大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.2.2

大高博幸の美的.com通信(326)『不屈の男』『キャロル』『ジプシーのとき』『ライチ☆光クラブ』 試写室便り Vol.108

(c)2014 UNIVERSAL STUDIOS
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47日間の漂流、
そして 2年間の収容所での生活を
不屈の精神で生き抜いた、
一人のオリンピック選手の感動の実話。

この精神(こころ)は、絶対に折れない。

不屈の男 アンブロークン
アメリカ/137分/PG12
2.6 公開
unbroken-movie.com

【STORY】 1936年の ベルリン・オリンピック 5000mで 驚異的なタイムを たたき出した ルイ・ザンペリーニ。イタリア移民の子として育った彼は、第二次世界大戦で空軍爆撃手となる。ザンペリーニを乗せた爆撃機が海に不時着。彼は 47日間の漂流の末、日本軍に見つかり 捕虜として東京の大森収容所に送られてしまう。かつて、1940年に予定されていた東京オリンピックへの出場を望んでいたザンペリーニにとって、皮肉な かたちでの東京行きであった。収容所では、彼に対して病的な執着を見せる ワタナベ伍長による執拗な虐待を受けるが、ザンペリーニは不屈の精神で耐え抜き、終戦によって遂に解放されるのだった。(プレスブックより)

ザンペリーニに対する渡辺伍長の虐待場面が反日的だと問題視され、日本では公開が危ぶまれた曰く付きの作品です。
原作は ローラ・ヒレンブランドのベストセラー実話小説。監督は アンジェリーナ・ジョリー(監督第2作)。
主演は『名もなき塀の中の王』『ベルファスト 71』で注目され、「GQメン・オブ・ザ・イヤー 2015」にも選ばれた ジャック・オコンネル。渡辺役は、映画初出演のミュージシャン MIYAVIが演じています。

雪雲上の爆撃機の群れ…。細かいカットの連続で ザンペリーニらのチークワークが示されるスリリングな導入部は、シナリオ・コンテ・演技・撮影・音響効果・編集の全てが完璧で、迫力満点。
飛行中のシーンをはじめ 折に触れて回想シーンが挟み込まれ、特に弟思いの兄ピートの励ましが ザンペリーニを〝不屈の男〟に育て上げたというエピソードが、物語全体に説得力を与えています。

特に印象に残った場面や台詞は…、
① 空中シーン、漂流シーン、及び その間に映し出される回想シーンで、ザンペリーニに兄が言い聞かせる台詞の数々。
「耐え抜けば やれる。自分を信じるんだ。信じろ、ルイ!」。
「何もかも苦しみは一瞬だ。それが栄光を生むんだぞ」。
「自分から くじけるな」。
② 大森収容所にザンペリーニらが到着する場面。収容所のすぐ前では、お百姓さんたちが黙々と畑仕事をしている。
③ ラジオ・トーキョーの場面。日本軍の要請を受けたザンペリーニは、アメリカの家族に電波を通じて 自分の生存を伝える。その直後、彼は放送局の食堂で、プロパガンダのための放送に協力するようにと説得されるが、それを拒否して収容所へ戻される。
④ B29の空襲による大森収容所の火事の場面。それに次ぐ、神社の鳥居をくゞって 捕虜たちが移動して行く場面。大森から列車に乗り、雪深い新潟の直江津収容所へ到着する。
⑤ 足を怪我したザンペリーニが、渡辺に命じられて 重い材木を頭上高く揚げる場面。仲間たちは静かに声援を送り、渡辺は徹底的な挫折感に打ちのめされる。
⑥ 停戦となり、保倉川で体を洗う捕虜たちに向けて、味方機が物資を投下する場面。
⑦ ザンペリーニが帰郷を果たす空港の場面。彼は 出迎えた兄と、力一杯 抱き合う。
⑧ ラストに挿入される長野オリンピック時の実写映像。80歳のザンペリーニが聖火ランナーとして走る姿、応援する沿道の人々の姿。全てを肯定しているザンペリーニの、驚異的・感動的に美しい 晴れ晴れとした笑顔。

J・オコンネル(1990年生まれ。本作の撮影時、23歳)は、清々しい若者の顔と 思慮深い大人の顔を併せ持っているところが魅力のひとつで、演技派俳優として大成への道を突き進んでいる印象。MIYAVIに関しては、果たして適役だったかどうかは不明。父親との確執や葛藤が渡辺を病的な男にしたという描写が やゝ稀薄だったとしても、伍長としては幼すぎた感があります。

