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2015.1.8

大高博幸の美的.com通信(266) 『暮れ逢い』『おみおくりの作法』『ジミー、野を駆ける伝説』『シン・シティ』 試写室便り Vol.83

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© 2014 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – SCOPE PICTURES
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ゲラン ルール ブルー

夕暮れ、ルール ブルーに染まる僅かな時間。
そして、ふたりは めぐり逢う…
暮れ逢い』 (フランス=ベルギー合作/98分/PG12)
12.20より 公開中。
www.comstockgroup.jp

【STORY】 実業家 ホフマイスターの屋敷に、秘書として才覚あふれる美しい青年 フリドリックがやってくる。一つ屋根の下で暮らすうちに、ホフマイスターの若き妻 シャーロットと青年は惹かれあう…。愛を口にすることも触れ合うことも出来ず、想いだけが募ってゆくなか、青年の南米への転勤が決まり、初めて互いの気持ちを伝え 愛を誓いあう。しかし、まもなく訪れた第一次世界大戦により 彼らの運命は大きく揺れ動く――。(試写招待状より)

1912~18年のドイツを舞台とした、老実業家の若い人妻と貧しい出自の青年との純愛物語。
惹句にある“ルール ブルー”とは、日の出の直前と日の入り直後の空が 深い青色に染まる、ほんの短い時間帯を意味しています。また、1912年は ゲランの名香『ルール ブルー』が発表された年でもあり、映画の中盤に、「あなたが御愛用の香水は 何という名前ですか?」と青年に問われたシャーロットが、「そんな質問を女性にするなんて失礼よ。でも いいわ、ゲランの『ルール ブルー』よ」と答える場面が出てきます。
この映画は 知的かつ官能的、気高くも甘美な内容で、特に女性観客を魅了するコトは間違いありません。ともすれば気取った雰囲気になりがちな題材でもあるのですが、主にシャーロット役の レベッカ・ホールの好演技によって、温かみのある作品となっています。フリドリック青年役の リチャード・マッデン(次回作は『シンデレラ』の王子役に決定)も適役で、青年らしい生真面目さの中に 清潔な色気を漂わせています。
別れて6年。その内の4年間は音信不通…。やがて戦争が終わり、フリドリックがシャーロットに逢いに戻って来る場面で、僕は全身に微かな震えが走っている自分に気づきました。
グレイッシュブルーとウォームブラウンを基調とした美しい画面、ラストのロマンティックな夕暮れの情景も、忘れがたい印象を残します。監督は、『髪結いの亭主』や『仕立て屋の恋』の パトリス・ルコント。
P.S. ゲランの『ルール ブルー』は、ベルエポックを代表するフレグランス(セミオリエンタルタイプに属す、フローラル×パウダリーな香調)。日本では ゲランの直営店ブティックで取り扱われています。詳しくは、0120-140-677へ。

 

ⓒExponential (Still Life) Limited 2012
ⓒExponential (Still Life) Limited 2012

ロンドン市、民生係 ジョン・メイ。
あなたの旅立ち、心を込めて見守ります。

イギリス中を旅し、人と出会い、
「死」と向き合い、「生きる」ことを知る……。

世界中の映画祭が絶賛!
おみおくりの作法』 (イギリス=イタリア合作/87分)
1.24 公開。www.bitters.co.jp/omiokuri

【STORY】 ロンドン市 ケニントン地区の民生係、ジョン・メイ。ひとりきりで亡くなった人を弔うのが彼の仕事。事務的に処理することもできる この仕事を、ジョン・メイは誠意をもって こなしている。しかし、人員整理で解雇の憂き目にあい、ジョン・メイの向かいの家に住んでいた ビリー・ストークが 最後の案件となる。この仕事をしているにもかかわらず、目の前に住みながら言葉も交わしたことのないビリー。ジョン・メイは ビリーの人生を紐解くために、これまで以上に熱意をもって仕事に取り組む。そして、故人を知る人々を訪ね、イギリス中を旅し、出会うはずのなかった人々と関わっていくことで、ジョン・メイ自身も新たな人生を歩み始める…。(プレスブックより)

