大高博幸さんの 肌・心 塾
2019.2.5

『 女王陛下のお気に入り 』『 ともしび 』『 ナポリの隣人 』『 500 年の航海 』試写室便り【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.487 】

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(C)2018 Twentieth Century Fox

17 人の子供に先立たれた孤独な女王と、
その寵愛を取り合う二人の女。
18 世紀、イングランドで起きた禁断の物語。

O・コールマン、R・ワイズ、E・ストーン 競演!

女王陛下のお気に入り
アイルランド・イギリス・アメリカ/ 120 分/ PG 12
2.15 公開/配給:20 世紀フォックス映画
joouheika.jp

【 STORY 】 18 世紀 初頭、フランスとの戦争の最中にあるイングランド。アン王女 ( オリヴィア・コールマン ) が王位にあり、彼女の幼馴染、レディ・サラ ( レイチェル・ワイズ ) が 病身で気まぐれな女王を動かし、絶大な権力を振るっていた。そんな中、没落したサラの従妹 アビゲイル ( エマ・ストーン ) が 召使いとして参内し、その魅力が周囲を引きつける。レディ・サラがアビゲイルを支配下に置く一方で、アビゲイルは秘かに 再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていた。戦争をめぐる政治的駆け引きが続く中、急速に育まれるサラとの友情が アビゲイルにチャンスをもたらすが、その行く手には数々の試練が待ち受けていた…。( 試写招待状より )

英国インディペンデント映画賞での 10 部門受賞 ( 新記録 ) を皮切りに、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞 ( 作品に与えられる審査員大賞 ) と女優賞 ( O・コールマン ) を W 受賞。1 月 22 日時点で既に世界の映画祭で 91 の受賞を果たし、第 91 回 アカデミー賞®では 最多タイ 10 部門にノミネートされるなど、賞レースに「 女王陛下が君臨 」という様相を呈しているトップランナー。なにしろ、主演の三女優は 揃ってオスカーの所持者、監督の ヨルゴス・ランティモスは カンヌ国際映画祭で三つの賞を獲得したキャリアの持ち主であり、本作は 絶大な観客動員力を有する 一大エンターテインメントとなっています。

本作で最も面白かったのは、王国を揺るがし 歴史すらをも変えたと言える 主役三人の駆け引き、手練手管。それが真剣勝負でいて、時に滑稽味を感じさせるところでした。
性格的には、アン王女には 多少 鈍感に見えなくもない要素があって、情なさを感じさせると同時に かなり気の毒。レディ・サラは 聡明かつクールに見えて、実は 感情的 かつ短絡的な面を持っている。最も野心的で、平然と あくどい行動に出るのはアビゲイルで、サラにとっては「 有益な友も、危険な敵となりうる 」という格言を 絵に描いたような存在へと変身して行きます。
また、ニコラス・ホルト ( 通信 29175 ) 演ずる議会党員 ハーリーの、白塗りの肌・赤い口紅と頬紅・つけぼくろ + 大袈裟なウィッグというメイクアップは、無声映画『 嵐の孤児 』( 1921 年、D・W・グリフィス監督作品。フランス革命の時代を背景とした超大作 ) で、若く清廉な美貌のフランス貴族に扮した ジョセフ・シルドクラウトと、ほゞ双璧でした ( 正確に言えば、負けている ) 。

10 章ほどに区切られた構成も功を奏して、物語の展開はキレが良くスマート。撮影は 英国のハートフォードシャーに現存する、1611 年に建造されたジャコビアン様式の宮殿でロケーションを敢行。広角レンズや 360 度の ウィップ・パン ( 画面が 一瞬 ボケるほどのスピードで、カメラを水平・垂直移動させる撮影技法 ) 等を駆使し、美しくリアルに映像化しています。

映倫指定 PG 12 は、ストーリーの軸とは 直接的に関係のない ( or 乏しい ) 部分を含めて、確か 6 回ほど映し出されるセックスシーン ( 激しくはありません ) があるためでしょう。
個人的に、いまひとつ 物足りなく感じたのは ラストシーン、その まとめかた。
余談ですが、大変 驚かされたのは、プレス資料の登場人物 相関図の中に、ウィンストン・チャーチルとダイアナ妃は、レディ・サラ ( サラ・チャーチル ) の「 子孫 」に当たるという記載があったコト。歴史物って、そんな話を知ると、ますます 面白くなってきますね。( 1.23 記 )

 

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2017 © Partner Media Investment – Left Field Ventures – Good Fortune Films

ひとりの女性が、もう一度〝 生きなおし 〟を図るまでの、哀しみと決意を追う人生最後のドラマ。

シャーロット・ランプリング 渾身の感動作!

