大高博幸さんの 肌・心 塾
2012.11.8

大高博幸の美的.com通信 (125) 『チキンとプラム』『砂漠でサーモン・フィッシング』『映画と恋とウディ・アレン』 試写室便り NO.32

(c) Copyright 2011Celluloid Dreams Productions – TheManipulators – uFilm Studio 37 – Le Pacte – Arte France Cinéma – ZDF/ Arte – Lorette Productions– Film(s)

天才音楽家ナセル・アリは、死ぬことにした。
大切なバイオリンを壊されたから――。
忘れられない恋を知る全ての大人に贈る、可笑しくて切ないラブストーリー。
『チキンとプラム ~あるバイオリン弾き、最後の夢~』 (フランス・ドイツ・ベルギー合作映画)
11月10日からロードショー。
詳しくは、chicken.gaga.ne.jpへ。

自伝的コミックを自らアニメ化した『ペルセポリス』(’07)で“カンヌ国際映画祭審査員賞”に輝いたマルジャン・サトラピ(アーティスト、イラン人、女性)が、再び自身のコミック「鶏のプラム煮」を今回は初めて実写で映画化した作品。上映時間は92分、東洋的な音楽と繊細なアニメーションによるタイトルで始まり、多くの場面に飛び出す絵本のような独得な演出が施されています。
詳しくは説明できませんが、この映画のテーマは“恋のパワー”に関係しています。主人公のアリは「大切なバイオリンを壊されたから」生きるのをやめて「死ぬことにした」のですが、もうひとつのor真の理由は、「失くした恋(引き裂かれた恋)を再び完全に失った」という、彼の“完全な思い込み”だったのだと僕は解釈しました。
ユーモアとロマン、現実と幻想、現在と過去に後日譚まで交錯する世にも不思議な映画なので(エキセントリックでさえあります)、観ていて戸惑いを覚える人も多いのではと想像しますが、最後の数分間で、アリの本当の気持ちと映画のテーマが よく伝わってくるように構成されています。それが冒頭の場面=アリが街角で擦れちがった老婦人に、「もしや、イラーヌさんでは? 僕を憶えていませんか?」と声を掛ける場面に繋がってくるので、その冒頭の場面をしっかりと目に焼き付けておいてください(そこをボンヤリ観ていると、最終的に胸を締めつけられるような感動を100%得るコトができなくなります)。
ドラマの構成としては、前半がやや長く、後半は短かすぎるという印象を僕自身は持ちました。若き日のアリが美少女風のイラーヌと初めて言葉を交わす回想場面の後、映画館で映画を観ながら手を握り合うまでの間に、ぎこちない恋のプロセスが もう少しでも描かれていれば、さらに良かったのになどとも思わされました。
アリを演ずる名優マチュー・アマルリックは、サルバドール・ダリの親戚かと思わせるルックス。イラーヌを演ずるゴルシフテ・ファラハニは、大正時代後期の日本の女学生のような顔と雰囲気が非常に美しく魅力的で、僕もアリ同様、彼女には一目惚れしてしまいました。
アリの母親役でイザベラ・ロッセリーニ(父親は映画監督のロベルト・ロッセリーニ、母親はイングリッド・バーグマン。数年前までランコムのイメージモデルとして長期にわたり活躍)、成人したアリの娘の役でキアラ・マストロヤンニ(父親はマルチェロ・マストロヤンニ、母親はカトリーヌ・ドヌーヴ)が出演していて、このキャスティングは注目に価します。
大ヒットするとまでは思えないのですが、このページのスティル写真を観て興味を抱いた方々には、ぜひとも観ていただきたい珠玉のような一編です。

 

©2011 Yemen Distributions Ltd., BBC and The British Film Institute. All Rights Reserved.

