大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.6.21

【大高博幸さん連載 Vol.346】 『 アリス・イン・ワンダーランド / 時間の旅 』『 ブルックリン 』『 トランボ / ハリウッドに最も嫌われた男 』 試写室便り 第118回

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ようこそ、ワンダーランドの〝はじまり〟の物語へ。

< タイム >と戦い、マッドハッターを救うため、アリスは過去へ――

アリス・イン・ワンダーランド / 時間の旅
アメリカ/113分
7.1 公開/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
Disney.jp/Alice-Time

【STORY】 美しく成長したアリスは、父の形見のワンダー号の船長として、3年に渡る大航海を成功させて ロンドンに戻ってきた。だが、彼女を待ち受けていたのは、父の船を 手放すという 厳しい現実。途方に暮れる彼女の前に、突然、青い蝶 アブソレムが現れ、マッドハッターの危機を告げる。アリスは ハッターを救うため、鏡を通りぬけて ワンダーランドへ――。そこには、死んだはずの家族の帰りを待ち続けるハッターがいた……。白の女王らは、ハッターの家族を蘇らせるため、アリスに過去を変えて欲しいと頼む。そのためには、時間の番人< タイム >が持つ、時を操れる< クロノスフィア >が必要だった。クロノスフィアを盗んだアリスは、タイムの追跡を逃れながら ワンダーランドの時間を さかのぼり、仲間たちの〝子供時代〟へ――。だが、アリスは知らなかった。それが ワンダーランドの〝はじまり〟の真実を知る、禁断の時間の旅になることを……。( チラシより。一部省略 )

『 アリス・イン・ワンダーランド 』( 通信 15 )から 6年、待望のシリーズ最新作です。物語は 前作の 3年後( というコトは、19歳だったアリスは 22歳になっているという勘定。But、そんなコトは 理づめに考えないほうが よろしい )。亡き父の後を継いで 船長となっていたアリスが、嵐の夜のマラッカ海峡で 3艘の海賊船に襲われる スリリングなシーンに始まります。

全篇 万華鏡的な美しさに 僕は眼を奪われましたが、最もロマンティックで綺麗だと感じたのは、生きている人と亡くなった人の〝寿命時計〟が釣り下げられているスペースで、時間の番人< タイム >が 仕事をしている場面でした。
その< タイム >を演ずるのは、今回 初登場の サシャ・バロン・コーエン。長身・面長・尊大なキャラクター……、しかし 彼は 徹底的な悪役ではなく、少々ガニ股風に歩く姿や 孤独そうな風情、さらに エロティックな雰囲気も 微妙に見え隠れする演出が 予想外に面白い。
また、赤の女王と 白の女王の 幼少期の〝ある事件〟が 巧みに組み込まれている構成も良かったです( ジョーン・クローフォードと ベティ・デイヴィスが 元スターの老姉妹役を演じた 狂気的映画『 何がジェーンに起ったか? 』( ’62 )を想い出させもする内容 )。

6年前は〝新星〟だったアリス役の ミア・ワシコウスカは、さすがに余裕の演技。男仕立ての船長服姿も、ゴージャスな支那服姿もチャーミングです。
マッドハッター役の ジョニー・デップと、赤の女王役の ヘレナ・ボナム = カーターは、究極の厚塗り顔でありながら、表情にデリケートなニュアンスを漂わせるところなど、実に見事で素晴らしい。白の女王役の アン・ハサウェイは、前作よりも眉の色はソフトでしたが、元々大きい唇の輪郭を にじんだようにボカして描いたメークは くどい印象……。But、ロングショットに於ける 彼女の ゼンマイ仕掛け風の動きは、相当 良かったと思います。
その他のキャラの中では、いつも互いを否定してばかりいる双子のトウィードルディーとトウィードルダムが面白く、最後の登場々面で 我に返って抱き合う姿は、愛らしさに溢れていました。

