漢方医学は西洋医学とどう違う? 診察はどのように行われるの?【女医に訊く#168】
リモートワークや自粛疲れのストレスから、不眠や動悸、めまいなどの症状が出てはいませんか? 「なんとなく調子が悪い」「症状はあるのに診断がつかない」などの悩みがあったら、漢方薬を試してみるのもいいかもしれません。今回は、慶應義塾大学漢方医学センター医局長の堀場裕子先生に、漢方医学と西洋医学の違いについて教えていただきました。
漢方医学は西洋医学とどう違うの?
「西洋医学の場合、症状があったら、まずはそれに対して病気の診断をつけるというのが基本です」と話すのは、日本東洋医学会漢方専門医の堀場裕子先生。
例えば、動悸という症状があったら、西洋治療では心電図検査やエコー検査などが行われ、診断がついてから薬が処方されます。ときには診断がつかず「しばらく様子をみましょう」などと言われてしまうことも……。
「漢方医学の場合、西洋医学的な診断をつけるということは、あまり重要視していません。もちろん必要があれば検査は行いますが。動悸があったとしたら、まずは何が原因でその動悸が起こっているかということを探り、体質なども考慮してその人に合う漢方薬を処方します。漢方薬は148種類(医療用漢方製剤)あり、基本的には乳児から高齢者までどなたにでも処方できます。漢方医学は“誰にでも寄り添える治療”といえるかもしれませんね」(堀場先生)
ひとつの漢方薬であらゆる症状が改善する?
西洋治療では、不眠の治療には睡眠薬が処方され、月経痛の治療には鎮痛剤が処方される…というように、ひとつの症状に対してひとつの薬が処方されます。
「一方、漢方医学では、例えば、月経痛、冷え症、むくみなど、さまざまな症状がひとつの漢方薬で改善する可能性が充分にあります」と堀場先生。
「これは、漢方治療の本来の目標が、体質改善にあるためです。体質を改善することにより、数種類の薬を飲まなくても、ひとつの漢方薬でさまざまな症状がよくなる可能性があります。これが、西洋治療との大きな違いです」(堀場先生)
漢方医学の診察はどのように行われるの?
「漢方医学では、動悸やめまいなどの症状であっても、患部だけを診るということはありません。その人の体質や症状の原因などを重要視して、身体全体を総合的に診て診断を行います」と堀場先生。では、実際はどのように診察するのでしょうか?
漢方医学の診断方法は、患者の体型・動作、表情・顔色、皮膚の状態、舌などを見る「望診」、患者の声や話し方、咳やゲップの音などを聞く「聞診」、患者の愁訴や病歴・既往歴・生活習慣・飲食の嗜好などの情報を収集する「問診」、腹部と脈の状態を調べる「切診」の4つ。
これらの診察から、体質、精神状態、血液や水分の流れ・貯留の状態などを把握した上で、総合的に診断し患者さんに最も合った漢方薬を処方します。
「例えば動悸という主訴なら、診察で動悸を引き起こすいちばんの原因を探ります。動悸が起こるのは、ストレスのほかに、貧血や疲労、睡眠不足、不安定な気候など、さまざまな原因があり、患者さんによって違うからです」と堀場先生。
「もし疲労がいちばんの原因なら、疲労をやわらげる漢方薬を飲んでもらえば動悸は改善しますし、睡眠不足なら、睡眠の質をよくしてあげる漢方薬を飲んでもらえば動悸も改善するのです。すでに西洋薬で治療中であっても漢方薬を足してあげることで、主訴以外の症状がよくなったり、西洋薬を減らしたりすることもできます」(堀場先生)
漢方薬だけでも、西洋薬に追加することでも、より良い治療効果を生むことが期待できます。症状はあるのに診断がつかないような「未病」や西洋治療だけでは改善しない症状にお悩みの方は、一度、漢方専門医に相談してみましょう。
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長。日本東洋医学会専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。日本漢方生薬ソムリエ。女性ヘルスケアアドバイザー。2003年、杏林大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部・産婦人科学教室入局。大学病院並びに関連病院勤務を経て、2011年より慶應義塾大学医学部漢方医学センターへ。現在は、同センター医局長として外来や、研修医の指導に携わりながら、慶應義塾大学病院の婦人科外来も担当している。