PMSとPMDDでは効果ある漢方薬が違うってホント?真相を医師に直撃!【美容の常識ウソ?ホント?】
日常生活で生まれる美容や女性のライフスタイルの疑問を医師や専門家に答えてもらうこのコーナー。今回は「漢方」について。PMSとPMDDでは出される漢方薬が違うってホント? 慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長の堀場裕子先生にお話を伺いました。
Q:PMSとPMDDでは出される漢方薬が違うってホント?
生理前後の悩みは多く、「毎月憂鬱に感じている」という人も多いかもしれません。まず、生理前3日~10日に起こる、情緒の乱れによるイライラや不安、睡眠障害や食欲不振などの症状を伴うPMS(月経前症候群)。そして、生理期間中には、一般的に生理痛と呼ばれる下腹部痛や腰痛、頭痛やめまい、倦怠感やむくみといった月経困難症が起こります。ひどい人もいれば、そうでない人もいて個人差も大きいですが、生理期間の平均を5日~7日と考えれば、長い人は1か月の半分は痛みと不快感、辛さと戦っていることになります。
ところで、PMSの中でも、うつ傾向や、不安感、イライラなど、精神的な症状だけがとくに強いケースは、PMDD(月経前不快気分障害)と、分けられています。そのため、「一般的なPMSの改善漢方では、PMDDは治らない」「PMDDとPMSでは、処方される漢方薬が違う」というウワサが。本当でしょうか。さっそく、この疑問について慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長の堀場裕子先生に聞いてみました。
A:ウソ
「PMSでもPMDDでも月経痛でも症状が出ている原因を診察して、その人に合う漢方薬を考え、3か月ほど飲んでもらうことからはじめます」(堀場先生・以下「」内同)
生理前におすすめの漢方がある?
「あります。生理前はコレ! というものがあるわけではなく、その人に合った漢方薬を処方するのが漢方医学です。漢方ではPMSもPMDDも“気・血・水(き・けつ・すい)”の異常として捉えます。その人の体質によって気虚、気滞、瘀血、血虚、水滞などのタイプがあり、同じ生理前の症状でもそれぞれに出す漢方は変わります。
それぞれのタイプ別のPMS対策としては、だるくて疲れやすい気虚タイプのかたには気を補う漢方薬を、気の巡りが悪い気滞タイプには不安や落ち込み、イライラの症状を抑えるもの、瘀血タイプには血の巡りが良くなるようなもの、貧血傾向がある血虚タイプには血を補う漢方、水分代謝が悪く、むくみやすい傾向のある水滞タイプには水の巡りが良くなる漢方など。
漢方外来では、診断結果から選んだ漢方薬をひとつ出し、3か月ほど飲み続けてもらいます。その上で取りきれない症状がある場合、例えば生理前のイライラが取れない場合であれば抑肝散を生理前だけ追加で飲んでもらう、ということもあります」
生理痛には?
「生理痛でも、とにかく、生理痛の原因を最初に治すというということを考えて、漢方薬を1種類処方するのがスタンダードな方法です。生理痛に対する漢方薬は代表的なものだと当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などがあります。そのなかのひとつに加えて、生理前に食欲がなくなるなら、生理前だけ胃腸を整える漢方薬とか、むくみで調子が悪いなら、むくんだときに飲む漢方薬をお渡しします。2種類を正しく飲めるか心配な人もいるかもしれませんが、大体の女性は調整が上手。当院の場合も、そのときの体調に合わせて自分で調整してもらうことも多いです。
あとは生理痛がひどく、鎮痛剤の量がマックスでも効かないという人には筋肉痛を和らげたり、腹痛、腰痛の人に出される芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という漢方薬もおすすめです」
生理痛で出される代表的な漢方薬
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
貧血で悩んでいる人にも漢方
「貧血を補う、生薬の塊とも言える四物湯(しもつとう)という漢方があります。生理後に貧血症状で虚脱感がひどくてクラクラしてしまうというようなタイプの人には四物湯。生理がはじまってから四物湯を追加して飲んで、体調を整えていただくとよいです。四物湯は乾燥肌がひどい人にも良い漢方薬です。一方、貧血でむくみの悩みもあるタイプであれば当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)も良いでしょう。生理痛に対する漢方薬としても先ほど挙げましたが、貧血傾向で血流が悪く、むくみを起こしやすいために体が冷えるタイプのかたには当帰芍薬散。貧血で鉄剤を処方されたものの、飲むと胃が痛くなってしまったり、便秘になったり、という人も多いので、そういった悩みの人にも四物湯や当帰芍薬散はいいと思いますよ」
Point
妊活中・妊娠中・授乳中でも漢方薬は飲める?