この映画は どちらかと言うと慎しい小品ですが、ワールドプレミア上映されたヴェネチア国際映画祭で 監督賞を含む4賞を受賞。その後も世界中の映画祭で 作品賞・観客賞・主演男優賞etc、数多くの賞を受け続けている佳作(傑作と言うべきかも)です。

ジョン・メイは、22歳の時から22年間、誠心誠意、仕事に打ち込んできた独身男性。「そんな仕事をしているの? タイヘンねぇ」と ある人から言われて、「好きですよ、僕は この仕事」と応じる場面がありましたが、彼は本当に心を込めて仕事をしています。孤独死した人の 身内・友人・知人を捜し回り、「ひとりでも葬式に出てほしい」という願いに貫かれ、どんなに些細なコトでも「手掛かりになるかも」と考えて行動するのです。たとえば、亡くなった人の荷物の中にあった 古い写真のネガをプリントしてみる…。そこに写っていた 若かりし日の故人が被っている帽子に、あるパン工場のネームが入っていた…。そこで とにかく、そのパン工場まで、遠路はるばる 出向いて行ったりするのです。断っておきますが、彼は葬儀の費用を請求するために 時間と労力を費やしているのでは ありません。「葬式代の支払い義務も列席の義務も全くなく、たゞたゞ死者の“生きた時間”のために、できれば葬儀に立ち合ってほしい」という一心から、徹底的に行動するのです。しかも、押しつけがましい要求は一切せずに…。
多くの事務的 or 冷淡な人々の中にあって、ジョン・メイは それとは対照的な生き方を通し続けています。その姿勢は 少なくとも、役所の掃除係の女性や墓地の作業員の男性達には理解されているようでした(詳しくは書けませんが、ラストシーンでは 不測の事態が発生した後、それが100倍も強く、感動的に“証明”されます)。
本作は、社会のありかたや他者との繋がりについて考えさせられる内容ですが、僕は ジョン・メイのように仕事をする人が 今の世に実際に存在しているコトと、それに応える人達がいるという事実に、心底 感動しました。そして、自分自身の中にも 微量ながら未だに存在している誠意と熱意を、絶対に持ち続けなければと思わせていたゞきました。
ジョン・メイを演じるのは、同世代の俳優の中で最も敬意を払われている名脇役のひとり、エディ・マーサン(1968年生まれ)。監督は『フル・モンティ』(’97)の製作者として有名な ウベルト・パゾリーニ(ルキノ・ヴィスコンティは 彼の大叔父に当たるそうです)。
『おみおくりの作法』は、黒澤明監督の『生きる』(’52年度の日本映画ベストワン作品)と ある意味で共通点を持っていると感じましたが、それ以上に観るべき作品だと僕は断言します。

 

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ⓒ2014 Maddartico Limited. All Rights Reserved.

正式にはベイシン・シティ。あらゆる黒い感情が渦巻く街。
生き抜くため、アウトサイダーたちが しのぎを削っている。
シン・シティ 復讐の女神』 (アメリカ/103分/R15+)
1.10 公開。SINCITY.GAGA.NE.JP

【STORY】 太陽も朽ち果て、闇に抱かれた この街で、男たちの荒んだ心を照らす ひとりの女神。場末のストリップバー“ケイディ”のダンサー、ナンシーだ。だが、彼女のなかにも闇がある。愛する男を死に追いやったロアーク上院議員を、必ず殺すという誓いだ。しかし、ロアークは非道な手で、次々と果てしない欲望を叶えていく。稀代の悪女 エヴァの暗躍も絡み、虫ケラのように踏みつぶされるアウトサイダーたち。彼らが燃えたぎる憎しみで共鳴した時、激烈な復讐がはじまる!! (試写招待状より)

