ゲスト・松田美由紀さん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第1話「40歳。節目となる年齢」
40歳以降は生き方が顔に出るという。そして生き方にはセンスが出る。 私たち、どう生きたらいいですか? 40代からの人生が輝く"読むサプリ"。 記念すべき初回のゲストは、女優で写真家の松田美由紀さんです。 【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第1 回ゲスト・松田美由紀さん 】
生きる知恵を授けてくれた年上の女友だち
「おいで」。たった一言、だけど忘れられない優しい音色。
そう言いながら、私の腕の中にいた当時0歳の、てんとう虫の格好をした息子に腕を伸ばしたのが、白雪姫姿の松田美由紀さんだった。
それが、出会い。あれは、2010年。場所は、蜷川実花さん主催のハロウィンパーティで、当時の美由紀さんは49歳になったばかりだった。でも、そのことに気づいたのは、つい最近のこと。
「年上の女友達」という存在はいつだって自分より先を生きているわけだから、自分自身が年齢を重ね、過去を振り返ってみて初めて”あの時の彼女は、今の私と同じ40代だったんだ……!”と気づいてビックリする。
「時間」とは、あまりに不思議なもの。美由紀さんの言葉を借りれば、「手を伸ばしても掴めない雲のようなもの」。
だからこそ、「年齢」という便利な付箋がないと、今の自分が人生の中のどこを歩いているのかわからなくもなるし、過去を振り返る時も、また未来に目標をつくる時にも、年齢という数字は、掴みどころのない時空を捉えるための「点」になってくれる。
―――と、その利便性には感謝しつつも「40歳」というひとつの節目を前にビビったのは、他の誰でもないこの私……。これは去年の秋のこと。年齢に対して不安を覚えるこのイヤな感覚は、私にとっては生まれて初めてのものだった。
ちょうどその頃、松田美由紀さんからLINEが入った。
「リリィ! 遂に、還暦になるよ! シャンソンのライブをします!」
同じ秋生まれ。ピタリと20歳違い。
新たな挑戦をはじめた先輩の姿に、背筋が伸びる思いだった。
「40代からの人生」という未知なる領域に足を踏み入れたばかりで、まだまだ不安でいっぱいの私が、憧れの先輩方から「生きるセンス」を学んでいくというこの連載の一人目のゲストは松田美由紀さん以外考えられなかった。
今の私の歳の頃、どんな気持ちで40歳を迎えたか、という質問に美由紀さんは「ターニングポイント」という強いワードを口にした。
「近親者が亡くなると、その(亡くなった)年齢が自分のターニングポイントになるところがあると思うの。優作が亡くなったのがちょうど40歳の頃。当時私は28歳だったから、ずっと40歳を目標のように思って生きていたのね。そこまで、どうにか3人の子供たちをきちんと育てようって。
だから、40歳の誕生日の夜には一人で大泣きした。よくここまで頑張ってきたなって、自分を抱きしめたい気持ちでいっぱいだった。育児に一区切りがついた歳でもあるから。
二十歳からの貴重な20年間を育児に費やしたから、まだ感受性が若いうちに早く自分のクリエイティブを世に出したいと猛烈に焦っていた時期でもあったのね。
でも、本当の意味で初めて一人になったら、オロオロしちゃって。寂しかった」
うんうん、と深く頷きながら聞いた。そもそも、私と美由紀さんを一気に近づけた共通点は、母親としての自分とクリエイティブな自分の両立における大葛藤。初めての出会いから5年ほど経ったある夏の夕方、語り合っていた私たちは一緒に泣いて、その瞬間から私たちは友達になったように思う。
だから、美由紀さんの体験談はまるで、未来から降りてくる声のよう。私自身、下の娘が成人する時の自分の年齢=「50歳」を未来のターニングポイントに設定して今を生きているところがある。
節目となる年齢にこそ個人差が出る。だけど「節目のその後」を実際に経験済みの先輩の言葉は、やはり学びに満ちている。
そこから美由紀さんは、写真を学んだり脚本を書き始めたり、と女優業以外にもクリエイティブな仕事に邁進する。日々の育児から解放されたことで見た目も一気に若返ったそう(めちゃくちゃモテたらしい!)。
「40代は、人生の中で最も華やかな時期だった」
なるほど、と私は思う。独身時代と母になってからでは生活が180度変わったように、この先も育児を終えることによってまた人生に強烈なコントラストがついてゆく。生活の大変化が刺激となり、まるである種のドラッグのように脳がドーパミンを放出! メンタル含めたマインドの変化によって見た目まで一気に若返る=自分を取り戻すことによって一度は枯れていたオンナがまた返り咲く。これはある意味、最高のご褒美と思う。
「あ、リリィ。40歳になる時って、女性としても若さを失うことに一番不安になる頃だと思うけど、そこから先は年齢に対して特に何も思わなくなるよ。変わらないよ」。
美由紀さんの優しい声に、肩の力がスーッと抜けていく。
▶︎▶︎ つづく ▶︎▶︎
第2話「50代、更年期とネガティブ思考」
松田美由紀:女優、写真家。’61年生まれ。モデル活動を経て、スクリーンデビュー。近年は写真家、アートディレクター、シャンソン歌手としても活躍。環境問題や発展途上国の孤児たちへの支援、自殺防止問題や、エネルギーシフトなどにも積極的に取り組んでいる。
LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.とフロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。小説、エッセイなど著作多数。noteはこちら。
テキスト/LiLy 撮影/竹内裕二(BALLPARK)ヘア&メイク/三田あけ美(松田さん)、伊藤有香(LiLyさん) 構成/三井三奈子(本誌)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。