大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.8.16

【大高博幸さん連載 Vol.355】 『 アスファルト 』『 ティエリー・トグルドーの憂鬱 』『 イングリッド・バーグマン 』『 健さん 』 試写室便り 第121回

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© 2015 La Camera Deluxe – Maje Productions – Single Man Productions – Jack Stern Productions – Emotions Films UK – Movie Pictures – Film Factory

フランス、郊外の団地。不器用な 男女 6 人。
平凡で孤独な日常に、ふと訪れる
ちょっぴりビターな 〝 しあわせ 〟 。

愛は、突然 降ってくる。

アスファルト
フランス/100分
9.3 公開/配給 : ミモザフィルムズ
www.asphalte-film.com

【 STORY 】 フランス、郊外の とある団地。車椅子生活を送るハメになった中年男と 訳アリ気な夜勤の看護師。鍵っ子のティーンエイジャーと 落ちぶれた女優。不時着した NASA の宇宙飛行士と アルジェリア系移民の女性。寂れた団地を舞台に、孤独を抱えた 6 人の男女に 予期せぬ出逢いが訪れる――。 ( 試写招待状より )

イザベル・ユペール ( 落ちぶれた女優 ジャンヌ役 ) と ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ ( 訳アリ気な看護師役 ) の 一ファンである僕は、試写初日、猛暑の中を 渋谷の試写室へ。
ふたりは なんと、いつになくヤツレた、夢も希望もないといった顔つきで登場してきます。しかし、本作は 映画としての出来が とても良く、この数年間に観たフランス映画の中で「 ベスト・ワン 」と断言できるほど、僕は気に入りました。
比較的 単純なシーンの繰り返しが生む 穏やかなリズム、微笑を誘う自然で上品なユーモア、リアルでいて やゝシュール、ドライでいて 柔らかく詩的な雰囲気が 本作の身上。趣は異なるものの、アキ・カウリスマキ監督の佳作『 ル・アーヴルの靴磨き 』 ( 通信 96 ) を想い出させるタッチ、人間に対する肯定感に貫かれているところが素晴らしい。

本作に描かれているのは、同じ団地に住みながら 接触の機会など全くない、三組の男女の人間的交流……。見かけは薄汚いものの 純な眼をした中年男 ( 演ずるのは ギュスタヴ・ケルヴァン ) と、看護師との間に芽生える 風変わりな恋情。女優復帰への意欲と確信をジャンヌに与える、鍵っ子 シャルリ ( ジュール・ベンシェトリ ) の潜在的な演出の才能。心細さに おのゝく、迷子の天使 同然の 飛行士 ジョン ( マイケル・ピット ) に、アルジェリア系移民の マダム・ハミダ ( タサディツト・マンディ ) が示す 大らかな 母性的言動。それぞれが同時進行しながら、観る者の心を静かに揺する 淡い感情の波……、それが本作の命です。

物語は 一種の〝 グランド・ホテル形式 〟で展開しますが、編集を変えれば そのまゝ三部構成の〝 オムニバス映画 〟とも なり得る内容。僅かながら 接触を持つのは、団地の住人であるらしい 邪気のないゴロツキの二人組み ( 彼らは、鍵っ子とは 少くともハンドタッチを交わす仲であり、団地の屋上に不時着した飛行士と 最初に顔を合わせる人物 というだけの設定でありながら、なぜか とても興味深い ) 。他に、マダム・ハミダが 面会に赴く 服役中の息子 ( 大罪を犯す人物とは とても思えない スーパーナチュラルな性格 ) も登場しますが、彼らを含めた全員が 親しみを感じさせる フツーの人間であるところも、演出として 絶妙。
この映画、傑作と言いたい気分です。But、客観的に判断しても、類稀れな佳作であるコトだけは 間違いありません。僕は 映画館で もう一度、じっくりと味わいながら 観賞したいです。

監督 ( 脚本と原案も ) は、日本では ほゞ無名の サミュエル・ベンシェトリ ( 1973年 生まれ ) 。鍵っ子役の J・ベンシェトリ ( ’98年 生まれ。清潔で 個性的で 愛らしく、注目に価します ) は 監督の実の息子であり、かつての名優 ジャン・ルイ・トランティニヤンの孫とのコト。
P.S. I・ユペールと V・B・テデスキは、ラストに向かうに従って 生気と笑顔を取り戻します。ファンの皆様は、心配しながら、その変化のプロセスを見守ってあげてください。

 

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© 2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA.

ティエリー・トグルドー、51歳。
家族、妻と 障害をもつ息子。
現在、スーパーマーケットの監視員。

フランスで 100 万人が観た 大ヒット社会派ドラマ!

