大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.8.2

【大高博幸さん連載 Vol.353】 『 栄光のランナー 』『 ニュースの真相 』『 不思議惑星 キン・ザ・ザ 』 試写室便り 第120回

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Credit : Focus Features/ Credit : Thibault Grabherr/  © 2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

ヒトラーの鼻を明かしたのは、最強の絆だった――。

逆境に打ち勝った〈 四冠メダリスト 〉
ジェシー・オーエンス、勇気の実話。

栄光のランナー / 1936 ベルリン
アメリカ、ドイツ、カナダ 合作/134分
8.11 公開/配給 : 東北新社
eiko-runner-movie.jp

【 STORY 】 貧しい家庭に生まれながらも ジェシー・オーエンスは、中学時代から陸上選手として 類稀な才能を発揮していた。家族の期待を背負って オハイオ州立大学に進学した彼は、コーチの ラリー・スナイダーに出会う。オリンピックで金メダルを獲得するべく、スナイダーに様々な特訓を課せられた彼は、大学陸上競技大会の 1つ、ビッグ・テン選手権において、45分間で 世界新記録 3 つと タイ記録 1 つを樹立する。
しかし アメリカ国内では、ナチスに反対して オリンピックのボイコットを訴える世論が強まっていた。さらに、ナチスの人種差別政策は 黒人であるオーエンスにとっては 認めがたいものであり、それを理由に オリンピックに出場しないでほしいという アメリカ黒人地位向上委員会からの申し出があるなど、オリンピック出場に向け 彼は大いに苦悩する――。( チラシより。一部省略 )

後に「 ヒトラーのオリンピック 」とも呼ばれた 1936 年の ベルリン・オリンピックで、史上初の四冠を達成した 陸上競技選手、ジェシー・オーエンス ( 演ずるのは ステファン・ジェイムス )。本作は、アメリカの人種差別の歴史や ヒトラー政権による抑圧と闘った オーエンスの 勇気と決意と忍耐、彼を支えた名コーチや仲間との友情、そして 家族との絆を描いた 感動のドラマです。歴史に残る実話として 省くコトが不可能な要素が多いため、印象が少々分散されがちという難点は なくはありませんが、画面に変化がある上に テンポも良く、全体的に パワフルで 充実した内容。

僕が最も感動したのは、オーエンスとコーチとの信頼関係。そして 走り幅跳びで 実力を競い合ったドイツ人選手 ルッツ・ロングの、オーエンスに示した 最高のスポーツマンシップ、または 友情 でした。
コーチの ラリー・スナイダー ( 演ずるのは ジェイソン・サダイキス ) には 人種差別的感覚が皆無で ( あの時代には、かなり珍しいと思います ) 、オーエンスに賭ける彼の真剣さと、それに応えようとするオーエンスの気迫が、観る者の胸を熱くします。一方、ロング選手 ( 演ずるのは デヴィッド・クロス ) のスポーツマンシップには、非常に驚かされました。オリンピックでのルールに とまどい、ファウルを繰り返したオーエンスを見かねて、彼は 無言で あるコトを行い、オーエンスを 失格の憂き目から救うのです。彼の登場々面は 多くはなく、ドラマティックに強調されているワケでもありませんが、それは 胸を締めつけるほど 感動的でした ( スティルで 紹介できないのが とても残念 ) 。

