スキンケアニュース
2014.9.2

大高博幸の美的.com通信(244) 9月のオススメ 『イヴ・サンローラン』etc 試写室便り Vol.74

YSL1960年代から現在に至るまで――。
ハイブランドの創始者にして、伝説の天才デザイナーの輝けるキャリアと知られざる人生。
その “喝采と孤独”。

イヴ・サンローラン財団 初公認作品
イヴ・サンローラン』 (フランス映画/106分/映倫 PG-12)
9.6 公開。ysl-movie.jp

【STORY】 1957年、パリ。21歳の若さで、故 クリスチャン・ディオールの後を継いだ イヴ・サンローランは、初めてのコレクションを大成功させて、華々しいデビューを果たす。芸術家を後援していた26歳のピエール・ベルジェは、友人の紹介でイヴと出会い、すぐに恋におちる。イヴの才能に心酔したピエールは、彼の繊細な心を守ると決意し、ディオール社とのトラブルも一手に引き受け、資金集めに奔走して イヴ・サンローラン社を設立する。
イヴは次々と革新的なコレクションを発表、ファッション界の頂点を極めると同時に、カルチャーアイコンとしても その名を世界に知らしめていく。だが、孤独とプレッシャーが イヴの魂を蝕み、やがてアルコールや薬に依存するようになっていく――。(プレスブックより)

2011年4月に日本でも公開された “ドキュメンタリー”映画『イヴ・サンローラン』(通信(54)で紹介)とは異なり、本作は 事実に基づいて脚色された “劇”映画。公私共にサンローランのパートナーだった ピエール・ベルジェが全面協力、YSL財団所有の貴重なアーカイブ衣装の貸し出し許可を得て製作された、“ブランド初公認”の本格伝記映画です。
本国フランスで公開されるや いなや、アカデミー賞を賑わせた『ゼロ・グラビティ』や『あなたを抱きしめる日まで』を抜いて、初登場NO.1の大ヒットを記録しました。

僕が最も驚かされたのは、サンローラン役のピエール・ニネが本物そっくりだったコト以上に、ラスト近くに映し出される1976年秋冬オートクチュールコレクションの場面の素晴らしさでした。前述のアーカイブ衣装の保存状態が完璧で、まるでコレクション当日のステージをリアルタイムで観ているような感覚…。16mmフィルムに残された記録映像では とても再現しきれない布地の風合いまでを、リアルに堪能できたコトです。それも展示品として飾られているのではなく、生きたモデルたちが着て、歩き、動いて観せるのですから、真に圧倒的でした。

この映画の凄いところは もうひとつ。フランスの国宝的天才デザイナーの “負 or 陰”の部分をも 綺麗事でなく描写している点で、これは非常に珍しいコトだと思います。
本作は “劇”映画だけあって、サンローランの “過去の映像”には残されているはずもない “相当に危険な場所での 相当に危険な性的行動”までを 赤裸々に描き出しているのです。これに関しては 少なからずショックを受ける観客が いそうですが、スキャンダラスに なり下がる一歩手前 といったギリギリの表現が成されているのは、ジャリル・レスペール監督(脚本・脚色も共同で担当)の “YSLに対するリスペクト”が 充分にあってのコトでしょう。

アラ捜しをするつもりは 本当に全くないのですが、正直に言うと、僕としては 気になるコトが 3点ほど ありました。

その1。 サンローラン好みのモデル:ヴィクトワールのモデリング(ショーの場での歩きかた~ポーズの決めかた)。立ち止まってポーズを取るという瞬間に、急停止する車のような動きを2~3度 繰り返していたコト。あの時代のトップモデルは、雲に乗って現れるかのように歩き、フワッと なめらかに立ち止まったはず。分かりやすい例を上げると、’57年の映画『パリの恋人』のファッションショー場面での オードリィ・ヘプバーンのように、です。僕が初めてショーのモデルメークの仕事をしたのは ’70 or ‘71年、ルイ・フェローの日本でのコレクション発表会の時でしたが、モデルたちは そうした体の動きに 全神経を集中させていたモノでした。