ティエリー・トグルドーの憂鬱
フランス/93分
8.27 公開/配給 : 熱帯美術館
measure-of-man.jp

【 STORY 】 ティエリーは エンジニア一筋で働いていた会社から 集団解雇された。当初は 裁判で闘おうとする仲間と息巻いていたが、あきらめて 職安に通うことになる。頑固な彼は、就職面接を受けても 上手く対応することができない。就職訓練の場でも、年の離れた若者から その堅さを容赦なく指摘され、面目をなくす。そんな彼の 唯一の救いは、妻と 身体障碍を抱えた息子の存在だ。家族といる時は、世間の厳しさを忘れることができる。ティエリーは ようやくスーパーの警備員の仕事に就くことができる。希望していた仕事ではないが、そんなことは言っていられない。しかし 彼は そこで、買い物客だけでなく、 同僚たちまで 不正をしていないかを監視し、発見した場合には 告発しなければ ならないことを知る。 ( 試写招待状より。一部省略 )

少くとも 先進国に於いては、誰もが 日々 体験・実感 or 見たり聞いたりしているはずの社会の矛盾……。本作は、現代社会を生き抜く難しさを、主人公の苦闘と葛藤を通して描いた、ドキュメンタリータッチの人間ドラマです。気晴らしに観るような映画では 全くないにも拘らず、フランス本国では ミニシアター作品として 異例の大ヒットを記録。さらに ティエリーを演じた ヴァンサン・ランドンは カンヌ国際映画祭と セザール賞の主演男優賞を W 受賞、監督の ステファヌ・ブリゼは カンヌ国際映画祭で エキュメニカル審査委員賞を受賞。観客と映画関係者の双方から支持され 高評価を得たコトが、本作の価値を証明しています。

息抜きのためのコメディリリーフなど 挟み込む余地もない シリアスな内容ですが、描写は 全体的に淡々としていて、押しつけがましさや重苦しさは 感じさせません。ティエリーの葛藤や憂鬱は 主に その眼に表れていて、ラストの彼の無言の行動には、他人事とは思えない 切なさ・やり切れなさがありました。

特に印象的だった場面は、
1) 職安での ティエリーと職員との やり取り。
2) ローン返済のために、所有していたトレーラーハウスを売りに出したティエリーが、買い手から 執拗に値引きを要求される場面。
3) ティエリーと家族との日常生活。
4) スーパーマーケット内の小部屋での、万引き客との やり取り。その 2 件のうち、ひとり暮らしで 親しい友人もいないと言う 年配の男性の 端正な顔と 上品とも言える態度が、映画に奥行きを与えているコト。及び ティエリーの 警備員としての 抑制された 一貫性。
5) 割引クーポン券を私物化していた ベテランのレジ係の自殺、及び 自分のポイントカードを 不正にスキャンしていた ベツのレジ係の開き直った態度。それに耐え切れなくなった ティエリーの決断。

この映画、決して僕の好みではないものの、多分 これから先、決して忘れられないだろうと思います。少なくとも 現代人にとって、真面目に観るべき 優秀作・問題作であるコトは確かです。

 

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©Mantaray Film AB. All rights reserved. Photo: Wesleyan Cinema Archives/©Mantaray Film AB. All rights reserved./©Mantaray Film AB. All rights reserved. Photo: The Harry Ransom Center, Austin

愛することを 怖れない。

彼女を輝かせたのは、賞でも名声でもなく、「 自分らしく生きる 」こと。

イングリッド・バーグマン / 愛に生きた女優
スウェーデン/114分
8.27 公開/配給 : 東北新社
www.ingridbergman.jp

【 INTRODUCTION 】 『 カサブランカ 』をはじめ、数々の代表作で知られる 大女優 イングリッド・バーグマン。7 度のアカデミー賞®ノミネート、3 度の受賞歴をもつ彼女は、ハリウッド黄金期のなかでも 才能と美貌において 傑出した存在だった。同時に、幼い子供がありながら 夫以外の男性と恋に落ち 妊娠した〝 事件 〟は、保守的だった 1950 年代にあって 一大スキャンダルとなり、非難を浴びた。それでも イングリッドは、毅然と愛に生き、演じることを愛し、生涯 現役を貫いた。
本作は 2015 年の 生誕 100 周年を記念し、娘で女優の イザベラ・ロッセリーニが スティーグ・ビョークマン監督に 制作を依頼し 実現。4 人の実子の協力のもと、膨大な ホームムービーや 日記、手紙、新たな取材などを取り入れて完成、同年のカンヌ国際映画祭で プレミア上映され、喝采を浴びた。 ( 試写招待状より。一部省略 )

初期の作品は 回顧上映やリバイバル公開で、後期の作品は リアルタイムで観て来た僕にとって、I・バーグマン ( 1915〜82 ) は 忘れ難い女優のひとり。このドキュメンタリー映画に関しては、 ’30 年代の撮影所風景や 四人の実子の姿が観られるというだけで 興味津々。しかし 実際に観て、それ以上に 彼女の 正直さ・一生懸命さ・毅然とした生き方に 感動を覚えました。特に、激しいバッシングを受けながらも、ロベルト・ロッセリーニ監督との愛に生きた 芯の強さに。
また、生来 内気な性格であったにも拘らず、父親 ( 写真家 ) の影響で、幼い頃から カメラの前に立つ・カメラを持つという行為を 愛情の象徴のように受け止めていたコトが、女優として 生涯 現役を貫く 原動力になっていたであろうコトを、今回、初めて知りました。「 子供時代が どうであったかが、その後の人生の多くを決定づける 」 という説 ( 日本の格言「 三つ児の魂 百まで 」と 多分、ほゞ同義 ) がありますが、これは バーグマンには 完璧に当てはまる話のようです。

