大高博幸さんの 肌・心 塾
2019.2.19

『 天国でまた会おう 』『 ビール・ストリートの恋人たち 』『 ギルティ 』『 ゴッズ・オウン・カントリー 』『 サタデーナイト・チャーチ 』試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.489 】

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© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA

愛と復讐、出会いと別れ――。
あの日々に人生のすべてがあった。

めくるめく魔術のような映像と
先の読めない展開。
誰もが初めて出会う
グランド・エンタテインメント!

天国でまた会おう
フランス/ 117 分/ PG 12
3.1 公開/配給:キノフィルムズ
tengoku-movie.com

【 STORY 】 1918 年、休戦を目前にした西部戦線で、二人の兵士の運命が交わる。上官の悪事に気付き 戦場に生き埋めにされたアルベールを、年下の青年 エドゥアールが救ったのだが、その時にエドゥアールは 顔に重傷を負ってしまう。どんな事情なのか「 家に帰りたくない 」と訴えるエドゥアールのために、アルベールは彼の戦死を偽装する。
パリに戻った二人を待っていたのは、戦没者は称えるのに 帰還兵には冷たい世間だった。仕事も恋人も失ったアルベールと、過去と縁を切ったエドゥアール。そこに、声を失ったエドゥアールの想いを〝 通訳 〟する少女が加わった。一度は負けた人生を巻き返すために、彼らは 国を相手に ひと儲けする 大胆な詐欺を企てる。だが、そこには 隠された本当の目的があった ――。( プレス資料 + チラシより )

本国フランスで大ヒット、セザール賞 13 部門にノミネートされ、脚本賞・監督賞・撮影賞・衣裳デザイン賞・美術賞を受賞したヒューマンドラマ。原作は、フランス文学界で最も権威あるゴンクール賞に輝いた ピエール・ルメートル ( 日本では 名だたるブックランキングで、7 冠を達成した「 その女アレックス 」の作者 ) の同名の小説。

主要登場人物は、戦場で口から顎にかけて重傷を負う 画家志望の青年 エドゥアール ( 幼少期に最愛の母を亡くし、成長するにつれて大企業の経営者である父親と折り合いが悪くなり、遂には絶縁状態に……。演ずるのは人気急上昇中の ナウエル・P・ビスカヤート ) 、気は小さいが 善良で情愛深い中年男 アルベール ( アルベール・デュポンテル ) 、ふたりの宿敵となる上官のプラデル ( ロラン・ラフィット ) 。加えて、エドゥアールの父 マルセル ( 『 パリよ、永遠に 』( 通信 277 ) でドイツ軍司令官役を好演した ニエル・アレストリュプ ) 、エドゥアールの姉 マドレーヌ ( エミリー・ドゥケンヌ ) 、彼女の召使い ポリーヌ ( メラニー・ティエリー ) 、〝 通訳 〟する孤児の少女 ルイーズ ( エロイーズ・バルステール ) 、そして プロローグやラスト直前に登場する憲兵隊長 ( アンドレ・マルコン ) 。

映画は 1920 年 11 月、モロッコの憲兵隊支部で アルベールが取り調べを受けているプロローグに始まり、1918 年 11 月の戦場のシーンへとフラッシュバックし、ラストで再び憲兵隊支部のシーンに戻るという構成。その 2 年間の出来事が、スリルと多様な人情を伴ってドラマティックに物語られます。

撮影は 衣裳やセットを含めて美しく華麗。現実的であると同時に絵巻物のような雰囲気で眼を惹きつけますが、特に楽しめたのは、これが 新型の勧善懲悪物だったコト。プラデルは 同情の余地のない極悪人で、アルベールは 小心者でありながら エドゥアールのために 痛み止めの薬を盗み出し、詐欺をも働くという 一風変わった善人 ( ねずみ小僧 次郎吉に 相通ずるところあり ) 。ピュアな性格のエドゥアールを含めて、主要登場人物のキャラクターが 簡潔かつ明確な上、そこに 浅薄さ・嘘っぽさを感じさせる余地のない演出は、観ていて気持ちがいゝほどでした。しかも アルベールとエドゥアールが、それとなく 社会の矛盾を 暴露・糾弾しているところに、テーマの深さと複雑な趣きとが潜んでいます。

印象的だったシーンを想い出すまゝに記すと……、
① 軍用犬が 懸命に走り続けて、塹壕の奥まで 緊急の通信文を届けるファーストシーン。
② 生き埋めにされたアルベールを、エドゥアールが 助け出す 一連のシーン。
③ 1919 年のパリの街外れの情景シーン。
④ モルヒネ注射で眠ったエドゥアールの、幻覚的な夢のシーン。
⑤ ボンマルシェのエレベーター内で、アルベールが かつての婚約者と擦れ違うシーン。
⑥ アルベールが ポリーヌと初めて言葉を交わす、イノセントな一目惚れのシーン。
そして 最後の数分間には、激しい感動の波が 立て続けに四度も押し寄せてきて、僕の眼と心は 大粒の涙で洗い清められました。

監督は、主役も務めた A・デュポンテル ( 脚本も原作者と共同執筆 ) 。美しい仮面の数々は、クリエイターの セシル・クレッチマーのオリジナル。

本作は、このコラムの読者の皆様全員にオススメしたいです。特に 人情物、勧善懲悪物を素直に受け入れるコトのできる方々にとっては、ベストな一篇となるでしょう。
P.S. プロローグ直後の戦場シーンで、偵察を命じられる二名の兵士のうちの、テリウーという若者の顔を、なんとなくで充分ですから、ぜひ 憶えておいてください。( 2.1 記 )

