卵巣腫瘍ってどんな病気? 妊娠・出産はできる?【女医に訊く#193】
腫瘍が大きくなってもほとんど自覚症状が出ないことから、卵巣がんは早期発見が難しく、気がついたときには進行しているという意味で「Silent Killer Disease」(サイレントキラーディジーズ)とも呼ばれています。卵巣がんを含め、卵巣腫瘍とはどのような病気なのでしょうか? 産婦人科専門医の吉形玲美先生に教えていただきました。
卵巣腫瘍ってどんな病気?
卵巣とは、子宮の両側にひとつずつある親指ほどの大きさの臓器。卵子の生成、成熟、排卵を行うほか、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を分泌する役割をもっています。
卵巣腫瘍とは、この卵巣に発生する「できもの」。卵巣腫瘍には良性と悪性(卵巣がん)、その両方の中間的な性質を持つ境界悪性腫瘍があります。
「卵巣腫瘍の症状は、腫瘍が大きくなるとお腹が張ったり下腹部に何かあるように感じたりすることくらい。稀に腫瘍がねじれたり動いたりすると、激痛を起こすこともありますが、不正出血のような目にみえるサインはないため、気づかないことが多いと思います」と話すのは、産婦人科専門医の吉形玲美先生。
卵巣腫瘍の診断では、内診と経腟超音波(エコー)検査を行い、良性であるかどうかの確認やがんの疑いがある場合には必要に応じてMRI、CT、腫瘍マーカーなどの検査を追加します。
卵巣嚢腫ってどんな病気?
卵巣にできた腫瘍のうち、良性のものを卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)といいます。
卵巣嚢腫にはさまざまな種類があり、水のような液体が溜まった「漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)」、どろどろとした粘液が溜まった「粘液性嚢胞腺腫(ねんえきせいのうほうせんしゅ)」、毛髪や歯、脂肪などが入った「成熟嚢胞性奇形腫(せいじゅくのうほうせいきけいしゅ)」、デルモイドとも呼ばれる「皮様嚢腫(ひようのうしゅ)」などがあります。
「卵巣腫瘍の治療法は、病変が悪性か良性かで異なります。悪性腫瘍が疑われない卵巣嚢腫の場合、3〜4cmくらいの大きさのものは保存的経過観察といって、定期的に診察を行い大きくならないか診ていきますが、6〜7cmを超えると茎捻転(けいねんてん)といって卵巣がねじれるリスクが高まるため手術を行います」と吉形先生。
「嚢腫がねじれて時間が経過した場合、血流が止まって卵巣が機能しなくなってしまうこともあるため、卵巣(場合により患側の卵管も含めて)ごと摘出せざるを得ない場合があります。ただし、卵巣嚢腫は良性ですから、通常は嚢腫部分のみを切除する嚢腫摘出術を腹腔鏡で行うことが一般的です」(吉形先生)
チョコレート嚢胞ってどんな病気?
卵巣嚢腫と似ている病変に、「卵巣子宮内膜性嚢胞(チョコレート嚢胞)」があります。
チョコレート嚢胞は、本来、子宮の内側にあるはずの子宮内膜が、卵巣に発生することで起きる子宮内膜症のひとつ。月経時に経血として排出されなかった古い血液が、徐々に溜まり、嚢胞をつくります(古い血液の固まりがチョコレートのようなため「チョコレート嚢胞」とも呼ばれています)。
「チョコレート嚢胞は良性の卵巣嚢腫に含めてもいいのですが、卵巣の中から発育した腫瘍ではないことから、厳密には『類腫瘍病変』に分類されています」と吉形先生。
チョコレート嚢胞は、女性ホルモンで大きくなるため、LEP(ピル)や黄体ホルモン、偽閉経療法など、ホルモン剤での治療法が確立されています。
「ただし、チョコレート嚢胞は5cmを超えると破裂するリスクが増えるほか、約4%の割合で卵巣がんになるという報告もあります。そのため、5㎝以上を一つの目安に、ホルモン剤治療ではなく、手術をよりおすすめします」(吉形先生)
卵巣がんの治療法は?
悪性腫瘍が疑われない卵巣嚢腫やチョコレート嚢胞の場合、原則卵巣の摘出は病変のある部位側だけ行います。では、悪性のがんの場合は、どのような治療をするのでしょう?
「卵巣がんの場合、腫瘍がない方の卵巣に転移することもあるため、卵巣は両方取りますし、ふたつの卵巣の間にある子宮、そして卵巣周りの骨盤リンパ節、大網(腸の表面にある脂肪のネット)も取ります。がんが進行している場合は、術前術後に限らず化学療法がよく効くため、化学療法もあわせて行います」(吉形先生)
ただし、卵巣がんでも妊娠出産を望む若い女性に対しては、病巣が片側の卵巣のみで、ほかに転移がないケースに限って、病側の卵巣と卵管だけを取る「付属器切除」を行うこともあるそう。
「卵巣がんは怖い病気です。サイレントキラーともいわれ、自分では気づきにくいため大切なのは検診です。自治体や会社の婦人科検診は、一般に内診や子宮頸がん検診(細胞診)だけで卵巣の病変を調べるには不充分です。婦人科検診を受ける際は、ぜひ経腟超音波検査(エコー)をリクエストしましょう」(吉形先生)
文/清瀧流美 撮影/黒石あみ
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浜松町ハマサイトクリニック 婦人科医。医学博士、日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本女性医学学会専門医ほか。東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局、准講師を経て、現在非常勤講師に。2010年7月より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科診療のほか、多施設で女性予防医療研究に従事している。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。