数多くの映像の中で、特に印象に残ったのは……、
1) D・O・セルズニックによって スウェーデンからハリウッドに招かれたバーグマンの、カメラ テスト フィルム。「 ノー・メークアップ、ノー・リップ ルージュ 」と書き込まれたカチンコ、ライトを浴びた丸い頬の自然なハイライト、ほんの少しだけムラのある 素の血色の美しさ、第一子出産後とは信じられない あどけなさも浮かぶ 表情の魅力。
2) バーグマンと、英語の発音コーチとして 彼女に付いた ルース・ロバーツ ( 右上の写真、奥 ) との親交。
3) 前述のバッシング後、複数のインタビュアーに囲まれたバーグマンの、程良いユーモアをも感じさせる 堂々とした対応。
4) 二度目のアカデミー賞®主演女優賞 受賞の場で、不在のバーグマンに代わって オスカーを受け取る ケイリー・グラントのアピアランス ( 客席から壇上へ向かう際に 一瞬、何気なく 振り返って見せたりする 余裕のスター性 ) 。
5) 本作のためのインタビューに応じる バーグマンの長女、ピア・リンドストロームの 洗練されたエレガントな美しさ・驚くほど自然な若々しさ。

 

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(C)2016 Team “KEN SAN”

漫然と生きる男ではなく、
一生懸命な男を演じたい。

日本が生んだ稀代の映画俳優、高倉健の魂。

健さん
日本/95分
8.20 公開/配給 : レスペ
kensan-movie.com

【 INTRODUCTION 】 日本を代表する映画俳優・高倉健さんが逝去されて、早くも 1 年半が経ちました。映画の追悼上映や 旧交を深めた方々による回想が絶えることなく続き、改めて高倉健さんが残したものの偉大さを感じます。この度〝 健さん 〟の素顔に迫る、初の長編ドキュメンタリー映画が誕生しました。高倉健さんに ゆかりの深い人々の証言で綴られる本作。国内外総勢 20 人以上が語る 高倉健さんとの貴重な思い出から、役者・高倉健を超えた、人間・高倉健の〝 美学 〟に迫ります。監督は ニューヨークを拠点とし、写真家としても活躍する 日比遊一。( 試写招待状より。一部省略 )

稀代の映画俳優であり、〝 日本映画界の最後の大スター 〟でもある 高倉健 ( 1931 – 2014 ) 。その輝かしいキャリアと人生を紐解く ドキュメンタリー映画。
マイケル・ダグラス、マーティン・スコセッシ、ジョン・ウー、ポール・シュレイダー、ヤン・デ・ボン等の海外勢から、降旗康男、澤島 忠、山田洋次、梅宮辰夫、遠藤 努 ( 東映時代のスティルカメラマン ) 、西村泰治 ( 40年来の付き人 ) 、さらに 実の妹さんや 映画評論家の川本三郎氏らが、〝 健さん 〟にまつわる貴重な話を 興味深く聞かせてくれる一篇です。

個人的に 少々 物足りなく感じたのは、出演作からの抜粋場面や予告編、〝 健さん 〟を観ようと映画館へ集まる’60~70年代の ファンの熱気を捉えた記録映像が、期待した程には なかった or 全くなかったコト……。しかし スナップやスティル写真の捜入が巧みで、封切当時に観る機会を逸していた 〝 任侠モノ 〟 や『 網走番外地 』の両シリーズを「 これから 全部 観よう。観なければ 損 」と思わせるに充分すぎる内容でした。

以下、 〝 健さん 〟 の肉声、言葉の数々から。
1) 「 漫然と生きる男ではなく、一生懸命な男を 演じたい 」。
2) 「 映画との出会いは、人との出会いに似ている。 〝 こんなの、うまくいくかよ 〟 と最初は思っていても、いい映画に なることがある 」。
3) 「 言葉というものは、いくら しゃべっても、どんなに 大声を出しても、伝わらないものは 伝わらない。むしろ 言葉は、少ないほうが 伝わる と思ってます 」。
4) 「 何を したかではなく、何を なそうとしたか。最近、もうひとつ 気になるのは、何を したかではなく、何のために それをしたか ということです 」。

P.S 本作を観た後、一冊の文庫本『 高倉健インタヴューズ 』 ( 文・構成 野地秩嘉、小学館 発行、税抜 ¥650 ) を読みました。時々 カットとブローを お願いしている 美容師の 宇田川氏 ( 大の映画好き ) に「 ドキュメンタリーを観て、健さんを ますます 好きになった 」と話したところ、その翌週、なんと「 プレゼントです 」と 手渡してくださった本です。
それがまた、とても興味深く、ところどころ とても感動的でもあったので、僕としては 珍しいコトに、その日のうちに 完読……。〝 健さん 〟の心、野地氏の心が 伝わってくる 素晴らしい内容でした。〝 健さん 〟のファンはモチロン、全ての映画ファンに オススメの一冊です。小学館の本だから、では ありません。

 

 

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info@biteki.com
(個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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