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2012.6.29

大高博幸の美的.com通信(105) 『ミッドナイト・イン・パリ』『きっと ここが帰る場所』『ローマ法王の休日』 試写室便り No28 +映画館便り!!

© 2011 Indigo Film, Lucky Red, Medusa Film, ARP ,France 2 Cinema, Element Pictures. All Rights reserved.

人生は美しさで満ちている。
だけど、時々、何かが変だ…
『きっと ここが帰る場所』
(原題=THIS MUST BE THE PLACE)
6月30日からロードショー。
詳しくは、kittokoko.comへ。

主人公のシャイアン(ショーン・ペン好演)は、かつて絶大な人気を誇ったロック界のスーパースター。しかし、ある出来事の後、表舞台に一切出ない生活を送るようになっていた。アイルランドはダブリンの広大な邸宅で、妻とゲームを楽しむ程度の無気力な日々…、付き合う人間も ごく限られていた。そんな彼に、故郷のアメリカから「父 危篤」の知らせが入る。飛行機嫌いの彼は船でニューヨークへと向かうが…。

この映画で極立っているのはシャイアンの性格描写。いつも精神的に沈んでいて、起き抜けにロッカー・メークをする冒頭のシーンでは、まるで死人のように無表情。錆びついているかのような体でノロノロと歩き、力のない眼をしている。しかし純真無垢で良くも悪くも子供っぽい性格であると同時に、筋が1本ビシッと通っている男。そんな彼が最後の場面で、別人のように生気を取り戻すところも見モノでした。

しかしストーリーそのものは、シャイアンがN.Y.へ出て以降、特に焼きすぎたハンバーガーの場面辺りから、なぜか意外なほど盛り上がりを見せません。コレは僕個人の感想ですが、映画の後半でシャイアンが絡む人物達のキャラが、充分に立っていないからでは? と思います。シャイアンの心理描写に集中しようとして、他の人物の扱いが手薄になったのかも…、などとも考えてしまいました。

テーマとの深い関係はなさそうですが、5〜6人の若い女性が乗り込んでいるエレベーター内の場面が ちょっと面白かったので、メモしておきます。
女性達は、「最近の口紅って取れやすいでしょ?」「私なんて30分しか持たない」「ヘレナのは落ちにくい気がするけど」「あら、私はランコムのほうが落ちにくいわ」などと、口紅の話に夢中。エレベーターが次の階に停止した瞬間、奥からシャイアンがヌーッと出て来て、「言わずには おけない」という雰囲気で、モソッと言い放つ。
「ブランドの問題じゃないよ。口紅を塗る前にパウダーで押さえておけば落ちない。一日中ついてる」。
女性達はアゼンとして、降りて行くシャイアンの後姿を見つめます。ちなみに彼の口紅は、いつもマットフィニッシュの、くっきりとしたコーラル寄りのレッドでした。

 

法王様が、ローマの街に逃げ出した――?!
人生のつかの間の休息に、笑ってホロリ。
ナンニ・モレッティ監督が贈る、
法王版『ローマの休日』。
『ローマ法王の休日』
(原題=HABEMUS PAPAM)
7月21日から全国順次公開。
詳しくは、romahouou.gaga.ne.jpへ。

「ローマ法王死去――。この一大事を受けヴァチカンで開催される法王選挙。サン・ピエトロ広場には、新法王誕生を祝福しようと民衆が集まり、世紀の瞬間を心待ちにしている。そんな中、投票会場のシスティーナ礼拝堂に集められた各国の枢機卿たちは、全員が心の中で必死に祈っていた。「神様、一生のお願いです。どうか私が選ばれませんように」。そんな祈りも空しく新法王に選ばれてしまったのは、誰も予想だにしなかったダークホースのメルヴィル。早速バルコニーにて大観衆を前に演説をしなければならないが、内気な彼はあまりのプレッシャーからローマの街に逃げ出してしまう…。」(プレスブックより抜粋)

おなかを抱えて笑っちゃうイタリアならではの喜劇? と想像して観に行きましたが、ユーモラスな要素が40%くらい、シニカルな要素が60%くらいの作品でした。

この105分の映画で1番印象に残ったのは、主役のメルヴィルを演じたミシェル・ピッコリ(86歳)の演技です。古くは『フレンチ・カンカン』(’54)、『軽蔑』(’63)、『小間使の日記』(’63)、『昼顔』(’67)などで知られるイタリア系のフランス人俳優ですが、その何気ない動き・まなざし・微笑を通して、彼自身の充実したキャリアと人生が垣間見えるようで、そこがとても素晴らしかったです。また、メルヴィルの徹底的な無垢さ・真面目さ・謙虚さ、そして孤独感のようなものに強く惹きつけられ、ラストの演説(長くはない)のシーンでは、思わず涙をこぼしました。

