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2015.3.12

大高博幸の美的.com通信(278) 『イミテーション・ゲーム』『博士と彼女のセオリー』『カフェ・ド・フロール』 試写室便り Vol.89

(C) 2014 BBP IMITATION, LLC
(C) 2014 BBP IMITATION, LLC

挑むのは、世界最強の暗号――。
英国政府が50年以上封印し続けた、天才 アラン・チューリングの真実の物語。
イミテーション・ゲーム / エニグマと天才数学者の秘密』 (アメリカ=イギリス合作/115分)
3.13 公開。imitationgame.gaga.ne.jp

【STORY】 第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇った世界最強の暗号<エニグマ>。世界の運命は、解読不可能と言われた暗号に挑んだ、一人の天才数学者 アラン・チューリングに託された。
英国政府が50年以上 隠し続けた、一人の天才の真実の物語。時代に翻弄された男の秘密と数奇な人生とは――?! (試写招待状より)

トロント国際映画祭での観客賞受賞を皮切りに、ゴールデン・グローブ賞®では作品賞を含む5部門に、さらにアカデミー賞®では作品賞を含む8部門にノミネートされた注目作。
簡潔に言うと、今年 観るべき最高の1本です。僕が試写を観たのは 2月18日。雨が降る寒い日にも拘らず、開場時間までに定員の2倍のジャーナリストの行列が…。そのため、急遽 その日のうちに 試写を もう一度 行うという、異例の対応がなされました。(この原稿を書いた5日後、本作はアカデミー賞®の脚色賞を受賞しました。)
『イミテーション・ゲーム』は コンピューター科学全般の始祖 アラン・チューリングの物語。僕は題名のニュアンスから 数学的・機械的・技術的な描写が主体の映画? と心配しながら観たのですが、実際は伝記とミステリーが融合したようなヒューマン・ドラマで、アナログ人間を自認するタイプの読者にも 躊躇なくオススメできる内容でした。
難攻不落の暗号を解くという国家機密のプロジェクトを軸に、主人公の秘密、同僚の秘密、確執、さらにスパイ疑惑が絡むという展開。そこに映画ならではの醍醐味があり、しかも全篇を通じて ワザとらしい強調や 興行価値を高めるための あざとい仕掛け等が少しもなく、僕は100% 画面に のめり込んで観賞…。作品の性質上、詳しく書き記すコトは不可能ながら、非常に印象的な場面や台詞が幾つもあり、それらが時代を超えた普遍性と劇的効果を同時に高めているところが、とてもとても良かったです。
出演者は端役に至るまで全員が適役好演。チューリング役は『それでも夜は明ける』(通信(209)で紹介)で善良な大農園主を繊細に演じた ベネディクト・カンバーバッチで、今回は説得力に満ちた入魂の演技。彼を愛し支える ジョーン・クラーク役の キーラ・ナイトレイは、『危険なメソッド』(通信(118)で紹介)や『アンナ・カレーニナ』での彼女とは桁違いに真実味のある演技を見せています。彼女が最初に現れる1939年の場面では メークアップ(特にハニーアンバー×トウニーベージュのアイシャドウ)も新鮮で美しく、1951年の場面での演技には 当時の英国人女性のニュアンスが とても良く出ていました。
ひとつだけ個人的な意見を述べると、チューリングの少年時代、1928~’30年頃のフラッシュバック・シーンに、やゝ整理不足の感があったコト。この『アナザー・カントリー』風の男子校の場面は、チューリングの特質を示す上で極めて重要であるとはいえ、もう少し尺を短くすれば一層良くなったという気がしています。その分、1951年の場面で、警察署に連行されて来た若い男娼の聴取の場面を 30秒ほど 曖昧にでも加えたなら、映画としての陰翳が より深くなったのではないでしょうか。
それはともかく、この映画が真に素晴らしいのは、モルテン・ティルドゥム監督の以下の言葉が、上映時間115分の中に 結実していたコトです。
「チューリングは、ひどく不当な扱いを受けたが、自分の理想を曲げようとはしなかった。彼の勇気ある行動のおかげで、世の中は それ以前よりはマシになった。これは、他人とは異なる個性への敬意と、規範に従わず 異なった考え方をする人たちを受け入れることが、いかに大切であるかを伝える 極めて重要な物語だ。この映画は 単なる時代ドラマではなく、もっと大きく 意義深いものだと思っている。」
But、読者の皆さんは 難しく考えずに、切なくて泣けるミステリー、今春注目のエンターテインメントとして、ラクな気持ちで観てください。とにかく観れば、観終えた後、あなた自身の心の中に 大切な何かが存在しているコトに気づいて、改めて感動せずにはいられなくなると思います。これは、そんな 特別な映画です。
P.S. 『イミテーション・ゲーム』とは、コンピューターが人間の思考や論理を真似るソフト・シュミレーションを指すとのコトですが、本作では チューリングの人生そのものをも意味しているように感じられました。副題は、それを補足するために付けられたのかも知れません。

