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2019.3.19

『 希望の灯り 』『 ビリーブ 』『 記者たち 』試写室便り【 大高博幸さんの 肌・心塾 Vol.493 】

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Ⓒ2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

はかなく密やかに、祝福のように、
ままならない人生にも、美しい瞬間がある。

1989 年 ベルリンの壁崩壊、1990 年 東西再統一。
置き去りにされた人達の哀しみを、
スーパーマーケットの灯りが優しく包む。
慎ましく幸せな物語 ―― 。

希望の灯り
ドイツ/ 125 分
4.5 公開/配給:彩プロ
kibou-akari.ayapro.ne.jp

【 SYORY 】 腕や首の後ろにタトゥーを入れた無口な青年 クリスティアン ( 27 歳/フランツ・ロゴフスキ ) は、巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始める。旧 東ドイツ、ライプツィヒ近郊。店の周囲には畑地が広がり、遠くにアウトバーンを走る車が見える。仕事を教えてくれるブルーノ ( 54 歳/ペーター・クルト ) は クリスティアンを言葉少なに見守る。年上の魅力的な女性 マリオン ( 39 歳/サンドラ・ヒュラー ) への一途な思いは、恋の喜びと苦しみを教えてくれる。ここで働く者たちは、みな、素朴で、ちょっと風変わりで、心優しい。それぞれに心の痛みを抱えるからこそ、たがいに立ち入り過ぎない節度がある。それが、後に起きる悲しい出来事の遠因になったのかもしれないが、彼らは喪失の悲しみを静かに受けとめ、つましく生きていく。いま 目の前にある小さな幸せに喜びを見出すことで、日々の生活に そっと灯りをともす。( プレス資料より。一部省略 )

今年は、ドイツを東西ふたつの国に分断していた〝 ベルリンの壁 〟の崩壊から 30 周年、世界中で様々な記念の催事が予定されているとのコト。タイムリーに公開される この映画は、東西再統一によって不遇をかこつ結果となった旧東ドイツの人々の〝 今 〟を描いて、感慨深いものがあります。

〝 ベルリンの壁 〟については、一般的に言って〝 ホロコースト 〟ほど詳しく知られていない気がしますが、本作を観る上で、それが大きな支障となるコトは まず ないでしょう。こゝに描かれているのは、〝 飲料担当 ( クリスティアン ) 〟と〝 お菓子担当 ( マリオン ) 〟のワケあり同士の淡い恋、旧東ドイツ時代の暮らしへの郷愁を 内に秘め続けているブルーノの やるせない日々、それぞれに心に痛みを抱えている同僚たちの 緩やかな絆……。
開店前と閉店後には「 美しき青きドナウ 」や「 G線上のアリア 」の C D が 店内に流れ、商品を補充するフォークリフトが 踊るように滑らかに通路を行き交う……。コーヒーマシンを備えた小さな休憩室では短い会話が交わされ、それとはベツのスペースでは 廃棄処分扱いとなった食品を内緒で持ち寄っての さゝやかなパーティも開かれる……。適度に距離を保ちつゝ 互いに助けあい労りあう仲間たちの姿が、控えめなユーモアと哀しみを伴って 淡々と描かれていくのです。

抑制された台詞と 時にクリスティアンがつぶやくモノローグは 詩のように耳に心地よく、常に整然とした構図の 無機質とも言える画面の中に 滲むように撮影された蛍光灯の灯りは、柔和な温かみを帯びて 驚くほど叙情的。そして、この巨大なスーパーマーケットという小宇宙に生きる人々の 尊厳のようなものさえ感じさせる演出は、何と表現すればいゝのか分からないほど、しみじみとした貴い情感を放っています。

出演者は 端役に至るまで称賛に価しますが、クリスティアン役の F・ロゴフスキは『 未来を乗り換えた男 』( Vol.482 ) での主役以上に 完璧な適役を好演。監督 ( 脚本も原作者と共同で執筆 ) は、若冠 37 歳の トーマス・ステューバーで、彼は 間違いなく 天才のひとりです。
これは『 ル・アーブルの靴磨き 』 ( 通信 96 ) 、『 希望のかなた 』 ( Vol.422 ) 、『 パターソン 』 ( Vol.408 ) 、『 ティエリー・トグルドーの憂鬱 』 ( Vol.355 ) 、そして『 東ベルリンから来た女 』 ( 通信 131 ) や『 家へ帰ろう 』 ( Vol.479 ) といった地味な佳作を愛する皆さんには、絶対にオススメします。どうぞ お見逃しなく。( 2.24 記 )

 

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© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

