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2011.7.1

大高博幸の美的.com通信(62)涙量最多、『サンザシの樹の下で』 試写室便りNo.13

(c)2010, Beijing New Picture Film Co., Ltd and Film Partner (2010) International, Inc. All Rights Reserved.

たとえ何が起きても、きみをずっと待ち続ける。
『初恋のきた道』のチャン・イーモウ監督が描く、文化大革命に散ったはかない恋の物語。
『サンザシの樹の下で』(原題=山楂樹之戀)
★詳しい内容&クレジットetc.は、http://sanzashi.gaga.ne.jp/へ。
<7月9日(土)から、東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマほかにて全国ロードショー>

こんなに泣けた映画は珍しい。悲しい場面やクライマックスだけでなく、淡々とした何気ない場面でさえも涙がポロポロポロポロ…、涙腺がどうかしたのかと思ったほど泣けました。気づくと、周囲の席の男性(多分、ベテランの映画評論家さん)たちまでが何度も何度も涙を拭っていたので、僕だけがどうかしたワケではなかったのです。

この映画は、チャン・ツィイーを一躍有名にした『初恋のきた道』のチャン・イーモウ監督作品。簡潔に表現すれば“究極の純愛映画”です。しかし、単に泣かせるだけの純愛モノとは大違い。そんな作品ならば、試写室に招かれるような人たちは容易に泣いたりしません。“文化大革命”という時代(1970年代初頭)を背景としていますが、その辺りはむしろサラリと流していて、主役の少女と青年の交流&心情を描き切るコトに専心したという感じです。

物語をパンフレットから引用すると…、文化大革命下の中国。町の高校に通う女子高生ジンチュウは、国家の政策のため送られた農村で明るく誠実な青年スンに出会う。惹かれあう二人だったが、迫害を受ける両親を持つジンチュウにとって、それは決して許されぬ恋だった。やがてジンチュウの母の知るところとなり、二人は仲を裂かれてしまう。そして、互いを想い待ち続けることを誓って別れた二人に、運命はさらに過酷な試練を課すのだった─。

7千人の候補者から選ばれたというジンチュウ役のチョウ・ドンユィは、撮影時には高校三年生だった全くの新人。清楚そのものの姿形、奥二重の眼の無垢さ、15歳ほどにしか見えない柔らかい頬、そして笑顔と憂い顔のどちらもが美しい少女。スン役のショーン・ドウ(22歳前後)も新人で、健全な男らしい体格、一重まぶたの素朴で優しい眼、理想的に整った美しい歯並び、そして清々しい表情が魅力的な好青年。このふたりのやり取りを見つめているだけで、心が洗われる思いがしました。そして、性に関しては何も知らない(当時、中国では性教育が行われていなかった)ジンチュウと、性的欲求を抑えるだけの意志の強さを持つスンとの対比、あるいは調和…、その描写が実に見事でした。

場面としては、火傷を負ったジンチュウの足にスンが包帯を巻いてあげるシーンや、足を洗ってあげるシーンが、そのシチュエーションゆえに非常に哀切。ストイックでプラトニックで、しかし見ようによっては相当セクシーで…。より具体的な性的場面も出てくるのですが、若い男性の情熱と理性とが一瞬拮抗する部分など、イーモウ監督は特に細心の注意を払いながら、感動的に演出しています。
その他、インクの洩れない万年筆、バレーボール用の青い練習着、火傷防止のためのゴム長靴、オレンジ色のビニール紐で編んだ可愛い金魚のお守り、サンザシの花の絵入りの洗面器、赤い布地、船の渡し場、たった1枚のツーショット写真…、それらが忘れ難い印象を残します。

調色技術が施されているような美しい画調。静かに流れる上品で感傷的な音楽。さらに、ゆったりとしたフェードアウトの後、時間の経過や状況の変化を示す説明字幕がふんわりと表われて消える手法の繰り返しが、サイレント映画風&おとぎ話風の独得な雰囲気を醸し出している点にも、僕は強烈に惹かれました。上映時間、114分。

P.S. この映画に感動して大好きになった方は、D・W・グリフィス監督、リリアン・ギッシュ&リチャード・バーセルメス共演による『散り行く花』(原題=Broken Blossoms。1919年公開、サイレント映画時代の代表的名作のひとつ)を、DVDでかまいませんから観てください。きっと、イーモウ監督もお気に入りの作品だと想うのです。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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