大高博幸さんの 肌・心 塾
2019.1.22

『 天才作家の妻 』『 バハールの涙 』『 ナチス第三の男 』試写室便り【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.485 】

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(c)META FILM LONDON LIMITED 2017

ノーベル賞の栄光に隠された<愛と嘘>。

栄誉を手に入れた夫と、支え続けた妻。しかし
彼の〝 傑作 〟には、ある疑惑があった――。
夫への愛情と怒りに揺れ動く、
妻が最後に下した決断とは…?

天才作家の妻
40 年目の真実
スウェーデン、アメリカ、イギリス/ 101 分
1.26 公開/配給:松竹
ten-tsuma.jp

【 STORY 】 偉大なる世界的な作家と、彼を慎ましく支えてきた完璧な妻。長年 連れ添ってきた夫婦の関係は、夫 ジョゼフが ノーベル文学賞を受賞したことで 静かに揺らめき始める。やがて ふたりはスウェーデンのストックホルムを訪れ、ジョゼフは授賞式のリハーサルなどの慌ただしい行事を こなすことに。一方、夫が栄光のスポットライトを浴びようとしている陰で、ジョーンは 彼を愛しながらも、心の奥底に溜め込んだ複雑な感情が わき起こってくるのを抑えられなくなっていく。誰も想像だにしない夫婦の秘密とは、いったい何なのか。そして 世界中の注目が集まる授賞式当日、ジョーンは いかなる決断を下すのか……。( プレス資料より )

夫婦の絆と人生の意味を問いかける 深遠な大人のドラマで、映画として とても面白い内容です。惹句と略筋にある〝 疑惑 〟と〝 秘密 〟については 観てのお楽しみですが、映画の中では 割合 早い段階で 分かってきます。しかし、それ以上に興味をそゝるのは、天才作家の良き妻を演じてきたジョーンの複雑な心の内……。特に、激しい葛藤の末に 耐えがたい屈辱感と憤りを抑えきれなくなった彼女が、それらを振り払って 清々しい表情を浮かべるに至るまでの描写に 見応えがありました。しかも ラストのクロースアップは、彼女が何を決断したのか、今後の彼女の出かたが ふたつにひとつだと 観客に想像させるように演出されていて、そこが 一番 面白かったです。

そのラストのクロースアップを真骨頂として、ジョーン役の グレン・クローズの眼の演技が 実に実に素晴らしい。既に ゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にノミネートされている上、アカデミー賞®主演女優賞 受賞の可能性が極めて高いという前評判にも 信憑性があります ( G・クローズは アカデミー賞®ノミネート 6 回の実績を誇る大女優。それにしても、’47 年生まれという彼女の 肌の若さ・たるみのなさは驚異的 ) 。本作では、実の娘である アニー・スターク ( ’88 年生まれ ) が 回想シーンで若き日のジョーンを好演しているコトも、映画通にとっては一興でしょう。

ジョゼフ役は ジョナサン・プライス、息子のデヴィッド役は マックス・アイアンズ。詳しくは触れませんが、根拠のないプライド ( 劣等感を打ち消すための 愚かな虚勢とでも言うべきモノ ) を振り巻くコトで、結果的に息子をスポイルし続けてきたジョゼフの罪は 非常に重い ( しかし、彼の一番の理解者である 母親 ジョーンによって、デヴィッドの心は救われ、解放されるはず ) 。
また、重要な脇役として登場するクセ者の記者 ナサニエル ( クリスチャン・スレーター ) が、物語に不穏なタッチを与えています。

この物語 ( 原作は メグ・ヴォリッツァーの小説「 The wife 」) には、男女の社会的地位の格差が アメリカに於いてさえ 歴然としていた、’50 年代という時代背景があります。その点については、予備知識がなくても 回想シーンの中で分かりやすく描写されているので、観賞に支障はないでしょう。とは言え、これは普遍的な物語であり、理想的に見えるカップルの絆について、ちょっと考えてみたくなる要素を孕んだ一篇です。

監督は ビョルン・ルンゲ、脚本は ジェーン・アンダーソン。ストックホルムで ジョゼフの報道写真の撮影を担当する若い女性カメラマンとの脇筋が、説明的すぎてモタつきを感じさせはするものの、ムダのない展開と キメの細かい人物描写に、僕は感心させられました。( 1.2 記 )

 

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©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

