大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.12.18

『 家へ帰ろう 』『 ヴィヴィアン・ウエストウッド 』『 アトラント号 』試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.479 】

%e5%ae%b6%e3%81%b8%e5%b8%b0%e3%82%8d%e3%81%86
© 2016 HERNÁNDEZ y FERNÁNDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A

待っていたのは、70 年越しの奇跡でした。

アルゼンチンから 故郷 ポーランドへ――
仕立屋は、約束のスーツを
忘れえぬ友へ届ける旅に出た。

家 ( うち ) へ帰ろう
スペイン、アルゼンチン/ 93 分
12.22 公開/配給:彩プロ
uchi-kaero.ayapro.ne.jp

【 STORY 】 88 歳のユダヤ人 仕立屋 アブラハムは、住み慣れた仕立屋兼自宅を引き払い、老人施設に入ることになっていた。最後に 1 着だけ残ったスーツを見て、アブラハムは 深夜 家を抜け出し、ブエノスアイレスからマドリッド行きの航空券を手配し、飛行機に乗り込む。
マドリッド、パリを経由して、ポーランドに住む 70 年以上 会っていない親友に、最後に仕立てたスーツを届けに行く旅が始まる。アブラハムは、決して「 ドイツ 」と「ポーランド 」という言葉を発せず、紙に書いて 行く先を告げていく。飛行機で隣り合わせた青年、マドリッドのホテルの女主人。パリからドイツを通らず ポーランドへ列車で訪れることができないか、と四苦八苦していたアブラハムを助ける ドイツ人の文化人類学者など、旅の途中で出会う女性たちは、アブラハムの力になろうと自然体で受け入れ、アブラハムの頑な心を柔らかくしていく。
ポーランドに住む親友は、第 2 次大戦中、ホロコーストから逃れたアブラハムを助け、匿ってくれた 命の恩人であった。70 年前のホロコーストで傷つけられた足を かばいながら、過去の壮絶な思い出と共に たどり着いた場所は、70 年前と同じ佇まいをしていた。アブラハムは 親友と再会することができるのか、人生最後の旅に 〝 奇跡 〟は訪れるのか……。( プレス資料より。一部省略 )

この映画は 地味な小品ですが、とても人間味豊かで 素晴らしい。心をこめて、時間と手間をかけて、真剣に作られたコトが よく分かる、感動的なロードムーヴィーです。
脚本と監督は パブロ・ソラルス ( ’62 年生まれのユダヤ人 ) 。本作は、祖父にまつわる 彼の幼年期の記憶から出発し、10 年間に 6 ~ 7 通りの全く異なるプロットを書き上げた末に撮影を開始、’17 年に本国で公開されたというもの。

前記の惹句と略筋から ほとんど察しがつくとは思いますが、本作の背景には 第二次大戦中の ポーランドでの ユダヤ人迫害の歴史があります。最近では、ジェシカ・チャステイン主演の『 ユダヤ人を救った動物園 』( Vol.424 ) が、その歴史を相当に詳しく物語っていましたが、本作を観るためには、その辺りの事情を 多少なりとも知っておく必要があるでしょう。

主人公 アブラハム ( ミゲル・アンヘル・ソラ ) の左足には ナチスに押された刻印があり、右足は おそらく拷問により 機能が 不完全 ( 見た目に 皮膚の色も違っている ) 。彼は、幼い妹が 強制収容所に送られる直前、最後に交わした視線の記憶に苦しみ続けていて、「 ドイツ 」と「 ポーランド 」という二語を 口にするコトを 徹底的に避けています。性格は 職人気質で 頑固一徹。70 年前、九死に一生を得て逃げて来た彼を、必死に匿ってくれた 親友 ピオトレック ( 仕立屋だったアブラハムの父親の 仕事仲間 or 弟子の息子で、幼少期から兄弟同然の仲 ) を忘れたコトがありません。18 歳の時から 70 年間も音信不通のため、生きているか どうかも 不明なピオトレック……。その彼に、何としてでも再会して「 約束のスーツ 」を手渡したいという一心から、アブラハムは 生まれ故郷の町、ポーランドのウッチへと向かうのです。

その旅の途中、袖振り合うも多少の縁で、アブラハムは ひとりの青年と三人の女性、計四人に助けられます。その四人とは、飛行機で隣りの席にいた ピアニストの青年 レオナルド ( マルティン・ピロヤンスキー ) 、マドリッドの 小さなホテルの 女主人 マリア ( アンヘラ・モリーナ ) 、モンパルナス駅で会った ドイツ人の文化人類学者 イングリッド ( ユリア・ベアホルト ) 、ワルシャワの病院に勤務する 介護師 ゴーシャ ( オルガ・ボラズ ) 。そのゴーシャは なんと、彼をウッチ ( ワルシャワから遠い場所 ) まで送る役目を、シブシブながら 個人的に ( 病院の仕事の範囲を超えて ) 引き受けてくれます……。