脚本と演出は、EU各国の映画祭で何度も受賞を果たしてきた気鋭のナンニ・モレッティ。But、メルヴィルが失踪してから戻ってくるまでの間の展開に、もっと密な、または多くの観客にテーマが伝わりやすくなるような工夫が成されていたなら、さらに良かったのでは?と思いました。

 

≪特別付録≫ 映画館便り!!
“試写室便り”のページに付け足すのは どうかとも思いましたが、映画館で観た新作を1本紹介させていただきます。念のために記しておきますが、僕は映画批評家ではないので、すべての新作の試写会に招かれるワケではなく、一観客として封切館で観るコトも少なくはないんです。

映画館便り、その1『ミッドナイト・イン・パリ』 (5月31日、東京・渋谷、Bunkamura ル・シネマにて観賞)

2010年 夏、本格的な作家に転身したがっているハリウッドの脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、フィアンセ&その両親と共に憧れのパリにやっては来たものの、どこか満たされずにいます。そんな彼が、ある晩 突然、1920年代という“ゴールデン・エイジ”にタイムスリップしてしまい…。
監督&脚本のウディ・アレンは、この奇想天外なロマンティック・コメディで、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の最優秀脚本賞をW受賞しました。
宣伝も かなり行き届いているので、映画ファンなら少なからず注目しているはずですが、少しでも興味を抱いたのであれば、とにかく観に行くべき。小品とはいえ出来がいいし面白いし、ウディ・アレンらしさに溢れた傑作となっています。

僕が一番楽しみにしていたのは、タイムスリップが始まる部分の描写でしたが、それは次のようになっていました。
① パリの裏通りを一人で歩いているうちに、ギルは道に迷ってしまう。
② 深夜12時の鐘の音が響き、途方に暮れたギルは道端の階段に座り込む。
③ すると、そこへ一台のクラシックな高級車がやって来て、車内から出て来た見知らぬ男が「一緒にパーティへ行こう」と親し気に声を掛けてくる。
④ ギルは「人違いでは?」と返答したものの、男はそれには おかまいなしで、
⑤ ギルは誘われるまま、車に乗り込む…。
この辺り、ウディ・アレン一流の展開で、実にスムース&ナチュラル。それからギルは、S・フィッツジェラルド夫妻、コール・ポーター、ヘミングウェイ、ピカソ、ダリ、ルイス・ブニュエルといった’ 20年代の錚々たる人物達と交わるコトになります。幾分フラッパー風でもある妖艶な美女アドリアナ(モディリアニの元恋人で、今はピカソの愛人。演ずるのはマリオン・コティヤール)に魅せられたギルは、何度めかの逢瀬に、彼女と共に突然ベル・エポックの時代にまでWトリップ。ムーラン・ルージュでロートレックやゴーギャンとも会話するという具合。
以下は完全な脇筋ですが、ギルのフィアンセの父親から素行調査を依頼された私立探偵氏(数秒間、チラッと映し出される彼の顔&姿をよく憶えておいて)は、ギルを尾行するうちに、コトもあろうにフランス革命以前のヴェルサイユ宮殿へと迷い込んでしまい、絶体絶命の危機に陥ります(このシーンは短いけれど抱腹絶倒!!)。

最終的には「あと20~30年も経ったら、この2010年代も“ゴールデンエイジ”になるというワケか」と、懐古趣味者のギルが気づくというオチがあり、さらにホンワカとした柔らかい場面が付加されて終るという、楽しい楽しい94分間のエンタテイメント。
僕はアレン作品の中では、ミア・ファローが主演した『カイロの紫のバラ』が特に好きで、封切以来3回も観たのですが、それ以上に この新作が好き❤❤❤❤

余談ですが、40年前、僕にとって初めてのパリで(当時、日本人観光客の姿は皆無でした)、雨上がりの夜更け、仕事場から宿泊先のホテル“ノルマンディ”まで セーヌ河沿いに歩いて帰った時(僕にとって、道に迷わないためにはコレがベストな方法でした)、すれ違う人もいない50分ほどの間、なぜかタイムスリップ的な感覚を味わったコトがあるのです。そんな夢のような記憶も、この映画を大好きにさせている一因かもしれません(意味、通じましたか?)

P.S. マリオン・コティヤールが、とてもとても綺麗で魅力的でした。特にクローズアップになった瞬間の、あだっぽい表情の美しさといったら!!  But、場面によってアイシャドウの色を変えるなどしてくれていたなら、さらにさらに見惚れたはず。それだけが ちょっぴり残念でした。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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