【biiku】いちばんシンプルな「生理の説明」、教えます!産婦人科医・高尾美穂先生インタビュー(第2回/全4回)
大人の女性のさまざまな悩みに、前向きなエールを送る産婦人科医の高尾美穂先生。「今、ティーンのお母さんに伝えたいこと」第2回目は、ずばり、生理についてどう伝える? スポーツドクターとしても活動される高尾先生ならではの視点に、大きな気付きが!
生理も性教育も、“経験者”なのに伝えるのは難しい
初経を迎える我が子に、生理について、どう話すか。娘をもつお母さんなら、誰もが悩むテーマでしょう。お母さん自らが当事者でありながら悩ましいのは、なぜでしょうか? 私は、いわゆる「性教育」を専門とする医師ではありませんが、産婦人科医・スポーツドクターとして日々診療にあたり、一般の方々から教育関係者まで多数の講演をしています。それらの経験から、生理の仕組みをシンプルに理解することが大前提と考えるようになりました。
日本人は、生理や性の話題を真正面から示されると、子も親も感情が先立って抵抗感を示します。教育関係者でも、性教育を得意とする方は多くはありません。
ところが、私が携わってきたアスリートたちは、「パフォーマンスを高めるために、生理で困っていることを解消したい」と考える。そのため、自分の生理をとても客観的にとらえています。彼女たちはまず、自分の生理周期を把握し、そのときに悩まされることを明確にしていきます。傾向がつかめてきたら、具体的な対策法を探し、取り入れていく。そうすることで、生理時の不調をコントロールできるようになって、タイムが出るようになったり、ミスが減ったり…成績が伸びるのです。この一連のプロセスには、「生理」という体に起きる現象を、適切に理解していることが前提となるのです。
「生理は、体が妊娠できるチャンスを迎えているサイン」
では、「いちばんシンプルな生理の説明」です。
月に一度、卵巣から子宮へ卵子が出てくる(排卵)。
これは、妊娠できるチャンスが来た、ということ。
ところが、今月は妊娠が成立しなかった。そうすると、生理が来る。
少し補足すると、体が妊娠できるまで成長してはじめて生理が来ます(初潮、初経)。以降、排卵があるたびに妊娠のチャンスが訪れますが、妊娠しなかったら、次のチャンスに向けて子宮内をリセットします。これが生理です。この流れを「幹」として理解すると、さまざまな「枝葉」をつけることができます。
「体が妊娠できるチャンスを迎えた」ということは、「妊娠できるような行為をすると、妊娠しちゃうよね」という性教育の話になりますし、「その体を維持することは、ヒトという種を残していくためには、すごく大事だよね」という大きな視点の話にもなる。さらには、「女性とは、妊娠できる“生きもの”ということ。でも、それはいつまでも続くわけじゃないんだよ」「一方の男性は、そうではないんだって」と重ねれば、妊娠・出産のタイミングを選ぶイニシアチブは女性がとっていくほうがいい、と展開することもできるでしょう。
「ストーリー仕立て」は、恥ずかしさが先立ってしまう
生理の説明をするとき、「性交渉をもつと赤ちゃんができて…」「子宮は赤ちゃんのベッドだから…」というストーリーもいいですが、「実際のできごと」として、毎月、血が出てくる。ケガもしてないのに、なぜ? この血って何? という当たり前の疑問に答えるときに、「体が妊娠できるチャンスを迎えていて、今月は妊娠が成立しなかったから、出血を伴う生理がきた」と、体に起きていることをそのまま伝えるのです。
生理は痛い、つらい。確かにそうですが、そういった気分にとらわれてしまうと、ぐずぐずと抜け出せないものです。これは性教育も同様で、恥ずかしい、照れくさいという感情が先に立ってしまうと、なかなか先に進みません。そこで、感情ありきの議論に真正面から飛び込むのではなく、みんなが「ふーん、そうなんだ」と当たり前に受け止められるポイントをシンプルに押さえるのです。
「生理の悩みを解消して、パフォーマンスを高めたい」アスリートのシンプルな考え方を参考に
再びアスリートに戻りますが、彼女たちは「パフォーマンスを高めたい」という目標を掲げ、その目標を達成するために「生理で困っていることを解消したい」という、ある意味、非常にわかりやすい考え方をもっています。ところが、一般の私たちは、痛い、つらい、でもピルは心配だし、婦人科に行くほどでは…と堂々巡りしがち。アスリートは目的意識が明確で、やっぱり私たちとは違うね、すごいよね、という話ではなく、みなさんが「毎月の不調を和らげて、少しでも元気に過ごしたい」と願うのなら、「実際にどんな不調があって困っているのか」を観察し、「それを解消するには、どんな手段がありそうか」検討してみるという、ロジカルな考え方を参考にしてみませんか、ということです。
このときに、“生理があるということは、妊娠できるチャンスを迎えている”という「女性の体の大前提」を起点とすると、体調の変化の説明がつきやすく、納得感をもって行動に移せると考えます。
ですので、初めてお子さんに生理について話すタイミングとしては、初経を迎える前、小学4年生(9〜10歳)ぐらいがよいかと思います。なお、初経を迎えていても、更年期が見えてくるお母さんにとっても、生理の仕組みを知ることは「幹」を知ること。そこから生じる体調の変化を理解することに繋がりますから、「遅すぎる」ことはありません。
高尾美穂:産婦人科専門医。医学博士。婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック『イーク表参道』副院長。女性の体特有の問題を明解な語り口で解説するなどメディアや講演会でも活躍するほか、ヨガの指導者としても活動。『いちばん親切な更年期の教科書』(世界文化社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)ほか著書多数。
高尾美穂先生 公式HP https://www.mihotakao.jp/
Instagram @yoginidr_miho
Twitter @mippolin78
美的GRAND 2022年 春号掲載
構成/佐野有子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。