 

(c)UNIVERSAL PICTURES
(c)UNIVERSAL PICTURES

1963年 ケンブリッジ大学で出会った、のちの天才物理学者 ホーキングとジェーン。
ALSを発症したホーキングの余命宣告を知りながら、未来へと歩きだした ふたり。
心揺さぶられる、愛の物語。
博士と彼女のセオリー』 (イギリス/124分)
3.13 公開。http://hakase.link

【STORY】 ふたりの出会いは1963年。スティーヴン(・ホーキング)が ケンブリッジ大学の大学院に在籍している時だった。彼は 詩を学ぶジェーンの聡明さに、ジェーンは 彼の夢見がちなグレーの瞳とユーモアのセンスに惹かれ、たちまち恋に落ちる。だが、直後にスティーヴンは 運動ニューロン疾患と診断され、余命2年の宣告を受ける。それでも彼と共に生きると決めたジェーンは、力を合わせて病気と闘う道を選択する。
そんなふたりの結婚生活は、残された時間を2年から5年に、5年から10年に、10年から20年に延ばすための絶え間ない努力の日々となる。ジェーンに励まされて研究に打ち込み、学者としてのステイタスを築いていくスティーヴン。心身両面で夫をサポートしながら、ふたりの生き甲斐となる子育てにも奮闘するジェーン。自分たちに与えられた時間が どれほど貴重なものかを知るふたりは、歳月を重ねるごとに増す試練に、強固な愛の力で立ち向かっていく。(プレスブックより)

ゴールデン・グローブ賞®では作品賞を含む4部門に、アカデミー賞®では作品賞を含む5部門にノミネートされた注目作。実は 2月23日の試写を観終えた直後、宣伝担当のTさんから「先ほど、エディ・レッドメインが主演男優賞を獲得しました」と知らされ、思わず「おめでとうございます!」と祝福してしまいました。彼の演技は実に見事で、受賞にふさわしいものだったからです。
大学のパーティで初めて会ったスティーヴンとジェーンが ぎこちない様子で自己紹介しあう場面から、メイ ボール(大学の5月の大ダンスパーティ)の夜に 満天の星の下でキスを交わす辺りまで、ふたりとも若く初々しく、撮影も真にロマンティック。しかし、スティーヴンの体に異常(治療法のない、筋肉が衰えていく疾患)が生じて以降は シリアスなタッチへと変わり、結婚したふたりの苦闘の日々が始まります(とは言え、感傷的 or 暗いタッチではありません)。僕は そのまゝ最後まで 直進するストーリー? と考えながら観ていたのですが、中盤辺りで話が微妙なカーブを呈し、予想外と感じられる展開に…。強靭な意志と勇気の持ち主であるジェーンが、自身の研究の最中に 子供からもスティーヴンからも呼ばれて 一瞬 不機嫌な顔を見せる場面があり、さらに「余命は2年だったはず…」と彼女が ひとりツブやく場面も出てきます。要するに本作は、甘いだけのラブストーリーでも、お綺麗事の映画でもないのです。
スティーヴン役の エディ・レッドメイン(通信(93)で紹介した『マリリン 7日間の恋』では マリリン・モンローと恋をするナイーブな助監督役を、『レ・ミゼラブル』では 青年革命家のマリウス役を好演)は、徐々に進行して行く病状と共に 心理的な変化をリアルに演じ上げています。たゞし、“某ポルノ雑誌の定期購読者”という一面に関しては、彼のルックスとイメージからは納得しにくい感がありました。
ジェーン役の フェリシティ・ジョーンズ(『アメイジング・スパイダーマン 2』のフェリシア役で有名になったばかり)も熱演で、特に若い時代を演じている部分が美しく魅力的。その他、聖歌隊指揮者 ジョナサン役の チャーリー・コックスをはじめ、大学教授やスティーヴンの親友を演じた脇役陣も好感度が高く、全篇を興味深く観るコトができました。これは 特に女性の皆さんに観てほしい一作です。

