ワクチン接種で副反応が重い人・軽い人がいるのはなぜ?「免疫」の気になる疑問にお答え!
免疫が高い人は病気になりにくく、肌や体も若々しい…そんな風に決めつけていませんか? 新型コロナやインフルエンザなどウイルスや細菌による感染症に対するとき、免疫反応が強すぎることがマイナスになることも。知っておきたい免疫やワクチンについて、専門家に伺いました。
今欲しいのは、しなやかな免疫!
Q.そもそも免疫って何?
A.自己(自分の体)と非自己(異物)を区別して体を守るシステム
「免疫とは、自分の体= 自己 と、自分以外の物質= 非自己 とを区別して、細菌やウイルスなど異物(抗原)の侵入から体を守るシステムのこと。文字どおり、 『疫(病気)』を免れる ための体の防御機能です。免疫には、体内に侵入した異物に対し真っ先に攻撃を仕掛ける 『自然免疫』 と、体が記憶した抗原の情報を基に的確に攻撃する 『獲得免疫』 があります。実際にそれらの免疫システムを動かしているのは、白血球中に存在する 免疫細胞 。主に骨髄や胸腺で生まれる多種多様な免疫細胞が、血液やリンパ液に乗って全身を巡り、 連携プレーで異物と闘っている のです」(石井健先生・以下同)
免疫細胞は血液やリンパ液に乗って異物を探し、処理する
リンパ節
リンパ液に侵入した細菌やウイルスなどの異物をせき止めて体を守る。豆のような形の器官で全身に300~600個配置されている。
ひ臓
血液循環を調整、ろ過して、血液に入り込んだ抗原を免疫細胞によって処理する。抗原と闘う物質=抗体を生成する働きも。
パイエル板
腸管壁の粘膜組織にある重要な免疫器官。主要な免疫細胞が多数存在し、それぞれが協力し合うことで抗原の体内への侵入を防ぐ。
胸腺
抗原を認識して処理するT細胞(免疫細胞)は、胸腺で生まれて成長。T細胞はほかの細胞への指示をしたり、抗原と闘う。
骨髄
胸骨や腸骨内に存在する骨髄では、ほぼすべての免疫細胞のもととなる造血幹細胞が作られている。
Q.免疫力は高い方がいい?
A.強すぎても弱すぎても×。重要なのは病原体への対応力です
「一般的には 『免疫力の高さ』 が健康のバロメーターとして捉えられていますが、免疫学では 『免疫力』 という言葉を使いません。実は、良い免疫は力の強さではなく、押しても引いても倒れないような しなやかさ をもちます。というのも免疫反応は 強すぎても弱すぎてもトラブルのもと となってしまうから。抗原と闘う免疫が強く反応しすぎると体への負担が大きくなって、かえって症状が悪化してしまうケースがあるのです。
免疫には、体に侵入してきた異物のみを攻撃・排除し、自己にはダメージを与えない 対応力の高さ や バランスの良さ が本来、必要なのです」
Q.新型コロナウイルス感染症にかかったときに重症化する人は、免疫が低いから?
A.高齢者や基礎疾患のある人が重症化しやすいのは、コロナに対する免疫がバランス良く働かないため
「新型コロナウイルス感染症では、超高齢者のように 免疫が弱すぎて ウイルスに抵抗できず重症化する方もいましたが、逆に 強すぎる免疫が暴走して 亡くなった方もいます。実際に現場では、強すぎる免疫を抑えるステロイドなどを投与して体を鎮静化しています。高齢者や基礎疾患のある人がコロナの打撃を受けやすいのは、そもそも免疫が働いていないだけではなく、 免疫機能のバランスが悪い 、つまりコロナウイルスに しなやかに対応できない ことが原因です」
Q.ワクチンと免疫の関係は?
A.特定の病原体に対する免疫を作って、発症を予防するのがワクチンの役目
「一度体に入ってきた病原体を記憶して、再び侵入しても病気にならないように準備をするのが免疫の仕組み。ワクチン接種は、 その仕組みを真似た感染予防法 です。従来のワクチンは、あらかじめ病原体の毒性を弱めたり無毒化し、安全にコントロールされた状態のものを注射で投与。 疑似感染 させ、その病原体に対する反応を体に覚えさせます。もし 本物の病原体が侵入してきても、その免疫が働いてすみやかに退治 するため、ひどい感染症にならずにすむのです」
Q.新型コロナのワクチン接種で、副反応が重い人・軽い人がいるのはなぜ?
A.ワクチン接種で作られる免疫はひとりひとり違うので、反応も千差万別
「本来、人類を含むすべての動物や生物は、どんなに強力な細菌やウイルスに感染しても絶滅しないような
多様性
を備えています。つまり、人それぞれ
違う免疫システムを使うよう遺伝子に組み込まれている
のです。しかも免疫は常にバランスを求めて動いています。そのためワクチン接種で高熱が出る、出ないといった
反応も個人差があって当然
のこと。副反応の出方によって免疫の強弱やワクチンの効果の有無を推し量るのは間違っています」
Q.ワクチンによる健康被害が怖いのですが…
A.リスクとベネフィットをしっかり考えて対応を
「どんなワクチンでも接種による健康リスクは0ではありません。とはいえ接種しなければ、逆に感染や感染による重症化リスクを背負うことに。大切なのは、自分にとっての リスクとベネフィットをしっかり考える こと。最終的には 自身の判断 で行動を決めるしかありません」
『美的』2022年1月号掲載
イラスト/松元まり子 構成/つつみゆかり、有田智子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
いしいけん/米国FDA・CBERで7年間ワクチンの基礎研究、臨床試験審査に従事。帰国後、ワクチンアジュバント研究センター長、日本医療研究開発機構戦略推進部長などを経て現職。ワクチン研究の第一人者。