大高博幸さんの 肌・心 塾
2017.11.21

『 希望のかなた 』『 プラハのモーツァルト 』『 永遠のジャンゴ 』 試写室便り 【 大高博幸さんの 肌・心塾 】 Vol.422

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© SPUTNIK OY, 2017

北欧の町、ヘルシンキ。
ちいさな善意が あつまって、
妹を捜すシリア難民の魂を救う。

社会への深い洞察に満ちた、
アキ・カウリスマキ監督の新境地。

希望のかなた
フィンランド/ 98 分
12.2 公開/配給:ユーロスペース
kibou-film.com

【 STORY 】 内戦が激化する 故郷 シリアから逃れた 青年 カーリドは、フィンランドの首都 ヘルシンキに流れつく。空爆で全てを失くした彼にとって、唯一の望みは 生き別れた妹を 見つけることだ。一方、しがないセールスマンのヴィクストロムは、酒びたりの妻と仕事から逃れ、レストランオーナーとして 人生を やり直そうとしていた。そんな 2 人が ヘルシンキの片隅で出会う時、彼らの人生に 新たな希望の光が さし始める…。( 試写招待状より。一部省略 )

『 ル・アーヴルの靴みがき 』( Vol.96 ) の名匠 アキ・カウリスマキの 6 年振りの長篇映画。ベルリン国際映画祭の銀熊賞 ( 最優秀監督賞 ) 、及び 国際批評家連盟賞の年間グランプリに輝いたヒューマンドラマです。

前作に引き続き EU に於ける難民問題を扱った内容で、カウリスマキ監督ならではの寓話的な語り口、卓越したコンティニュイティ、映像の視覚的なスタイル、簡潔な台詞、全篇にあふれるユーモア ( 多くは優しく温かく、ある時は皮肉たっぷり、ある時は非常に辛辣 ) 、さらに切れ味の良い完璧な編集により、カウリスマキ作品のファンを魅了するコトは絶対確実。

たゞし、全てが花開くかのように奇跡的なハッピーエンドを迎えた『 ル・アーヴルの靴みがき 』とは異なり、少々メランコリックで現実的、かつ相当ビターな深い余韻を観客に与える作品となっています。そのため、観終えた後、「 カーリドは 一体 どうなるのだろう 」と 誰もが後髪引かれる思いを味わうコトになるはずです ( なので、できれば気心の知れた誰かと一緒に観て、それについて話し合ってみるコトをオススメします。たとえ明確な結論には至らないとしても ) 。

ファーストシーンからラストシーンまで、ほとんど全ての場面が印象的ですが、面白い という意味で最高だったのは、ヴィクストロムが オーナーとなった 寂れる一方のレストランを 寿司屋に改造し、スタッフ一同が ハッピ姿で開店初日を迎えるシークエンス。不思議な空気感を漂わせながら 何度も爆笑を誘う演出は、カウリスマキ作品 独得の味、極上のソフィスティケーション。

また、ちょっとしたシーンでありながら忘れ難いのは、① 貨物船に もぐり込んでいたカーリドを 発見した 一船員が、彼を捕らえるどころか 食事を与え、匿い、助けようとする最初のほうの場面、② 収容施設に閉じ込められている カーリドを 脱走させるために、従業員の一女性が ひと芝居 打つ場面、③ 数名のネオナチに襲われているカーリドを、危機一髪、なぜか 突然 現われた障碍者のグループが、いとも簡単に救ってしまう場面…。我ながら小学生のような感想だとは思いますが、自分も ①②③の彼らと同じように日々を生きるべきだ、とにかく そうするしかない という考えに至りました。さらに、もしかしたら監督は、観客全員が「 カーリドは あの後、どうなってしまうのだろうか 」ではなく、「 自分が彼を助けなくては 」と考えるコトを願って、この映画を作ったのかも…と想像もしました。

カーリド役の シェルワン・ハジ ( ダブリン国際映画祭で最優秀男優賞を受賞 ) は、純朴で意志堅固、ひたむきで優しい役の性格を見事に好演。潔癖でいて寛容な心の持ち主 ヴィクストロム役の サカリ・クオスマネンも素晴らしく、カーリドとの間に生まれる人情味には 強烈なシンパシーを感じました。脇役も それなりに揃って好演していますが、中でもヴィクストロムの妻 ( カイヤ・パカリネン ) の性格設定が、極めて単純でありながら 驚くほど充実しています。

僕は 少くとも もう一度、じっくりと観たいと思っています。『 ル・アーヴル… 』の良さを憶えているという皆さんは、ぜひ ロードショー館に 足を運んでください。

 

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© 2017 ARCHES FILMS – CURIOSA FILMS – MOANA FILMS – PATHE PRODUCTION – FRANCE 2 CINEMA – AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA

〝 百塔の都 〟プラハで彼を待つのは、
愛か成功か、それとも陰謀か!?

