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2017.5.2

『 マンチェスター・バイ・ザ・シー 』『 パーソナル・ショッパー 』『 シチリアの恋 』『 八重子のハミング 』 + α  試写室便り 【 大高博幸さん連載 Vol.393 】

© 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.
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癒えない傷も、忘れられない痛みも。
その心ごと、生きていく。

マンチェスター・バイ・ザ・シー
アメリカ/ 137 分
5.13 公開/配給:ビターズ・エンド、パルコ
manchesterbythesea.jp

【 STORY 】 アメリカ・ボストン郊外で アパートの便利屋として働くリー ( ケイシー・アフレック ) は、突然の兄の死をきっかけに 故郷 マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってきた。兄 ジョー ( カイル・チャンドラー ) の遺言で 16 歳の甥 パトリック ( ルーカス・ヘッジズ ) の後見人となったリーは、二度と戻ることはないと思っていた この町で、過去の悲劇と向き合わざるをえなくなる。なぜリーは 心も涙も思い出も すべてこの町に残して出て行ったのか。なぜ 誰にも心を開かず 孤独に生きるのか。父を失ったパトリックと共に、リーは新たな一歩を踏み出すことができるのだろうか……? ( プレス資料より )

題名に抒情的な趣があり、それだけで僕は観賞欲をそゝられましたが、マンチェスター・バイ・ザ・シーとは 地名 = 物語の舞台となる、ボストンから車で約 1 時半の 海沿いの町の名前でした。
アカデミー賞®の主演男優賞 ( C・アフレック ) と脚本賞 ( ケネス・ロナーガン ) を W 受賞したコトで御存知の読者も多いと思いますが、これは、心に消せないほどの傷を抱えている観客には 深く激しい共感を、そこまでの経験を持たない観客には「 この主人公と同じような気持ちで生きている人が、自分の周囲にもいるのかも 」という 理解に近い感情をもたらすに十分な傑作です。

この映画で最も重要なのは、主人公 リーの身に起きた悲劇 = 誰もが犯してしまいがちな、ちょっとした不注意が招いた事件 そのものではなく、それによって心と人生を破壊されたに等しいリーが、絶望感に苛まれながら生きていく姿、加えて 彼を取り巻く人々の 心の痛みと優しさなのだと僕は感じました。

C・アフレックは 正に渾身の演技で、リーの孤独感、どうにもならない哀しみ・苦しみを体現しています。映画が進むにつれて、彼が役になり切っているコトに 観客の誰もが気づかされるでしょう ( 気づく必要なんて全くありませんけれども ) 。ほんの一例を上げると ですが、リーが 兄の葬儀の冬の場面で、元妻 ランディ ( ミシェル・ウィリアムズ ) の再婚相手と 初対面の挨拶を交わす際の 微妙かつ複雑な眼の表情など、ちょっとした瞬間にも役の心情が色濃く滲み出る演技に、僕は何度も胸を衝かれました。

キャストは全員が適役を好演しています。ジョー役の K・チャンドラーは、リーの傍らに立っていたり ハグしたりするだけで 兄弟の絆の強さと思いやりを表現。今回は、たとえば『 キャロル 』でのヒロインの夫役等を併せて考えると、演技の幅と奥行きの非常に豊かな俳優だというコトが よく分かります。
ランディ役の M・ウィリアムズも素晴らしく、僕が観た彼女の 6 作品の中で最高だと感じました。12 年ほど前から注目してきた個性的な女優ですが、30 代中ばになった今、ひと皮むけたような人間味を 自然体で表現していて見事です。特に 町の一角で 偶然にリーと出会って 短い会話を交わすラスト近くのシーンなど、胸を締めつけられずにはいられない 真の感情が溢れ出ていました。

後半は リーとパトリックの描写に重きが置かれていますが、春の訪れを待ってジョーの埋葬が行われる場面辺りから温かみを増し、満ちたりた気持ちでラストシーンを迎えられたコトが、僕としては とてもとても嬉しかったです。
ひとつだけ気になったのは、パトリックが二股をかけているガールフレンドとの描写の多さ・長さでした。もう少し整理されていれば、更に良くなったはずだと思います。しかし これは、僕がこう言うと「 私は長いとは感じなかった 」「 そうよねぇ 」という反応が 皆さんから出やすくなるコトを狙っての発言でもあります。

