美的GRAND
健康・ヘルスケア
2022.6.11

【biiku】「お母さんは古い」ではない。最新生理事情を母娘で学ぼう!産婦人科医・高尾美穂先生インタビュー(第1回/全4回)

年々、第一子の出産平均年齢は上がり、ここ数年は30.7歳。娘が初経を迎えれば、母は更年期がちらつく頃です。自身の初経は数十年前のこと、その間に世の中は変わりました。生理について、思春期の娘にどう声をかければいい? SNS全盛の今、美容や健康の情報とどう付き合えばいい? ポジティブかつロジカル、明快な語り口で大人気の産婦人科専門医・高尾美穂先生に「今、ティーンのお母さんに伝えたいこと」を伺いました。第1回目は、同じ女性ゆえ共有できそうな生理の悩みだけど、母娘でかみ合わない!? 生理をめぐる、世代間ギャップの埋め方について。

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自身は更年期で娘は思春期。わからないだらけに悩むお母さんが増加中

産婦人科医・スポーツドクターである私の外来は、お母さん世代、つまり更年期に悩む方が大多数です。ティーンとなると、ジュニアアスリートが来ることはあっても、一般の中・高生が来ることはほとんどありませんね(気になる「ティーンと婦人科の付き合い方」については第3回にて)。
一方で、中学・高校の保護者会などからの講演依頼は年々増えています。また、2年程前に始めた「高尾美穂のパーソナル人生相談室」では、相談者であるお母さんが更年期で、お嬢さんが思春期、自身の体調変化がつらい上に、10代の娘にどう接すればいいのか、生理にまつわる最新事情もわからない…といった相談がとても多いですね。
こと、生理に関しては、多くのお母さんが「私の情報は古いのでは?」という不安を抱えているようです。お嬢さんがネットや友人から得た情報を元に「お母さん、間違っている!」となる状況は容易に想像がつきますが、お母さんは「古い」のでも「間違っている」のでもなく、「知らなくて当然」といっていいでしょう。

ここ10年でわかってきた「重い生理痛」を我慢しないほうがいい理由

例えば、重い生理痛。当事者にとっては、本当にしんどいものですが、実は「痛くてつらい」だけにとどまらず、人生全体に影響を及ぼしかねない「サイン」であるとわかったのは、ここ10年のことなのです。
具体的には、成長期で重い生理痛を抱える人は、将来的に子宮内膜症を発症するハイリスクグループであること、子宮内膜症は不妊症につながる可能性があり、妊娠が成立しても周産期にトラブルが生じるリスクが高くなること、閉経した後も卵巣がんの発がんリスクが高くなることなどが報告されています。そして、低用量ピルを使うことで、子宮内膜症を治療・予防できることもわかりました。
生理痛に悩む人は、どの時代にもいたはずです。そういった「個々で困っていること」は時代を超えても変わりませんが、1990年代以降、特に婦人科の医学は飛躍的に社会実装され、みんなが困っていることの原因がざっくりとわかり、科学的な対策が検討されるようになりました。時間をかけて、ようやく「全体像」が見えてきた、それが現在地というわけです。
同様のことが、悪阻(つわり)や更年期にも当てはまります。特に、更年期は、世間では「いつも怒っているおばさん」のイメージといわれますが、本人が望んでそうなっているわけではありません。体の内側の、避けようのない変化によって、誰にでも起こりえます。どんな症状が出るのか、どんな治療法があるのか、少しずつ認知されるようになって、最近になってやっと社会の関心も高まってきたところです。
このように、女性の体特有のトラブルに対し、これまでは「諦め」や「我慢」しか選択肢がなかった。それが、1020年をかけて状況が変わりつつあるのです。

生理や更年期は多様性そのもの。「母娘だから同じ」はあり得ない

女性の体に関するベーシックな知識や対策は日々更新されているという認識に加え、もうひとつ大切なのが、想像力です。生理痛や更年期障害は個人差が大きいからです。多様性を認める社会では、“人は自分とは違う経験をするのだ”という想像力がカギになりますよね。これは、家族でもいえること。例えば、お母さんには生理痛がほとんどなく、お嬢さんの生理痛が重いとき。娘の訴えを“自分のものさし”ではかってしまい、「いやいや、そこまでじゃないでしょ」と断じてしまうのはナンセンスですよね? そんな対応が1回2回と続けば、「この件はお母さんに相談しても意味がない」と、その部分における信頼が失われてしまうことになりかねない。とてももったいないことです。

女性の体に関する最新情報を母娘でアップデートしよう

そこで私は、お母さんが若かりし頃にはなかった知識や社会的コンセンサスについて、母娘で一緒にアップデートすることをおすすめします。「私たち女性の体に関する新しい知識」として、シンプルに学んでいくのです。そして、母娘といえども異なる存在であることを心得て、お互いに「想像力」を働かせてみてください。「今はそう考えるんだね、お母さんは知らなかったよ」「へえ〜お母さんの頃は大変だったんだね」、そんなコミュニケーションができれば、親子の関係性も、それぞれの毎日も、もっと“楽”になると思いますよ。

高尾美穂:産婦人科専門医。医学博士。婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック『イーク表参道』副院長。女性の体特有の問題を明解な語り口で解説するなどメディアや講演会でも活躍するほか、ヨガの指導者としても活動。『いちばん親切な更年期の教科書』(世界文化社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)ほか著書多数。

高尾美穂先生 公式HP https://www.mihotakao.jp/
Instagram @yoginidr_miho
Twitter @mippolin78

 

美的GRAND 2022年春号掲載
構成/佐野有子

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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