捕虜となった息子を助け出すため、銃を取って立ち上がったクルド人女性、片眼の戦場ジャーナリストの〝 真実 〟の物語 ――。

ゴルシフテ・ファラハニ主演最新作。

バハールの涙
フランス、ベルギー、ジョージア、スイス/ 111 分
1.19 より公開中/配給:コムストック・グループ + ツイン
bahar-movie.com

【 INTRODUCTION 】 本作は イラクのクルド人自治区で、2014 年 8 月 3 日から 2015 年 11 月 13 日に起きた出来事に着想を得ている。8 月 3 日の夜、I S ( イスラミックステート ) が イラク北西部のシンジャル山岳地帯の村々に侵攻。シンジャル山脈という天然の要塞に守られ、ヤズディ教という独自の宗教への信仰を守り続ける人々が暮らす地域で、彼らの大量虐殺が 奇襲攻撃の目的だった。24 時間で 50 万人の市民が脱出。逃げおくれた人々は 殺害されるか、拉致された。
やがて、ヤズディ教徒、クルド人武装勢力、クルド自治区政府軍は 抵抗部隊を組織し始め、女性の戦闘員だけで構成された武装部隊も前線に立った。「 女性に殺されたら天国へ行けない 」と信じるイスラムの戦闘員は、彼女たちを恐れていた。( プレス資料より )

【 STORY 】 弁護士のバハールは 愛する夫と息子に恵まれ 幸せに暮らしていたが、ある日 クルド人自治区の生まれ故郷の町で I S の奇襲攻撃を受け、男性は 皆 殺されてしまう。
数か月後、彼女は 人質にとられた息子を取り戻すため、I S に抵抗する 女性武装部隊〝 太陽の女たち 〟のリーダーとなり、激闘の最前線で銃を手に戦う日々をおくっていた。同じく、最愛の娘と離れて戦地の取材を続ける 片眼の記者 マチルドの目を通して、再び我が子を抱きしめるため 命を賭けて戦うハバールの苦悩と壮絶な生き様が 映し出されていく。( 試写招待状より )

これは ドキュメンタリーに近い リアルなタッチの、事実に基づく劇映画です。脚本・監督の新鋭 エヴァ・ウッソン ( フランス出身 ) の制作意図は真撃そのもの。おぞましく野蛮な I S の仕業に苦しみ闘うクルド人女性たち、片眼を失っても なお取材を続ける女性記者、加えて T V を通じて「 必ず救助しますから、なんとか私に連絡を 」と訴える女性代議士の姿が映し出されていますが、彼女たち全ての状況と心情を「 ひとりでも多くの方々に、まず知ってほしい 」というウッソン監督の願いが、ヒシヒシと伝わってくる作品です。

何かのジャンルに分類するコトが難しく、リアルでいてセンセーショナルな扱いも成されていないため、宣伝は いまひとつ 決め手を欠いている印象。これは もう、観るしかない映画だと思います。

主演は『 チキンとプラム ~あるバイオリン弾き、最後の夢~ 』( 通信 125 ) や『 パターソン 』( Vol.408 ) で、日本でも多くのファンを持つ ゴルシフテ・ファラハニ ( ’83 年、テヘラン生まれ。「 世界で最も美しい顔 100 人 」に、4 年連続でトップ 10 入りしているイラン人女優 ) 。正直なところ、僕は 彼女が主演していなければ、本作を観たいとか 紹介したいとは思わなかったはず。この映画には、ファラハニの前記 2 作のようなエンターテインメント性はゼロに等しく、新聞の記事で断片的に読む信じがたい出来事を、「 太陽の女たち 」の姿を通して リアルに観て理解したという感じです。

日本公開題名はセンチメンタルなニュアンスを感じさせますが、原作は「 Les filles du soleil 」=「 太陽の女たち 」。ファラハニは、I S の男たちが「 女に殺されたら天国へ行けない 」と信じ、「 太陽の女たち 」の存在を恐れているコトに勇気を得て、仲間を引っ張っていくバハール役を熱演。ラストで土ぼこりに まみれた肌を 涙で濡らす顔が、綺麗ごとではなく美しかったです。
とにかく観てほしいのは、実際に起きて 今も終っていない この出来事を、よりリアルに知りたいという方々、及び ファラハニのファンの皆さん。僕の このコメントは 中途半端なので、まずは bahar-movie.com でのチェックを お願いします。

 

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(C)Photo by Bruno Calvo All rights reserved

本屋大賞 第 1 位! 待望の映画化!!