本作で 僕が 最も感動した点は ふたつ。ひとつは、アブラハムとピオトレックの友情の絆の強さ ( 詳しくは敢えて記しません ) 。もうひとつは、アブラハムに力を貸す、赤の他人たちの心理と行動。観る人によっては「 あんなに親切な人が 次から次へと出てくるなんて、あり得ない話 」と考えてしまうのかも……。しかし 僕は、彼らと同じような精神構造と行動性を持つ人々に 実際に会ったコトが 何度かあるので、これは「 あり得る話だ 」と思いました。P・ソラルス監督としては、その点、多少 寓話的な感覚で 押し通したのかも 知れません。

画面は 観客を徐々に巻き込み、ワルシャワ行きの列車内で 倒れて死にかけたアブラハムが、ワルシャワの病院のベッドで意識を取り戻す辺りから、ゴーシャの車で ウッチへと向かう段になって、我々の眼を さらに 釘付けにします ( 心臓の鼓動も、やゝ早くなってきます ) 。そして、最終目的地「 ピオトルコフスカ通り 122 番地 」まで あと 100 メートルという所へ来た時、突然「 会えないコトも、何もかもが怖い。引き返す 」と言い出したアブラハムに、ゴーシャは「 自分のためにも、その眼で確かめるべきよ。あなたは素晴らしい人なの。だからこそ、はるばる こゝまで 来たんでしょう? 」と真剣に訴えます。そこからラストショットまでの、静かでいて 激しく深い 感動といったら! もしも長いエンドクレジットと静謐な音楽が なかったなら、観客は 誰ひとり、席から立ちあがれなかったのでは? 少くとも僕は、エンドクレジットの長さを、こんなに ありがたく感じたコトは、今まで なかった気がします。

おそらく P・ソラルス監督は 誠心誠意の人で、てらいのない 穏やかなユーモアのセンスの持ち主。出演者は 全員が 適役を好演。このコラムを よく読んでくださっている皆様には、年齢や性別を問わず、ぜひとも 観て頂きたい作品です。

 

%e3%83%b4%e3%82%a3%e3%83%b4%e3%82%a3%e3%82%a2%e3%83%b3
© Dogwoof

77 歳にして生涯現役を誓う、
英国カルチャーの女王。
そのパワーの秘密に迫る 刺激と情熱に満ちたドキュメンタリー!

ヴィヴィアン・ウエストウッド
最強のエレガンス
イギリス/ 84 分
12.28 公開/配給:KADOKAWA
westwood-movie.jp

【 INTRODUCTION 】 < デイム > の称号を持つ英国初のファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド。メリル・ストリープや ヘレン・ミレンなど オスカー女優たちが 彼女のドレスでレッド・カーペットを飾り、『 セックス・アンド・ザ・シティ 』で主人公が纏ったウエディングドレスは一瞬で完売。そんな 数々の伝説のベールの裏側に迫るドキュメンタリー。3 年間の密着取材と貴重なアーカイブ映像と共に語られるのは、音楽史を変えたパンクムーブメントの誕生秘話、デザイナーとしての躍進と挫折、無一文からの再出発。世界的人気ブランドとして成功するまでの知られざる道のりが、自由で痛快な名言を織り交ぜながら披露される。母、妻、実業家、クリエイター、アクティヴィストとして、波乱の人生を生き抜くヴィヴィアン・ウエストウッド。彼女が教えてくれる、エレガントな 人生の仕立て方――。( プレス資料より。一部省略 )

「 誰が こんなコトしたの? 私の指示と違う。こんなクズ、ショーに出せない! 」’16 年、ロンドン・ファッション・ウィーク 秋冬コレクション 開幕前夜、最終チェック中のアトリエで、彼女は 容赦なく言い放ちます。「 もう辞めどきね 」と パートナーに こぼしながら ソファで眠りにつくものの、翌日のショーは大成功、観客の拍手喝采を浴びて ガッツポーズをとるヴィヴィアン。
カメラを前に 本作のための収録が始まると「 過去の話なんて退屈 」「 そんな つまらない質問、しないでほしい 」と不快感を顕にしながらも、かなり饒舌に 自身のストーリーを語り出す……。そんな風に始まる 84 分間のドキュメンタリーです。
類まれな個性を築く基礎となったはずの、幼少期から少女時代の話は やゝ少なめ、キャリアと綿密に絡む 私生活の話は多めという構成で、ヴィヴィアンのエネルギッシュでダイナミックな人生が 余すところなく表現されています。