その2。 ’76年のコレクションの最中の場面で、着替え途中のモデルの顔にハイライトを丁寧に入れているメークアップアーティストの姿が映っていましたが、狭い上に 火事場のように ゴッタ返すバックステージでは、まず ありえない光景でした。誰かとブツかる可能性が極めて高く、衣装を化粧品で汚したり、モデルが出番のタイミングに少しでも遅れたりすると大変なので、コレクションが始まったら終るまでは、ステージの数歩手前で、モデルの汗ばんだ肌を そっとパフで押さえる(モデルは、衣装やシューズに 粉が かゝったりしないようにと、45°ぐらい体を前傾させて、顔だけをメーク係に突き出してくれるのです)…。それ以外のコトは 極力しないというのが 約束事になっていました(コレは、少なくとも’70年代後半~’80年代中頃までの、主にシャネルのコレクションのバックステージでの話ですが)。

その3。 ルル・ドゥ・ラ・ファレーズの扱い。実際の彼女とは 似ても似つかないルックスとキャラクター。実際のルルは、すぐにナーヴァスになって 落ち着きを なくしてしまうサンローランを 咎めるような目で見たりする性格ではなく、その正反対の行動で 彼の神経を安定させる “メンタル・バランサー”的役割を果たせた稀有な存在でした。なぜ、ルルを あのような人物として扱ったのか、これは 本作に対する 僕の一番の疑問点です。

それは ともかく、サンローランのキャリアと人生に興味を抱いている方々は、この “劇”映画と 前述の “ドキュメンタリー”映画の両方を、ぜひとも観てください。どちらも 一見の価値以上のモノを有しています。

P.S. 小さなコトですが、フロアショーの招待客のひとりとして一瞬登場する ジャン・コクトー役を、ワリと似ている俳優が演じていました。
その少し後の場面で、たしか ベルジェ氏が、「マダム・ヘレナ・ルビンスタインと ミス・エリザベス・アーデンは 必ず 席を離せよ」と スタッフたちに注意している台詞がありました。ふたりの そっくりさんが現われるのかと思い、僕はワクワクしたのですが、どうも登場しなかったようです。もしかしたら、他の人物に気を取られて、僕が見逃してしまったのかも…。ミス・アーデンは ともかく、マダム・ルビンスタインは特徴のある姿形なので、すぐに見つけられるはずだったのですが、残念無念!

 

ジェラシー
© 2013 Guy Ferrandis / SBS Productions

嫉妬(ジェラシー)という感情の持つ謎。
時代を超えて くりかえされる 愛の物語。
ジェラシー』 (フランス映画/77分)
9.27 公開。www.jaloucie2014.com

【STORY】 舞台俳優のルイは、クロチルドと 愛する娘 シャーロットと別れ、同じく俳優で新しい恋人のクローディアと パリの小さな屋根裏部屋で同棲生活を送っている。しかし俳優業に行き詰まり 貧困生活に嫌気がさしているクローディアの心のうちに、ルイへの嫉妬の炎が ともり始める。ある晩 彼女は ひとりの建築家と出会い、仕事の話を もらう。新しい道を進もうとするクローディアに対し、今度はルイの心に嫉妬の炎が燃え移る。やがて彼らの家で 一発の銃声が響き渡る…。 (プレスブックより。一部省略)

恋愛・結婚・離婚を繰り返す男と女、離婚した親と その新しい恋人との間を さまよう子供たち…。愛の誕生と崩壊とを描き続けてきた フィリップ・ガレル監督が、芸術と愛に生きるカップルの 感情の変化を描いた作品です。

