健康・ヘルスケア
2019.6.19

未授精卵子の凍結保存とは…若いときに卵子を採取しておけばいつでも妊娠できる?【女医に訊く#65】

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今回は、若いうちに元気な卵子を取り出して、凍結し保存しておく「未受精卵子の凍結保存」について、産婦人科専門医の吉形玲美先生にうかがいました。

「妊娠時期が35歳を超えそう」という不安

35歳以上はいわゆる「高齢出産」と呼ばれ、加齢による卵子の質の低下により、妊娠確率が下がる一方で、流産率が増加する傾向にあります。

しかし、パートナーの不在や仕事の都合などで、子をもちたいと希望していながら、図らずも高齢出産の年齢を迎えてしまうという人が増えています。そして、「高齢出産」という言葉に、不安や焦りをあおられてしまいます。関心が高まる未授精卵子の凍結保存について、教えていただきましょう。

未受精卵子の凍結保存とは?

卵子凍結保存とは、体外受精をするときと同様に卵巣刺激を行い、卵巣内で発育させて採卵した複数の卵子を、未受精の状態で凍結保存すること。保存した卵子を使うときは、不妊治療施設へ輸送し、解凍後、顕微授精を行います。

未受精卵子凍結には、医学的な適応と社会的な適応があります。「医学的適応による未受精卵子凍結」とは、がんなどの治療目的で外科的療法、化学療法、放射線療法などを行うことにより、将来の妊娠する力が損なわれる危険がある場合に、前もって未受精の卵子を凍結しておくこと。

日本生殖医学会倫理委員会のガイドラインでは、「対象者が成人の場合は本人の同意に基づき、また未成年者の場合には本人および親権者の同意に基づき、凍結・保存することができる」とされています。

凍結保存した卵子での出産確率は……

一方、「社会的適応による未受精卵子凍結」とは、健康な状態でありながら、将来に備えて実施するケース。同上のガイドラインでは、「対象者は成人した女性で、未受精卵子等の採取時の年齢は、36歳未満が望ましい」とされ、医療機関ごとに対象年齢が設定されています。

「社会的適応による未受精卵子凍結を希望する女性の中には、パートナーがみつかるかどうか分からない人、あるいはパートナーはいるけれど今は出産するタイミングではないと考えている人が保険をかけるようなイメージで、安心のために行っているケースが少なくない印象を受けます」と語るのは、産婦人科専門医の吉形玲美先生。

吉形先生によると、「技術は少しずつ向上しているものの、未受精卵の凍結保存は、精子の凍結保存や受精卵の凍結保存よりも難しい」とのこと。

実際、日本産科婦人科学会の報告によると、凍結融解した卵子を受精させ、子宮に移植した場合の1回当たり生産率(出産に至った割合)は、2016年が15.1%、2015年が8.1%、2014年が14.7%と、高いとはいえません。「若いときに卵子を採取しておけば、体外受精ですぐに妊娠できる」、「凍結保存さえしておけば、結婚・出産を先送りしてもよい」ということにはならなそうです。

卵子を凍結保存するにはいくらかかる?

未受精卵子の凍結は自由診療のため、その費用は医療機関によって異なります。初診から採卵まで15~50万円、卵子凍結に10~30万円、さらに卵子保管料として毎年数万円ほどかかります。

また、ガイドラインでは、未受精卵子は「対象者の生殖可能年齢を過ぎた場合は、通知の上で破棄することができる」とあり、保管上限年齢は医療機関ごとに設定されています。検討する場合は、凍結した卵子を使って出産するまでにいくらかかるのか、保管期間が過ぎた場合に諦められるのかまでよく考える必要がありそうです。

「卵子凍結は気楽に考えない方がよいと思います。高齢出産の正しい情報を理解し、パートナーがいる方は、将来についてきちんと相談しましょう」(吉形先生)

 

産婦人科専門医
吉形玲美先生
浜松町ハマサイトクリニック 婦人科医。医学博士、日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本女性栄養代謝学会幹事。東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局、准講師を経て、現在非常勤講師に。2010年7月より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科診療のほか、多施設で女性予防医療研究に従事している。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。 ■浜松町ハマサイトクリニック

文/清瀧流美 撮影/黒石あみ

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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