大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.1.12

大高博幸の美的.com通信(323)『サウルの息子』 『ビューティー・インサイド』『千年医師物語』『ニューヨーク 眺めのいい部屋 売ります』『クリムゾン・ピーク』 試写室便り Vol.107

(C)2015 NEXT ENTERTAINMENT WORLD. All Rights Reserved.
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毎日 姿が変わる恋人を、
愛することが できますか?

映画史上 唯一無二の恋物語。

ビューティー・インサイド
韓国/127分
1.22 公開
gaga.ne.jp/beautyinside

【STORY】 家具デザイナーのウジンは 18歳のときから 目覚めると 心以外の 姿、性別、国籍等の全てが変わるようになってしまった。男、女、老人、子ども、外国人…。人に会う仕事ができないため、才能とインターネットを活かして活躍している。そんな彼のことを知っているのは 母と親友だけ。ある日、家具専門店で働く美しいイスに出会い、一目で恋に落ちてしまう。彼女に会いたい一心で、毎日 初めてきた客のように 店に通う。彼女に告白する〝見た目〟になる日を待って、ついにデートに誘い、ふたりはロマンティックな 3日間を過ごす。しかし、同じ姿でいるために 3日間 徹夜をしたウジンは、うっかり電車で寝てしまい 起きると全く別の顔に…。ウジンは イスに真実を話すことができるのか? イスは、毎日 姿が変わる ウジンの愛を 受け止めることができるのか? 特別な恋が 今はじまる! (チラシより。一部省略)

今まで 誰も観たコトがないはずの ファンタジック・ラヴストーリー。作り話ではあるものの 実は〝真実〟が散りばめられた内容で、誰かを真剣に愛した経験のある方なら、自分自身を観察しているような気持ちにさせられると思います。特に 感受性が豊かで素直で正直な皆さんには、ぜひ観てほしい一作です。

主役のウジンは 18歳の時から12年間、眠って目覚める度に 違う姿になっている自分と共に生きてきた…、心は本来のウジンのまゝで。観客は、画面に登場するだけでも 123人(写真だけの登場を含む)のウジンを観るコトに。ある日はイケメンの若者だったのに、翌日は冴えないオジサンになっていたり、イスのパートナーとしてパーティに出るという日に 疲れ切った顔のオバサンの姿で目覚めたりと、もうタイヘン。イスはイスで「毎日、男を変えている」などとウワサを立てられて困惑する破目に。

物語は、比較的テンポ良く 面白おかしく進みますが、ふたりが結婚を意識するようになってから後、やゝシリアスなトーンに変わります。ここから先の展開については 敢えて伏しますが、次のような台詞から 想像していたゞくと いいかも。
「お互いに同じ気持ちだと思っていたけど、もしかしたら〝すれ違いの愛〟だったのかもしれない」(ウジンのモノローグ)。
「今日の私は 昨日の私と同じだろうか? 毎日 同じ姿をしていても、違う心で揺れていた…。毎日 違う人間だったのは、私のほうだったのかも」(イスのモノローグ)。

以下、印象に残った場面や出演者たち。
1) 初めてデートを申し込んだ〝今日はイケメン〟のウジンが、やんわりとイスに断られる場面。ウジンは「待ってください、誘いかたを練習してきたんです、一緒に食事したくて」と くい下がる。その小さな勇気と健気さ。
2) 初デートの後、「眠らなければ同じ姿でいられる」と気づいたウジンは それを実行するが、電車内で ついウトウトしてしまう。ハッと目覚めて「しまった!」という顔をする〝今日は頭の薄いオジサン〟のウジンの行動(この場面でのウジン役、キム・サンホのうまさ。かわいそうなのに笑わせる)。
3) ウジンの母(エキゾチックな美人の ムン・スク)が、イスを気づかう会話の場面。エンドロール中の彼女の場面も必見。
4) イスの妹(すれっからしのように振るまっている イ・ミド、好演)が、苦悩するイスの胸中を察して「姉ちゃん!」と抱きついて号泣する場面。
5) ウジンの親友 サンペク(黒ブチ眼鏡の イ・ドンフィ)が、イスに向かって「嫌いだ」と言ったり 邪魔者扱いしたりする数場面。また〝今日は美人〟のウジン(パク・シネ)に「1回ヤラせて」と しつこく迫る場面。受け取りかたによっては 相当に意味深。
6) パーティの場に 少し遅れて やってくる〝今日は好青年〟のウジン役、イ・ジヌク(『怪しい彼女』(通信(232))で音楽プロデューサー役を好演)のハンサム振り。歯が非常にキレイであるコトに気づかされます。
7) ラストのチェコのシークエンス(ユ・ヨンソク演ずる〝今日のウジン〟と イスのやりとりに感涙)。