あり得ない夢を信じたら、
もう一度人生が輝きはじめた。
『砂漠でサーモン・フィッシング』 (イギリス映画)
12月8日からロードショー。
詳しくは、salmon.gaga.ne.jpへ。

「砂漠の国イエメンで鮭釣りがしたい――そんなバカげた仕事を依頼された水産学者のジョーンズ博士。持ち込んだのはイエメンの大富豪(シャイフ)の代理人、コンサルタントのハリエット。不可能!と一蹴したものの、英国外務省も中東との緊張緩和のために支援を決定、首相まで巻き込んで荒唐無稽な企画が立派な国家プロジェクトに急展開! 果たして、マトモな大人ならとっくに諦める、ムチャな夢物語の行方は――?」 (プレスブックより抜粋)
テキパキと進むオープニングは米国製のロマンス物によくあるタッチ。But、その割にテンポがないなーと感じながら観ていましたが、シャイフから最初の支払いとして5,000万ポンドがプロジェクトに入金された時点でエンジンがかかり、失意のハリエットをジョーンズが見舞いに訪れる場面から ふたりの表情に目が釘付け…、そしてシャイフが画面に現われるあたりから、この映画に好感を抱き始めました。要するに三段階で面白くなっていった映画というワケ。
ジョーンズ博士役のユアン・マクレガーとハリエット役のエミリー・ブラントは共に好演。But、一番良かったのはアマール・ワケド演ずるシャイフの性格描写で、彼が意外にも優れた知性と感性、良識と温情と使命感の持ち主であったコト。やり手の首相広報担当女史役のクリスティン・スコット・トーマスは さすがの存在感を示していますが、ステレオタイプな演技という感あり。この役、『ヘルプ』でスキーターを出版界へと導くソフィスティケイテッドなニューヨーカーを演じたメアリー・スティーンバージェンが起用されていたなら、線としては やや細いけれど、それが却って役に奥行きとチャームを与えたのでは?などと、勝手な空想までしながら楽しんでいました。
シナリオにも、もっと ふくらみと用意周到さが欲しかったとは思いますが、この映画、ちょっと無理してでも観に行って正解でした。

 

© 2011 B Plus Productions,LLC. All rights reserved.

夢見たことは すべて実現した。
それなのに人生の落伍者の気分なのは なぜだろう。
『映画と恋とウディ・アレン』 (アメリカ映画)
11月10日からロードショー。
詳しくは、woody-documentary.jpへ。

『ミッドナイト・イン・パリ』が世界中でスマッシュヒットとなり、76歳にして新たな絶頂期の到来かと噂されているウディ・アレン。コレは、その彼の人となりを描いたドキュメンタリー。幼少期から現在に至るまでの足跡を年代順に辿るスタイルで、女優のマリエル・ヘミングウェイ、ダイアン・キートン、ルイーズ・ラサー、ダイアン・ウィースト、ナオミ・ワッツ、スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルス(登場順)、そしてマネージャー、プロデューサー、映画評論家らのコメントor証言や、貴重な映像の数々で綴った113分。
モチロン、ウディ自身のトークも ふんだんに織り込まれ、16歳の時から ずーっと使い続けているドイツ製のタイプライターや、ベッド横の引き出しに突っ込んである創作のアイディアメモなどを広げながら、説明を続ける彼の姿が興味をそそります。
『ミッドナイト・イン・パリ』が観客動員記録を更新したコトについては、「うれしいハプニングだ。僕は常に最善を尽くしてきたつもりだが、この映画は どういうワケか、人々に愛を持って受け入れられたようだ。それだけのことだが」と、ひと言。
そしてラストは、次の言葉で締めくくられていました。
「恵まれた人生さ。子供の頃からの夢を すべて実現してきたんだから。夢見たことで実現しなかったことは何もない…。でも、こんなにも運が良かったというのに、人生の落伍者の気分なのは なぜだろう…」。
P.S. 12月には彼の監督作品、『恋のロンドン狂騒曲』の日本公開が控えています。僕も近日中に試写会に出向く予定です。

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴45年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

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