朝起きられず、夜は目が冴えて寝られません! どうしたらいいですか?【女医に訊く#87】
なかなか寝付けず、なかなか起きられない。美的世代に多い“睡眠覚醒リズムの問題”について 睡眠専門医の柳原万里子先生にうかがいました。
朝起きられないのは気合の問題ではなく、体内時計の問題?
朝起きづらくなる原因はいくつかありますが、美的世代に多い原因は大きくふたつ。睡眠不足と、“睡眠覚醒リズムの問題”です。
この睡眠覚醒リズムとは、1日のうちの睡眠と覚醒の周期性(体内時計)のこと。地球が1日24時間で1周するのに対して、わたしたちの体内時計は少し長くて25時間程度。このためわたしたちは地球の24時間に合わせて体内時計を毎日リセットしています。この体内時計のリセットに失敗すると、よいタイミングで睡眠・覚醒ができなくなります。
「例えば、朝なかなか起きられず、午前中や昼間の早い時間にだるさや眠気で困っていたにもかかわらず、夕方以降は目が冴えて元気になり、いざ寝ようとしたら寝られない、といった症状。これらは時差のある海外旅行などで“時差ぼけ”として経験した方もおられるのではないでしょうか」と語るのは、睡眠専門医の柳原万里子先生。
日本にいるのに“時差ぼけ”のような状態になりかねない、この体内時計のリセットの失敗は、一体どのようにして起きてしまうのでしょうか?
深夜の光は体内時計を遅寝遅起きへシフトさせる
体内時計のリセットに最も影響しているのは環境の光。
わたしたちは昼行性の動物のため、原始的な生活をしていたころには日が昇ると起きて活動をし、日が暮れると眠るという生活をしていました。夜になり目から入る光の刺激が途絶えると、脳の松果体から“メラトニン”という物質が分泌されます。メラトニンは体内時計の調節に関係し、脳や身体を夜の状態にするホルモンのようなもの。夜に暗くなってメラトニンの分泌が増えるとわたしたちは眠くなり、眠ります。
現代の日本では夜でも点灯すればいつまでも明るく、光を発する電子機器を夜間に使用することも増えました。深夜でも目から強い光の刺激を受けると、メラトニンの分泌は抑制されてしまいます。その結果、本来ならば眠くなるはずの時刻にメラトニンが分泌されず、光の刺激が途絶えた後にようやく寝る準備を始めることになるため、体内時計は“遅寝遅起き”のリズムへとずれていってしまいます。
「明日のために寝なくちゃ!と思ってベッドに入っても、なかなか眠れずに時間をもて余してスマホを触り、ますます目が冴えてしまう…という方はおられませんか? 液晶画面のLEDから発せられるブルーライトは光の中でもとくにメラトニンの分泌を抑える作用が強いことが知られています。眠れないときにベッドのなかでスマホを触るのは残念ながら逆効果です」(柳原先生)
朝の光は早寝早起きの効果が
それでは体内時計を上手にリセットするためのポイントはあるのでしょうか。
「まず夜は眠りたい時刻の1時間くらい前からは電子機器などの眩しい作業をさけ、自分で夕焼けを作るつもりでお部屋の照明を間接照明などへ落としましょう。就寝中はなるべく消灯する、真っ暗だと眠れない方の場合には寝室の照明は直接目に当たらないようにフットライトを利用するなど工夫をしてみましょう」(柳原先生)
目を閉じていても明るくなると光の情報は瞼(まぶた)をとおして目へ届き、脳へと伝わります。このため朝は逆に寝室が明るいほうが(=メラトニンの分泌が抑制されたほうが)起きやすくなります。寝室は朝起きたい時刻よりも先に明るくなってくれていると理想的です。
「遮光カーテンや雨戸の使用は、朝日が入らないため朝が苦手な方にはおすすめしません。防犯上必要な場合には、できるだけ光を通しやすいものを選ぶようにしましょう。朝食を摂ることや午前中の日光浴(30分以上)も体内時計を早寝早起きへと整える効果があります。朝食を窓辺でとる、朝の出勤はなるべく日なたを選んで歩く、などできることから始めてみましょう」(柳原先生)
工夫をしても体内時計のリセットが上手くいかず、自力での改善が難しい場合には、睡眠医療機関を受診しましょう。睡眠外来では薬や光などを用いた治療を受けられます。
文/清瀧流美 撮影/黒石あみ(小学館)
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