史上 唯一 成功した、ナチス高官の暗殺計画。
誰も知らない真実の物語。

ナチス第三の男
フランス、イギリス、ベルギー/ 120 分/ R 15 +
1.25 公開/配給:アスミック・エース
hhhh-movie.asmik-ace.co.jp

【 STORY 】 ラインハルト・ハイドリヒ。その冷徹さから〝 金髪の野獣 〟と呼ばれ、ヒトラーさえもが恐れた男。海軍を不名誉除隊となり、妻の奨めでナチ党に入党。自分の一部だったものを もぎ取られ、ナチ運動に 怒りの はけ口を見つけた男は、諜報活動で頭角を現し、瞬く間に党幹部へと のしあがる。さらに ユダヤ人大虐殺の首謀者として、絶大な権力を手にしていく。この抑止不能な男の暴走を止めるべく 暗殺計画を立てたチェコ亡命政府は、2 人の若き兵士をプラハに送り込む。綿密な計画を練ること数ヶ月、1942 年 5 月 27 日、遂に決行の朝は やってきた。ハイドリヒを乗せた車が市街地に入り、姿を現す――。( 試写招待状より。一部省略 )

本屋大賞 2014 年度 翻訳小説部門 第 1 位に輝いた、世界的ベストセラー「 HHhH プラハ、1942 年 」( 東京創元社刊 ) の映画版です。一昨年の夏に日本でも公開された『 ハイドリヒを撃て! 』( Vol.406 ) を御覧になった皆さんは よく憶えていると想いますが、これは 同一の史実に基づく作品です。

前作 ( 『 ハイドリヒを撃て! 』) が 映画として 相当 面白かったので、僕は この『 ナチス第三の男 』が どのような作りになっているのだろうかと、興味津々で観賞しました。

まず 二作の大きな違いを記すと、① 前作が レジスタンス側の行動と心理を 綿々と描いていたのに対し、本作は 前半で ハイドリヒの挫折からナチス高官へと のし上がっていく経緯を、後半で レジスタンスのヤンとヨゼフの チェコへの侵入から最期までを中心に描いているコト ( たゞし その間に、時間を進めたり 戻したりして、双方を巧みに絡み合わせる手法が採られているため、物語が ふたつに割れているという印象は ありません ) 。② 前作では ヤンとヨゼフが 30代中端から後半ぐらいの年齢であったのに対し、本作では 20代中端から後半ぐらいの若いイメージになっているコト。そして、③ ラストのクライマックス、教会内に展開するレジスタンスたちとナチス親衛隊との射ち合いの場面……、その演出・観せ方、でした。

本作は 撮影 ( ローラン・タンギー ) が相当に凝っていて、東欧らしい雰囲気も よく出ていると感心しながら観ていましたが、前作には 本作とは ひと味違う詩的なカットがあったなぁと想い出す瞬間も幾度かあって、どちらも負けず劣らず。僕は 二倍 楽しめたという感じです。

出演者は かなりの粒揃い。ハイドリヒ役は ジェイソン・クラーク ( Vol.465 ) 、その妻 リナ役に ロザムンド・パイク ( 通信 291 ) 。ヤン役は ジャック・オコンネル ( 通信 326Vol.467 ) 、ヨゼフ役は ジャック・レイナー ( Vol.344433 ) 。ヤンと恋仲になるレジスタンス一家の娘役に ミア・ワシコウスカ ( 通信 1580155323Vol.346 ) 。
J・クラークは 面構えからして適役ながら、20 代の場面での若作りに 限界を感じさせた点が残念。R・パイクは ルックスも演技も今までで最もインパクトが強く、スター性があるとさえ感じさせました。J・オコンネルと J・レイナーは 程よく いゝ感じの青年になっていて、特に後者は 子役出身のイメージの払拭に成功しています。たゞし、ヤンとヨゼフ それぞれの恋に関しては、前作のほうが よく描けていた感じ……。

監督は、ドキュメンタリーからキャリアをスタートさせた セドリック・ヒメネス ( フランス生まれ ) 。これは 彼の日本正式公開 第 1 作とのコトでした。
P.S. ハイドリヒがリナと映画館で観ている映画は、無声映画の金字塔と呼ばれる F・W・ムルナウ監督作品『 サンライズ 』( ’27 ) です。

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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