CG技術は幾つものシーンに使われていますが、それと感じさせない点が立派。特に直江津の石炭工場が後方に見えるロングショットなど、CG技術が優れていなければ、あの雰囲気は醸成できなかったはず。
ひとつだけ物足りなく感じたのは、1936年のオリンピックの回想シーン。最後の一周は、基本的に 長回しで撮るべきだったのでは? そうすれば迫力が倍加したと思えるのです。

 

charol
(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

パトリシア・ハイスミス原作、
知られざるベストセラーの初映画化。
カンヌを熱狂させたトッド・へインズ監督作品!

あなたは すぐに 私の視線に気づいた――。

キャロル
アメリカ/118分/PG12
2.11 公開
CAROL-MOVIE.COM

【STORY】 1952年、ニューヨーク。高級百貨店でアルバイトをするテレーズは、クリスマスで賑わう売り場で、そのひとを見た。鮮やかな金髪。艶めいた赤い唇。真っ白な肌。ゆったりした毛皮のコート。そのひとも すぐにテレーズを見た。彼女の名はキャロル。このうえなく美しいそのひとにテレーズは憧れた。しかし、美しさに隠された本当の姿を知ったとき、憧れは思いもよらなかった感情へと変わってゆく……。(試写招待状より)

上記のストーリー紹介文に 1種のミステリー or サスペンス的な匂いを感じたコト、監督は『エデンより彼方に』(2002)の T・へインズ、主演は ケイト・ブランシェット(キャロル役)、この3つのポイントに惹かれて観た作品。原作は、映画化もされた「見知らぬ乗客」や「太陽がいっぱい」で知られる P・ハイスミスが、ある事情により クレア・モーガンという別名義で発表し、100万部を超えるベストセラーとなった伝説的な小説。

内容が予想外だったので 僕は かなり驚かされましたが、試写終了後、映画批評家の方々数人が 僕と同じ感想を口にしているのを耳にしました。
本作は ストーリーに関して、多少なりとも予備知識を持って観るべきなのかどうか、判断が難しい。持たずに観て感動する人もあれば、知っていれば観なかったという人も いるかもしれません。しかし、63年前の世間の一般的な感覚と比較しながら 現代と今後のそれを考えてみる上で、本作が観る価値の高い映画であるコトは確かです。たゞ へインズ監督作品としては、キャロルとテレーズの心理描写が どことなく弱く感じられたのは何故なのか…。その点、正直なところ、本質的に共通したテーマを持つ『エデンより彼方に』のほうが、より深く掘り下げられていた感じです。

C・ブランシェットは美しく、知的な目の表情が素晴らしい。しかし、驚いたり怒ったりする場面でも 表情筋を ほとんど動かさない演技は、少々変化に乏しい。彼女の場面で最も良かったのは、ある証拠が録音されたテープを前に、キャロルを被おうとする弁護士を遮って、彼女が潔く真実を認める部分でした。
テレーズ役の ルーニー・マーラは、その心理を表現しきっているのかどうか 僕は判断不可能ですが、カンヌ国際映画祭で栄えある主演女優賞を獲得しています。
実にうまいと感心させられたのは、キャロルの夫役の カイル・チャンドラー。登場場面も台詞も決して多くはない割に、役の立場と感情を 余すところなく表現していました。

最も印象に残った台詞は、テレーズに 恋人のリチャード(ジェイク・レイシー)が 言う ひとこと。
「(人が誰かに)なぜ惹かれるかは分からないが、惹かれるか惹かれないかが重要。それだけは確かだな」。
正に そのとうりであると同時に、これが本作のテーマに直結していると僕は感じました。

P.S. 1952年は、各社の 78回転の SP(スタンダードプレイ)レコード、コロムビアの 33 1/3回転の LP(ロングプレイ)レコード、ビクターの 45回転の EP(エクステンデッドプレイ)レコードが市場に混在していた時代。レコード店の場面や 3スピードプレイヤーが映し出される場面もあり、これは貴重。
また、テレーズが映画館の映写室内から覗いている映画は、ビリー・ワイルダー監督の傑作のひとつ『サンセット大通り』(’50)。なぜか グローリア・スワンソンの、余り目立たない場面が使われていました。