本作が長篇デビューとなるペク監督は、記者会見で次のように語っています。
「恋が始まるのは外見からと考えていたし、それを皮肉的に表現してみたくもあった。だが、それよりも 時間が経つにつれ、愛に対する見方が 外見から内面へと少しずつ変わっていくこと、そして 映画の題名どおり 愛の内面を確かめられる、そんなストーリーを語りたかった。私は〝イス〟と〝ウジン〟の愛を応援する」。

肝心のイスについてが 後まわしになりました。
演ずるのは、現代的な魅力とクラシカルな雰囲気とを併せもつ ハン・ヒョジュ(’87年生まれ。TVドラマ「華麗なる遺産」「トンイ」、映画『ただ君だけ』『王になった男』(通信(136))『セシボン』等に出演)。演技力が高い上に、容姿も肌も美しい。特に 肌の抜けるような透明感とキメの細かさは見惚れるほどで、ツヤありのブルーのベースが 薄いファンデーションの下に使われている感じです。

P.S. ウジンとイスの最も好きな曲として、スタンダードナンバー「アマポーラ」が何度か画面に流れます。この曲は 僕も子供の頃から大好きですが、本作では それが最高に美しく、効果的に使われていました。

 

ⓒ2014 Life Itself, LLC ALL Rights Reserved
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眺めのいいアトリエと、
屋上の菜園もある住み慣れた我が家。
ただ一つの欠点は エレベーターがないこと。

超ロングセラー小説、遂に映画化!!

ニューヨーク 眺めのいい部屋 売ります
アメリカ/92分
1.30 公開
www.nagamenoiiheya.net

【STORY】 希望と才能溢れる若き画家アレックスは、愛妻ルースを お姫様だっこして新居へと足を進める。そこは ブルックリンを一望できる 美しい眺めを持つアパートメントの最上階。しかし、時が経つのは早く、40年が経過した。住み心地の良い 理想的な その部屋の唯一の欠点は エレベーターが無いこと、5階までの昇り降りが ちょっと厄介。歳を重ねていく今後の夫を心配したルースは アレックスを説き伏せて、今の部屋を売って 新居を探すことにするのだが…。(プレスブックより)

モーガン・フリーマン(アレックス役) & ダイアン・キートン(ルース役)の初共演作。原作は、LAタイムズから「ほとんど完璧な小説」と評されたロングセラー。監督は『リチャード三世』(’95)の リチャード・ロンクレイン。
神経をスリ減らしてのアパート売却騒動が、主演のふたり + シンシア・ニクソン(『セックス・アンド・シティ』でミランダを演じた女優)の手慣れた演技によって繰りひろげられます。途中で何となく結末の想像がつきはするものの、この騒動には付き合わざるを得なくなる面白さと、D・キートン主演作ならではの ニューヨーカー的スマートさが魅力の一篇。
黒人と白人との結婚が 30の州で禁止され、20の州で嫌悪されていた時代に夫婦となり、自由に楽しく生きてきたアレックスとルース。彼らの愛の歴史は、幾つかの回想シーンで巧みに描写されています(偏見の眼で見られるというシーンもありますが、ふたりは決して悪びれません。また、若き日のルースを演ずる クレア・ヴァン・ダー・ブームの 美しさとユーモアのセンスが素晴らしい)。

特に印象に残った場面は……、
1) ふたりの愛犬ドロシーが急病になり、マンハッタンの病院へとタクシーで向かう場面。テロ騒ぎが起きて 渋滞に巻き込まれる夫婦とドロシー。
2) ドロシーがCT検査を受ける場面。ドロシーの神妙な様子と、夫婦と医師とのやりとりの現実味。
3) ラジオ・シティ・ミュージック・ホール近くのスタンドで、ふたりが新聞を買って読む場面(カメラをパンさせての撮影が見事)。
4) アパートの内覧会の場で、何度も会うコトになる女の子とアレックスとのやりとり。女の子の台詞のうまさと、アレックスの表情の 柔和さ・優しさ。
5) C・ニクソンが怒りまくる、彼女の最後の登場々面。常に全身をヒラヒラバタバタさせながら、うるさく しゃべりまくる彼女が、ここで可愛らしく見えてくる。

M・フリーマンは、この20年間ほど、ほとんど顔が変わっていない印象。D・キートンは『恋とスフレと娘とわたし』(’07)『映画と恋とウディ・アレン』(’11)での彼女と比べると、口元のシワと法令線、シーンによって目立つ 肌のくすみが気になりました。メークもマットすぎる感じ…。大勢のファンの方たちのために、もっとビューティに力を注いでください。

 

crimzonpeak深紅に染まる 山頂に そびえ立つ屋敷の、
恐ろしくも美しい秘密とは?

