大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.5.10

【大高博幸さん連載 Vol.340】『殿、利息でござる!』『ヘイル,シーザー!』『ひそひそ星』 試写室便り 第115回

tonorisoku
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ゼニと頭は、使いよう。

今から250年前、本当にあった庶民の話。

殿、利息でござる!
日本/129分
5.14 全国公開/配給:松竹
tono-gozaru.jp

【STORY】 金欠の仙台藩は 百姓や町人へ容赦なく重税を課し、破産と夜逃げが相次いでいた。さびれ果てた小さな宿場町・吉岡宿で、町の将来を心配する十三郎( 阿部サダヲ )は、知恵者の篤平治( 瑛太 )から 宿場復興の秘策を打ち明けられる。それは、藩に大金を貸し付け 利息を巻き上げるという、百姓が 搾取される側から 搾取する側に回る 逆転の発想であった。計画が明るみに出れば 打ち首 確実。千両 = 三億円の大金を水面下で集める 前代未聞の頭脳戦が始まった。「 この行いを 末代まで 決して人様に自慢してはならない 」という〝つつしみの掟〟を自らに課しながら、十三郎と その弟の甚内( 妻夫木 聡 )、そして宿場町の仲間たちは、己を捨てて、ただ町のため、人のため、私財を投げ打ち 悲願に挑む! ( プレスブックより )

この知恵と勇気と我慢の銭戦( ゼニバトル )は、期待していた以上に面白い「 実は〝実話〟な 痛快歴史エンターテインメント超大作 」。時代劇映画特有の長閑さの中に現代的な切れ味が光り、しかも 終盤に近づくまで 想像もせずにいた〝人情話〟が、物語の奥底に潜んでいる……。コレは 笑いながら 涙ポロポロ、松竹映画ならではの第一級時代劇。

その〝人情話〟については、何も知らずに観るほうが 楽しめるし 泣けるはずなので、ここでは敢えて触れません。でも、観る方々の人生観に響く or それを少し変える or 心のオリを洗い流てくれるという御利益が、確実に得られます。
以下、〝つつしみの掟〟と 主要なキャラクターについて紹介しておきます。

これが「 つつしみの掟 」だ!( プレスブックより )
一、ケンカや言い争いは、つつしむ。
一、〝この計画〟について 口外することを、つつしむ。
一、寄付するときに、名前を出すことを、つつしむ。
一、道を歩く際も、つつしむ。
一、飲み会の席でも 上座に座らず、つつしむ。
さらに、大願成就しても「 家が続く限り、子孫の代に至るまで つつしみましょう 」とあり、そのため、これまで、この話自体が 世に広まるコトも なかったのだとか。

主要なキャラクター、etc……。
造り酒屋・穀田屋 十三郎…… 思い込んだら試練の道を、何がなんでも突き進む男。演ずる阿部サダヲは、役の生真面目さを顔と全身で表現。ちょっと気弱そうに感じさせる 声・台詞も 好感度 大。
茶師・菅原屋 篤平治…… 自称・吉岡宿イチの知恵者。だが、ホンの少し間抜けなところが御愛嬌。演ずる瑛太は 阿部サダヲとのコントラストが良く、しかも互いに引き立て合う結果となっています。
造り酒屋 兼 質屋・浅野屋 甚内…… 噂では〝ケチでしみったれな〟金貸し。なぜか 兄の十三郎を差し置いて、店を継いでいる。演ずる妻夫木聡は、本作では 動きが少なく、淡々とした台詞中心の役どころ。But、僕は この役の彼には、改めて惚れ直しました。クールさの中に見え隠れする、どことなく せつなげなニュアンスが 最高に良かったからです。
先代の浅野屋 甚内役は 山崎努、その妻 きよ役は 草笛光子。ふたりとも登場場面は少ないながら、味わい深い演技で感動を誘います。
その他、竹内結子、中本賢、きたろう、寺脇康文、松田龍平、堀部圭亮らに加えて、千葉雄大、重岡大穀、山本舞香、岩田華怜らの若手も揃って好演。さらに プレスブックに記載がないものの、大工・忠兵衛 及び 百姓の男たち役を演じた俳優さんたちが、とてもいゝ味を出していました。
さらに さらに、フィギュアスケートの羽生結弦選手が、仙台藩主・伊達重村役で映画初出演。出番は ラスト近く、廊下を歩いて来る足元のカットからの数分間です。

