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2018.1.22

『 花咲くころ 』『 星めぐりの町 』『 ベロニカとの記憶 』『 ルイの 9 番目の人生 』 試写室便り 【 大高博幸さんの 肌・心塾 Vol.431 】

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© Indiz Film UG, Polare Film LLC, Arizona Productions 2013

戦火の不安の中で
たおやかに生きる 14 歳の少女たち。

岩波ホール創立50周年記念作品 第1弾

花咲くころ
ジョージア ( グルジア ) 、ドイツ、フランス/ 102 分
2.3 公開/配給:パンドラ
www.pan-dora.co.jp

【 STORY 】 1992 年 春、独立後に起こった 内戦の きな臭さが残る ジョージアの首都 トビリシ。父親が不在のエカは 母親と姉の干渉に反発を感じている。親友のナティアの家庭は アル中の父親のために すさんでいた。生活物資は不足しがちで 配給には行列ができているが、ふたりにとっては 楽しいおしゃべりの時間だった。
ナティアは ふたりの少年から好意を寄せられている。ある日、ナティアは そのひとり ラドから、弾丸が入った銃を贈られた…… ( チラシより )

ベルリン国際映画祭 国際アートシアター連盟賞をはじめ、世界各国で 30 もの受賞を果たした作品です。戦争や暴力へのアンチテーゼと 第三世界への思いが、少女たちの姿を通じて 清冽に描かれています。

舞台は 市街戦の痕跡が残り、新たな紛争への不安が漂うトビリシの、’92 年の春から初夏にかけて。人々の心は荒みきっていて、誰もが苛立ちを隠せずにいる…。エカとナティアも その影響を まともに受けていますが、学校帰りや食糧配給の列に並ぶ間は、仲よく おしゃべりを楽しんでいる…。このふたりを演ずる リカ・バブルアニ ( エカ役。チラシ画像の右 ) と マリアム・ボケリア ( ナティア役。同左 ) は、監督 ( ナナ・エクフティミシュヴィリ & ジモン・グロス ) によって見い出された素人の女の子。ふたりとも映画初出演とは信じられないほど、的確かつ自然な演技を観せています ( ふたり揃って サラエボ映画祭で 最優秀主演女優賞を受賞 ) 。

ストーリーの展開上、特に印象に残ったのは、① ナティア ( ロングヘアの女の子 ) を愛しているラドという好青年が トビリシを留守にする前に、護身用の銃を ナティアに手渡す場面、② ナティアに横恋募している不良グループのコテが、食糧配給の列に並んでいたナティアを 仲間たちの力を借りて 誘拐する場面 ( ジョージアには〝 誘拐婚 〟という伝統が存在していた。それは 今も一部に残っているのだそう ) 、③ 誘拐されるナティアを取り戻そうとして 叶わなかったエカが、配給の列に並んだまゝ助けようともしなかった人々を罵り、年配の一男性から殴り倒される場面、④ ナティアの コテとの結婚パーティに招かれたエカが、反発の心を秘めて〝 シャラホ 〟という男性舞踊を踊る場面。他にも重要な場面が幾つかあるのですが、こゝでは伏せておくとして、⑤ 刑務所に入っている父親に エカが面会に赴くラストシーン ( 静かな場面でありながら、強いインパクトを放っている ) 。

個人的に気になったのは、① エカやナティアが 画面の向こうから歩いて来るという、ロングショットで始まるシークエンスが多かったコト、② カットのタイミングがゆっくりしているため、何かが起きるのかもと 注意しながら観ていると、ほとんどが そうではなかったコト。わずか 4 秒ほど長いだけなのですが、僕は それが気になる自分自身を 疎ましく感じたりしていました。

 

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(c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

生きていれば、きっと良いことがある。

震災で家族を失った少年が、唯一 心を開いたのは、優しい手をした豆腐屋だった。

星めぐりの町
日本/ 108 分
1.27 公開/ 配給:ファントム・フィルム
hoshimachi.jp

【 STORY 】 妻を早くに亡くし、一人娘の志保と暮らす島田勇作。毎朝 じっくりと手間と時間をかけて 美味しい豆腐を作り、町の主婦や料理屋に届ける生活を続けていた。ある日、警察官に付き添われ、東日本大震災で家族全員を失った少年・政美がやって来る。亡き妻の遠縁にあたるという政美。突然の不幸により 心に傷を抱える政美を、勇作は静かに見守り続ける。自然に根差した自給自足の暮らしの中で、薄皮が 一枚、また 一枚と はがれるように、少しずつ心を再生させていく政美。しかし 勇作が配達に出ている最中、町が大きな揺れに襲われ、一人で留守番をしていた政美は 震災の恐怖がよみがえり、姿を消してしまう…。( プレス資料より。一部省略 )