ギレルモ・デル・トロ監督 最新作。

クリムゾン・ピーク
アメリカ/119分/P15+
1.8より公開中
CRIMSONPEAK.JP

【STORY】 イーディスは、幽霊を見ることができる。初めて見たのは 10歳、死んだ母親だった…。
やがてイーディスはトーマスと恋に落ちる。彼女の父親の不可解な死をきっかけに 二人は結婚、トーマスの姉ルシールと一緒に屋敷で暮らすことに。冬になると地表に露出した赤粘土が雪を赤く染めることから、「クリムゾン・ピーク」と名付けられた山頂にある 広大な屋敷。
イーディスが新たな生活に慣れるにつれ、深紅の亡霊たちが姿を現し、彼女に警告する。「クリムゾン・ピークに気をつけろ。」
果たして、その言葉の意味とは? そして、この屋敷に隠された 秘密とは? (チラシより)

傑作『パンズ・ラビリンス』(’06)の G・デル・トロ監督が、ゴシック調のロマンスと薄気味の悪いダークファンタジーとを融合させた レジェンダリーなゴーストムーヴィー。
主演は ミア・ワシコウスカ(イーディス役)、ジェシカ・チャステイン(ルシール役)、トム・ヒドルストン(トーマス役)。加えて『パシフィック・リム』(’13)の チャーリー・ハナム(イーディスと幼なじみの青年医師役)というキャスティング。
舞台は 前半が 20世紀初頭のニューヨーク州で、中盤から イギリスの辺鄙な丘陵地帯に建つ 古びた屋敷へと移ります。
イーディスは 10歳の時に 母親をコレラで失いますが、その母親が幽霊となって現われるシーンを例外として、NYの場面は写実的。イーディスが クリムゾン・ピークに到着した後は、写実的であると同時に ホラーなタッチへと変調し、隠された秘密が何であるかと 興味津々の観客を 画面に引き込んでいきます。

この種の映画は 謎を追うドキドキ感が重要なので、後半の展開については何も知らずに観るほうが楽しめるはず。しかし、特に キッチンの場面…、暖炉の前で J・チャステイン演ずるルシールが、イーディスを咎める眼に 不可解な情念の炎を浮かべる一瞬…、その眼の表情だけは 決して見逃さずにいてください。

特筆に価するのは、トム・サンダースによる プロダクション・デザイン。僕としては NYの部分に愛着を感じましたが、ゴシック様式に関して「百科事典並みの知識を持つ」と言われている デル・トロ監督と共に、クリムゾン・ピークの屋敷のデザインには 細部まで こだわり抜いているコトが分かります。また、そのセットと主役たちの演技を、舐めるようにカメラが捉える撮影法(パンの多用)も独得でした。
たゞ、本作は『パンズ・ラビリンス』(ダークファンタジーと併行して、革命に身を投じる青年と 彼を支える姉との きょうだい愛が描かれていた)と共通項を備えているものの、質的には 相当 異なる作品です。むしろ、ハリウッド的なエンターテインメントとして観るほうが正解でしょう。

 

esnnenishimonogatari雄大なスリルとロマンをかき立て、
知的好奇心を刺激するベストセラー医学冒険小説の映画化、ついに実現!

死を敵と思うな。

千年医師物語 ペルシアの彼方へ
ドイツ/150分
1.16 公開
physician-movie.jp

【STORY】 11世紀のイングランド。炭鉱での重労働に従事する少年ロブが、母親の死という悲劇に見舞われた。弟と妹が親戚に引き取られ 独りぼっちになった彼は、旅回りの理容外科医のもとに身を寄せる。
やがて情熱的な若者に成長したロブは、あらゆる病気から人々の命を救うという理想を追い求め、ペルシアのイスファハンへの旅立ちを決意。しかし ドーバー海峡をフランスへ渡り、エジプトから陸路でイスファハンをめざす道程は苦難に満ちていた。砂漠の死地を超え、ついに 現地に たどり着いたロブは、世界最高の医師 イブン・シーナへの弟子入りを果たし、知識を吸収していく。恐るべき黒死病との闘いなど 幾多の試練を経験し、さらなる医学の謎を解明しようと勇み立ったロブは、師匠の教えに背いて 禁断の行為に手を染めてしまう…。(プレスブックより。一部省略)

