『 リュミエール! 』『 女神の見えざる手 』『 婚約者の友人 』 『 ネリー・アルカン 』 試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 】Vol.417
大高博幸さんによる映画試写会便り。今回は『 リュミエール! 』『 女神の見えざる手 』『 婚約者の友人 』 『 ネリー・アルカン 』 をご紹介します。
他人は すべて「 道具 」!?
徹底してプロフェッショナルで、
私生活ゼロのヒロインの驚愕の日常。
ジェシカ・チャステイン、
唯一無二のハマリ役!
女神の見えざる手
フランス、アメリカ/ 132 分
10.20 公開/配給:キノフィルムズ
miss-sloane.jp
【 STORY 】 政権の決断に影響を与え、世論も左右するプロの集団。その名は「 ロビイスト 」。いったい彼らは、どんな戦略を巡らせて その見えざる手で権力をも操作し、人々の心を動かしていくのか?
天才的な戦略でロビー活動を仕掛ける エリザベス・スローン。彼女に舞い込んだ新たな仕事は、銃規制法案に対し、女性の銃保持を推進したい団体からのプロジェクトだった。自分の意思を曲げてまで 仕事を受けたくない彼女は、大手ロビー会社を辞め、反対の立場から銃規制法案にアプローチする。しかし、両陣営が しのぎを削るなか、エリザベス・スローンの過去の不正疑惑が取りざたされ……。( 試写招待状 + プレス資料より抜粋 )
「 ロビイスト 」とは耳慣れない言葉ですが、もとを正すと、政界の議員が 院外者とロビー ( 控え室 ) で面会するコトから生まれた単語で、ロビー活動を行うプロフェッショナルを意味します。
本作で J・チャステインが演ずるのは、そのプロ中のプロ、怖いくらいの一種の悪女。仕事のために 極力 眠らず、神経を研ぎ澄ませる薬を ヒンパンに口へ放り込み、本気で「 食事も全てピルで済ませられたら、どんなにいゝだろう 」などと口走るワーカホリックな人物。自分の陣営内にスパイを発見した時の対応のクールさ ( 彼女の眼の表情を 注意深く観ていると、それが具体的に描写される前に「 何かがある 」と感じさせたりする 演出・演技が 実に巧み ) 、仲間の身の危険も顧りみずに 切り札として使おうとする神経、また、恋をする余裕など皆無なので、性的欲求は「 エスコートサービス 」 で満たすという習性の持ち主…。
そんな人物なのに、おそらく観客のほとんどが 彼女の味方に立ってしまうのは何故なのか? それは 第一に、チャステインの演技に奥行きがあるから。彼女が演ずる E・スローンの プロとして徹底ぶり、信念と正義感の強さが 如実に伝わってくるから。もっとも、後半に差し掛かる辺りで、ほんの少し、彼女自身が 自分の身の上を 不用意に吐露してしまう場面があり、それが チャステインのスターイメージと 符号するところも見事 ( 彼女が多くのファンを摑んだ『 ヘルプ 心がつなぐストーリー 』( Vol.91 ) でのシーリア役と、どこか重なる〝 過去 〟を連想させるのです ) 。
チャステインとしては、これは久々のハマリ役。もしかしたら、プレス資料に記されていた「 唯一無二のハマリ役 」というフレーズ、そのものです。
僕は 外資系の化粧品会社に、通算 約 24 年 勤務していました。その間、主にマーケティング戦略を練る仕事を 第一の責務とする人物と 少なからず接してきたせいもあってか、E・スローンと 彼女を取り巻く人物たちの言動に、終始 目が釘付けでした。But、これは 誰が観ても、思わず のめり込んでしまうに違いない 第 1 級のノンストップサスペンス、勧善懲悪劇的な要素も備えた 第 1 級のエンターテインメント。
以下 蛇足ですが、あっぱれだったのは、精密機器の〝 特別なコックローチ 〟の活躍ぶり。もうひとつは、意外な人物が 彼女のために〝 嘘の証言 〟をするプロセス。それは、このドライな映画の中に存在する、ほんの少しの人情味…。その辺りも含めて、映画館でドキドキしながら観てください。
監督は、アカデミー賞®作品賞に輝いた『 恋におちたシェイクスピア 』、グウィネス・パルトロウが主演した『 プルーフ・オブ・マイ・ライフ 』の ジョン・マッデン。
1919 年、戦後のドイツ。
愛する人の墓の前で泣いていた男。
