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2015.3.6

大高博幸の美的.com通信(277) 『パリよ、永遠に』『陽だまりハウスでマラソンを』『神々のたそがれ』 試写室便り Vol.88

© 2014 Film Oblige – Gaumont – Blueprint Film – Arte France Cinema
© 2014 Film Oblige – Gaumont – Blueprint Film – Arte France Cinema

もしも「パリ」が消えていたら――世界は どうなっていただろう。
第二次世界大戦末期、実際に計画された ヒトラーのパリ壊滅作戦。
この美しき街を救ったのは、一人の男の一世一代の「駆け引き」だった。
パリよ、永遠に』 (フランス=ドイツ合作/83分)
3.7 公開。paris-eien.com

【STORY】 エッフェル塔も、凱旋門も、オペラ座も。パリのすべての建造物は 爆破される運命にあった。第二次世界大戦末期、ナチス・ドイツ占領下で 実際に計画された パリ壊滅作戦。敗色濃厚となったヒトラーは、パリの美しさに魅了されたばかりに「敵に渡すくらいなら、パリを燃やし尽くせ」と命じたのだ。しかし 作戦は、最後の最後、まさにぎりぎりで回避される。パリは、なぜ壊滅を まぬがれたのか? そこには、パリを守りたい男と 破壊を命じられた男の、歴史に残る出会いがあった。(試写招待状より)

期待以上に見応え十分な 今月の注目作。原作は 知る人ぞ知る史実を描いて フランスで大ヒットした舞台劇、“Diplomatie(外交)”。監督は『シャトーブリアンからの手紙』(通信(249)で紹介)でも フランスとドイツの関係を描いた名匠、フォルカー・シュレンドルフ。主演は 舞台と同じキャスティング、アンドレ・デュソリエ(パリを守りたい男=パリで生まれ育った 中立国スウェーデン総領事 ラウル・ノルドリンク役)と、ニエル・アレストリュプ(ヒトラーから破壊を命じられた男=ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍役)の二大名優。

開巻、ドイツ全放送局のラジオ番組、「ナイト コンサート」の音声が聴こえてくる。ナチス・ドイツの占領下にあった、ここ パリにも 放送が届いている。演奏されるのは「ベートーヴェン 交響曲 第7番」。そして演奏が始まると同時に、1944年8月の蜂起後、ドイツ軍の報復攻撃によって破壊しつくされていくワルシャワの 実写映像が映し出される…。このワルシャワと同様に、パリも全壊の運命に立たされていたのだ。市内33の橋、ノートルダム大聖堂、ルーブル美術館、オペラ座、エッフェル塔、凱旋門、オルセーをはじめとする全ての駅等々に、爆弾は 既に 仕掛けられていた。爆破装置のボタンが押されゝば、15~20分でパリは全壊、氾濫するセーヌ川によって水没し、100~200万の市民の命も消える…。
映画は 1944年8月24日深夜から25日の早朝まで、ドイツ軍が駐留しているパリの最高級ホテル「ル ムーリス」を中心に展開します。パリを熟知しているノルドリンクが 秘密の通路からコルティッツ将軍の部屋へ忍び込み、最終的に爆撃を思い留まらせるまでの駆け引きが描かれるのですが、その描写が実に巧みで、観客を完全に引き込んでしまいます。度々発生する停電や緊急の電話、加えてコルティッツの持病の発作等が ノルドリンクの交渉決裂を運よく救う瞬間は もとより、コルティッツの強固な軍人魂の裏に存在する人間性を ノルドリンクが引き出していくプロセスに、本作特有の緊張感とスリルが漲っているのです。
主役ふたりの演技は卓越していて、セットと照明、カメラワークも完璧。これは正に総合芸術。ラスト間際、パリに差し込む朝の光と、何事もなかったかのように流れるセーヌの煌めき。さらに そこに重なる ジョセフィン・ベイカーの陽気な歌「二つの愛(J’ai deux amours)」と、字幕で示される”ノルドリンクとコルティッツの その後”が、感動的な心地よい余韻をも残してくれます。
この映画は素晴らしい。僕は少なくとも もう一度、映画館で観ます。

 

©2013 Neue Schönhauser Filmproduktion, Universum Film, ARRI Film & TV
©2013 Neue Schönhauser Filmproduktion, Universum Film, ARRI Film & TV

胸を張って、でも肩の力は抜いて。
生き方と走り方のコツは同じ。
最愛の妻をコーチに、仲間たちの応援を受けて、
パウルじいさんが ベルリンを駆け抜ける!
陽だまりハウスでマラソンを』 (ドイツ/115分)
3.21 公開。www.hidamarihausu.com