俳優生活 55 年、現在 76 歳の小林稔侍の 映画初主演作です。彼の一ファンとして、それだけで観ずにはいられませんでしたが、内容は 実直そのものの豆腐屋と 3.11 の津波で家族全員を失った少年との運命的な出会い…、少年の心の再生を通じて、生きて行くコトの大切さを物語る ハートフルなヒューマンドラマです。映画の中に登場する 宮沢賢治の「 雨ニモマケズ 」の精神を 体現している物語でもあります。
監督は『 蝉しぐれ 』以来 12 年振りとなる黒土三男 ( 脚本も ) 。ロケーションは、黒土監督が暮らしている〝 ものづくりのまち 〟愛知県豊田市全域で行われました。

主要な登場人物は、小林稔侍演ずる島田勇作 ( 京都の「 平野とうふ 」で修行を積み、許されて 生まれ故郷の豊田市で「 平野屋豆腐店 」をひとりで営んでいる ) 、壇蜜演ずる志保 ( 勇作のひとり娘で、腕のいゝ自動車修理工。気の強い彼女が 泣き出す場面が とてもいゝ ) 、荒井陽太演ずる木内政美 ( 岩手県花巻市で孤児となった少年。心に傷を抱え、口を きかなくなっている ) 。脇を固めるのは、勇作の豆腐を仕入れている料理屋「 結城 」の女将に高島礼子 ( 色っぽさが程良くて自然 ) 、「 結城 」の顧客で 勇作の豆腐に物作りの原点を見い出す 自動車製造会社の社長に平田満、勇作の幼なじみの警察官に神戸浩ら。

勇作は 職人気質の一徹な男。しかし 決して気難しい人間ではなく、他人の気持ちを想いやって行動する 真に優しく誠実な人物。謙虚で 感謝の気持ちを忘れず、配達に出掛ける前には 車のサンシェードの裏に貼った 亡き妻の写真に話かけ、ひとり暮らしの老人宅を訪れては 食事の世話さえするのですが、それを当たり前の行為だと思っている様子…。しかし 政美の心の再生のためには、単純に優しいだけの行動は取らないという、優しさ故の 厳しい一面も見せるのです。そんな勇作を、小林稔侍が 彼ならではの説得力を持って演じ上げています。政美の行動を無言で見つめる姿、志保と会話をする いろりの場面等は、特に感動的でした。

演出は 総体的に淡々とした穏やかなタッチ、落ち着いた場面の積み重ねで表現されています。
桜の季節に始まり、雪の降る場面を ほんの少し挟んで 再び桜の季節となるので、ほゞ 1 年間の物語なのでしょう。画面の背景に度々映し出される桜が、まるで 勇作と政美を見守っている 神様か何かのように、僕には思えてきました。

 

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© 2016 UPSTREAM DISTRIBUTION, LLC

青春の記憶をたどる感動のミステリー。

すべての謎を解き明かしたとき、人生は新たな輝きを放ち始める――。

ベロニカとの記憶
イギリス/ 108 分
1.20より公開中/配給:ロングライド
longride.jp/veronica

【 STORY 】 60 歳を過ぎ、ひとりきりで静かな引退生活を送るトニーの元に、ある日、見知らぬ弁護士から手紙が届く。あなたに日記を遺した女性がいると――。その女性とは、40 年前に別れた 恋人 ベロニカの、母親だった。思いもよらない奇妙な遺品から、長い間 忘れていた 青春時代の記憶、若くして自殺した親友、初恋の真実を、紐といていくことになる。( 試写招待状より )

