ジェーン・スーさんと語る「『That’s life』は魔法の言葉」|作家LiLy対談連載「生きるセンス Season.7」第3話

「年齢を重ねるって、どういうことですか?」作家・LiLyさんが人生の先輩を訪ねて歩いた人気連載『生きるセンス』がwebへとお引越し。より楽しく、より自由に、より心地よく生きるべく、人生のヒントをさらに深掘りしていきます。Season.7のゲストは、ジェーン・スーさんをお迎えします。
第1話▶▶ジェーン・スーさんと語る「32才がオバサンだった時代」
第2話▶▶ジェーン・スーさんと語る「フリーランスと会社員、どっちがいいのか問題」
ままならない現実にぶち当たったらまずは「That’s life」――ジェーン・スーさん
LiLyさん(以下、L) 年齢重ねると、大人としての責務を自分だけでなく周囲にも果たすべきことが増えてきて、それは子育てや介護など多岐にわたりますよね。スーさんは破天荒なお父様との物語を、著書『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)にも詳しく書いているけれど、今の状況はどんな感じですか?
スーさん(以下、S) 私は同居という形は取らず、遠隔で面倒を見ているスタイル。うちの父親は本当にめちゃくちゃなの。年金以上の家賃の家に住んでいるから、その支払いを私が補助したり。もうね、常識の範囲を超えてる親だから。
L ひゃー。しかしお金のことでいえば、親がどれだけの額をもっているのかって、多くの人は把握してないよね。私も知らないですし。
S 多くの親は「子供に迷惑をかけたくない」と言うものの、何かあったら最終的に子供が面倒を見ることになるよね。うちはまだ認知症ではないものの、立てない、歩けないという日もあるし、言ったことを覚えてないという日だってある。とにかく親はどんどん老いて、できることが少なくなっていく。その事実は変わらない。
L スーさんは、そのことにどう向き合っているの?
S いや、ただただ「That’s life」。それだけ。
ああ、この無意味に思える時間こそがリアルな人生なのだ――LiLy
L ああ、まさに「That’s life」! それ以上でも以下でもない! ちょっと話は逸れるけど、私が大好きなアメリカのドキュメンタリーで『Catfish』というシリーズがあるのね。
S 「Catfish」はネットスラングで「なりすまし」の意味だよね。
L ですです! 要はネットで出会ってまだ実際には会ったことがない人と恋愛していて、相手が本当は誰なのかを確かめにいく番組なんです。若いイケメンの金髪男子が、オンライン上のやりとりで本気で恋してしまった“金髪美女”に会いに行くんだけど、ドアを開けたら、その写真はフェイクで実際はなんと暇つぶしをしていたおじさんだったわけ。呆気に取られる男子に向かって、おじさんが開き直りまくって言い放った言葉、それがまさに「That’s life」。いやいや、それはないだろって思いながらも、そのキラーワードには思わず膝を打っちゃったよね。その後、おじさんがいじめられていた過去や現在の孤独などの理由でなりすましの快感を得てしまった経緯など、サイドストーリーが描かれて、少しは救われるんだけども。
S いいね! 「That’s life」を語るのにドンピシャなエピソードだね。
L たとえば私の場合、仕事が死ぬほど忙しいときに、子供の一挙手一投足によって莫大な時間がとられて、結局、仕事のTODOを何ひとつこなすことなく深夜に体力が尽きたとき、まさに「That’s life」って思うよね。「やり切った!」「到達した!」とかの真逆で、ああ、この無意味に思える時間こそがリアルな人生だよな、っていう。
S そう、ただ淡々とつぶやくことで、状況をフルフラットにならす。それが「That’s life」の正しい使い方。
L そうか、ネガをポジにするのではなく、ただニュートラルに戻してくれるのが、この「That’s life」の効用なのかも。
S そう、今やネガとポジなんてものは、レジャーだから。
L あー! その表現がまた心に突き刺さる!
自分をニュートラルにもっていく。それが大人としての責務――ジェーン・スーさん
S 人生にはネガがある、もちろんポジもある。それぞれいろいろあるけれど、自分自身をまずはニュートラルにもっていく。それが大人としての責務だと思っていて。
L 本当にそのとおり。私はネガとポジは感情であり、事実は事実でまたベクトルの違うモノだと思っていて。それらを混同する人が多いのかもしれない。要は、事実があって、その受け取り方がポジとネガにわかれているだけ。事実そのものを変にネガポジに曲げて解釈するとどんどん現実からズレていく。事実は事実でひとつあって、それをどう解釈するか。「あー、はいはい、事実はこうなのね」って、いちいち感情をもち込まずにまず理解するのってすごく大事ですよね。
S ただね、同年代の女友達とよく言ってるのは、このままならない世の中で、何があっても大丈夫なように自分を鼓舞してやってきた結果、「That’s life」のアプローチを手に入れることはできた。けど、心が軍人化してないか? この微動だにしない私のハートは、これでいいのか? と。
L ひゃー、なるほど! それはそう! 揺れないハートって、物語も生まないですもんね。いちいち動揺する体力は減ってきたけど(笑)、ハートを揺らす色気はずっと欲しいなぁ。次、そのテーマを深掘りしたいです!

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次回は5月11日公開予定!
第4話「エモストリングス、伸ばしていますか?」
お楽しみに!
イラスト/ekore 構成・文/本庄真穂
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。