P.S. 冒頭の一場面……、夜逃げする 大工・忠兵衛一家の姿が 先代・浅野屋 甚内の目に止まる という短いシークエンス( セット、照明、撮影、演技の全てが見事で、非常に印象的 )は、単なる雰囲気描写ではないので、しっかりと目に焼きつけておいてください。

監督と脚本は 中村義洋。脇筋を もう少し簡略化したなら、さらに良くなったのでは? という気はしました。次回作も大いに期待、陰ながら応援しています。

 

heilseazer
(c) Universal Pictures

最高にゴージャスな「 大スター誘拐事件 」捜査、始動!

超豪華スター大競演で贈る サスペンス・コメディ!

ヘイル,シーザー!
アメリカ=イギリス合作/106分
5.13 公開/配給:東宝東和
HailCaesar.jp

【STORY】 ハリウッドが 世界に〝夢〟を送り届けていた1950年代、スタジオの命運を賭けた超大作映画『 ヘイル,シーザー! 』の撮影中、主演俳優の誘拐事件が発生! 大混乱の中、スタジオの〝何でも屋〟が 撮影中の個性溢れるスターたちを巻き込んで、世界が大注目する難事件に挑む! ( 試写招待状より )

アカデミー賞®を 4回、カンヌ国際映画祭で監督賞を 3回受賞した コーエン兄弟( ジョエル & イーサン )の 傑作 サスペンス・コメディ。豪華スターを一堂に集め、黄金期のハリウッドを愛情込めて描いた作品で、期待通りの面白さ、満足度100%。 誰が観ても大いに楽しめますが、特に’50年代ハリウッドの史劇やミュージカル作品、及び撮影所の裏話に心をときめかすタイプのファンならば、何度でも繰り返し観たくなるほど魅力満載。しかも スタジオ・システム or スター・システムに対する辛辣な視点も含んでいて、面白さに奥行きを感じさせるところは コーエン作品ならでは。

第一主役は〝何でも屋〟エディ・マニックス役の ジョシュ・ブローリン。寝る時間もないほど忙しいのに、神父様を辟易させるほどの懺悔好き。今回は 役作りのために体重を増やし、パーマをかけての御登場。『 L.A. ギャングストーリー 』( 通信 151 )『 シン・シティ 復讐の女神 』( 通信 266 )『 インヒアレント・ヴァイス 』( 通信 286 )のいずれとも異なるキャラクターを、とても印象的に演じています。
さらに、台詞が覚えられない〝世界の大スター〟役を ジョージ・クルーニー(『 クォ・ヴァディス 』や『 聖衣 』を想わせる史劇の扮装で登場 )、お色気で勝負の わがまゝ女優役を スカーレット・ヨハンソン(〝水着の女王〟エスター・ウィリアムズ風の女優として登場 )、演技どヘタな カウボーイ・スター役を アルデン・エーレンライク、キレたら超危険な映画監督役を レイフ・ファインズ、正体不明の フィルム・カッター役を フランシス・マクドーマンド、スタジオ・ネタを しつこく探し回る双子の記者役を ティルダ・スウィントン、人が良すぎる〝バカ真面目〟な公証人役を ジョナ・ヒルが 適役好演。それぞれに見せ場も用意されていて、全員がイキイキとしています。

相当ビックリさせられたのは、ヘビースモーカーの F・マクドーマンドが、タバコを くわえながら フィルム編集に没頭している場面。可燃性のフィルムに火気は厳禁のはず と心配しながら観ていたら、案の定、思いがけない事故を 起こしてしまいました。