彼女の物語が、世界を変えた ――。

1970 年代 アメリカ。
史上初の< 男女平等 >裁判に挑んだ、
女性弁護士の爽快な感動実話。

ビリーブ
未来への大逆転
アメリカ/ 120 分
3.22 公開/配給:ギャガ
gaga.ne.jp/believe/

【 STORY 】 貧しいユダヤ人家庭に生まれた ルース・ギンズバーグ ( フェリシティ・ジョーンズ ) は、「 すべてに疑問を持て 」という亡き母の言葉を胸に努力を重ね、名門ハーバート法科大学院に入学する。1956 年当時、500 人の生徒のうち 女性は 9 人で、女性トイレすら なかった。
家事も育児も分担する夫のマーティン ( アーミー・ハマー ) の協力のもと 首席で卒業するが、女性だからという理由で 雇ってくれる法律事務所はなかった。それでも弁護士の夢を捨てられないルースに、マーティンが ある訴訟の記録を見せる。母親の介護費用の控除が認められない男性を擁護する その裁判が、〝 男女平等 〟を訴える出発点となることを信じ、ルースは 自ら弁護を買って出る。しかし、法の権威を守りたい政府は、ルースを叩きつぶすために 最強のチームを用意する。開廷の宣言と共に、遂に闘いが幕を開ける ――! ( プレス資料より )

ルース・ベイダー・ギンズバーグ ( 1993 年生まれ ) の名は、日本では あまり知られていないようですが、アメリカでは、Tシャツ、マグカップ、トートバッグ etc、彼女の顔をデザインしたグッズや絵本、書籍が大人気、R B G というイニシャルだけで通用するほどの有名人。85 歳の現在も、最高裁の判事として活躍中です。
本作は 彼女の若かりし日 ―― ハーバード大学に入学した ’56 年から、性差別に関する裁判で初めて勝訴した ’70 年代初頭までの、ルースの奮闘を描いた感動のヒューマンドラマ。監督は『 ディープ・インパクト 』の ミミ・レダー。

映画は ルースがハーバードに初登校する日のシーンに始まりますが、その時点で 彼女は一児の母。前半では 教授からも同級生からも 女性だからというだけの理由で何かと差別されながら、それに屈するコトなく猛勉強……。ガンに倒れた夫の授業にも出席してノートを取り、子育てもするという フル回転の日々を過ごします。
映画全体の作りは 割に淡々としたタッチですが ( それは ルースの実の甥である脚本の ダニエル・スティエプルマンが、あくまでも事実を変えずに描こうとした結果でしょう ) 、一時は信念と希望を失いかけたルースを、奇跡的に病気を克服した夫と 頼もしい女子に育った娘のジェーン ( ケイリー・スピーニー ) が 励まし支える場面へと続き、ラストのハイライトシーン = 100 % 負けると予想されていた裁判に 勝利するまでを描いていきます。

その裁判のシーンは相当にスリリングで、形勢不利となりながらも臆さないルースの言葉と態度に心を動かされた裁判長が、時間切れとなったルースに「 話を続けて 」と指示します。その瞬間から後のルースのスピーチの冴えが素晴らしい。それは 人間的な感情と敬意のこもった理性的なスピーチ ( 5~6 分 ) で、これによって 前代未聞の判決が下されるのです。このシーン、台詞字幕を素早く読みながら、ルースの顔を じっと見つめずには いられませんでした。

ルース役の F・ジョーンズ ( 通信 278 ) と 夫役の A・ハマー ( Vol.451 他 ) は身長差が大きく、そのキスシーンは トシコ・ムトーさんの昔々のマンガ「 小さな恋人 」を想い出させる愛らしさ。しかし、この夫婦の尊敬しあい助けあう姿には、誰もが心を打たれるでしょう。
演技陣は 主役と脇役は勿論、端役に至るまで充実しています。プレス資料に記載のない、グリーとかいう名の法律事務所長 ( ルースを面接し、大いに感心はするものの、不採用にせざるを得ない中年の男性 ) や、モリッツという名の、老いた母親を介護している初老の独身男性に至っては、皮膚感まで役になりきっていて 真実そのもの。さらに ルースの秘書の 義務や責任を超えた貢身的な仕事ぶりに、僕は 胸が熱くなりました。少々驚かされたのは、ジャック・レイナー ( Vol.485 他 ) が 一種の憎まれ役である敵側の弁護士を演じていたコトと、今までになく太っていたコト……。

話が 脱線してしまいましたが、映画の最後の最後で、ルース役の F・ジョーンズが、本物の 現在のルースに入れ替わるというシーンも見ものです。
以下、予告。ルースのドキュメンタリー映画『 R B G 』が 5 月に公開されます。まず『 ビリーブ 』を、次いで『 R B G 』を観れば、彼女の人としての素晴らしさを、より深く知るコトが出来るはず。そして 自分自身の内に、彼女の信念や希望や闘志が 乗り移ってくるコトを 願ってみては いかゞでしょうか? ( 2.28 記 )

 

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© 2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

アメリカ政府の巨大な嘘に立ち向かい、
不屈の精神で真実を伝え続けた新聞記者たちの
知られざる実話の映画化!