モーツァルト生誕 260 年記念作。

プラハのモーツァルト
誘惑のマスカレード
イギリス、チェコ/ 103 分
12.2 公開/配給:熱帯美術館
Mozart-movie.jp

【 STORY 】 1787 年、プラハは オペラ『 フィガロの結婚 』の話題で持ちきりだった。上流階級の名士たちは、モーツァルトをプラハに招き 新曲を作曲させようと決める。その頃、モーツァルトは 三男を病で亡くし 失意のどん底にあり、陰鬱な記憶に満ちたウィーンを逃れるため、喜んでプラハにやってきた。友人の邸宅に逗留して『 フィガロの結婚 』のリハーサルと 新作オペラの作曲にいそしむモーツァルト。やがて彼は 若手オペラ歌手 スザンナと出会い、その美貌と才能に魅了される。スザンナも モーツァルトが妻帯者と知りながら、その天才ぶりに 惹き付けられずには いられなかった。急速に距離を縮める二人。しかし オペラのパトロンであり、猟色家との噂のある サロカ男爵も スザンナを狙っていた。三人のトライアングルは 愛と嫉妬と陰謀の渦に引き込まれてゆく――。( 試写招待状より。一部省略 )

『 アマデウス 』( 1984 ) 以来、久々に誕生した本格的なモーツァルト映画。プラハでの史実に着想を得て練り上げられたドラマで、中世の街並みが今も色濃く残るプラハ市内でロケーションを敢行、その美しさが余すところなく映像化されています。

物語としては、サロカ男爵の猟色家ぶりに比重が置かれ、陰謀の要素は やゝ希薄。そのため ドラマティックな展開を期待しすぎると、少々 物足りなさを感じるコトになるかも…。

興味深かったのは、モーツァルト役の アナイリン・バーナードと スザンナ役の モーフィッド・クラークのメイクアップ。前者は、下まぶたにまで濃く幅広く入れたシャドウが、マイケル・ジャクソン似の眼を 一層大きく際立たせています。後者は、素顔風メイクと舞台メイクとのコントラストが素晴らしく、特に入念に描かれたリップラインは 全ての場面で見とれるほど綺麗でした。ゴージャスな仮面舞踏会とオペラの舞台場面も見モノです。

監督は『 ジム・ヘンソンの不思議の国の物語 』( 2004 ) の ジョン・スティーブンソン。音楽を演奏するのは、プラハ市立フィルハーモニー管弦楽団。

 

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© 2017 ARCHES FILMS – CURIOSA FILMS – MOANA FILMS – PATHE PRODUCTION – FRANCE 2 CINEMA – AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA

暗く恐ろしい時代に、人々の心を灯したジプシーのスウィング。
ドイツ兵をも虜にした JAZZ のメロディーが、戦場の片隅で鳴り響く――。

永遠のジャンゴ
フランス/ 117 分
11.25 公開/配給:ブロードメディア・スタジオ
www.eien-django.com

【 STORY 】 1943 年、ナチス・ドイツ占領下のフランス。ジプシー出身のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトは、パリで最も華やかなミュージックホール、フォリー・ベルジェールに出演し、毎晩のように満員の観客を沸かせていた。まさに音楽界の頂点を極めるジャンゴだったが、一方で ナチスによるジプシーへの迫害は酷くなり、パリをはじめ 各地でジプシー狩りが起きていた。多くの同胞が虐殺され、家族や自身にも危険が迫り、絶望に打ちのめされるジャンゴだったが、そんな なか、彼に ナチス官僚が集う晩餐会での演奏が命じられる…。( 試写招待状より )

『 マイナー・スウィング 』など 数々の名曲を残し、多くのミュージシャンが「 最も影響を受けた〝 ギターの英雄 〟」と讃える ジャンゴ・ラインハルト。ヨーロッパ初の偉大なジャズ・ミュージシャンとしても知られる彼の、第二次世界大戦中の真実の物語。
監督は、『 チャップリンからの贈りもの 』( Vol.295 ) や『 大統領の料理人 』 ( Vol.171 ) の脚本を手掛けた エチエンヌ・コマール ( 監督第 1 作 ) 。主演は、ジャンゴ役に『 ゼロ・ダーク・サーティ 』( Vol.137 ) の レダ・カテブ、その恋人 ルイーズ役に『 少女ファニーと運命の旅 』( Vol.404 ) の セシル・ドゥ・フランス。

ジプシーの生活を描いた映画としては、3 年ほど前、非常に美しい モノクロ映像による 抒情的・挽歌的なドキュメンタリー ( 題名は想い出せません ) を観ましたが、本作は ジャンゴを中心に ナチス政権下で ユダヤ人と同様に迫害されるジプシーたちの姿を描いていて、興味深いモノがあります。

ジャンゴ役の R・カテブは、ミュージックホールの大スターというよりも、ひとりの人間としての性格描写に全力を注いでいる印象。とても驚かされたのは、ルイーズ役に起用された C・D・フランス。前作『 ファニーと運命の旅 』では ユダヤ人の少年少女をスイスへ逃がす先生役を演じていましたが、本作では ジャンゴを救うために、パトロンであるナチスの高官を利用し、裏切るという役を好演。当時流行の ファッション & ヘア & メイクが よく似合っていて、別人のような人物描写に成功しています。脇役では、ジャンゴの付き人を務める 気丈な老母役の ビンバン・メルスタイン、ジャンゴのマネージャー役の パトリック・ミル、ジャンゴの愛猿 ジョゴが印象的。
ラストの重要なシーンで演奏される幻しの曲「 レクイエム 」は、鳥肌が立つほど感動的でした。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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