熱い感動を覚えたのは ラスト直前。G・クルーニーの身勝手な発言に激怒した J・ブローリンが、往復ビンタを何度も食らわせながら「 心の底から台詞を言えるような真の大スターになれ! 」などと 早口で まくし立てる場面。それは〝何でも屋〟の胸中に潜む 映画・映画界・映画人・映画ファンへの愛が 予想外な形で噴出する、非常にユニークな場面でした。
その後に続く、キリスト受難のシーンをテイク中のクルーニーが、裏方さんたちを啞然とさせるほど 説得力に満ちた台詞を放つ という場面も、とても良かったです。最後の ひと言を忘れて NGになってしまうのですが、この瞬間、彼は 演技開眼 したんです。ブローリンの強烈なビンタのおかげで!

 

hisohisoboshi
© SION PRODUCTION

距離と時間に対する あこがれは、人間にとって 心臓のときめきのようなものだろう。

a Sion Sono Film
The Whispering Star

ひそひそ星
日本/100分
5.14 公開/配給:日活
hisohisoboshi.jp

【STORY】 アンドロイドの鈴木洋子は、昭和レトロな内装の宇宙船に乗り込み、相棒のコンピューターきかいと共に、星々を巡り 人間の荷物を届ける 宇宙宅配便の配達員をしている。宇宙船での旅は 退屈 極まりない。しかし、マシンである洋子は 退屈を感じないし、まめに船内を掃除したり、旅を記録したり、相棒の故障を修理したりしている。
人間に届ける荷物は、さほど重要に見えるものはない。配達には何年もの年月がかかるのだが、マシンである洋子には、なぜ人間が 物体を どんな距離にでも瞬時に移動できる時代に、数年もの時間をかけて届けるのか 理解できない。洋子は 様々な星に降り立ち、かつて にぎわった街や海辺に荷物を届けていく。受け取る人々の反応は様々だが、誰もが とても大切そうに荷物をひきとっていく。30デシベル以上の音を立てると人間が死ぬ おそれがあるという〝ひそひそ星〟では、人間は 影絵のような存在だ。洋子は 注意深く 音をたてないように、ある女性に配達をする。すると……。( プレスブックより。部分 )

鬼才・園 子温が、『ラブ&ピース』( 通信 293 )と同じく、20代の時に書き留めていたオリジナルの物語を〝いま〟を映す映画として完成。途中のワンシーンが 一瞬だけカラーとなる モノクロームの SFモノ。僕は その映像の美しさ、凝ったアングルや構図に、まず見惚れました。『ラブ&ピース』以上に フツーではない映画で、園監督のファンにとっては 堪らないほど魅力的な作品となるコトは間違いありません。しかし、ロマンティックな おとぎ話を期待して観た人の多くは「 コレって、いったい何? 」と 首を傾げるコトに なりそうです。
現実と幻想、有機質と無機質、過去と現在と未来……、それらが綯い交ぜになったような内容は、僕に言わせると〝真夜中のシュールな夢〟。とにかく、とても不思議な世界でした。

特に印象に残ったのは……、
1) 宇宙船内の昭和レトロな台所。
2) 銀河の中を ゆっくりと進む、宇宙船のロングショット。
3) 旧式のテープレコーダーの匂いを 懐かしげ(?)に嗅ぐ etc、洋子の 奇妙でいて共感できる 何気ない行動。
4) 荒涼とした、人の気配のない街並みや海辺の佇まい。
5) 洋子が「さおりさん」という女性に、宅配便を届ける〝影絵〟の場面。

なお、洋子役を演ずる 女優・神楽坂恵は、園監督の奥さま。ロケが敢行されたのは、〝3.11〟の痕跡が色濃く残る、福島県の三つの町とのコトです。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の 肌・心塾 http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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