健康・ヘルスケア
2024.2.20

30代からは年1回の検診を! 「乳がん検診」で乳房を守ろう

乳がんは女性特有のがんで罹患者数第1位。乳がん全体の発症のピークは45歳以降だけれど、実は「遺伝性乳がん」が年代別の乳がんに占める割合は30代がトップです。乳がんは早期発見・早期治療で治る病気だからこそ、30代の今のうちから先手の対策を!

相良病院 院長

大野真司先生

「乳がん検査」で乳房を守ろう!

乳がんの主な原因は、女性ホルモンの刺激で細胞がダメージを受け続けること

「体のすべての器官は細胞からできていて、各機能は遺伝子がプログラムしています。遺伝子がなんらかの刺激によって傷つき、しかもそれが長期にわたって繰り返されると、 細胞が徐々に変異してがん化 するのです。乳がんも、月経など周期的に分泌される女性ホルモンが刺激となり乳腺の遺伝子を傷つけ、細胞が変異することで発症します」と、相良病院院長・大野真司先生は話します。

「そのため初潮が早かった、初産が遅い、出産経験がない…など、 女性ホルモンの分泌と月経の回数をたくさん重ねている人 ほど、乳がんの発症リスクは高まります。今では、乳がんの罹患率は9人にひとりにまで増えています」

 

若い世代の乳がんは遺伝も大きい

「一方、20~30代で発症する乳がんは女性ホルモンの影響だけでなく 遺伝子そのものの変異 が原因のことが少なくありません。遺伝性のがんは予防が難しいため、血縁者に罹患者がいる場合は年齢にかかわらず今すぐ 乳がん検診 を受けましょう」

 

乳がんの罹患率は30代から急増


乳がん罹患率のピークは40代以降ですが、急激に増加する30代は要注意ゾーン。定期的に乳がん検査を。
※国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)を基に作成

 

乳がんは乳腺にできる悪性腫瘍

 

\30代から要チェック/

乳がんになりやすい人は

  • 血縁者に乳がんにかかった人がいる
  • 初産が30歳以上
  • 出産・授乳経験がない
  • 初経年齢が早い
  • 肥満(BMI25以上)
  • 良性の乳腺疾患を経験

20~30代の乳がんは遺伝性が多く、変異遺伝子をもつ人はもたない人の6~12倍発症しやすい!
乳がんになりやすい変異遺伝子を親から受け継いでいる人は、遺伝子に異常のない人に比べて発症率が6~12倍にもなる。

若い世代に多い「遺伝性乳がん」とは…親から受け継いだ遺伝子に異常があって乳がんを発症!


乳がん全体の7~10%は遺伝性乳がん

さらに…遺伝性乳がんのおよそ半分は遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC※1)

HBOCとは、生まれつき「BRCA1」または「BRAC2」という遺伝子のどちらか、あるいは両方に、病的な変異をもっていることが原因で生じた遺伝性腫瘍症候群。

 

30代までに発症する乳がんは遺伝子異常が大きな要因

「私たちの体には、遺伝子が傷ついても元に戻し、細胞のがん化を制御する機能が備わっています。ところが、その修復機能をもつ 遺伝子に生まれつき変異 があると、本来の働きを果たせないため、 がんが発症しやすい体質 になってしまいます。この体質は 『遺伝性腫瘍症候群』 と呼ばれ、親から子へ2分の1の確率で受け継がれます。また、こういった病的変異のある遺伝子をもつ女性は、 ふたりにひとり~3人にふたりの割合で乳がんに罹患 します。

がん発症に関係する遺伝子が特定された『遺伝性乳がん』は、乳がん全体の7~10%を占めます。中でも多いのは 『遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC※1)』 と呼ばれるもの。 BRCA1、BRCA2 という遺伝子のどちらか、あるいは両方の病的変異が原因で起こります。乳がんの発症にHBOCが関与しているケースは 若い世代ほど高率 で、遺伝子異常のある割合は 39歳未満の乳がん患者の15% 、40代では6・5%というデータ※2があります」(大野先生)