原作は 英国で最も権威ある文学賞・ブッカー賞に輝いた ジュリアン・バーンズの「 終わりの感覚 」( 新潮社 刊 ) 、監督は 日本でもロングランヒットとなった『 めぐり逢わせのお弁当 』の リテーシュ・バトラ ( 2017 年に ヴァラエティ紙の「 注目すべき 10 人の監督 」のひとりに選ばれました ) 。主演は ふたりの名優、ジム・ブロードベント ( トニー役 ) と シャーロット・ランプリング ( ベロニカ役 ) 。

かなり微妙に入り組んだ物語なので、上映時間 108 分のワリに 僕は少々疲れましたが、複雑な経緯や事情があるコトを 想像もしないまゝ 切り捨て御免にしていると、人生 ちっぽけなモノになってしまうなぁと思い知らせてくれる内容。物事の解釈を 短絡的に済ませてしまう傾向のある方 or 自分は想像力に欠けているタイプかもと、少しでも感じたコトのある方は 必見です。

シャーロット・ランプリングは『 さざなみ 』( Vol.333 ) の延長線上にあるとも言える役柄を演じていますが、アピール力は やゝ弱め。彼女の青春時代を演じている フレイア・メーバーは、ランプリングとは少しも似ていないので、つながりが感じられないコトは残念至極。もっとも、ランプリングは 唯一無二の容姿の持ち主なので、ファンが期待するようなキャスティングは ないものねだりに等しいのかも。
若き日のトニー役で 映画デビューを果たした ビリー・ハウルは、今年注目の若手のひとり。第 2 作『 ダンケルク 』、続く「 かもめ 」の映画版も控えていて、2 ~ 3 作が公開されゝば 日本でもファンが急増しそうです。

 

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(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

9 年間で 9 度 死にかけた少年 ルイ。
謎多き少年の真実に迫る、衝撃のサスペンス。

ルイの 9 番目の人生
カナダ、イギリス/ 108 分
1.20より公開中/配給:松竹
louis9.jp

【 STORY 】 ひどい難産の末に この世に生を受けたルイは、それから毎年 必ず危険な事故に遭い、幾度となく生死の境を さまよってきた。そして 9 歳の誕生日に 海辺の崖から転落した彼は、奇跡的に命を取り留めたものの 意識不明の重体に陥ってしまう。担当医のパスカルは 昏睡状態のルイを救うために あらゆる手を尽くすが、父親 ピーターは 行方不明、母親 ナタリーのもとには 差出人不明の警告文が届く。さらにパスカルも恐ろしい悪夢に うなされ、ルイの身近な人々や関係者に 不可解な出来事が降りかかる。( チラシより。一部省略 )

眠れる少年をめぐるスリリングな心理サスペンス。英国人作家 リズ・ジェンセンが精神世界を描いたベストセラー小説を、『 ホーンズ/容疑者と告白の角 』( Vol.286 ) の アレクサンドル・アジャ監督が ’15 年に映画化した作品です。
カナダのバンクーバー、ホワイトクリフ公園、100 年以上前に建てられたリバービュー病院の精神科病棟等で撮影され、さらに特殊映像処理によって オカルト映画風のムードを醸成するコトに成功しています。
時間が 進んだり 戻ったりしながらも 展開はスピーディ。観客に異和感を与えるコトのないように 綿密に物語を構成し、最終的に相当怖い〝 驚愕の真実 〟を暴くという内容 ( 何が怖いかについては、恐縮ながら秘密です ) 。

エイダン・ロングワース演ずるルイは 知能指数が高く、全てを達観しているような 大人びた少年。目が隠れるほど長く垂らした髪は ミステリアスなキャラクターを表現するための演出なのでしょうが、そんな必要は なかったのでは? という気が 僕はしました。
ルイの母親役は サラ・ガドン。『 危険なメソッド 』『 コズモポリス 』『 ドラキュラZERO 』『 ロイヤルナイト 英国王女の秘密の外出 』( ’16。Vol.344 ) 、そして本作と、常に 異質な役柄を 真実味をもって表現する実力 & 個性の魅力に惹きつけられます。たゞし、今回は適役とは言い難い。
担当医 パスカル役は『 フィフティ・シェイズ・ダーカー 』( ’17 ) 『 ハイドリヒを撃て! 「 ナチの野獣 」暗殺作戦 』( ’17。Vol.406 ) で注目された ジェイミー・ドーナン。好敵手的存在の アーミー・ハマー ( Vol.426 参照 ) と並んで ハンサムかつセクシー、現在 最も旬な男優です。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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