その他、印象に残った場面や台詞。
1) 冒頭の オハイオ州 クリーブランド、1933 年、秋 ( 大不況の時代 ) の 早朝の場面。走るオーエンスの背景に、たむろする失業者たちの姿がある。
2) スナイダーの部屋に オーエンスが呼ばれ、ふたりが 初めて会話する場面。また 後日、オーエンスが 小さな娘の養育費のために アルバイトをしなければならないコトを知った、スナイダーの反応。
3) オーエンスが、あるコトを ルース ( 後に結婚する女性。娘の母でもある ) に謝罪する、ビューティサロンの場面 ( ルースは そのサロンの従業員で、誠心誠意 謝罪するオーエンスを、サロンの顧客全員が 無表情のまゝ見つめている )。
4) 「 オレの代わりに ヒトラーの鼻を明かせ! 」 ( 太モモをケガしたライバルのピーコック選手が、ベルリン行きを断念しようとしている オーエンスに言う台詞 )。
5) 「 負けたら、もしも負けたら、それはナチスへの屈服だ 」「 考えすぎは良くない。たゞ走ればいゝ、人が どう言おうと 気にしなくていゝ、自分の心の声だけに耳を傾けて 」 ( 不安に かられたオーエンスを励ます、妻 ルースの台詞 )。
6) オリンピックへの参加を訴える 米国オリンピック委員会のブランデージと、反対派のマホニーの場面 ( ナチス政党に異を唱える高潔なマホニーは、参加が決定した直後、委員の職を退いてしまう )。
7) 公式コーチから外されたスナイダーが、ベルリン行きの船に 自腹で 乗り込んでいたと分かる場面。喜ぶ オーエンスに、スナイダーは「 君を見張るために ついて来たんだ 」と言って笑う。
8) オリンピックの記録映画作りを任された 女性監督の レニ・リーフェンシュタール ( 演ずるのは『 ブラックブック 』の主演で知られる カリス・ファン・ハウテン。彼女は 最後の登場々面での顔が 非常に美しい ) と、ゲッベルス ( ナチスの国民啓蒙・宣伝大臣 ) が 反目し合う場面 ( 僕は、その傑作記録映画『 民族の祭典 』を かつて観て 感動したので、余計に興味深かったです )。
9) ラストの 2 場面。オーエンスの祝賀会が催される ホテルの 正面入口での場面と、それに続く 通用口の場面 = 業務用のエレベーターボーイとして働いている 利発そうな白人の少年 ( 11歳前後 ) と オーエンス夫妻との ちょっとした やり取り。これは 心に残るエンディング。正面入口の職務に忠実な老ドアマンが、本当は 真の紳士で 善い人なのだと 確信させてくれる 演技・演出も、とても良かったです。

 

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8月5日、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開 © 2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved.

真実には、すべてを懸ける価値がある。
このスクープに脅かされるのは、政権か!? それとも、メディアか――!?

闘いぬいた者は、かくも美しい。

ニュースの真相
アメリカ、オーストラリア 合作/125分
8.5 公開/配給 : キノフィルムズ
truth-movie.jp

【 STORY 】 ブッシュ米大統領が 再選を目指していた 2004年。CBS ニュースのベテランプロデューサー、メアリー・メイプスは、伝説的ジャーナリスト、ダン・ラザーがアンカーマンを務める看板番組で、ブッシュの軍歴詐称疑惑を裏付けるスクープを放送し、全米にセンセーションを巻き起こした。だが、「 決定的証拠 」 を 保守派のブロガーが「 偽造 」 と断じたことから 一転、CBS は 猛烈な批判の矢面に立たされる。同業他社の批判報道も とどまるところを知らず、ついに上層部は 内部調査委員会を設置。ブッシュに近い有力者も含まれる委員会との不利な闘いを前に、メアリーは 勇気を奮い起こす。圧力に屈することなく、真実を伝えるジャーナリストとしての 矜持と信念を 伝えるために――。( 試写招待状より。一部省略 )

メアリー・メイプスの自伝を基に、「 21世紀最大のメディア不祥事 」とされる事件を、全て実名で 克明に描いた問題作。アカデミー賞®作品賞に輝いた『 スポットライト / 世紀のスクープ 』とは 異質な内容でありながら、共通した雰囲気を感じさせがちなため、興行的に 損をしそうな心配も なきにしに あらず。
しかし、ケイト・ブランシェット ( メアリー役 )と、ロバート・レッドフォード ( ダン・ラザー役 ) の共演というだけで 興味をそゝる上、〝 ちょっとした取材の手落ち 〟が招いた最悪の事態と、それに立ち向かう主人公たちの 緊迫した姿に圧倒させられる 125分。客席にいながら 取材チームの一員となっているような気持ちにもさせられるので、しっかりと観るためには 体力と気力が 必要不可欠 ( 寝不足や過労気味な状態では、映画と十分に向き合えないだろうと思います ) 。