【STORY】 元オリンピック選手で伝説のランナー・パウルは、最愛の妻の病気をきっかけに 夫婦で老人ホームに入居する。忙しく働く ひとり娘に 負担をかけられないからだ。70歳を越えても心身共に健康なパウルは 子供だましのレクリエーションや規則にとらわれた施設側の態度に耐えられず、ウン十年ぶりに走り始めるコトに。目標は ベルリン・マラソン完走! 呆れ顔だった妻も、パウルの熱心な姿に影響されて名サポート役に復帰。パウルの勇姿を思い出した入居者たちは にわか応援団を結成し、ホームは賑やかに変わっていく。ところが、大会が近づいたある日、妻が倒れるアクシデントが! 果たしてパウルは ベルリン・マラソンに出場できるのか――? (試写招待状より。一部省略)

プロローグは1956年、メルボリン・オリンピックの記録映像。西ドイツ出身のマラソン選手:パウル・アヴァホフが ゴール直前、見事なラストスパートで強敵をかわし、金メダルを勝ち取る瞬間が映し出されます。それは啞然とさせられるほど感動的な映像で、僕は それだけで涙ポロポロ…。彼の走りは、敗戦の暗い影を引き摺っていたドイツ国民に、大きな喜びと希望を もたらしたのでした。
メインタイトルが終ると、映し出されるのは 国民的英雄として名を馳せたのも今は昔…、最愛の妻 マーゴと 隠居生活を のんびり送っているパウルの姿。そこから また、“あらゆる世代にパワーを与える感動のエンターテインメント”が始まるという展開で、僕は全篇を通じて興味深く鑑賞しました。
パウル(ディーター・ハラーフォルデン)と マーゴ(ターチャ・サイブト)は 愛情いっぱいの おしどり夫婦。ふたりの仲睦まじさにヤキモチを焼いたりもする ひとり娘のビルギット(キャビンアテンダントとして働いている美人。ハイケ・マカッシュ)、陽だまりハウスの住人で 元詐欺師のフリッチェン(お猿に似たルックスの可愛いオジイさん。ハインツ・W・クリュッケベルク)等々、個性豊かな脇役も親しみを感じさせてくれます。
監督は、本作が長編映画デビューとなる キリアン・リートホーフ(’71年生まれ)。原題は“Back on Track”。
P.S. 本作には、シャルル・トレネが歌うシャンソンの名曲「ラ メール(海よ)」が 効果的に使われています。1度めは映画の前半で マーゴがレコード(あるいはラジオ)で聴き、2度めはエンドロールで流れるのですが、僕は ここで再び涙…。この曲が パウルとマーゴの夫婦愛の象徴として、胸に響いたからです。

 

kamigami製作期間15年、原作 ストルガツキー兄弟、
巨匠 アレクセイ・ゲルマンによる不朽不滅の遺作、ついに日本公開。
神々のたそがれ』 (ロシア/177分)
3.21 公開。WWW.IVC-TOKYO.CO.JP/KAMIGAMI/

【STORY】 舞台は、とある惑星の都市アルカナル。地球から800年ほど遅れ、中世ルネッサンス期を迎えているかのような この地に、地球から科学者・歴史家らの調査団が派遣された。しかし彼らが目にしたのは、圧制、殺戮、知的財産の抹殺であり、20年が経過しても文化発展の兆しは全く見られない。地球人の一人、ドン・ルマータは、知識と力を持って現れた神のごとき存在として惑星の人々から崇められていた。だが、政治に介入することは許されず、ただただ権力者たちによって繰り広げられる蛮行を傍観するのみであった…。(試写招待状より)

反商業主義映画の巨匠 ゲルマン監督(1938-2013)が、ロシアの著名な空想科学小説を映像化した最後の作品。
「繁栄を極める全人類への戒め」とも言われる内容で、政治的背景に うとい僕には、正直なところ、よく分からない映画でした。登場人物たちの姿は クロムウェルの時代辺りを想わせ、「ルネッサンス」とか「レオナルド・ダ・ヴィンチ」といった名称が台詞に出てくるものの、サイレント時代の前衛映画を想起させるオープニングから 奇妙で不気味でグロテスクでもある画面が延々と続き、これは一部の熱心な映画ファンと知識人だけに歓迎される作品だと感じました。
たゞ、屋外場面の主要部分は、古城をはじめとして中世の建築物が数多く残るチェコ共和国で撮影されており、時々映し出される絵画的な美しい場面に 僕は目を奪われました。その筆頭は、農家のような建物の暗い戸口を入ったところで、主人公ドンの肩に 一羽の鳩が止まるワンカット。ゲルマン監督は、詩的インスピレーションの持ち主でもあったのかも知れません。

次回の試写室便りは、話題作『イミテーション・ゲーム』等について、3月11日頃に配信の予定です。では!

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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