P.S. 本作には アリスの言動に ひとつのモラルが潜んでいます。しかし、めまぐるしいほどスピーディな展開と 3D画面上の字幕を追うのに精一杯で、それを追求する余裕が 僕には 正直なところ、ありませんでした。しかし、「 本作は 前作よりも出来が良く、数段 面白い 」と 断言(!)できます。

 

©2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
©2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

1950年代。故郷 アイルランドから、新天地 アメリカへ。
内気な少女が 洗練された女性に変わっていく日々の中、2つの運命の間で 揺れながら選ぶ 未来とは――。

ブルックリン
アイルランド、イギリス、カナダ合作/112分
7.1 公開/配給:20世紀フォックス
Brooklyn-Movie.jp

【STORY】 夢と仕事を求めてアメリカに移り住む人は、第 2 次大戦後も後を絶たない。その入り口でもあるニューヨーク、1950年代のブルックリンに アイルランドからやってきたエイリシュは 高級デパートで働き始めるが、新生活に とまどい、故郷からの手紙を読み返しては 涙を流してホームシックに。やがて大学で学び、新しい恋に出会うと 笑顔を 取り戻し、驚くほど洗練された女性に変わっていくのだが――。ある日、突然の悲報でアイルランドに戻った彼女を、家族や友だちの優しさと、運命的な再会が待ちうけていた――。( プレスブックより )

映画ファンの信頼が極めて厚いレビューサイト〝Rotten Tomatoes〟で、批評家 98%、観客 90%という高い支持を集め( ’16年 3月現在 )、アカデミー賞®では オスカーは逃したものの、作品賞・脚色賞・主演女優賞にノミネートされた作品です。

僕個人としては、エイリシュの心が トニー( ブルックリンで知り合ったイタリア系の若者。配管工として働いている )と ジム( アイルランド在住の、裕福な家庭の洗練された青年 )との間で揺れ動くという重要な部分の心理描写が、やゝ弱い or 少々説明不足のように感じられました( トニーから届いた航空郵便を、開封もせずに 引き出しに しまったりする心理が 特に不明 )。しかし「 彼女は 自分が 2人いるような奇妙な気がした。1人は ブルックリンで 2年間、厳しい冬と 多くの辛い日々を生き抜き、恋に落ちた人。そして もう 1人は アイルランドで生まれた娘、皆が知っている、あるいは 知っていると思っていた エイリシュだった 」という一文が 原作中にあると知り、ふと「 もしかしたら 彼女は、そういう気質 or 気の流れ or 血液型の持ち主なのかも 」と感じ、我ながらミョーですが「 それならば あり得る 」と素直に納得してしまいました( 意味、通じましたか? )。

最も良かったのは、エイリシュがトニーと一緒にいる場面……、出会いの瞬間からの全場面でした。そして、結末については モチロン書かずにおきますが、エイリシュが 僕の願った通りに 迷いを振り払い、自ら選んだ未来に向かって突き進む……、そうしてくれたコトが 一観客として とても嬉しく、胸をホッと撫でおろした次第です。

エイリシュ役の シアーシャ・ローナン( ’94年生まれ )は、新人だった頃の メリル・ストリープのようなイメージ( 特に 体型が そう感じさせたのかも )。アメリカ映画界では、すぐにも大成しそうな〝注目株〟と評されています。
本作では 脇役・端役の扱いが 非常に充実していて( エイリシュが 初渡米時の船内で知り合う 世慣れた or かなり悪ズレもした女性や、エイリシュが NYへ戻る船内で言葉を少し交わすウブな娘に至るまで )、それが 物語に 真実味と時代性、さらに普遍性をも与えている点が素晴らしい。
中でも特に良かったのは、トニーを演ずる エモリー・コーエン( ’90年生まれ )の、少しも悪びれない 純朴さ・率直さ・誠実さ、かつ情熱的でもある性格描写。本作で観る限り、スター性は 充分とまでは 感じませんでしたが、その演技には 眼を見張らせる繊細さと的確さがあり、待機作リストを見ても前途有望……。それは ともかく、このトニーという若者、特に 未婚の読者の皆さんには、しっかりと観察するだけの価値があります。