ともしび
フランス、イタリア、ベルギー/ 93 分
2.2 より公開中/配給:彩プロ
tomoshibi.ayapro.ne.jp

【 STORY 】 ベルギーの ある小さな都市。アンナと その夫は、慎ましやかに過ごしていたが、夫が犯した ある罪により、その生活は わずかに歯車が狂い始める。やがて それは 見て見ぬふりが出来ないほどに、大きな狂いを生じていくのだった…。
「 わたしは あの時、いったい何を失ったのだろう 」――。
老年に さしかかったアンナに いったい なにが起きたのか? 人は 一度 犯してしまった罪は、二度と許されないのか? そもそも 彼女は 自分の人生を生きていたのか? そして、決して 明らかにしてはならぬ〝 家族の秘密 〟とは? ( プレス資料より )

『 地獄に堕ちた勇者ども 』( ’69 )『 愛の嵐 』( ’73 )『 まぼろし 』( ’02 )『 さざなみ 』( Vol.333 ) 『 ベロニカとの記憶 』( Vol.431 ) etc、長いキャリアを持つ シャーロット・ランプリング ( ’46 年生まれ ) の最新主演作 ( 本作で、ヴェネチア国際映画祭 主演女優賞を受賞 ) 。彼女が演ずるアンナの夫役は、『 ル・アーブルの靴みがき 』( 通信 96 ) での好演が忘れがたい アンドレ・ウィルム。監督 ( 脚本も ) は、本作が 長編第 2 作となる アンドレア・パラオロ ( ’82 年、イタリア生まれ ) 。

アンナの何気ない日常を 至極 淡々と追っていく、ドキュメンタリーのような作品。長回しのシーンが多く、ほとんど何も起こらない展開の中に、ミステリーの雰囲気が潜んでいます。
しかし、夫の罪が 何なのか、〝 家族の秘密 〟が 何なのかについては、さほど重要ではないようで、① 居留守を使うアンナに、ドアの外で叫ぶ「 シモンの母親です、開けてください! 恥を知らないんですか! 」という声が聞こえるシーンと、② 大きな家具の裏側から〝 秘密 〟らしき写真の入った封筒が出てくるシーンとに、ほのめかしがある程度。それだけで およその見当は つくというものですが、それよりも肝心なのは アンナの心理、砂を噛むような虚しさと孤独感……。ラスト間際、地下鉄に飛び込んで 自殺するのかと想わせた一瞬の後、それが 立ち直り =〝 生きなおし 〟に転じて、エンドクレジットが 映し出されます。

C・ランプリングは、一部のシーンでの微笑を除いて、ほゞ無表情 ( たゞし、駅のトイレで号泣するという珍しいシーンがある ) 。演出は、意図的に説明を避けた作り。それでいて研ぎ澄まされたタッチが、観る者を惹きつける一篇です。
原題は『 HANNA 』( 主人公の名前 ) 。日本公開題名は『 まぼろし 』『 さざなみ 』を意識して付けられたようですが、僕に言わせると、いまひとつ、しっくり こない……。

 

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(c) 2016 Pepito Produzioni

分かり合えない父と娘。
中庭を隔てた 向かいの一家に起きた事件――。

現代の家族のかたちを力強い筆致で描く、
イタリア映画の新たな名作。

ナポリの隣人
イタリア/ 108 分
2.9 公開/配給:ザジフィルムズ
www.zaziefilms.com/napoli/

【 STORY 】 南イタリア、ナポリ。リタイアし、かつて家族と暮らしたアパートに 今は独り暮らす元弁護士のロレンツォ。母の死の原因が 父の浮気によるものだと信じ、父を許せないでいる娘のエレナは、アラビア語の法廷通訳で生計を立てるシングルマザーだ。家の向かいに越してきた若い夫婦と幼い子供二人の一家と親しくなったロレンツォは、実の家族とでは得られなかった平穏な日々を送る。しかし その生活は、突然 悲劇的な出来事で幕を閉じることになる…。その時 ロレンツォは? 実の娘 エレナは? ( 試写招待状より )