「はい。妊活中、妊娠中、授乳中でも漢方薬を飲むことはできます。妊娠中は便秘がひどくなる人も多いのですが、そういった場合は下剤的な漢方薬を出すことがあります。そのまま授乳期も飲み続けることもあるのですが、漢方薬は母乳から若干移行することもあるので、赤ちゃんの便が明かにゆるくなったら控えたほうが良いかもしれません。とはいえ、赤ちゃんは基本軟便なので、漢方薬が直接的な原因なのか、わからないところもあります。飲んでいないとお母さんのほうが苦しいということであれば、授乳で若干移行する可能性はあるけれど、授乳期も飲み続けるという人もいらっしゃいます。
妊娠前、妊娠中、授乳期などは特に薬に対してお母さんも神経質になりがちな時期だと思います。心配なことがある時期はきちんと判断してくれる、アドバイスをくれるというのが安心材料になると思うので、受診して診断を受けた上で漢方薬を出してもらう方法が良いと思います」
ダイエットにおすすめの漢方薬もある?
「これを飲めば痩せますよ、という漢方薬はありません。ただ、甘いものを食べ過ぎてしまタイプの人であれば、甘味が強く、気分を落ち着かせてくれるような漢方薬を飲むという方法はあります。食べたいときに甘いものをすぐ口に入れるのではなく、代わりに漢方薬をちょっと飲んでみて、口の中が甘くなって落ち着くのであれば、そのあとの過食を少し抑えられる効果はあるかと思います。
コロナ禍でコロナ太りというものがありましたが、そのときに美容系の自費診療で防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)という、いわゆる下剤的な漢方薬が多く処方されているという話は聞きました。便通がよくなるということは血流が良くなるということにもなるので、少しむくみが取れることはあります。それをダイエット効果と捉えるのであればそうなのかもしれませんが、便秘の改善を目的とした漢方なので、ダイエットのためだけに処方はできません。
ただ、今まで1日1食とか2食と不定期だった人が漢方薬を飲むために1日3食取るようになり、それが結果的に生活改善になって痩せたという患者さんもいます。なるほど、そういう結果もあるのね、と思いましたが、確かに、漢方薬を飲むことで生活スタイルが整ったという患者さんは多いです」
自分に合った漢方薬を選ぶ方法は?
「診察を受けずに試してみたいというのであれば、ドラッグストアでも自分の症状に合ったものを選ぶことができます。実際に患者さんでも漢方外来に来る前に、市販で買ってものを飲んだら良かったという人もいて、自分に合った漢方薬を自分で選べている人は多い、という実感があります。あとは、企業のサイトで問診項目を入れると自分に合った漢方薬を選んでくれるサイトもあるので、そういったものを参考にするのもありです。漢方薬を取り入れる入り口として、はじめに市販薬で試してみるというのもよいです。ただ、市販薬だと価格的に続けにくいという場合もあるため、診察を受けて保険で続けるというかたもいます。現代女性は悩みを抱えているかたも多いので、自分の生活スタイルに合わせて、続けやすいものを選んでいただけると良いと思います」
文/土屋美緒
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長・医学博士。日本東洋医学会専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。日本漢方生薬ソムリエ。女性ヘルスケアアドバイザー。漢方家庭医。2003年、杏林大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部・産婦人科学教室入局。産婦人科医として大学病院並びに関連病院勤務を経て、2011 年より慶應義塾大学医学部漢方医学センターへ。 現在は、同センター医局長として外来や、研修医の指導に携わりながら、慶應義塾大学病院の婦人科外来も担当している。