彼の正体が明かされた時、
新たな謎の扉が開く――。
フランソワ・オゾン監督 最新作。
婚約者の友人
フランス、ドイツ/ 113 分
10.21 公開/配給:ロングライド
Frantz-movie.com
【 STORY 】 1919 年、戦争の傷跡に苦しむドイツ。婚約者のフランツを フランスとの戦いで亡くしたアンナも、悲しみの日々を送っていた。ある日、アンナがフランツの墓参りに行くと、見知らぬ男が フランツの墓に 花を手向けて泣いている。戦前に パリでフランツと知り合ったと語る 男の名はアドリアン。アンナとフランツの両親は 彼とフランツの友情に感動し、心を癒される。だが、アンナがアドリアンに〝 婚約者の友人 〟以上の想いを抱いた時、アドリアンが自らの〝 正体 〟を告白する――。( プレス資料より。一部省略 )
『 8人の女たち 』『 スイミング・プール 』『 ぼくを葬 ( おく ) る 』『 17 歳 』( Vol.205 ) 等の監督 フランソワ・オゾンの最高傑作と評され、昨秋の公開時にフランスで No.1 ヒットとなった ミステリアスなヒューマンドラマ。モノクロの画面が幾つかのシーンで徐々にカラーになるという、1 種の〝 パートカラー 〟のスタイルを採用した映像の美しさ ( セザール賞で撮影賞を受賞 ) が本作の特徴のひとつ。F・オゾンとしては、粘度の強い性的描写が どこにもない作品で、時代背景のためだけでなく、演出のタッチにもクラシックで上品な趣が漂っています。
フランス人であるアドリアンの〝 正体 〟と、ドイツ人であるフランツの関係に 興味をそゝられる内容ですが、全篇を通じて 本作には〝 戦争の罪 〟が 色濃く影を落としています。そして アドリアンの〝 正体 〟を知った後のアンナの心理状態が、観客の心を揺さぶる結末へと導いて行きます。
僕の心に最も強く響いたのは、アドリアンの非常に繊細な性格以上に、彼の〝 想い出話 〟に歓喜する フランツの両親の姿、そして 彼らに真実を伝えまいとする アンナの痛ましい心情でした。
アドリアン役は『 イヴ・サンローラン 』( ’14。Vol.244 ) の主役でセザール賞を獲得した ピエール・ニネ。アンナ役は オーディションで選ばれた パウラ・ベーア。彼女は本作で、ヴェネツィア国際映画祭 マルチェロ・マストロヤンニ賞 ( 新人俳優賞 ) を受賞しています。
高級エスコートガールだったネリーの、
性と生の物語。
ネリー・アルカン
愛と孤独の淵で
カナダ/ 99 分
10.21 公開/配給:パルコ
nelly-movie.com
【 STORY 】 高級エスコートガールだった自らの過去をモデルに、美しくも残酷なエロスを描いた小説でデビューしたネリーは、一大センセーションを巻き起こす。自伝的小説のヒロインが「 性 」に翻弄され、小説家として 自らの「 生 」に苦悩する はざまで、男たちを虜にするエスコートガール、刹那的に愛を求めるジャンキー、社交界で注目を浴びるセクシーアイコン、次々と生み出した分身たちに 彼女自身が やがて蝕まれていく。( 試写招待状より )
フランス文壇に彗星の如く現れ、36 歳の若さで逝った実在のベストセラー作家 ネリー・アルカンの生涯と、エロティックで過激な小説の世界を綾織りにした一編。トロント映画祭で カナダ映画 2016 TOP 10 に選出されています。
確かに〝 エロティックで過激 〟な内容ですが、官能的というニュアンスとは異なり、敢えて言うと 性心理を追求している精神分析医が 第一のターゲットという感じ…。
ネリーの分身 = ペルソナとしては、エスコートガールの < シンシア > と セクシーアイコン < マリリン > のキャラクターが面白く、ジャンキーの < アミ > の場面は 印象が希薄。記者会見に臨む < マリリン > が 決まらないメイクを直す場面や、セレブのパーティで派手に腰を振って歩く場面、スタンドマイクに向かって歌う場面は、明らかに マリリン・モンローを意識した演出です。
主演の ミレーヌ・マッケイは、全身 アイボリー色のミルキーソフトな肌が、異様なほどの美を放っています。監督は、『 ある夜のセックスのこと モントリオール 27 時 』のアンヌ・エモン。
映画のはじまり、初体験。
リュミエール!
