新型コロナウイルスによる新しい生活様式も負荷に?ストレスや不安を効果的にケアする方法を教えて!【女医に訊く#113】
仕事や家事、育児に追われるだけでなく、今は新型コロナウイルスの影響による新しい生活様式への対応などもあり日々ストレスを感じずにはいられませんが、大切なのは早めのケア。そこで、ストレスや不安への効果的なセルフケアとクリニックでの治療について、精神科医の織戸宜子先生に教えてもらいました。
本当に深い呼吸で心身をリラックスできるの?
ストレスが溜まった時、あなたはどのように解消していますか?
精神科医の織戸宜子先生が以前、行った調査によると、女性で多かったのは「好きなものを食べる・外食する」、「デザート・菓子など甘いものを食べる」、「晩酌、お酒を飲む」、「友人に会っておしゃべりをする」などでした。
こうした自分なりの方法で気分転換ができれば問題ありませんが、うまく解消できない人や気軽に解消法を行いたい人に織戸先生がすすめるのが『リラクセーション法』の中の呼吸法です。呼吸とともに行うヨガやストレッチもとても良いリラックス方法ですが、次の方法は運動嫌いの方も簡単に行えます。
横になるか、椅子に楽な姿勢で腰掛けて、体の力を抜きます。次に「1つ(吸って吐いて)、2つ(吸って吐いて)、3つ(吸って吐いて)」という具合に、数を数えながらゆっくりと腹式呼吸を行います。10まで数えたら、また1に戻って繰り返します。雑念が浮かんでいくつ数えたらわからなくなったら、また1に戻って数え直します。
「これを1回5分程度、1日に1〜2回行いましょう。不安や緊張が高まると、筋肉も過緊張となりますが、この呼吸法を行うとすごくリラックスできます。職場でも電車の中でも、ストレスを感じた時にどこでもできますからおすすめです。疲労回復やストレスの緩和、仕事などの能率向上はもちろん、不安障害の患者さんもこの呼吸法を併用して克服できたという人が多いんですよ」(織戸先生)
自分を見つめ、考え方のクセを知ることもストレスを軽減
ストレスや不安を軽減するうえで大切なのが、「自分の気持ちを見つめること」だと織戸先生は言います。そのために効果的なのが日記を書くこと。
「感謝したい出来事や、自分で頑張ったなと思うポジティブなことでも、悲しい気持ちでも、書き留めることで内省できます。『よく眠れてよかった』『無事に過ごせてよかった』などほんのひと言でもいいんですよ」(織戸先生)
もう一歩進んだ内省方法として効果的なのが、『認知療法』です。辛いことや傷ついたことがあった時に悲観的になりがちな考え方のクセに焦点を当てて、悲観的な考え方と距離をおく方法です。
「例えば、仕事で上司にきついことを言われた時に、『私が失敗したからだ』と悲観的にとらえ、傷ついたとします。通常はここで思考が終わってしまうので、なかなか傷が癒えませんが、認知療法ではここから反証します。『あの上司は誰にでもきつい言い方をしているから、気にする必要はないわ』『私の能力を認めているから強く言うのね』などと柔軟に考えることで、傷ついた気持ちを軽減することができます」(織戸先生)
心療内科や精神科を受診したら、どんな治療を行うの?
自分なりにケアをしていても、ストレスや不安がうまく解消できないことはあり、うつ症状に陥ってしまうことは誰にでも起こり得ます。しかし、「うつ病は、本人に病気である自覚が乏しいことや周囲に打ち明けにくいこと、家族が本人の怠けや努力不足のように考えがちであることなどから、実際に治療をしているのは、病気を患っている人の50%以下だと言われています」と織戸先生は言います。
「憂うつな気分や何をやっても楽しくないという症状が2週間以上続く場合は、専門医の診察を受けてみましょう。他にも疲れやすい、気力や意欲がわかない、眠れない、食欲がない、肩こり、頭痛、めまいなどの身体症状が続くこともうつのサインかもしれません。女性はストレスで便秘になる人が多いのですが、内科や消化器科を受診しても治らないというケースはストレスが原因ということも多いんですよ」(織戸先生)
では、どのような治療を行うのでしょうか。織戸先生によると、患者さんによって異なりますが、精神療法、環境調節、薬物療法の3つの組み合わせで治療することが基本だそうです。
「環境はなかなか変えられないことも多いのですが、できる範囲で環境を調節してもらい、精神療法では先ほど紹介した自律訓練法や認知療法も含め、患者さんに合った方法で行います。さらに、うつの状態では、気分を調節する脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどのバランスが不均衡を起こしているので、これらを調節する薬を処方します。頭痛、肩こり、便秘、発汗、めまいなどさまざまな身体症状がある場合は、そうした症状を改善する薬も合わせて処方します」(織戸先生)
うつになる仕組みは完全に解明されてはいませんが、心の状態や環境、脳内の神経伝達物質のバランスの不均衡などさまざまな要因が重なって引き起こされます。今は、新型コロナウイルスの長い自粛生活を頑張った後にくる「コロナによるうつ」も心配な時期。だからこそ、早めのケアで心身の健康をキープしましょう。
文/青山貴子
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