健康・ボディケア・リフレッシュニュース
2017.12.19

『 マノロ・ブラニク 』『 ジャコメッティ 』『 彼女が目覚める その日まで 』 試写室便り【 大高博幸さんの 肌・心塾 Vol.426 】

(C)HEELS ON FIRE LTD 2017
(C)HEELS ON FIRE LTD 2017

〝 世界で 唯一 走れるピンヒール 〟と言われるエレガントなパーフェクト・シューズ!
天才マノロのイマジネーションの源を探るドキュメンタリー。

マノロ・ブラニク
トカゲに靴を作った少年

イギリス/ 89 分
12.23 公開/配給 : コムストック・グループ
www.manolo-tokage.com/

【 INTRODUCTION 】 1970年代のデビュー以来、ファッショニスタたちに熱狂的に支持されてきたシューズブランド < マノロブラニク >。ダイアナ妃など多くのセレブたちの大切なシーンで足元を輝かせてきた。一般的には「 セックス・アンド・ザ・シティ 」の主人公が愛してやまない靴として爆発的な人気となるが、御歳 74 歳のマノロ自身は 加熱するブームを冷ややかに眺め、ミラノのアトリエで ハンドメイドで制作することに こだわり続けている。〝 夢の靴 〟が生み出される風変わりな思考プロセス、溜め息がでるほど美しいスケッチ、そしてガーデニングを こよなく愛するプライベートまで、天才 マノロ・ブラニクの魅力に迫る ファッション・ドキュメンタリー。( 試写招待状より抜粋 )

マノロの子供時代の映像( 多分、再現映像 )がアニメーションへと続いたり、時代を伝えるニュースフィルムが挟み込まれたり、リアーナ( 言わずと知れた歌姫 )、アナ・ウィンター( 米ヴォーグ編集長 )、イマン( デヴィッド・ボウイの妻 )、パロマ・ピカソ( 画家ピカソの娘 )、ソフィア・コッポラ( 映画監督 )、ルパート・エヴェレット( 映画俳優 )等が登場したりもする楽しい 89 分。脚本と演出( マイケル・ロバーツ )が巧みで、スケールとしては小さめながら、YSL のドキュメンタリー( Vol.56 )に負けず劣らず、『 メットガラ 』( Vol.389 )よりも面白く観ました。

自然豊かなスペインのカナリア諸島 ラ・パルマ島に生まれ育ったマノロは、子供の頃には チョコレートの包み紙で トカゲのために靴を作って遊んでいた…。美意識の高さは母親ゆずりらしく、14 歳の頃には小遣いをモード誌につぎ込み、セシル・ビートン( 写真家 )と ジューン・シュリンプトン( モデル )のファンだったよう。今は ちょっとシャイで品のよい、ユーモアを忘れないチャーミングなオジイちゃんといった雰囲気。

本作を観ながら感じたのは、① 子供時代の生活環境と感性の重要性、② ビジネス上は 独自の嗜好と信念の強さ、および 信頼しあえる仲間の存在でした。
登場人物として印象に残ったのは、① リアーナ…… マノロが突然に発した冗談を受けて、豪快に笑い出すワンシーン( 彼女の個性の一端を感じさせる貴重な瞬間 )。② R・エヴェレット…… 固苦しさはナシで、真面目にインタビューに応じる彼の上品さ、マスクの良さ。A・ウィンターは、いつものヘアスタイルで キャッチーなトークを披露していますが、ダイアナ・ヴリーランド( ’60年代の米ヴォーグ編集長 )等とは 別種のひと という感を、僕は 以前にも増して抱きました。

 

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(c)Final Portrait Commissioning Limited 2016

たった一日の約束が、来る日も来る日も完成しないポートレイト。

あなたは本当に天才なのか――。

ジャコメッティ
最後の肖像

イギリス/ 90 分
’18.1.5 公開/配給 : キノフィルムズ
finalportrait.jp

【 STORY 】 1964年、パリ。「 絵のモデルになって欲しい 」。世界中で名をはせる芸術家の アルベルト・ジャコメッティに、個展会場で声をかけられたアート好きなアメリカ人作家 ジェイムズ・ロードは、光栄なことであり 好奇心もそそられ、喜んで引き受けた。ほんの数日で終るはずだった その肖像画の制作は、ジャコメッティ自身の迷い、悩み、葛藤により、一日一日と延びていく。そして その間、ロードは ジャコメッティの意外な素顔を次々と目撃することになる。果たして肖像画は完成するのか……。( 試写招待状より )