フランス/ 90 分
10.28 公開/配給:ギャガ
gaga.ne.jp/lumiere!/
【 INTRODUCTION 】 1895 年 12 月 28 日 パリ、ルイ & オーギュスト・リュミエール兄弟が発明した〝 シネマトグラフ 〟で撮影された『 工場の出口 』が、世界で初めて有料上映された。全長 17 m、幅 35 mm のフィルム、1 本、約 50 秒、現在の映画の原点ともなる 演出、移動撮影、トリック撮影など 多くの撮影技術を駆使した作品は、当時の人々の心を動かした。本作は、1895 年からの 10 年間に製作された 1422 本より、カンヌ国際映画祭 総代表、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務める ティエリー・フレモー氏が選んだ 108 本から構成された、珠玉の 90 分です。( 試写招待状より。一部省略 )
映画通には、絶対 見逃せない一篇でしょう。幸いにも保存状態が良好だった 1 世紀以上昔のフィルムに、最小限度内で修復を施した映像は 極めて鮮明。ユーモアとシンパシィを感じさせる T・フレモー氏の解説ナレーションには、リュミエール兄弟への敬意と愛が溢れています。
今回 収録された 108 本の中には、映画史の上で有名な『 工場の出口 』『 水をかけられた庭師 』『 列車の到着 』等々が 当然 含まれていますが、その他に 相当 or 非常に珍しい作品が多数用意され、僕は それらを〝 映画の原点 〟として、眼を見開いて観賞しました。
特に感動させられたのは、広場や大通り ( ベルクールやコンコルド、ノートルダム寺院前、シャンゼリゼ、ビッグベンを望むウェストミンスター橋、NYのブロードウェイ等 ) での馬車と人々の往来、馬 2 頭で走る消防車の出動。ヴェネツィア運河やセーヌ川、金角湾から捉えたトルコのパノラマ ( 移動撮影による映像 ) 。洪水に見舞われた大司教可岸 ( 現 ロマン・ロラン河岸 ) 、アゼルバイジャン油井の大火災、イタリアの造船所での進水式といったニュース映像。ピラミッドとスフィンクスを背にしたラクダの行進や、エルサレム郊外を移動するキャラバンの一行。川辺で働く洗濯女たち、バルセロナの港での荷揚げや 大型蒸気釜の設置作業。兵士たちの奇妙なダンス、ビアリッツの浜辺、海岸での小エビ捕り、雪合戦、ベトナムの小村の元気な子供たち、万国博覧会を間近にしたエッフェル塔のエレベーターからの眺め、夢のように美しい金魚鉢、1 コマずつ丁寧に彩色された舞踊場面…。
時に 前進 or 後退するカメラが放つ映像の迫力、力強く立ち昇る蒸気や揺れ動く水面の詩的な美、人々の動き、生活の情景、そして 多くの場合、ファインダーがなかったカメラの 固定されたポジション、その構図と奥行きと空間の見事さに 圧倒され続けの 90 分でした。
P.S. 1 現代は 誰でも簡単に映像を撮れる時代です。But、本作を一度観たなら、皆さんのカメラマンとしての腕も 一段と向上するのでは? と思いました。
P.S. 2 『 ショコラ 君がいて、僕がいた 』( Vol.378 ) を観た皆さんはラッキー。あの映画の中で、ショコラとフティットの演技を 手回しカメラで撮影していたのが リュミエール兄弟です。エンドロールの直前には、その 実写フィルムも紹介されていましたよね。
アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
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■大高博幸さんの 肌・心塾
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