演出は淡々としていますが、ミュゼットの幾つかの歌のようにドラマティック。たゞ、題名の『ジェラシー』(原題:LA JALOUSIE)について 本作を観ながら僕が感じたのは、“ジェラシー”という単語に抱くニュアンスが、フランス人(or 監督&脚本の F・ガレル)と 日本人(or 僕自身)では 少し違うのかも というコトでした。

主演は、監督の実の息子である ルイ・ガレルと、『シャネル&ストラヴィンスキー』(僕は駄作だったと記憶しています)で ココ・シャネルに扮していた アナ・ムグラリス。本作で彼女が演ずるクローディアは テンペラメンタルな性格で、あのように生きて行ったのでは 先が知れない という感じ…。ふたりがケンカ別れする場面での台詞が、彼女の人生を象徴しているかのようです。
「もう終わり。悪いけど」
「男の所へ?」
「ウイ。行くわね」
「後悔しないといゝが…」
「答えが必要? …時間が答えよ」

モノクロの映像は とても美しく、ダブルトーン風の趣がある上、俳優たちの皮膚感が 驚くほど綺麗に撮られていました。

余談ですが、このストーリーは “オムニバス映画の中のひとつ”という形で作られていたなら、きっと さらに輝きを放つ一篇となったのでは? という気がしています。
とは言え、恋愛と仕事etcの はざまで 心が揺れ動いている という自覚を持つ読者の方々には、特に一見の価値がある作品です。

 

th_allいままでにない映像体験と 新たなる英雄伝説。
愛のため――男が挑むのは、史上最強のギリシア軍!
ザ・ヘラクレス』 (アメリカ映画/100分)
9.6、2D・3D 公開。THE-HERCULES.COM

【STORY】 古代ギリシア。オリンポスの神・ゼウスの子として産まれたヘラクレスは、美しい姫 へべと恋に落ちるが、兄との政略結婚のため、二人は 突然 引き裂かれてしまう。姫と逃げようとしたために捕えられたヘラクレスは、決して生きて帰っては来られない戦地へと送られる。しかし、仲間の戦士 ソティリスと協力し、ヘラクレスは九死に一生を得る。暴君 アンピトリュオン王の圧制から王国を解放する戦いの中で、兄から恋人を奪い返し、ヘラクレスは ギリシアの英雄たちの頂点を目指す――。(プレスシートより)

小学4年生の頃、スティーヴ・リーヴス主演の大型史劇『ヘラクレス』(1957/イタリア映画)を コーフンしながら観た記憶があり、それが本作の試写に出向いた一番の理由です。

試写は 全回3D上映とのコトで、僕は「目が疲れそう…」と 心配しながら席に着いたのですが、結果的には 3Dの効果に感服させられました。今までに観た3D映画の中で、3Dを最も効果的に駆使した作品と言って過言ではなく、特に俯瞰(フカン)で捉えた場面の奥行きの深さなど、身が すくむ思いをした程です。

ギリシア神話や歴史劇といった類のスペクタクル映画というと、セットが意外に お粗末で、崩れ落ちる宮殿の石柱がハリボテの箱のように見えたり、俳優陣がセミプロ風だったり というコトが よくあるのですが、本作は その種の興ざめを感じさせませんでした。

ヘラクレス役の ケラン・ラッツは 鼻の付け根が低めなためか、彫刻的でロマンティックなハンサムだった スティーヴ・リーヴスと比較すると、むしろ親近感を覚える顔立ち。彼は 王妃(ヘラクレスの母)役の ロクサンヌ・マッキーや ヘベ姫役の ガイア・ワイスらと共に、熱のある真摯な演技を見せています。

監督は、『クリフハンガー』や『ダイハード2』で 世界中のアクション映画ファンの心をワシづかみにした レニー・ハーリン。ラストには 意外性のあるハッピーエンドも用意されている、ダイナミック・スペクタクル・エンターテインメント。休日に ボーイフレンドと一緒に楽しんでみては?

 

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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