 

遺伝子に変異があると、乳がんや卵巣がんになりやすい

BRCA1やBRCA2に異常が認められるHBOCの人は、将来的に乳がんだけでなく卵巣がんを発症するリスクも高まります。また、若いうちに発症、両方の乳房の発症、男性乳がんの発症などもHBOCの特徴。

BRCA1遺伝子に病的な変異がある場合

BRCA2遺伝子に病的な変異がある場合

※Antoniou A.et al.Am J Hum Genet. 2003;72(5): 1117-1130

 

BRCA遺伝子に病的変異のあるHBOCは、将来下記のがんになるリスクが高い!


乳房や卵巣などを手術で除去して発症を回避するほか、MRI検査など年に1度の検診も重要な予防策。

HBOCは親から子へ1/2の確率で受け継がれる
HBOCに見られるBRCA 遺伝子の病的な変異は、親から子に男女関係なく1/2の確率で継承。

HBOCかどうかは「BRCA遺伝子検査」で調べられる

遺伝子の病的変異は、血液検査でチェックできる


血縁者に乳がん罹患者がいる場合、自分もHBOCではないかが気になるところ。「HBOCの原因であるBRCA遺伝子に病的な変異があるかどうかは、 採血した血液から遺伝子を抽出して調べる 方法でわかります。ただし、初めて受けた検査でBRCA遺伝子変異が見つからなくても、ほかの遺伝子が原因となることがあり、遺伝性乳がんではないと断定できないのが現状。また、 乳がん患者でない方の検査費用は自己負担で20万円以上 かかるので、基本的には乳がんを発症し、HBOCが疑われる方に推奨しています」(大野先生)

 

2020年から、45歳以下の乳がん患者は遺伝子検査が保険適用に

45歳以下で発症した乳がん患者(ほかにも対象条件あり)のBRCA遺伝子検査費用は、保険適用(3割負担の場合)で¥60,000程度。

 

乳がんに関する詳しい情報はこちらもチェック!

国立がん研究センターがん情報サービス

乳がん.jp

※1 Hereditary Breast and Ovarian Cancerの略
※2 バイオバンク・ジャパンにより収集された日本人乳がん患者群7,051人を対象にしたデータ
※3 がんの統計編集委員会編:がんの統計〈2022年版〉,がん研究振興財団,2022.(2018年データ)
※4 Petrucelli N,etal.1998[updated 2022].GeneReviews(R)

遺伝性乳がんが心配な人は…30代から年1回の乳がん検診を!

乳腺が発達している若い世代は、 マンモグラフィーと超音波検査 の両方を受けるのが◎

「乳がんでない人が検診として受ける検査は、主にマンモグラフィーと超音波検査のふたつ。それぞれ画像の映り方が異なるので、両方をセットで受けるのが理想的です。

乳がんは乳腺組織にできる悪性の腫瘍で、その95%は乳頭につながる乳管に発生します。 乳管にカルシウムが沈着して粒になった状態を石灰化と いい、多くは良性ですが、がんに伴ってできる場合も。この 石灰化を見つけやすいのはレントゲン(マンモグラフィー)です。一方、しこりが見やすいのは超音波検査。 レントゲンではしこりが濃く映り、乳腺にまぎれがち。 乳房に乳腺の多い若い世代 は特に、超音波検査が必要です」(大野先生)

 

どちらかひとつの検査ではがんが見つからないことも!