本作で僕が最も惹かれたのは 彼女の反逆精神、当時の英国の古い価値観を ひっくり返してやろうという攻めの姿勢。
場面としては、① ’88 年、BBC-TVの生番組「 Wogan with Sue Lawley 」にゲストとして呼ばれたヴィヴィアンが、スタジオの視聴者たちの嘲笑と、司会者の それとなくも あからさまな侮辱に対して、平然・毅然とした態度で臨んでいた姿、② ’15 年、水圧破砕法によるシェールガス採掘に抗議するため、キャメロン首相邸に 戦車で突っ込んで行った、ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりのようなヴィヴィアンの姿。彼女の 反骨魂を そこに見て、僕は 胸のすく思いでした。

もうひとつ、相当 興味深く感じたのは ( 以前から感じていたコトですが ) 、彼女の一種の二面性。ショーのフィナーレで ガッツポーズを取る時の ガキ大将のような姿 ( チラシ画像が その一例 ) と、資料を真剣に見つめている時のような 知的で上品な姿、その二面性のギャップです。
もう一本、彼女のドキュメンタリー映画が 作られるなら、その辺りを徹底的に追求した内容を、僕は 期待して やみません。

 

%e3%82%a2%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%bf
(c)1934Gaumont

これから ずっと 船の上。

愛することの情熱、愛されることの歓び。
溢れだすウィットと澄みきった情緒、
そして 香りたつ官能。

アトラント号
フランス/ 88 分
12.29 公開/配給:アイ・ヴィー・シー
http://www.ivc-tokyo.co.jp/vigo/

【 STORY 】 田舎町と ル・アーヴル間を運行する 艀船 アトラント号。乗組員は 船長のジャンとジュリエットの新婚カップル、変わり者の老水夫 ジュールおやじと少年水夫、そして かわいい猫たち。はじめは 新婚生活に ときめいていたジュリエットだったが、狭い船内の 単調な生活に 息が詰まってくる。
アトラント号が パリへ到着すると ジャンとジュリエットはダンスホールへ。そこへ 行商人が やって来て ジュリエットを口説き始める。田舎娘のジュリエットは 大都会 パリへの憧れを抑えきれず、夜に こっそりと 船を降りてしまう。怒り心頭のジャンは 彼女を置き去りにして 出航してしまうが…。( 試写招待状より )

僅か 29 歳の若さで他界した 伝説の映画作家 ジャン・ヴィゴの ’34 年の作品 ( 遺作 ) で、昨年のカンヌ国際映画祭で 御披露目上映された〝 4 K レストア版 〟の日本公開です。
G・ヴィゴは、フランソワ・トリュフォー、アキ・カウリスマキ、エミール・クストリッツァ 等々に敬愛される監督で、特に 詩的な映像表現が 高く評価されています ( 僕は 今回、エリア・カザン監督も、彼の作品を よく観ていたのでは? と感じました ) 。

物語の展開は 緩やかで、観た眼には のんびりと撮影されたような雰囲気を漂わせています ( But、実際は 相当に苦労して撮り上げられた作品であり、アキ・カウリスマキは「 命がけの映画だ 」と評しています ) 。
僕の印象としては、無声映画のサウンド版に 台詞が入っているような感じのするタッチが、何故か いとおしい。映像としては、カメラのポジションと 少々前衛映画風の構図に独得な味がある上、霧が流れている夜の運河周辺のシーンなど、現代の映画には 決して望めない詩情に 眼を見張らされました。
主役の夫婦と老水夫の描写は、古めかしくも普遍的。夫婦の間に波風を立てる 陽気な若い行商人の男は、’30 年代風であると同時に現代的で、驚くほどスマートかつチャーミング。テーマは、F・W・ムルナウ監督の最高傑作『 サンライズ 』( ’27 ) に共通するものがあると、僕は感じました。

本作は、映画史に興味を抱く読者の皆さんに限ってオススメします。同時に公開される G・ヴィゴの作品、『 ニースについて 』( ’30 ) 、『 新学期 操行ゼロ 』( ’33 ) を、僕は 高校生の時に 草月会館まで観に行ったのですが、ヴィゴの才気が 目一杯 感じられたのは、今回 初見の短篇『 競泳選手 ジャン・タリス 』( ’31、上映時間 10 分 ) で、非常に面白く観賞しました ( 彼のファンなら 絶対に必見 ) 。
東京・渋谷の イメージフォーラムを皮切りに、全国順次公開とのコトです。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
試写室便り等の感想や大高さんへのコメントもどうぞ!
biteki-m@shogakukan.co.jp
( 個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

この記事をシェアする

facebook Pinterest twitter google+ Pocket

関連記事を読む

あなたにおすすめの記事