漢方外来なら「なんとなく不調」も診てくれるってホント?真相を医師に直撃!【美容の常識ウソ?ホント?】

日常生活で生まれる美容や女性のライフスタイルの疑問を医師や専門家に答えてもらうこのコーナー。今回は「漢方」について。なんとなく不調にも漢方がいいってホント? 慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長の堀場裕子先生にお話を伺いました。
Q:漢方外来なら「なんとなく不調」も診てくれるってホント?
だるい、やる気が起きない、不眠、イライラなどの“なんとなく不調”。何科に行けばいいのかわからい、そもそも病院に行くのは気が引ける、でも日常生活に支障をきたす不調がある…という人はいませんか? そんなお悩みがある人にも漢方がおすすめというウワサ。そこでさっそく、この疑問について慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長の堀場裕子先生に聞いてみました。
A:ホント
「そういう“なんとなく不調”の人こそ漢方外来で相談してほしいと思っています」(堀場先生・以下「」内同)
“なんとなく不調”にこそ漢方
「風邪であれば近くのかかりつけ医、お腹が痛ければ消化器内科など、診察を受ける場所が明らかな症状であれば、通い慣れたところに行くのが良いと思います。しかし、どこに、誰に相談したらいいかわからない、病院の何科に行けば良いか分からないといったような不調がある人はぜひ漢方を試していただきたいです。漢方は、こんなんで病院に行っていいのかなー? とか、なんとなく我慢できちゃうような、病院に行くまでもないけど症状があって悩んでいるという人にこそ、非常に適応するところだと思います」
全薬工業とEmma Sleep Japanが実施した「働く人の健康に関する調査」では9割の女性が働きながら不調を感じているが、半数以上は相談経験なしと回答。
漢方薬はどこで手に入れられる?
「漢方薬は、漢方外来がある病院や、開業漢方医に診断、処方してもらうのが通常の流れです。とはいえ、漢方外来はハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。そういった場合はドラッグストアでも漢方薬が手に取れますので、自分でそれぞれのの効能書きを見て購入するのも良いと思います。市販の漢方薬は医師も感心するほど、パッケージにうまく症状がズバリと書いてあるものも多く、選びやすいと思います。薬剤師さんのいる薬局で相談し、薬剤師さんに選んでもらうのもありです。
また、今はオンライン診療が盛んになってきていて、問診項目を答えると自分に合う漢方薬を選んでくれて、希望があれば自宅へ処方箋や漢方薬を送付してくれるサービスもあります。さらに、製薬会社の企業のサイトでも問診項目を入力すればおすすめの漢方薬を教えてくれるサイトもあるので、自分で購入するときは参考になると思います」
冷え症さんにも漢方がいい?
「実際に漢方外来に来る人のお悩みでいちばん多いのが冷え症です。冷え性は西洋治療ではなかなか対応できないものですが、漢方の生薬には、冷えに良いことで有名な生姜の入った“温める”漢方薬があります。ほかにも、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)など、血の流れをよくすることで冷えを改善していく漢方薬もあります。
運動が少なくなったり体を動かす機会が減ると、どうしても血流が悪くなります。そうすると手足だけすごく冷えるとか、下半身だけが冷えるなど、ひとつの体で熱い部分と冷えている部分が混在してしまいます。そういう場合は温めるだけでは改善が難しいので、運動などを取り入れて、血流を良くすることが冷え改善の重要なポイントになります。漢方外来では、同じ冷えの悩みでも診察によって、温めたほうがいいのか、血流をよくしたほうがいいのか、その人の本当の冷えの原因を考えて漢方薬を出します」
Point
・生姜の入った“温める”漢方薬・血の流れをよくする当帰芍薬散
イライラにも漢方がいい?
「育児のイライラ、介護のイライラ、とにかくイライラするという人に処方する漢方薬もあります。代表的によく使うのは抑肝散(よくかんさん)。もともとは癇の虫とか、小児の夜泣き、癇癪のために作られた漢方薬です。そのため、甘くて飲みやすいのも特徴です。
月経前になると無性に甘いものを食べたくなるとか、疲れると甘いものを食べたくなるなど、人間は甘いものを欲しくなるタイミングがあると思うのですが、そんなときにも抑肝散は有効ですし、飲むことで気分が落ち着くこともあるので試してみるのも良いでしょう。甘いものを我慢して漢方薬に置き換えろとまでは言いませんが、甘いものを食べると生理痛がひどくなることもあるので、お悩みの方にはおすすめです。抑肝散は市販で手に取れるものもあります」
Point
イライラや月経前にに甘いものを食べたくなる人には抑肝散不眠のお悩みにも漢方
「不眠の症状がある場合、漢方外来では、患者さんの不眠の原因、体質などさまざまな問診項目を聞いて、それに合った漢方薬を出します。先ほどイライラのところで紹介した抑肝散は緊張やイライラを取ってくれるので、気が張って眠れないとか、考えおとをしすぎて眠れないというときに非常に有効で、プレゼンや重要な会議など、大きな仕事の前でプレッシャーからなかなか眠れないという人におすすめです。また、歯ぎしりやいびきがあるかたにも。
あとは疲れているのに眠れないとか、不安な気持ちが強くて眠れないというかたには加味帰脾湯(かみきひとう)という漢方薬を飲んでもらうこともあります。
疲れているのに眠れない、というのは高齢者タイプの眠りの悪さでもあるのですが、今、高齢のかたの不眠が増えています。でも、睡眠薬を飲むと強すぎて翌日頭がぼーっとしてしまったり、飲むと気持ち悪くなってしまうというかたもいるため、そういう人が漢方薬を使ったりすることもあります。そして、40代、50代以降の、高齢者の不眠の悩みについては加味帰脾湯のような、“補ってあげる”系の漢方薬を飲んでもらうことが多いですね。
漢方薬は生薬が組み合わさって入っているので、睡眠薬のように眠ることだけに特化しているわけではありません。眠り以外にも貧血を補ったり、胃腸の調子を良くするものだったり、いろいろな生薬がごちゃごちゃっと入っています。そのため、眠りが悪いために出した漢方薬で最初に胃腸の調子が良くなり、体重がちょっと増えたり、本人がそこまで気にしていなかった症状が治り、最後にいちばん悩んでいた眠りのところが治るというパターンもあります」
Point
・気が張って眠れない場合は抑肝散・疲れているのに不安で眠れない場合は加味帰脾湯
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文/土屋美緒
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
慶應義塾大学医学部 助教・漢方医学センター医局長・医学博士。日本東洋医学会専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。日本漢方生薬ソムリエ。女性ヘルスケアアドバイザー。漢方家庭医。2003年、杏林大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部・産婦人科学教室入局。産婦人科医として大学病院並びに関連病院勤務を経て、2011 年より慶應義塾大学医学部漢方医学センターへ。 現在は、同センター医局長として外来や、研修医の指導に携わりながら、慶應義塾大学病院の婦人科外来も担当している。