中世ヨーロッパ版の大河ドラマを観るような、長篇・知的エンターテインメント。
ドイツ映画界が総力を挙げ、ヨーロッパの作品としては異例の製作費 3,600万ドルを投じて完成させたアドベンチャー大作(既に興行収入 50億円突破の大ヒットを記録)。原作は、史実とフィクションを融合させた ノア・ゴードンの ベストセラー・トリロジー小説。

虫垂炎(=盲腸炎。当時は〝死の病〟とされていた)で母親を失った少年ロブが、医学の道を志して奮闘し、それを成就するまでを描いた物語で、色彩と変化に富む 背景・文化と 幾つもの要素との絡みによって、最後まで興味をそゝります。
冒頭の英国の場面には「レ・ミゼラブル」や「オリヴァー・ツイスト」に共通するようなリアルさがあり、イスファハンの場面には「アラビアン・ナイト」風のファンタジックな雰囲気が漂っているコトも魅力のひとつ。しかし、盛り沢山のエピソードのためか、全体的な印象が やゝ散漫になってしまったという気もしなくはありませんが、一番ハラハラドキドキさせられたのは、STORY紹介部(上記)の後に続く展開でした。

僕が最も感動したのは、イブン・シーナ(実在した賢人)とロブの師弟関係を描いた部分。特に ロブの無鉄砲さを案じつゝも、その熱意を愛する師匠の言動には 胸に沁みるモノがあります。ついでに記すと、イブン・シーナ役の ベン・キングズレーの演技と佇いの深いオーラ、ロブ役の トム・ペイン(本作が映画初主演となるイギリスの新星、’82生まれ)の一途な若さと覇気に満ちた表情が、共に輝くばかりに美しい。

特に印象に残った場面は(物語の展開を「予め知りたくない」という方は、ここから先は読まないでください)…、
1) ドーバー海峡を臨む崖の上で、ロブが 父親代わりに育てゝくれた理容外科医(ステラン・スカルスガルド)と別れる場面(感傷を排した演出のうまさ)。ロブは 神に旅の無事を祈ると同時に、背教者となるコトを心から詫びる(彼はキリスト教徒だが、イスファハンではキリスト教徒の入国が禁じられているため)。
2) 砂漠の場面の色彩効果と、突然に襲ってくる砂嵐の描写。
3) 花火が上がるロングショットetc、イスファハンのセットの壮麗さ。
4) ペルシア王(オリヴィエ・マルティネス)への謁見の場面。イブン・シーナは 同伴するロブに「質問されたら 答えは短く、敬語で締めくゝれ」と忠告する。
5) 黒死病(ペスト)のシークエンス(特に その導入部)。
6) ロブと人妻レベッカ(エマ・リグビー)とのラヴシーン。
7) 虫垂炎で死にゆくゾロアスター教徒の老人が、麻酔を拒否して ロブに遺言を残す場面(その老人役の演技が絶妙。俳優名は残念ながら不明)。
8) 禁断の人体解剖に単独で手を染めたロブが、師匠と共に死刑を宣告される場面(その裁判は日本の時代劇の〝お白洲〟に似た場所で行われる)。
9) 師匠がロブに「(解剖した人体の中身は)どうだった?」と聞く場面。「何もかも医学書とは違っていました」と答えるロブに「続けろ」と促す師匠。真摯に耳を傾けた後、師匠は「学ばせてもらった」とロブに礼を述べる(イブン・シーナには 宗教上等の問題で踏み出せない一線があった。観客は それを想い起こす必要あり)。
10) ロブに命を救われたペルシア王の台詞、「私は お前の記憶に どう残る? 友か、それとも暴君か」(「両方です」と答えたロブを、王は 護衛をつけて国外へ逃がす)。
11) 老いた理容外科医が、ひとりの少年から「ロブという優しいお医者さまがいる」と聞かされるラストシーン(僕は〝再会の瞬間〟を見届けたかった! ダサイかな?)。

 

サウルの息子
© 2015 Laokoon Filmgroup

1944年、
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。
同胞のユダヤ人をガス室へ送り込む任務に就く<ゾンダーコマンド>のサウルは、
息子の遺体を正しく埋葬しようと、
人間の尊厳をかけて 最後の力を振り絞る。

カンヌ映画祭 震撼!! 無名の新人監督、
グランプリデビューの衝撃作!

