる場合もあるでしょう。もしかしたら幸せなイメージを大げさに表現しているのかもしれませんよ。受け取り方次第ではモヤモヤしてしまうこともありますよね。そういう意味でも、やはり直接相手の顔を見て話しをすることが大切だと思います」(牧野先生)

ノートをつけて「モヤモヤ」の正体を客観的に見る

人に話すのがどうしても苦手な場合は、“ノートに書いてみる”のも一つの方法です。専用のノートを用意して、片側のページにその日に起こった出来事と、そのとき自分がどう感じたかを書きとめます。そしてもう片側のページに、“どうしたらよかったのか”を考えて記していきます。

「数日経ってから改めてノートを見直して、そのときにまた気づいたことを書き加えます。これを繰り返していくと、“自分の考え方のクセ”が分かってくるんですね。その場では感情的になったことも、数日たつと客観的に観察できるはず。そうすると“あのとき本当はああすれば良かったんだな”と、対応についても冷静に考えられるでしょう。次に同じようなことが起こったとき、改善するヒントを与えてくれるんです」(牧野先生)

嫌なことを見返して、当時の気分がよみがえらないのか気になりますが、「患者さんの経過を見ていると、時間が経つことで客観的になる側面が大きいですね。ノートを見ることによって“強くなる”感じでしょうか」と、牧野先生。

「私って案外幸せ」という自己肯定感が情緒を安定させる

「実際にこの方法を実践している患者さんも多く、長い人は10年以上になります。ある患者さんは、最初の頃は誰かに怒られると“私はダメなんだ”と、極端に萎縮するタイプの方でした。人間は感情の生き物ですから、このような考え方のクセを直すのは、非常に難しいんですね。でもノートをつけることによって、他者の視点で考え方のクセを把握し具体的な対応のヒントを得て実践してみる。これを繰り返しているうちに、その方は極端に萎縮することが減っていきました。今では月に1度そのノートを見せに来て、普通に話しをするだけで帰られます」(牧野先生)

ちなみに、ノートの後ろ側から“ハッピーと感じたこと”を書きとめていくのもおすすめです。特別なことでなくて大丈夫。今日は晴れて気持ち良かったとか、朝のコーヒーが美味しく煎れられたとか、些細な幸せを書きとめてみましょう。

「小さなことでも毎日“幸せだな”と思えることをつなげていくと、“けっこう私は幸せに暮らしているのかもしれない”と、自分を肯定する気持ちが生まれるんです。人と比較してダメなところを探すより“自分は幸せである”という感覚を抱くことが、不安な気持ちを乗り越える力となってくれるでしょう」(牧野先生)

本当に苦しいときは心療内科で専門家のアドバイスを

誰かに話したり気持ちをノートに書いても、なかなかモヤモヤが晴れない。そのうち睡眠のリズムが乱れたり、会社に行きたくなくなったり。どうしても情緒不安定な状態が苦しい時は、心療内科で専門のドクターに相談するのも有効です。

「人間である以上、自信をなくしたりフッと“消えてしまいたい”と思うようなことは、決して珍しいことではありません。1人で不安を抱えたまま、情緒不安定な状態が続くなら、先ほどもお話しした通り“言葉にしてまずはき出すこと”がとても大切です。そういう意味で心療内科は人目を気にせず自分のことを話していただける場所なんですね。専門医として診療を重ねると、自分のことを話して情緒不安定な状態から回復していく患者さんの姿をとてもよく目にします。敷居が高い感じがするかもしれませんが、ぜひ気軽にご相談頂けたらと思います」(牧野先生)

環境が変わったストレスから情緒不安定に陥って、体調までも崩してしまう前に。本当に苦しくなったら、選択肢の1つとしてぜひ。

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心身医療内科専門医
牧野真理子先生
牧野クリニック 心療内科 診療部長。医学博士。心身医療内科専門医。優秀臨床専門医。北里大学医学部、メルボルン大学医学部大学院卒業。働く女性たちのメンタルヘルス事情に通じ、摂食障害やうつ病の治療に取り組む。患者自身が悩みの解決法を見つけられるよう、親身なカウンセリングでサポートしている。
■牧野クリニック http://www.makino-c.net

文/宇野ナミコ 撮影/藤岡雅樹(小学館)

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