父と娘の確執の物語。〝 家族主義の国 イタリア 〟〝 人情溢れる下町 ナポリ 〟という昔からのイメージを覆し、分かり合えずに擦れ違う家族の心情を冷静に描写して、〝 21 世紀のネオリアリズモ 〟という印象を強く感じさせる映画です。

監督 ( 脚本も ) は、障碍を持つ息子と 15 年振りに対峙する父親を主人公とした『 家の鍵 』( ’04 ) や、アルベーユ・カミュの自伝的遺作を映画化した『 最初の人間 』( ’11 ) 等で、人と人との繋がりを描いてきた 名匠 ジャンニ・アメリオ。

本作では、ロレンツォとエレナの場面以上に、隣家の若い夫婦 ( ファビオ&ミケーラ ) とロレンツォの場面に多くの尺を取っている感じ……。それでいて、父と娘の関係性が 浮き彫りにされるという構成が興味深い。

ロレンツォ役の レナート・カルペンティエーリも、エレナ役の ジョヴァンナ・メッゾジョルノも適役を好演。父と娘の相剋に辟易させられるような不快感はなく、偏屈なようでいて 実は優しさを内に秘めたロレンツォと、潔癖でいて 寛容さと理性を併せ持つエレナの人物描写が秀逸です。また、鍵を忘れるクセのある隣家の主婦 ミケーラ役の ミカエラ・ラマッツォッティ ( 『 歓びのトスカーナ 』( Vol.402 ) で生彩を放った女優 ) と、彼女の夫 ファビオ ( 少年時代に負った 心の傷を引き摺ったまゝ、情緒不安定な男として生きている ) 役の エリオ・ジェルマーノの、かなりエキセントリックなニュアンスも印象的でした。

全篇にわたって隙のない作品ですが、ラスト数分間の穏やかな展開に僕は感動、救われた気がしました。これは 地味ながら、心に残る大人のための映画。しかし 若い読者の皆さんも、エレナの気持ちになって観ると、幾つかの重要なコトに気づけるはずです。

 

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(C)Kidlat Tahimik

マゼランによる世界一周から 500 年――。
そこには、もうひとつの知られざる世界史が存在した!

500 年の航海
フィリピン/ 161 分
1.26 より公開中/配給:シネマトリックス
http://cinematrix.jp/tahimik_japan/

【 STORY 】 田んぼの中から見つかった木の箱。それを開けてみると 泥にまみれたフィルムの入った缶のようなものが入っていた。
来たる 2021 年は マゼランによる「 世界周航 」から 500 年。実は マゼランは 旅の半ばで命を落とし、本当に世界一周を達成したのは マラッカ出身の奴隷 エンリケだった…。
マゼランによる世界一周と、自ら ( 注:フィリピンの映画作家 キドラット・タヒミック ) の半生を重ね合わせ、世界に流布する歴史を笑い飛ばす! ( プレス資料&試写招待状より抜粋 )

試写招待状の画像を見て、〝 カレル・ゼーマン風の味を持った冒険物 〟を想像してしまった僕ですが、それは完全にハズレでした。僕には 説明不可能ですが、これは 第 65 回 ベルリン国際映画祭で「 カリガリ賞 」を受賞した作品。強いて言えば『 不思議惑星 キン・ザ・ザ 』( Vol.353 ) のような珍品 ( ? ) を愛する映画ファンの方々のみにオススメです。このページの画像に惹かれた皆さんは、まず上記の公式ページをクリックしてみてください。なお、タヒミック監督作品の特集上映 ( 東京では シアター・イメージフォーラム、大阪では シネ・ヌーヴォにて ) もあり、とのコトでした。

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
( 個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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