サウルの息子
ハンガリー/107分
1.23 公開
www.finefilms.co.jp/saul

【STORY】 1944年10月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。サウルは ハンガリー系のユダヤ人で、ゾンダーコマンドとして働いている。ゾンダーコマンドとは、ナチスが選抜した、同胞であるユダヤ人の屍体処理に従事する 特殊部隊のことである。ある日、サウルは、ガス室で生き残った 息子と おぼしき少年を発見する。少年は すぐさま殺されてしまうのだが、サウルは なんとか ラビ(ユダヤ教の聖職者)を捜し出し、ユダヤ教の教義に のっとって 手厚く埋葬してやろうと 収容所内を奔走する。そんな中、ゾンダーコマンド達の間では 収容所脱走計画が 秘密裏に進んでいた…。(試写招待状より)

近年 カンヌ国際映画祭では、有名監督が賞を分け合うという図式が 出来上がっている感がありますが、グランプリ(最高賞のパルムドールに次ぐ第2席)を受賞した本作は、無名の新人監督 ネメシュ・ラースロー(’77年、ハンガリー生まれ)の長篇第1作。この『サウルの息子』が上映されると 映画ジャーナリストたちの間に衝撃が広がり、大方の予想どうりに グランプリを獲得するという 異例の快挙を成し遂げました。

内容は「一人のユダヤ人の勇気と尊厳に関する、衝撃と感動の二日間の記録」(カーディアン紙評)で、カメラは 意図的に主役のサウルだけに焦点を合わせ、その背景や周囲をボカした状態で撮影しています。それだけに、強制収容所で起きている惨劇…、サウルを含むゾンダーコマンドたちが強いられている〝特殊な作業〟を、観る者は想像せざるを得なくなります。もしも全てに焦点が合わされていたら、直視できないであろう地獄図の連続…。しかし 僕は、クロード・ランズマン監督によるドキュメンタリー映画3作(通信(273))に収められていた数多くの証言が重なってきて、まるで その場に立ち合わされているような感覚を味わいました。

それでもなお、この映画は ホロコーストの非情な実態を通じて、強制的に人間性を奪われた ひとりの男が、自分の心の発する微かな声に耳を傾け、人間としての尊厳を最後まで貫き通そうとする姿…、人間の究極的な本質こそを描き出しているのです。

ホロコーストに強い関心を持つ方々は必見ですが、たとえて言えば、去年の暮(12月20日の夜)に NHK-TVで放送された『新・映像の世紀』で「ホロコーストに関する映像を初めて目にした」という皆さんにも、ぜひ観ていたゞきたい秀作です。

P.S. サウルを演じたのは ルーリグ・ゲーザ(’67年、ハンガリー生まれ)。’80年代の終りに2本のハンガリー映画で主演を務めた経験がありますが、現在は ニューヨーク・ユダヤ教 神学院で教鞭をとりながら 文筆活動を続けているとのコト。彼の演技は、演技を通り越して 真実そのものに感じられました。N・ラースロー監督と共に、彼の名前を 僕は憶えておきたいです。

 

 

【お詫びと訂正】
昨年12月15日配信の通信(319)試写室便り Vol.106『ヴィオレット――ある作家の肖像――』の項に、間違った情報が一点あり、お詫びして訂正させていたゞきます。
登場人物のひとりである ジャック・ゲランに関してですが、プレスブックに記載されていた 香水・化粧品会社『ゲラン』の ジャック・ゲランとは 別の人物であるコトに、配給側が 12月上旬頃、劇場用パンフレットの制作中に気づいたとのコト…。この映画に登場する ジャック・ゲランは 香水会社『パルファン・ドルセー』の経営者(当時)であり、『シャリマー』等の香水を創作した『ゲラン』の ジャック・ゲランとは 同姓同名(フランス語の綴り違い)の 異なる人物だったそうです。
この旨、12月18日に宣伝担当者様から お詫びと訂正の連絡を頂戴しました。大高が 通信(319)の原稿を書き終えた後での 先方の〝気づき〟であった等のタイムラグのため、今回、このような事態が発生してしまいました。
プレスブックに 間違った記載があったコトを 御連絡くださった宣伝担当者様の誠意に感謝すると共に、読者の皆様には 間違いに基づくコメントの配信を、お詫びして訂正させていたゞきます。本当に申し訳ありませんでした。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
試写室便り等の感想や大高さんへのコメントもどうぞ!
info@biteki.com
(個別回答はできかねますのでご了承ください。)  

ビューティ エキスパート 大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

 

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