監督は 脚本も担当した K・ロナーガン、プロデュースを手掛けたのは マット・デイモン。アカデミー賞®と ゴールデン・グローヴ賞の授賞式での 主演男優賞発表の瞬間と、それに続く C・アフレックのスピーチも感動的でした。人間関係の美しさ・素晴らしさが、そこにも表れていたからです。
これは、今年 観るべき映画の 1 本、珠玉のヒューマンドラマ。僕は新たな勇気をもらいました。

 

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©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

サスペンスフル × ファッショナブル
= 誰も観たことのない衝撃作。

パーソナル・ショッパー
フランス/ 105 分
5.12 公開/配給:東北新社
personalshopper-movie.com

【 STORY 】 忙しいセレブに代わり 服やアクセサリーを買い付ける〝 パーソナル・ショッパー 〟としてパリで働くモウリーン ( クリステン・スチュワート ) は、数ヵ月前に最愛の双子の兄を亡くし、悲しみから立ち直れずにいた。そんなモウリーンに、ある日、携帯に奇妙なメッセージが届き始め、不可解な出来事が次々と起こる――。 ( 試写招待状より )

冒頭から意味あり気で、オカルト的な趣をも感じさせる心理ミステリー。カンヌ国際映画祭で称賛と物議を醸した末に、オリヴィエ・アサイヤスが監督賞を受賞した作品です。メールを交わすシーンの多さに僕は少々戸惑いを感じたものの、現実なのか幻覚なのか 区別がつかなくなってくる展開が独得で、最後まで緊張感を持って観賞しました。

モウリーンを演ずるのは『 カフェ・ソサエティ 』 ( Vol.391 ) でヴォニー役を好演した K・スチュワート。こゝでは モウリーンが内に秘めた欲望に 半無意識的に のみ込まれていく姿を、淡々とミステリアスに表現。ハイブランドのショップや事務所を次々に訪れるシーンでの、終始クールな表情も印象的です。
しかし、脇役陣は おしなべて凡庸。そこにキャスティングの意図があるのかもとは思いましたが、特にセレブのスターとして登場するキーラ ( モウリーンの第一のクライアント ) など、それらしいイメージを十分に備えた俳優を起用したならば、さらに面白い映画になった という気もします。
端役ながら印象的だったのは、カルティエの本店で モウリーンを接客するセールスクラークの男性。そのシーンには、まるでドキュメンタリーの一場面のような 本物のニュアンスと説得力がありました。

 

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(c) All Rights Reserved 2015

奇跡のように出会い、恋におちた二人が経験する切ない運命とは――。

シチリアの恋
中国/ 101 分
公開中/配給:ハーク
www.loveinsicily.net

【 STORY 】 ジュンホ ( イ・ジュンギ ) は 留学先の中国で一目惚れしたシャオヨウ ( チョウ・ドンユイ ) に「 彼女になってほしい 」と告白。二人は 上海のデザイン事務所にそろって就職したことをきっかけに 一緒に暮らし始め、やがて結婚の約束も交わす。そんな矢先、なぜか ジュンホが突然「 別れよう 」と言い残し、イタリアへ旅立ってしまう。幸せの絶頂の中、なぜ彼は去ってしまったのか? そこには 愛する女性の幸せを心から願う、切ない〝 秘密 〟が隠されていた……。( 試写招待状より。一部省略 )

中国映画デビューを果たした韓国の人気スター、イ・ジュンギの久々の主演作。中国公開時には「 恋愛映画の歴代初日観客動員数 No.1 」の記録を更新したとのコト。相手役は『 サンザシの樹の下で 』 ( Vol.62 ) での可憐な演技が記憶に残る チョウ・ドンユイ。ジュンホの〝 切ない秘密 〟が複雑に練り上げられたストーリーで、〝 恋に恋する女子 & 片想いに涙する女子 & 失恋の痛手から立ち直れずにいる女子たち向き 〟と言えそうな作品です。

映画の中盤で 自暴自棄的になってしまったシャオヨウに、ジュンホとシャオヨウの共通の友人が「 失恋したのは自分だけだと思うなよ。君は自分勝手すぎるぞ。去って行った彼が今の君を見たら、きっと悲しむ 」と????りつける台詞は、正に その通り。少くとも 投げやりになってはいけませんよね。
ロケーションは 上海が中心で、シチリアの場面は それほど多くはありません。その点、期待をふくらませすぎずに観に行ってください。

 

