健康・ヘルスケア
2020.4.1

増加する乳がんの検査方法と治療方法について知りたい!【女医に訊く#101】

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日本では、乳がんにかかる女性が年々増えており、今や生涯に乳がんを患う日本人女性は、11人に1人(国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」2018年)といわれています。女性の全年齢層では大腸がんや肺がんで亡くなる方が多いものの、40歳前後を境に乳がんで亡くなる方が増え始め、3069歳では乳がんが死亡原因の第1位(厚生労働省「 人口動態統計」2018年)となっています。乳がんの検査や治療について、乳腺専門医で放射線診断専門医の島田菜穂子先生に教えていただきました。

胸にしこりが…ひょっとして乳がん!?

胸の病気というと、乳腺にできる悪性腫瘍「乳がん」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか? 乳腺専門医で放射線診断専門医の島田菜穂子先生によると、胸にできる腫瘍には良性のものもあるそうです。

「良性の腫瘍でいちばん多いのは、乳腺線維腺腫という病気。若い年代で発生する腫瘍ですが、一度発生すると自然に消えることはないので、初めての乳房の検査を受けるのが40歳の方はその時点で乳腺線維線腫の存在を知ることになります。しこりのできる時期で最も多いのは20代。早い方だと10代中盤ぐらいから出てくるので、中学生・高校生でしこりに気づく患者さんもいらっしゃいます。コロコロ動くようなしこりに気がつき、ビックリして来院する方が多いですね。ほかにも、乳首から分泌物を出す原因になる乳管内乳頭腫など、がんではない良性のしこりはいっぱいあります」(島田先生)

腫瘍みたいにゴリゴリとしたしこりも、実は生理前になると乳腺に水が溜まってできるのう胞だったというケースもあります。ネットで調べて過剰に不安がったり、大丈夫と安易に考えたりするのではなく、おかしいと思ったらとりあえず受診して疑いを晴らしましょう。

しこりが見つかった場合、どんな検査をするの?

では、胸にしこりが合った場合、病院ではどんな検査が行われるのでしょう。

「まずは問診と触診。それから乳腺の中身を見る画像の検査を行います。画像検査には超音波(エコー)検査とマンモグラフィがありますが、このふたつを組み合わせて診れば、しこりの性質はほとんどわかりますね。それでちょっと疑わしいとかわかりにくい、または、どうしてもがんが否定できないというときは、針を刺す検査へ進む場合もあります」

マンモグラフィとは乳房のX線検査のこと。専用の撮影装置を使い、乳房をアクリルの透明な板で挟んで撮影します。触っても分からない小さながんの兆候“石灰化”を発見するのに威力を発揮する一方、乳腺の濃度に影響を受けるため、40代など濃度が密な人においては、がんがわかりにくいともいわれています。

「検診ではなく、症状などがあってマンモグラフィを行う場合は、必ず斜め方向と上下方向の2方向から撮影をします。その際、胸を板で強く挟むため、多少痛みを感じる人もいます」(島田先生)

マンモグラフィが怖い…痛みを感じないコツはある?

胸を板でグッと挟んで撮影するマンモグラフィ。痛いという噂から、敬遠してはいませんか? 島田先生によると、乳腺がすごく発達していて脂肪が少ないタイプの人は、マンモグラフィで多少痛みを感じるものの、脂肪が比較的多い方は、それほど痛みを感じないそう。

「痛みを感じないコツは肩の力を抜くこと。乳腺は大胸筋の筋膜にあるため、実際は胸を挟むというよりも大胸筋から挟むような感じになります。ですから、緊張して肩に力が入ってるとすごく痛い。肩の力を抜けば大胸筋が緩むので、圧迫しても思うほど痛くないんですよ」(島田先生)