以下、印象に残った場面や台詞。
1) アイルランドの 暗い夜の街並み、及び 明るい砂丘の場面。
2) 意地悪を絵に描いたような 食品 & 雑貨店の 女主人の、不快な言動の全て。
3)「 あなたのためなら何でも買ってあげたい。でも、あなたが望む未来だけは 買ってあげられないの 」( 旅支度をするエイリシュに、妹思いの姉が言う台詞 )。
4) 当時の人気スター:ジュディ・ガーランド風のヘアメークをした ナンシー( エイリシュの親友 )のルックス。
5)「 派手にすると娼婦かと思われる。あなたの場合は大丈夫ね。口紅とマスカラをつけなさい。アイライナーも少し……。歯は磨いておくのよ。咳は 絶対に しないでね( 隔離される恐れがあるため )。まっすぐに立ち、毅然とするコト。愛想は 良すぎても、不愛想でもダメよ 」( NYでの入国審査を前に、船内で知り合った世慣れた女性が、エイリシュに キメ細かく教える台詞 )。
6) ブルックリンの下宿先で 一緒に暮らすコトになる アバズレ風、30代なかばぐらいの先輩たちの言動。アバズレ風とはいえ、根は優しい善良な女性たち( ダンスパーティの会場では エイリシュを それとなく見守ったり、下宿先では スパゲティの食べかたを特訓したりもする )。 及び、下宿屋の女主人の、生真面目でいて、どこか風変わりなキャラクター。
7) 高級デパートの売り場での、接客指導員とエイリシュの やりとり( エイリシュの接客スキルが向上していく様子を示す数場面 )。
8) Xmasの 教会での 無料給食の場面( ’30年代の〝ブレッドライン〟を想い出させもする )、及び ケルト語で唄われる しみじみとした哀歌。
9)「 ダンスは得意じゃないの 」「 ヒケツは 自分は上手だと 信じて踊るコト 」( 教会のダンスパーティ会場で 初めて出会った エイリシュとトニーの台詞。それに続いて、自己紹介し合う場面 )。
10) トニーが エイリシュを 自宅の夕食( スパゲティ! )に招く場面。トニーの両親と兄や弟の人間味、やりとりの妙。
11)「 黙ってられると怖くなる。考えとくと言って 」( アイルランドに戻りたがっているエイリシュに、トニーがポツリと言う台詞。トニーは 彼女と結婚したいと考えている )。
12)「 発つ前に結婚して。結婚してくれないと 気がヘンになりそう 」( トニーが エイリシュに懇願する台詞 )。
13) ふたりが初めて結ばれる場面。特に、トニーが望んでいたのは セックスの快楽ではなく、肉体的に結ばれるコト = 愛情の確信を得るコトだったと 観る者に伝わってくる瞬間。
アイルランドに戻った後の場面については、敢えて省略。皆さん自身の眼で 観届けてください。
監督は、’69年 アイルランド生まれの ジョン・クローリー。

P.S. このレヴューを書いた後、僕は 無理に お願いして、再度 試写を観せていたゞきました。結果的に、最初に観た時よりも、もっと素直に感動しました。これは、2度 観るべき 映画なのかも……。

 

©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

〝『 ローマの休日 』を書いた男〟は、
なぜ ハリウッドから 追放されたのか?

理不尽な弾圧と闘い抜いた脚本家の、
苦難と復活の軌跡を描く 感動の実話。

トランボ / ハリウッドに最も嫌われた男
アメリカ/124分
7.22 公開/配給:東北新社
trumbo-movie.jp

【STORY】 ソ連との冷戦下の1947年。共産主義者を弾圧する赤狩りの矛先がハリウッドに向けられ、脚本家の ダルトン・トランボが その標的にされた。自らの信念を貫き、下院非米活動委員会の公聴会で証言を拒んだトランボは、議会侮辱罪で投獄されてしまう。国家への反逆者のレッテルを貼られ、ハリウッドのブラックリストに載せられた かつての人気脚本家は、1950年に投獄され、翌年に出所した後も 公に活動できなくなった。しかし 愛する妻や子供たちの支えを得て奮起したトランボは、いくつもの偽名を使い 脚本を書き続け、不屈の闘いを繰り広げていくのだった。( プレスブックより。一部省略 )