記者たち
衝撃と畏怖 ( いふ ) の真実
アメリカ/ 91 分
3.29 公開/配給:ツイン
reporters-movie.jp

【 INTRODUCTION 】 S N S 上に出所不明の悪質なデマが飛び交い、アメリカ合衆国大統領が 都合の悪いメディアの報道を〝 フェイクニュース 〟などと公然と こき下ろす昨今。これほどまでに世の中に嘘が蔓延し、真実というものが 不確かになってしまった時代が かつてあっただろうか。
ところが アメリカでは 過激な言動で物議を醸すトランプ大統領の誕生よりも 10 年以上前に、政府が 自国民と世界中を欺く巨大な嘘をついていた。「 イラクの サダム・フセインは 大量破壊兵器を保有している 」。これがイラク戦争の開戦理由のひとつだったが、のちに 大量破壊兵器は見つからず 戦争の大義が失われ、情報の捏造だと明らかになった。しかも 当時、大手メディアは軒並み このブッシュ政権下の嘘に迎合し、権力の暴走を押しとどめる機能を果たせなかった。ただし、たったひとつの新聞社を除いては……。
イラク侵攻の軍事作戦名〝 衝撃と畏怖 〟を題名に掲げた本作は、世に真実を伝えることに 並々ならぬ執念を燃やした記者たちの 知られざる実話の映画化である。 ( プレス資料より。一部省略 )

【 STORY 】 2002 年、ブッシュ大統領は「 大量破壊兵器保持 」を理由に、イラク侵攻に踏み切ろうとしていた。新聞社 ナイト・リッダーのワシントン支局長 J・ウォルコット ( ロブ・ライナー ) は、部下の J・ランデー ( ウディ・ハレルソン ) 、W・ストロベル ( ジェームズ・マースデン ) 、そして元従軍記者の J・ギャロウェイ ( トミー・リー・ジョーンズ ) に取材を指示。しかし 破壊兵器の証拠は見つからず、やがて 政府の捏造、情報操作である事を突き止めた。真実を伝えるために批判記事を送り出していく 4 人だが、N Y タイムズ、ワシントン・ポストなどの大手新聞社は 政府の方針を追認、ナイト・リッダーは かつてないほど愛国心が高まった世間の潮流の中で 孤立していく。それでも記者たちは 大儀なき戦争を止めようと、米兵、イラク市民、家族や恋人の命を危険にさらす 政府の嘘を暴こうと奮闘する… ( チラシより。一部省略 )

『 スタンド・バイ・ミー 』で世界中に多くのファンを持つ ロブ・ライナー監督の最新作 ( 彼は支局長役で出演もしています ) 。本作は 中堅新聞社「 ナイト・リッダー 」の記者たちの、孤立無援の闘いの実話……、不屈のジャーナリスト魂にプライドを賭けて 使命を全うしようとする四人組を描いた、骨太の社会派ドラマです。
八方塞がりの彼らを支えたのは、「 国防省の嘘を知りながら、黙っては いられない 」と言う ひとりの女性議員、政府の高官、そして ランデーの妻とストロベルの恋人ら、ごく少数。それでも彼らは、大手メディアが 気にも留めない末端の政府職員から専門家までに地道な取材を続け、巨大な嘘を暴いていきます。

イラク侵攻に関する T V ニュースのフッテージを数多く捜入しながら、政府と他メディアの動きを追う展開は、必然的にキレの良い部分とモタつく部分とがあるものの、上映時間 91 分はアッという間。決して長くはないので、嘘が暴かれた時点での 政府と他メディア側の様相を 場面として加えたならば、より充実感の高い映画になったのでは? と、僕は個人的に思いました。こゝに描かれている政府の嘘の捏造のしかた、その広めかたに関しては、スケールこそ大きく異なるとはいえ、我々一般人の間にも散見されるコトであり、「 それが 白日の下に曝された時の 嘘の張本人と追随者たちの姿を、本作の中で 間接的に見たかった 」というのが、僕の本心かも知れませんが……。
それにしても この嘘によって、米兵の死傷者は 36,000 人以上、イラク人の死傷者は約 1,000,000 人に上り、しかも「 大量破壊兵器 」は ついに発見されなかったのですから、罪深い話です。

全篇中で最も印象的だった台詞は、支局長の「 他のメディアが 政府の広報係に成り下がりたいなら、やらせておけばいゝ。だが、我々は、他人の子を戦争にやる者の味方じゃない。我々は、我が子を戦場にやる者たちの味方なんだ。政府が何か言ったら、必ず こう言え。〝 それは 真実か? 〟と 」( 同じ意味の言葉を、前述の国防省の女性議員が、内部告発する重要な場面で 口にしていました ) 。
ランデー役の W・ハレルソンは『 スリー・ビルボード 』 ( Vol.433 ) や『 L B J ケネディの意志を継いだ男 』 ( Vol.467 ) での彼よりも若々しく精悍。ストロベル役の J・マースデン ( 『 魔法にかけられて 』で エドワード王子役を演じた ) も、リアルな生彩を放っています。その恋人 リサ役の ジェシカ・ビールは、ナチュラルメイクで それなりに美しく、ランデーの妻役の ミラ・ジョヴォヴィッチは、個性的な女らしさと人間味を感じさせて、とても魅力的でした。( 2.26 記 )

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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