【超音波検査】

■検査方法

超音波の反射波の画像で乳房内部の状態を見る
乳房にゼリーを塗り、超音波を出す器具(プローブ)を当てて動かしながら、映し出された画像を見て診断を行う。乳房内の病変の有無、しこりの性状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無などを確認できる。

■診断
モニターに映し出された乳房の断層面の画像を見ながら、医師や検査技師がしこりの有無や状態を診断。触診でわからない小さなしこりも発見できる。

■画像の見え方や特徴

乳腺の多い乳房のしこりも見つけやすい
乳腺は白く、乳がんの多くは黒く映るため、 乳腺が発達した若い世代(高密度乳房)でも病変を見つけやすい。 一方、乳がん初期の石灰化は見落とされる可能性が。放射線による被ばくがないため、妊娠中でも検査が可能。

■費用
全額自己負担の場合、¥4,000~5,000程度。ただしなんらかの自覚症状がある場合は保険適用に。

 

【マンモグラフィー】

■検査方法

乳房全体をくまなく映す乳房専用のX線検査
乳房を2枚の板で挟んで圧迫し、薄く伸ばした状態でレントゲン撮影。上下方向、縦斜め方向の角度違いで撮影し、乳房全体をくまなく観察。乳房を薄く伸ばすため、乳腺の重なりが少なくなり、病変を見つけやすい。

■診断
しこりや、乳房を触ってもしこりがわからないような石灰化病変を、白い塊や砂粒のような点として確認できる。良性・悪性の判断はある程度可能。

■画像の見え方や特徴

早期乳がんのサインになる石灰化の発見が得意
乳房全体をすみずみまで映し出すため、 小さなしこりや石灰化を発見 するのに有用。ただし、乳腺が発達した乳房(高濃度乳房)の若い世代は、病変を見つけづらい。また、乳房を強く圧迫するため多少の痛みを伴う。

■費用
全額自己負担の場合、¥5,000~7,000程度。ただしなんらかの自覚症状がある場合は保険適用に。

 

卵巣がんも定期検診を!

HBOCが原因で発症リスクが高まるのは、乳がんだけでなく卵巣がんも同様。年に1度、婦人科検診とセットで卵巣がんの超音波検査を受けるのが◎。

 

異常が見つかったら、細胞診やMRI検査へ

細胞診は、病変部分の細胞を注射器で採取して顕微鏡で調べる。MRI検査は、強力な磁気と電波を当てて、マンモグラフィーや超音波検査ではわからない小さな病変や広がりを確認。

乳房を守るために…乳房の健康を意識する「ブレスト・アウェアネス」の習慣を!

日頃から自分の乳房の状態に関心をもち、変化に気づいたらすみやかに医師に相談するというアウェアネス(=意識する)行動が、乳がんの早期発見・早期治療につながります。

[1]自分で乳房を触る

生理の1週間後くらいの乳房が柔らかいときにチェック。乳房の下部はあお向けになると確認しやすい。

(1)片手を上げ、反対の手の指の腹でわきや乳房をまんべんなくさすりながらしこりの有無を確認。


(2)あお向けに寝て、乳房の内側や下部を軽く押しながら確認

 

[2]乳房の変化に気をつける

見た目、触感、痛みの有無など、自分の乳房の状態に常に目を向け、いつもと変わりがないか気にかける習慣をもちましょう。

\こんな変化に注意!/

  • 乳房のしこり
  • 乳房の皮膚のくぼみや引きつれ
  • 乳頭からの分泌物
  • 乳頭や乳輪のびらん
  • 乳房の痛み

鏡を見て乳房の色や形はどうか、乳首をつまんで分泌物が出ていないかなど、普段からチェックしておくことで変化に気づけます。

 

[3]変化に気づいたらすぐ専門の医療機関へ

少しでも変化や異変に気づいたら、なるべく早く専門の医療機関(乳腺外科、乳腺科、乳腺内分泌外科など)を受診しましょう。

 

[4]年に1度、乳がん検診を!

検診で早期発見できれば、進行前の早期治療で完治も可能。年1回、定期的に検診(自費診療)してこそ早期発見がかないます。

 

『美的』2024年3月号掲載
撮影/河野 望 立体イラスト/秋山美歩 イラスト/きくちりえ(Softdesign) 構成/つつみゆかり、有田智子

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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