どうしてアフターピルは薬局で買えないの?どこで手に入る?【女医に訊く#139】
避妊に失敗した、性暴力被害にあった…そんなとき72時間以内に服用することで、高確率で妊娠を防ぐことができる緊急避妊薬(通称アフターピル)をご存知ですか? 意図しない妊娠のリスクから女性を守る緊急避妊薬について、産婦人科医の宋美玄先生にお話をうかがいました。
アフターピルってどんな薬?
緊急避妊薬(通称アフターピル)は避妊の失敗や性暴力などで、思いがけない妊娠を防ぐための薬。性行為のあと72時間以内に服用すると、排卵を遅らせたり着床をブロックしたりして高い確率(約85%)で妊娠を防ぐといわれています。
2018年のWHO(世界保健機関)の勧告には、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての人には緊急避妊にアクセスする権利がある」とあり、海外では約90か国で医師による処方箋なしに薬局で買うことできます。
「実は、日本でも2011年にノルレボ錠という緊急避妊薬が承認されているのですが、現在は医師の処方が必要なため、緊急避妊を希望する人は、医療機関を受診しないといけない仕組みになっています」と話すのは、産婦人科医の宋美玄先生。
宋先生によると、日本の緊急避妊薬は費用も数千円~20,000円程度と高額! 緊急に必要としている女性にとって、薬へのアクセスが良いとはいえなさそうです。
アフターピルはなぜ薬局で買えないの?
このような状況のなか、日本政府は2020年10月、緊急避妊薬を処方箋なしで薬局で購入できるようにするという方針を示しました。ところが、日本産科婦人科学会の木村正理事長は12月12日の定例記者会見で、薬剤師の知識が現時点で充分でないこと、悪用乱用の恐れがあることなどを指摘し、「いろんな条件が成熟していない」と導入に極めて慎重な姿勢を示したのです。
「これまでも同様の議論が上がるたび、『安易にアフターピルを使わないよう性教育の充実が先』『悪用が心配』などという声は多く聞かれました。確かに、日本は性教育が充実しているとはいえず、男女ともに、性と生殖に関する知識の向上は必要です。しかし、『性教育の充実が先』と言ってしまうと、充分な性教育を受けられなかった世代は、避妊法へのアクセスも改善されないままになってしまいます。性教育の充実と避妊法のアクセス改善は、同時に行われるべきだと私は思います」(宋先生)
アフターピルはどこで手に入るの?
緊急避妊薬はデートレイプなど、性暴力の被害者にとっても非常に重要な薬です。2017年度の内閣府男女共同参画局調査では、無理やり性交等をされる被害に遭った女性のうち、警察に相談したのは2.8%、医療関係者に相談したのは2.1%、ワンストップ支援センター(産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携している性犯罪・性暴力に関する相談窓口)に相談したのはわずか0.7%。多くの女性が望まない妊娠の不安を抱えたまま、じっと耐えていることがわかります。
「アフターピルは性交後72時間有効とされていますが、早ければ早いほど避妊の成功率が高まります。薬局で緊急避妊薬を買えるようになれば、被害に遭った人が、せめて緊急避妊だけでも行うことができるようになるのです」(宋先生)
では、緊急避妊が必要になったとき、私たちはどのようにしてアフターピルを手に入れたらいいのでしょうか?
「婦人科によってはアフターピルを取り扱っていないところもありますし、予約が必要なところもあります。まずは電話やホームページで確かめて。予約不要で処方してもらえるところへ行きましょう」(宋先生)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
丸の内の森レディースクリニック院長。医学博士。性科学者。2001年、大阪大学医学部医学科卒業後、同附属病院勤務医、りんくう総合医療センター勤務医、川崎医科大学講師などを経て、2009年、ロンドンのFetal Medicine Foundationへ留学し胎児超音波を学ぶ。2015年、川崎医科大学医学研究科博士課程卒業。2017年、丸の内の森レディースクリニック開院。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)、『産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい性の話』(小学館)など著書多数。