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(C)Team 『八重子のハミング』

四度のガン手術から生還した夫が、アルツハイマー病の妻に贈る、
三十一文字のラブレター。

山口県を舞台に 夫婦の深い愛情を描く感動作。

八重子のハミング
日本/ 112 分
5.6 公開/配給:アークエンタテインメント
yaeko-humming.jp

【 STORY 】 「 妻を介護したのは 12 年間です。その 12 年間は、ただただ妻が記憶をなくしていく時間やから ちょっと辛かったですいねぇ。でも ある時、こう思うたんです。妻は 時間を掛けて ゆっくりと僕に お別れをしよるんやと。やったら僕も、妻が記憶を無くしていくことを、しっかりと僕の思い出にしようかと…… 」。誠吾 ( 升 毅 ) の口から、在りし日の妻・八重子 ( 高橋洋子 ) との思い出が語られる。教員時代に巡り合い 結婚した頃のこと、八重子の好きだった歌のこと、アルツハイマーを発症してからのこと……。 ( 試写招待状より )

山口県の萩市を舞台に描かれる、夫婦と家族の愛情の物語。陽 信孝の原作 ( 小学館 刊 ) に惚れ込んだ 佐々部 清監督が、構想 7 年、自主的に製作した映画です。低予算のためか 僅か 13 日間で撮影されたそうですが、地元の人々の熱心な協力が得られたコトもあり、入念な仕上がりとなっています。

海を見おろす断崖絶壁。今まさに飛び降りて死のうとしているらしい夫婦の姿が、冒頭に映し出されます。夫が さらに一歩進み出た瞬間、歌を唄い始める妻。夫は我に還ったかのように妻を抱きしめ、涙ながらに「 帰ろう 」と言い、踵を返す……。このワンシーンの後、「 やさしさの心って何? 」と題された誠吾の講演会の場面へと続きます。

結婚生活 38 年。その内、介護の期間が 12 年。若年性アルツハイマー病が進行していく妻と、「 母さんにとって一番の薬は愛情なんだ 」と娘たちに言う誠吾。それを理解し 行動で示す家族たち。そして親しい人々、かつての教え子たち。
夫婦のどちらかがアルツハイマーを患うという映画を 今までに数本観ましたが、本作は それらが凝縮されている印象で、いろいろなコトを感じ、考えさせられもしました。この映画は、観る人の年齢・経験値・家族構成等々によって 感じかたも考えるコトも当然異なるでしょうが、いずれにしても観ておくべき作品だと思います。

出演者は全員が誠実な演技を観せていますが、驚くほど胸を打たれたのは、誠吾の講演を聞いているエキストラの人々の真摯な顔でした。特にラスト近くで、比較的近距離から撮影された場面では、全くの他人という気がしなかった……。この映画で一番大切なのは、あの場面なのかもしれません。

 

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以下、遅ればせながら イレギュラーに少しだけ。

アカデミー賞®作品賞・脚色賞・助演男優賞を獲得した『 ムーンライト moonlight-movie.jp、映画館で観ました。これは広告の宣伝文そのものの素晴らしい作品で、僕には オバマ前米国大統領が撮った映画のようにも感じられました。誰にも必ず当てはまる真実があり、浅い了見で 単純にモノゴトを判断したり、理解したつもりになってはいけないとも考えさせられました。

ラ・ラ・ランド 』 ( Vol.383 ) も やっと観ました。導入部には異和感を覚えましたが、アカデミー賞®主演女優賞に輝いた エマ・ストーンの踊りが、周囲のダンサー以上に良かったコトと、ラストの数分間に『 シェルブールの雨傘 』の別バージョンのような 深い味わいがあったコトに感動しました。ライアン・ゴズリングと E・ストーンのコンビも、やはり とてもいい。

もうひとつ、試写を遅く観たために、この連載で紹介できなかった『 光をくれた人 hikariwokuretahito.com。これは作りモノのストーリーながら、主演の マイケル・ファスベンダーと アリシア・ヴィキャンデルの演技に真実味があって感動しました。But それにも増して、ラスト間際に登場する 成人したルーシー役の カレン・ピストリアスの演技・演出が見事で、僕は思わず大粒の涙をこぼすコトに……。彼女は一場面だけの登場ながら、助演女優賞を贈りたいほど良かったです。この種の映画、僕自身は 本当は好きではないのですが、コレは観に行って良かったと思っています。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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