「バッドマン」シリーズや「300(スリーハンドレッド)」の原作者:フランク・ミラーの伝説的グラフィック・ノベル「シン・シティ(罪の街)」から、大人気のエピソード2話と新たに書きおろされた2話で構成された壮絶な復讐劇。
ジェシカ・アルバ、ミッキー・ローク、ブルース・ウィルス、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ジョシュ・ブローリン、エヴァ・グリーンに加え、“世紀の歌姫”レディー・ガガ(ダイナーの謎のウエイトレス役)etcが出演。“疾走感溢れるアクションとクールな映像美”に“男と女の熱きドラマ”が絡みます。
僕はスタイリッシュな凝った映像に圧倒されましたが、少し気になったのは 脚本家と監督が エヴァのルックスとキャラクターに肩入れしすぎの感があったコト。エヴァ役の エヴァ・グリーンは 若かりし頃の シャーロット・ランプリング風で 極めて魅力的…、登場場面を多く長くしようとした(?)気持ちは分かりますが、多分 そのために、彼女に絡むドワイト役の ジョシュ・ブローリンと、彼女の色香の虜となる 最もリアルな人物:モート刑事役の クリストファー・メローニが ミョーに印象に残りました。
主要登場人物の中では、ナンシー役の ジェシカ・アルバの印象が やゝ薄く、傲慢なギャンブラー役の ジョセフ・ゴードン=レヴィットのガンバリ振りと、マーヴ役の ミッキー・ロークの怪演振りが光っていました。

 

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© Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Element Pictures, France 2 Cinéma,Channel Four Television Corporation, the British Film Institute and Bord Scannán na hÉireann/the Irish Film Board 2014

前作『天使の分け前』が大ヒット!
英国の至宝 ケン・ローチ監督が描く、
アイルランドで唯一、国外追放となった“名もなき英雄”の物語。
ジミー、野を駆ける伝説』 (イギリス=アイルランド=フランス合作/109分)
1.17 公開。www.jimmy-densetsu.jp

【STORY】 1932年、内戦後のアイルランドに、米国から ジミー・グラルトンが10年ぶりに帰ってきた。仲間たちに歓待されたジミーは 年老いた母親との平穏な生活を望んでいたが、村の若者たちの訴えに衝き動かされ、閉鎖された≪ホール(集合所)≫の再開を決意する。かつてジミー自身が建設した そのホールは、地元の人々が芸術や音楽を学び、歌とダンスに熱中した かけがえのない場所だったのだ。やがて ジミーの決断が、図らずも それを快く思わない勢力との諍いを招いてしまい…。 (プレスシートより)

『麦の穂をゆらす風』(2006)で カンヌ国際映画賞のパルムドールを受賞し、『天使の分け前』(’12。通信(147)で紹介)が 日本でも予想外の大ヒットを記録した ケン・ローチ監督の最新作。本作は『麦の……』と対をなすようなヒューマンドラマで、庶民が国家と教会団体から理不尽な抑圧を受けていた時代に、自由と歓喜に溢れる人生の価値を説いた 実在の人物を描いています。
ジミーは 豊かな知性と感性に裏打ちされた信念の強さを持つ労働者で、その私利私欲のない高潔な人間性に僕は胸を打たれました。
ケン・ローチの演出は 比較的淡々としていて、作風としては『天使の…』に似ている感じもあります。
背景となるアイルランドの片田舎の美しさ、ジミー(バリー・ウォード)を支持する隣人のモシー(フランシス・マギー)や 昔の恋人のウーナ(シモーヌ・カービー)との描写に しみじみとした味わいがあり、場面としては ジミーとウーナの、夢想的とも言える 月明かりのホールでのダンスシーンが見事でした。
少々唐突 or ムシが良すぎるようにも感じたのは、威圧的かつ不寛容な老神父のシェリダンが、ラスト近くの場面で ジミーに敬意を示す場面。本心からの敬意だったとは思いますが、シェリダンに反発するコトも少なからずあった若いシーマス神父に、その役割を与えるほうが 映画としては良かったのでは? と僕は感じました。
俳優は全員が適役好演。40代のジミーを演じている バリー・ウォードは、実際は昨年10月に35歳になったばかり。本作で注目されて以降、幅広いジャンルの作品への主演 or 出演が決定しており、今後のブレイクが予想されます。また、マリー(村の少女)役の アシュリン・フランシオーシが ハツラツとした愛らしい魅力を発散。彼女の今後の活躍にも期待したいところです。

次回の試写室便りは、『マエストロ!』『ドラフト・デイ』etcについて、1月下旬に配信の予定です。では!

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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