「ピル」が女性の人生をコントロールする!?歴史、仕組み、種類を学ぼう|30代、知っておきたいピルのこと
近年、女性の活躍の中で「ピル」も話題になってきました。今後使いたいと希望する人のほか、本当に大丈夫? と不安な人、よくわからずに使っている人も…。ピルには避妊はもちろん、月経困難症やPMSの改善も!ピルの基礎知識について産婦人科医にお話しを伺いました。
【ピルの歴史】日本はピルの承認が遅く、普及率も著しく低いピル後進国!
日本での避妊用ピルの歴史は、まだ約20年!
米国のグレゴリー・ピンカス博士が、
世界で初めて黄体ホルモン含有剤(ピル)の避妊効果を発表
したのが1955年。以来、欧米諸国で次々と製品化が進みました。ただし、当初のピルは
黄体ホルモンの含有量が多すぎて
嘔吐や悪心などの副作用がひどかったとされています。その後、’73年に開発された「
低用量ピル」でその問題が解消
。確実な避妊と安全性が認められ、先進諸国で一気に普及しました。
そんな中、ピルの一般化に著しく遅れをとったのが日本です。
「実は、アメリカでピルが開発されたのを受けて、
研究班が発足したのは日本がいちばん早かった
といわれています。それなのに、低用量ピルの承認までに44年も!同じ年に認可されたバイアグラは承認までに半年しかかかっていないことから、
男性優位の社会が日本をピル後進国に追いやった
という説が上がっています。また、女性が避妊薬を使えるようになると、性が乱れる、性感染症が増えるといった懸念も出て、それが影響したのではないかといわれています」(産婦人科医 遠見才希子先生)
ピルの開発から日本での承認まで44年もかかった!
アフターピルの発売も世界に遅れること約30年!
History of the oral contraceptive pill
1955
米国のグレゴリー・ピンカス博士が世界初のピルを開発
1960
米国で高用量ピル発売
1973
米国で低用量ピル発売
1982
米国でアフターピル発売
1999
日本で低用量ピルが認可
2011
日本でアフターピルが認可
日本のピル普及率は先進諸国で最も低いレベル
日本のピル服用率は2.9%と、上位の欧米諸国の1/10程度。女性が避妊することへの偏見や誤った認識、費用、受診へのアクセスなどが、普及の邪魔になっている様子。
【ピルで避妊する仕組み】ホルモンを補充することで、脳から卵巣への指令を制御する
排卵、受精卵の着床、精子の侵入をトリプルブロック!
(1)排卵を抑制する
下垂体がピルに含まれる卵胞ホルモンと黄体ホルモンをキャッチすると、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の分泌が抑えられ、排卵が起こらなくなる。
(2)着床しにくい状態にする
子宮内膜が厚くならないので、もし排卵して受精したとしても、受精卵が着床しにくい。
(3)子宮への精子の侵入を阻止する
子宮の入り口にある頸管の粘液を変化させて、子宮に精子が入っていきづらいようにする。
「ピルに含まれる女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)は、本来自分の体でも分泌されているものです。それらをピルとして飲むことで、脳が“自分は作らなくていい”と勘違いし、 卵巣へのホルモン分泌の司令をストップ 。そうすると、まず排卵が起こらなくなり、同時に、 子宮内膜が厚くなるのも抑制 します。万が一受精したとしても、 受精卵が着床しづらく しておくのです。また、子宮の入り口の子宮頸管粘液を変化させて、 精子が入りにくい状態に します。この3段階で妊娠を強力にブロックします。ちなみに、ピルを飲むと生理が止まると思っている人がいるかもしれませんが、通常は止まりません。周期的にピルの服用をお休みし、 排卵のない生理 を起こします」(産婦人科医 吉形玲美先生)
【ピルの種類】大きくは卵胞ホルモンの含有量で区別される
卵胞ホルモンの量が多い程、強力な分、副作用のリスクも
「ピルは、含まれる卵胞ホルモンの量によって、
中用量(1錠に50ug)、低用量(30~40ug)、超低用量(20ug)
に分類。避妊には低用量ピル、月経困難症の改善には超低用量ピルが多く使用されます。また、配合された
ホルモンのパターン(相性)
数でも分けられます。1相性は同じ配合のピルを服用。3相性は3種類の配合パターンのピルを数日ごとに服用するものです」(吉形先生)
緊急避妊に使われるアフターピルは卵胞ホルモンを含まない
「アフターピルは、避妊が充分でなかったセックスの後に1回飲む、あくまでも
緊急時の薬
。通常のピルとは用途や作用が違います。黄体ホルモンの作用によって、
排卵を遅らせることが目的
です。血栓症のリスクになる
卵胞ホルモンは含みません
。現在、日本で使用されるアフターピル、ノルレボ錠は、副作用がほとんどありません」(遠見先生)
【避妊以外の副効用】月経困難症などの婦人科系トラブルを改善する効果が注目されている
排卵の休息で卵巣や子宮の過労による不調が緩和
「ピルは従来、避妊目的の薬でしたが、排卵を休ませる、子宮内膜を厚くしないといった作用が、
月経トラブルやPMSの改善などのうれしい副効用
をもたらします。まず排卵をしないので、
排卵痛
が起こりません。生理の重い人は、
経血量や生理痛が軽減
されます。PMSは、排卵後に大量に分泌されるホルモンの影響が大きいため、排卵が起きなければ、その症状も緩和できます。また、ホルモンバランスが整って、
ニキビや肌あれが良くなる
ことも。日本では、こういった副効用のうち、月経困難症や子宮内膜症の治療のために使用される低用量ピル・超低用量ピルを
『LEP(レップ)』
と呼び、避妊薬『OC』と区別しています」(吉形先生)
月経困難症の治療薬として保険適用のピル
日本では、避妊目的のピルの費用は自己負担。月経困難症の治療に使用される「LEP」についてのみ保険が適用される。相場は1シート¥2,000 ~3,000。下は保険適用のLEP例。「ルナベルLD」は低用量ピル、それ以外は超低用量ピル。
・ルナベルLD
・ルナベルULD
・ヤーズ
・ヤーズフレックス
・フリウェルULD
産婦人科医
遠見才希子先生
えんみさきこ/聖マリアンナ医科大学卒。大学時代から全国の中・高校生を対象に性教育の講演を行う。現在、「湘南藤沢徳洲会病院」などで産婦人科診療を行うほか、筑波大学大学院社会精神保健学博士課程に在籍。
『美的』2020年3月号掲載
イラスト/沼田光太郎 構成/つつみゆかり
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
よしかたれみ/医学博士。
東京女子医科大学医学部卒。同大学非常勤講師。浜松町ハマサイトクリニックなどで診療のほか、多くの施設で予防医療研究にも従事。揺らぎやすい女性の体のホルモンマネージメントを得意とする。