〝赤狩り〟の話が 物語の軸になっているため「 重苦しい映画かも 」と覚悟の上で観ましたが、そんなコトは ありませんでした。
映画の最初のほうで、まだ幼い長女のニコラが「 パパは コミュニスト( 共産主義者 )なの? 」とトランボに聞くシーンがあります。
「 ママも コミュニスト? 」
「 違うよ 」
「 じゃ 私は? 」
「 どうかな。テストしてみよう。君の好きな お弁当は? 」
「 ハム & チーズ サンド 」
「 それを学校に持って行った日、お弁当のない子がいたら、どうする? 」
「 分けてあげる 」
「 働きに行けとは 言わないのかい? 」
「 言わない 」
「 利息 6%で お金を貸すとかは? 」
「 パパ…… 」
「 知らんぷりは しないんだね? 」
「 しない 」
「 おやおや。君は ちびっ子コミュニストだな 」。
ニコラは そこで 一応 納得して 微笑するのですが、皆さんも それだけ分かれば、敢えて難しく考える必要は 全くないと思います。

それ以上に 本作の重要な軸となっているのは、理不尽な弾圧を受けたトランボが 妻の支えと子供たちへの愛に奮起し、苦境を乗り越えて行く姿……。出所後も干されたまゝのトランボの、格安ギャラで脚本を書きまくる根性とエネルギーには感動させられますが、一時的とはいえ、揺らいだ家族の絆を繋ぎ止めようと努力する 妻 クレオの 気質・信念・言動にも、敬服・脱帽させられました( 冷静な態度で、夫にケンカを売るシーンが 特に印象的 )。
さらに、勇気あるスター俳優:カーク・ダグラスと 一流監督:オットー・プレミンジャーが、トランボの脚本を〝実名〟で使おうとする辺りから 復帰への道が開け、ついには 米国脚本家組合のローレル賞を受けるに至るという展開。その間に、トランボの作品に対する ケネディ大統領の肯定的発言( 「 いゝ映画だね。きっと大ヒットする 」 )の TV 中継場面と、ヘッダ・ホッパー女史( トランボのキャリアの息の根を止めようと、執拗に動き続けていた 有名な 美人 映画コラムニスト )の 敗北感を味わう姿が 映し出されます。ラストのローレル賞授賞式でのスピーチと、エンドロールに用意された 実物のトランボのインタビュー映像( ニコラへの愛に満ち溢れている )も見逃せません。

本作は 美的.com読者全員にオススメとまでは言えませんが、特に 30代後半以上の大人の皆さんには、クレオの芯の強さと豊かな包容力に 学ぶべき点が 多々あります。
トランボ役の ブライアン・クランストンと共に、クレオ役の ダイアン・レイン、少女時代のニコラを演じた子役、成長したニコラ役の エル・ファニングが 揃って 適役・好演。
H・ホッパー役の ヘレン・ミレンは、今回も好演していますが、柄として 華やかさ不足で、適役とは言い難い。
脇役で とても良かったのは、B 級 映画会社の ボス役の ジョン・グッドマン。トランボを使わないようにと勧告に訪れた組合長(?)を、バットを振り回して退散させる場面など、胸の すく思いがしました。机の上の置物から ドアの窓ガラスまでを粉々に叩き割り、殴らなかったのは 組合長の頭だけという迫力で、凄く気持ちが良かったです(笑)。
もうひとつ。当時の記録映像と 新たに撮影された映像の組み合わせが 実に巧みで、トーンに違和感が全くないという職人芸には、本当に驚かされました。そのために、映画の真実味が 一層 増しているのです。
監督は、ジェイ・ローチ。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾 http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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