熊谷真実さんが語る「執着を手放して、視野を広げる」|作家LiLy対談連載「生きるセンス Season.5」第5話
「年齢を重ねるって、どういうことですか?」作家・LiLyさんが人生の先輩を訪ねて歩く人気連載『生きるセンス』がセカンドシーズンに突入。より楽しく、より自由に、より心地よく生きるべく、人生のヒントをさらに深掘りしていきます。第5回のゲストは、熊谷真実さん。俳優と作家、その共通点とはいったい?
第1話▶▶熊谷真実さんにとっての「センス」とは?
第2話▶▶熊谷真実さんが語る「神様の役に立つということ」
第3話▶▶熊谷真実さんが語る「愛と性と心について」
第4話▶▶熊谷真実さんが語る「甘え上手ってどんな人?」
移住したことで視野が広がり、自分の人生が始まった――熊谷真実さん
LiLyさん(以下、L) 真実さんの今の暮らしについて教えてください。東京から浜松に移住されて、イキイキをすごしてらっしゃる様子をSNSなどで拝見していますが、不安などはなかったのでしょうか。
熊谷真実さん(以下、M) もちろんありましたよ! ただ当時は仕事が不安定で、「このままでは親のお金を使い果たすだけになってしまう」って、そっちの不安も大きかったんです。
L そのまま動かないでいることのリスクも大きかったということですね。
M だからまずはローバジェットのところに移ろうと。
L 行動を起こしたんですね。
M いざとなれば、キッチンカーをやってもいいかなって。おにぎり屋さんでもいいし、スムージーなんかもいいかも、なんて考えていました。
L それが想像できるのが、真実さんの強さですよね。俳優をやっていたら、プライドが高くなって、「いざとなったらキッチンカー」なんてなかなか思えない人も少なくないと思うんです。
M どんな職業に就いていたとしても、いつも同じ環境にいたり、いつも同じメンバーとばかり会っていたのでは、行き詰まることってあるでしょう。視野を広げることも悪くないって思った時期だったんです。
L うんうん、それはめちゃくちゃ共感します。私自身もいつだって新しい世界を体験したいな、なんか面白いバイトとかあればしたいな、って思っているタイプなので。あ、でもそれってさっきの発言とは逆になってしまうけど、本業が俳優だからというのもあるかもですね。新しい世界を体験することが何よりの芸の肥やしになる職業だから。
M 確かに、関係あるかもしれないですね。役者という職業は、誰かに成り変わるのが仕事。振り返ってみると、自分ではない誰かでいた時間のほうが長かったのではないかしらって思うぐらい。いつも3冊ほどの台本を抱えていたけれど、浜松に移住してそれがなくなって、ようやく自分自身の人生が始まった気がしています。
L 常に役柄と共にあった人生だったんですね。そこから抜けて自分を生きる時期をもつって、素敵ですね。
M さてどうしようなんて思いつつ、YouTubeを始めてみたりして。大丈夫かなぁなんて思っていたけれど、そんな自分を客観的に見ていたら「なかなか面白い」って思えるようになったんです。
俳優と作家は似ていて、憑依するのが仕事だったりする――LiLyさん
L 一方で私は作家、エッセイストとして、これまでずっと自分のことを赤裸々に綴ってきたんですね。今は自分のことを書きすぎて、誰にも自分の気持ちを知られなくない、というレベル。特に、街を歩くときに他人にアピールしたいことがゼロ。好きな音楽とかも知られなくないからバンドTとかも着たくないし、たとえばだけど感情を示す単語=「Happy」とか書いてあるTシャツすら着たくない(笑)。
M そこまで!(笑)
L フロリダに留学していた高校時代の親友との話をしてもいいですか?
M どんなエピソード?
L 当時、お互いの将来の夢を語り合っていたのですが、私の夢は「L.Aに行ってハリウッド女優になる!」というもの。一方彼女は「N.Yに行ってファッション誌のライターになる!」と宣言。私は「ライターって自分のことを書くんでしょう? 自分の人生だけなんてつまらない。人の人生をも生きられるのが俳優。だから俳優になりたい」って言ったんです。
M 俳優の醍醐味ですよね。
L それがね、面白いことに、今彼女はハリウッドで俳優をやっているんです。ドラマにも出ていて大活躍中なの!
M え? そしてLiLyさんは作家になった…。
L そう、お互いの夢が入れ替わったんですよね。ただ私たちふたりは似ていたのかもしれません。なぜかって、俳優も作家も、憑依するのが仕事だったりするから。
M 確かにそうかも!
L だからそう考えると、やっぱり私、真実さんの気持ち、よくわかります。憑依することを仕事にしていたら、そこから解放されるって、すごく気持ちいいですよね。
M 俳優という仕事への愛はもちろん変わらないけど、そこへの執着がなくなった今、あらためて自分が面白いと感じること、さらには神様の役に立つことへ、まっすぐに進んでいる感覚があります。例えば自分たちの食べ物は自分でつくる、そういう生活にも興味が出て、いろんな場所へ出掛けているんです。
L どんなところへ出かけているんですか?
M 最近伺ったのが、愛媛県の松野町というところです。四万十川の源流地域にある町で、今若い人が続々と移住して集まっているエリアなんですよね。
L すごく興味深いですね。
M 私は無農薬の環境で自然栽培のお米や野菜をつくるコミュニティに属しているのですが、松野町でホテルをリノベーションした経営者の方が、「その栽培を試したい」と手を挙げてくださって。人手不足で空いてしまった田んぼを利用して、若い人々が耕すなど、いろんなアクションが始まっているんですよね。その田んぼで子供たちがどろんこになったりして、みんなイキイキしてますよ。お子さんがいるならぜひ連れてきて!
L 楽しそう! 私はとても出不精で、本当に都内から出ないのですが、新しい世界に自分と子供たちを連れて行かなきゃなー!
M 自然は必ず心と体を癒してくレルから、ぜひ体感してほしいですね。遊びにきてー!
L はい! 自然にしか癒せない疲れって絶対にあるって最近思っていたばかりです。真実さん、これからも仲良くしてください。

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次回は、12月発売の美的GRAND冬号に掲載。どうぞお楽しみに!
イラスト/ekore 構成・文/本庄真穂
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。