 

laichhikariclub
ⓒ2016「ライチ☆光クラブ」製作委員会

成長を否定した14歳の少年たちの愛憎と、
少女と機械の純愛を描いた残酷な物語。

少年たちは絶望の中で、理想の世界を夢みる。

ライチ☆光クラブ
日本/114分/R15+
2.13 公開
www.litch-movie.com

【STORY】 ここは螢光町。工場から出る黒い煙で光を失い、町にいる大人は疲弊しきっていた…。螢光中学に通う「光クラブ」の 9人の少年たちは、町の廃工場にある秘密基地に集い、機械(ロボット)を開発している。少年たちは大人のいない世界を夢み、最強の兵器を開発していたのだ。その機械は、ライチと名付けられ いよいよ起動を果たす。少年たちに命じられたライチは、光クラブに美しい希望をもたらす偶像として 少女・カノンを捕えてくるが…。(チラシより)

熱狂的な人気を誇る古屋兎丸の同名ロングセラーコミックの映画化。監督は『パズル』(’14)などの新進、内藤瑛亮。
大人のいない世界を理想とするカリスマのゼラ(古川雄輝)、謎めいた美少年 ジャイボ(間宮祥太朗)、セラの思想に反発を覚えるタミヤ(野村周平)らの愛憎と共に、カノン(中条あやみ)とライチの恋が展開する一種のダークファンタジー。「美こそ すべて」「究極の美」といった台詞が何度か出てきますが、それも異次元の世界。
本作は サイレント映画時代の大作『メトロポリス』や『巨人ゴーレム』、さらには ルイス・ブニュエルの前衛映画の影響を受けているようにも感じられましたが、僕が気に入ったのは、黒煙を吐く工場のロングショットと、夕陽に照らされた堤防の場面でした。

 

ジプシーのとき人々を魅了し続ける奇才、
エミール・クストリッツァ監督の特集上映
『ウンザ! ウンザ! クストリッツァ!』の中から、

ジプシーのとき
ユーゴスラヴィア/142分
1.23~2.12 3週間限定公開中
mermaidfilms.co.jp/unzaunza

【STORY】 ジプシーたちが居住するユーゴの とある村。祖母から不思議な魔法を授けられた少年ベルハンは、あくどいジプシーのアーメドに騙されて――。(試写招待状より)

新作を発表する度に 世界中の映画祭で賞を獲得してきた E・クストリッツァ監督の全6作品が、東京・恵比寿の YEBISU GARDEN CINEMAで特集上映されます。その中の『ジプシーのとき』(1989)は、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したクストリッツァの代表作のひとつ。
ヨーロッパを放浪するジプシーの日常生活を ベルハンの成長記として描いた本作は、ジプシーの言語〝ロマ語〟によって撮られた 最初の映画とも言われています。

僕は 同監督の『ライフ・イズ・ミラクル』(2004)を観た時にも感じたのですが、彼の映画は、① 描写が延々としていて、一体どこで どう終るのだろうと思わせるフシがある、② 家鴨・山羊・豚・七面鳥・ロバ・犬・猫などが続々と登場し、それなりに絶妙な演技を見せる、③ 何でもないような場面に於ても、構図と色彩設計に 独自の美学が宿っている等々が、共通点として挙げられます。
本作に限って言うと、大真面目にフザけているようなクレイジーな面白さと、社会悪のアンダートーンが同居している感じ…。そしてまた、人間は動物たちと似たようなモノなので、ラクに生きていけばいいじゃないかと言っているのかもという、妙な気持ちに  させられたりもして…。

最も印象に残ったのは、ベルハンと 彼を育てた祖母との会話の部分でした。
「人を信じないとバチが当たる。役立たずのクズになるよ。どうして人を信じないんだ」。
「自分もウソつきだから、他人も信じないんだ」。
「お前も以前は正直者だった。恥を知りなさい!」。

P.S. 『ウンザ・ウンザ』とは、ジプシー音楽・ロック・スカ・行進曲といった異なる要素を融合させた ミクスチャー・サウンドを意味するそうです。
なお、本特集上映作中の『アリゾナ・ドリーム』(1992、ベルリン国際映画祭 銀熊賞 受賞作)には、若き日の ジョニー・デップを筆頭に、ジェリー・ルイス、フェイ・ダナウェイ、ヴィンセント・ギャロ、ポーリーナ・ポリスコワらが出演しています。ファンの皆様は お見逃しなく!

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
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info@biteki.com
(個別回答はできかねますのでご了承ください。)  

ビューティ エキスパート 大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

 

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