特に印象に残ったのは、以下の 2 場面。
1) 19回目に やっと電話が繋がった ホッジス将軍 ( ブッシュの軍歴を知る重要人物 ) に、「 あのメモに 覚えは ありますか? 」 と問うメアリー。将軍は 即座に 「 あるとも 」 と答え、メアリーが 同席していたスタッフ ( デニス・クエイド演ずる ロジャーと、トファー・グレイス演ずる マイク ) と共に、「 裏が取れた 」 と 確信してしまう場面。
2) ラスト近く、内部調査委員会の聴取の席で、〝 元・弁論部の優等生 〟的な男たちが、メアリーを それとなく 動揺させようとする場面。及び、その場で メアリーが 最後に示す、冷静でいて 情熱的でもある、感動的な 態度と発言。

C・ブランシェットは『 キャロル 』( 通信 326 ) の時よりも 表情に変化と生命感があり、真剣な眼の光に 冴えた美しさを感じさせます。R・レッドフォードは 最近作の中では 適役で、どちらかと言えば 淡々とした演技に、僕は 好感を抱きました。たゞし、TV 出演用のメークが、首よりも白い上に パウダリーマットすぎる点は、よくなかったと思います。
脚本・監督は、ジェームズ・ヴァンダービルト。

 

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(c) Mosfilm Cinema Concern, 1986 8月20日(土)新宿シネマカリテにてレイトショー!

世界中のカルト映画ファンが 愛してやまない 旧ソ連映画の秘宝、
デジタル・リマスター版にて公開!

不思議惑星 キン・ザ・ザ
ソ連、グルジア共和国 合作/135分
8.20 公開/配給 : パンドラ + キングレコード
www.kin-dza-dza-kuu.com

【 STORY 】 学生 ゲデバンと 建築技師 マシコフは、突如、キン・ザ・ザ 星雲の 惑星 プリュクにワープ。そこでは マッチ 一本が 恐ろしく価値があり、挨拶は いつでも どこでも「 クー 」!! 二人は 異星人たちに ダマされながらも、地球に 帰ろうとするのだが……。( 試写招待状より )

1986年、モスクワでの完成試写で 批評家連から大不評を買ったにも拘らず 驚異的な動員力を発揮し、30年後の今日でも HP を賑わせる程の 熱烈なファンを数多く持つ SF 映画。ゲオルギー・ダネリヤ監督作品。
僕としては、惑星 プリュクの場面が 長すぎる上に 単調で 少々退屈させられたのですが、淡い色調の美しさと、マシコフ役の ユーリー・ヤコヴルフの好演に引っ張られて、最後まで興味を失わずに 観続けました。

個人的に好きだったのは、1) 主役のふたりが ワープしてしまうまでの モスクワの場面、2) ワープの原因となった異星人が プリュクに現われる 夕闇の場面 ( 撮影が非常に美しい )、3) ゲデバンが 一瞬、雪景色のモスクワに 帰還した 夢を見る or 空想をする場面、4) 酸素 2 %の場所で、主役のふたりが 死を覚悟する場面、5) プリュクとは ベツの星 ( 花々が咲き乱れている 天国風の場所 ) での数場面、6) そして 最高だったのは、ラストシーン ( 詳しくは 書かずにおきますが、最後まで観て良かった! と思いました )。

内容や雰囲気は それぞれ大きく異なりますが、『 さよなら、人類 』 ( 通信 297 )、『 ひそひそ星 』 ( 340 )、カレル・ゼーマンの『 悪魔の発明 』 ( ’58 ) etc の、いずれか or 全てを好むタイプの方々には 一見をオススメします。化粧品が 実際に使ってみなければ自分に合うかどうか 分からないのと一緒で、映画も 自分の眼で観なければ、どう感じるか、分からないモノですよね。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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