 

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© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films

アカデミー賞® 3冠の監督がおくる
時を越えて紡がれる、愛へ捧ぐ讃歌。
カフェ・ド・フロール』 (カナダ=フランス合作/120分/R15+)
3.28 公開。www.finefilms.co.jp/cafe

【STORY】 1969年 フランスのパリ。シングルマザーとして障害を抱える息子を育てる美容師のジャクリーヌにとって、息子 ローランは 唯一の生き甲斐だった。
現代 カナダのモントリオール。DJとして活躍するアントワーヌには 2人の娘と恋人のローズがいて、両親も健在。生活にも不自由していなかったが、別れた妻 キャロルは 離婚の痛手から立ち直っていない。
異なる二つの時代を生きる男と女、そして母と息子の愛。彼らの人生は、時間と空間に隔てられながらも、神秘的な〝愛″によって紡がれていく。しかし、運命が導く幸福と執着、そして悲劇を理解した時、それぞれが人生の選択を迫られることになる。(プレスシートより。一部省略)

昨年度、アカデミー賞® 3部門を制した『ダラス・バイヤーズクラブ』の ジャン=マルク・ヴァレが、『ダラス…』の2年程前にメガフォンを取った作品です。
時代も場所も異なる ふたつの話を“マシュー・ハーバートの名曲「カフェ・ド・フロール」が紡ぐ”という構成で、世界中の映画祭から多数の賞を受賞しています。しかし、恐縮ながら僕には その“紡ぐ”意図が よく分からず、モントリオールの話に“運命の出会い”“前世と来世”といったスピリチュアルな要素を組み込んだ意味も不可解でした。
一方、ダウン症の息子に無償の愛を注ぎ続けるジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)の日々を描いたパリの話には、一見の価値がありました。美容師として生計を立てゝいるというのに 髪を振り乱し、ほとんど化粧っ気もない顔で奮闘するという役を演じてなお、パラディ独得の愛らしさ・天真爛漫さが よく出ていて、贔屓目でしょうが、それは立派なコトだと感じました。彼女は60代、70代になっても、主役を張れる女優として活躍して行けるかもしれません。少なくとも彼女のキャリアにとって本作は、『ジゴロ・イン・ニューヨーク』(通信(236)で紹介)以上に重要な作品となりそうです。
R15+の映倫指定は、モントリオールの話の中に、一瞬 目を疑うようなセックスシーンがあるため。パラディが演じる場面ではありませんので、ファンの皆さんは御安心ください。

 

次回の試写室便りは、『間奏曲はパリで』『マジック・イン・ムーンライト』等について、4月初旬頃に配信の予定です。では!

 

<『カフェ・ド・フロール』特製ミラーを5名様にプレゼント!>

p映画『カフェ・ド・フロール』の公開を記念して、特製ミラー(非売品)をプレゼント。

※プレゼントの色は選べませんので、予めご了承下さい。
※ミラーのサイズ:135mm×70mm×5mm 専用カバー付、化粧箱入

<5名様>

 

応募は終了しました。
たくさんのご応募ありがとうございました。

 

≪プレゼント応募のきまり≫
応募締切:2015年4月12日(日)
『カフェ・ド・フロール』特製ミラーを5名様にプレゼント!
応募名の欄には、「カフェ・ド・フロール」と必ずお書きください。
● このプレゼントに応募したい方は、「応募する」をクリックし、必要事項を明記して応募してください。
● 応募はひとり1回のみ。同一商品に2回以上ご応募された場合、1回目の応募のみ有効です。
● 応募内容にもれのない方から、厳正な抽選で当選者を決定します。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
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info@biteki.com (個別回答はできかねますのでご了承ください。)  

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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