「 彼は本物の芸術家よ。品代を要求するコトもロクに出来ないんだから。でも本当に素晴らしい、彼の作ったモノは 」。これは 昔むかし ココ・シャネルが、錬鉄製のベッドと椅子を作ってもらった「 彫刻家のジャコメッティの弟の、工芸家のジャコメッティ 」について、おそらく何気なく語った言葉。この映画の試写招待状を受け取った瞬間、僕が真っ先に想い浮かべたのは この話でした( 出典は失念 )。マドモアゼルが語ったのは、ジェフリー・ラッシュ演ずる主役の アルベルト・ジャコメッティではなく、その弟である ディエゴ・ジャコメッティのコト…。しかし 本作を観ながら、僕は「 あなた( = アルベルト )は本当に天才なのか―― 」という惹句が、最後まで まとわりついてくるのを感じていました。

本作での 亡くなる 2 年前のジャコメッティは、気まぐれで けじめがなく、思うように筆が進まなくなると「 クソ! 」「 クソッタレ! 」「 チキショー! 」と 口汚なく叫ぶのが常。最初はホンの一日の数時間という約束だったのに 時間ばかりがダラダラと過ぎ、モデルを務めるロードは N.Y.へ帰る飛行機の予約を 何度も変更せざるを得なくなる…。そんなアトリエ内のシーンが延々と続き、それ以外には、レストラン、カフェ、墓地( ジャコメッティとロードが 2 度ほど散歩する。ペールラシェーズでの撮影かも )、スイミングプール( ロードが気分転換に泳ぐ )の場面が少しある程度でした。

出演者は全員が適役を好演していますが、J・ラッシュは ジャコメッティに似せたモジャモジャ頭が うまくなじんでいない感じ。〝 ブレイク目前 〟と評判の アーミー・ハマー( ロード役 )は 特にプロポーションが最高の上、台詞まわしにクラシカルな味が出ています。脇役で最も素晴らしかったのは ディエゴ役の トニー・シャルーブ。次いで クレマンス・ポエジー( ジャコメッティのミューズである 街の娼婦役 )と シルヴィー・テステュー( ジャコメッティの妻役 )。

原作は ジェイムズ・ロードの回想録「 ジャコメッティの肖像 」( みすず書房刊 )、脚色と監督は スタンリー・トゥッチ。名手 ダニー・コーエンによる撮影は、暗部をブラックグリーンに調整した技術が 独得な雰囲気を醸し出しています。
少々倦怠感を覚えるコトを覚悟の上で観てください。それでも観る価値は十分にあると思います。

 

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(C)2016 ON FIRE PRODUCTIONS INC.

ある日 突然、原因不明の病に かかったら――。
愛だけを信じて闘った、一人の女性と家族の感動の実話。

彼女が目覚める その日まで
カナダ、アイルランド/ 89 分
12.16 より公開中/配給 : KADOKAWA
Kanojo-mezame.jp

【 STORY 】 憧れの ニューヨーク・ポスト紙で働く 21 歳のスザンナは、1 面を飾る記者になる夢へと突き進んでいた。恋人 スティーヴンを両親に紹介し、仕事も恋も順調だ。ところが〝 それ 〟は 足音もなく突然やって来た。物忘れがひどくなり、トップ記事になるはずの取材で、とんでもない失態を犯してしまう。幻覚や幻聴に悩まされ、激しい発作を起こして入院するが、検査の結果は「 異常なし 」。日に日に混乱し、全身が硬直して会話もできなくなってしまったスザンナを見て、精神科への転院をすすめる医師たち。だが 両親とスティーヴンは、スザンナの瞳の奥の叫びを受け止めていた――。( 試写招待状より。一部省略 )

原作は 全米でベストセラーとなった、スザンナ・キャハランの壮絶な闘病生活記( KADOKAWA刊 )。人格を失い、正気と狂気の間をさまよい、昏睡状態から死に至るケースも少なくないという彼女の病気は「 抗 NMDA 受容体脳炎 」。そんな病気があるんだと、僕は初めて知りました( 日本でも、年間 1,000 人ほどが発症しているという説もあるそう )。数多い難病モノのメロドラマとはタッチが異なるので、僕は かなり真剣に観ました。

この物語でよかったのは、両親と恋人の熱意はモチロンですが、ひとりの女性医師が「 もしかしたら 」と考えて、その病気のエキスパートであるナジャー医師に連絡を取ったコト、そして 彼が 行動に移したコト。それがなければ、スザンナは手遅れになっていたかも知れません。
映画の展開はスピーディ。恋の要素に捉われすぎたり、医学的に突っ込みすぎたりしていないので、誰にとっても 観やすく、分かりやすいと思います。

スザンナ役の クロエ・グレース・モレッツ( ’97年生まれ )は、キャピキャピした子供っぽい女子として登場してくるため、ポスト紙で 重要な記事を任されたりするようには見えないところが難点。多くの場面で、強くブリーチ or カラリングした髪の明るさと 根元の生来のダークな色との差が目立っているコトも 気になりました( はっきり言うと、見苦しいのです )。しかし 7ヶ月後、病気を克服して職場に復帰する場面では、大人の女性というイメージに成長していて、ホッとさせられた次第です。

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
(個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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