検査を行う施設の機器や撮影技術、そして医師の能力も大切です。マンモグラフィ撮影は診療放射線技師または医師であれば誰でも行えます。ただ、それだけでは早期の乳がんを発見するための正しい撮影はできません。また、マンモグラフィの診断は医師であれば法律上は誰でもできますが、正しい知識と経験を積んだ読影能力がある医師でなければ、マンモグラフィに映し出されたわずかな早期がんの兆候を診断することはできず、見落としが起きる危険もあります。

そこで、日本乳がん検診精度管理中央機構では、検査の質を一定に保つため、撮影を行う技師、診断を行う医師教育研修を目的に講習会を開催し、試験を行い、その成績に応じた認定証を発行。さらに、施設の検査装置や撮影したX線写真、撮影に要したX線量などを総合的に判断し、これらの基準を満たした機器と人材がそろっている医療機関をマンモグラフィ検診施設画像認定として公開しています。

「認定施設では、精度管理された安全な撮影装置で、認定技師が撮影するので、あまり痛くないし、認定医師が診断するためがんが見落とされる心配も少ない。認定NPO法人乳房健康研究会のホームページにアクセスすると、マンモグラフィ検診施設画像認定施設リストを見ることができますので、病院を選ぶ際はぜひチェックしてみてください」(島田先生)

乳がんは切除しないと治らないって本当?

乳がんの治療方法は毎年進化しています。いわゆる遺伝子治療のようなものがどんどん増え、その人の乳がんの遺伝子に合致した薬の処方が可能に。より効果が出るようになりました。

「手術方法も随分変わってきましたね。例えば、手術により変形あるいは失われた乳房をできる限りキレイに取り戻す乳房再建術も保険適応になってきました。自費だった頃は、贅沢かなと思って家族に言い出せなかったり、『病気治ったからいいじゃない』と言われて我慢したりする患者さんが多かったのですが、近頃は本当に再建術が増えました」(島田先生)

とはいえ、治療にはやはり早期発見がいちばん。0期やI期(しこりの大きさが2cm以下。わきの下のリンパ節には転移しておらず、乳房の外に広がっていない)で発見された場合、大体9598%は治癒するといわれているのです。

「治療も早期であれば抗がん剤を使わずに済むことも多いですし、できるだけ小さい切除で終わることもあるので、その後の生活が全然変わってきます」(島田先生)

乳がんの510%は遺伝性であるといわており、第1度あるいは第2度近親者に45歳以下の乳がんの罹患者がいる場合、その人の乳がん発症リスクは高くなります。一般的に乳がんのリスクが高まるのは35歳ぐらいからですが、家族歴がある方は2530歳を目安に、あるいは乳がんの近親者の発症年齢より10歳若い年齢から定期検診を開始した方がいいと島田先生は言います。

「一部の乳がんにとって女性ホルモンはエサ。検診は不妊や子宮内膜、生理不順の治療のために女性ホルモン剤(低用量ピルを含む)を使う前に必ず行ってください。今はまだ乳がんよりもバストの大きさや形などが気になる年代だと思いますが、保湿ケア中にしこりに気がつくこともあります。みなさんには、ぜひ胸に興味をもっていただきたいと思います」(島田先生)

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乳腺専門医・放射線診断専門医
島田 菜穂子先生
ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長。日本医学放射線学会認定放射線科専門医。日本乳癌学会乳腺専門医。筑波大学卒業後、東京逓信病院、南青山ブレストピアクリニック、東京ミッドタウンクリニックなどを経て、2008年、ピンクリボンブレストケアクリニック表参道開設。2000年、乳がん専門医4人で日本初の乳がん啓発団体「乳房健康研究会」を発足。ピンクリボンバッジ運動やウォーキング・ランイベントの開催などの啓発活動を通し、乳がんに関する正しい情報の発信と、死亡率低下に貢献するための活動を展開している。著書に、『乳がんから自分をまもるために、知っておきたいこと。』(2014年 日本医療企画)など。■ピンクリボンブレストケアクリニック表参道

文/清瀧流美 撮影/フカヤマノリユキ

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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