 

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(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

君の元へ戻るよ。君の腕の中へ。

愛よりも、もっと深い〝 運命 〟で結ばれた
恋人たちのラブ・ストーリー。
『 ムーンライト 』の バリー・ジェンキンス監督最新作。

ビール・ストリートの恋人たち
アメリカ/119 分
2.22 公開/配給:ロングライド
longride.jp/bealestreet

【 STORY 】「 赤ちゃんが できたの 」。1970 年代のニューヨーク。ティッシュは 19 歳。恋人のファニーは 22 歳。幼い頃から共に育ち、自然と愛を育み、運命の相手を互いに見出した二人にとって、それは 素晴らしい報告のはずだった。
しかし、ファニーは 無実の罪で留置所にいる。彼は ティッシュの言葉を面会室のガラス越しに聞いた。小さな諍いで白人警官の怒りを買った彼は 強姦罪で逮捕され、有罪となれば 刑務所で恥辱に満ちた日々を送るしかない。二人の愛を守るために 家族と友人たちは ファニーを助け出そうと奔走するが、そこには 様々な困難が 待ち受けていた…。( プレス資料より )

困難な状況に置かれながら 愛情を貫くために、懸命かつ忍耐強く生きる若い恋人たちの 普遍的なラブストーリー。人種や社会的階層に対する差別と向き合おうという、真撃なメッセージが込められた作品です。

原作は、公民権運動に大きな役割を果たした ジェイムズ・ボールドウィンの小説。監督・脚本は、アカデミー賞®作品賞に輝いた『 ムーンライト 』( Vol.393 ) の バリー・ジェンキンス。
主演は、ティッシュ役に 新人 キキ・レイン、ファニー役に『 栄光のランナー 』( Vol.353 ) の ステファン・ジェームス。
映画は 恋人たちが周囲の協力を得て、最悪の状況を何とか乗り越え、優しさを示すコトの出来る男の子の両親として、前向きな笑顔を見せるまでを描いています ( 気が滅入るほどの悲劇では終らないので、その点は 引っ込み思案にならずに観てください ) 。
重要な脇役として登場するティッシュの母 シャロン ( レジーナ・キング ) と、ファニーの親友 ダニエル ( ブライアン・T・ヘンリー ) の存在感も素晴らしく、端役 ( ファニーに無実の罪を着せる 卑劣で薄気味の悪い巡査、及び ファニーを救おうと その巡査を叱責する食料品店の老女主人など ) に至るまで、人物描写が実にリアルでした。

本作で最も印象的だったのは、中盤に差し掛かる辺りで映し出される、ファニーとダニエルが アパートの一室で語り合う 相当 長いシークエンス。非常に重要でいて、下手をしたら 虚ろに なりかねない 難易度の高い部分だと僕は感じましたが、演出・演技・撮影・音楽 ( 極めて小さく入る ) ・編集の全てが一体となって、そのシークエンスは 映画として圧倒的なレベルに達しています。

原題は「 もしも ビール・ストリートが ( 見てきたコトを ) 語るコトが出来たなら 」。これは 今なお繰り返されている出来事を通じて、弱者に対する強い愛情と励ましの気持ちが 十二分に伝わってくる傑作です。( 2.3 記 )

 

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© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

事件解決のカギは電話の声だけ。
88 分、試されるのは あなたの< 想像力 >。

犯人は、音の中に、潜んでいる。

ギルティ
デンマーク/ 88 分
2.22 公開/配給:ファントム・フィルム
guilty-movie.jp

【 STORY 】 緊急通報指令室のオペレーターである アスガー・ホルム ( ヤコブ・セーダーグレン ) は、ある事件をきっかけに 警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていた。そんなある日、一本の通報を受ける。それは 今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。彼に与えられた事件解決の手段は〝 電話 〟だけ。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い…。微かに聞こえる音だけを手がかりに、〝 見えない 〟事件を 解決することは できるのか――。( プレス資料より )

奇をてらった類のサスペンス映画かも……と想像しながら観たのですが、これは真の意味でチャレンジングな、観る価値の とても高い作品でした。僕は アスガーの隣りの席に陣取っているような気持ちになって、最後まで緊張しながら観続けるコトに……。セットは至ってシンプル、赤いランプがアクセント。カメラがオペレータールームの外に出るのは ラストのワンカットのみという、完全なワンシチュエーションドラマでいて、飽きさせるどころか、88 分が 短く感られるほどの出来ばえでした。

アスガーと共に観客にも「 え? 」と思わせる 電話の相手との 不可解な やり取りがあった辺りから、ストーリーは 意外な方向へと進み始めます。意外とはいえ、それは 決して突然に割り込んでくるような御都合主義の展開ではなく、伏線として 割と早い段階から 何気なく張られていたコトの上に成り立つ〝 予想外 〟……。

台詞を第一として脚本が綿密に練られている上、アスガー役の俳優 ( デンマークの ケヴィン・コスナーといった容姿。But、彼ほど甘くはない ) の顔と声の演技も素晴らしく、これが「 未だかつてない映画体験となる 」ことは絶対確実。たゞし、強いて言えば、女性よりも男性の観客に圧倒的に支持される映画かも、とは感じました。
監督・脚本は、これがデビュー作となる グスタフ・モーラー ( ’88 年生まれ ) で、将来有望・要注目。ヒューマンな要素も しっかりと表現されていて、彼は タダ者では なさそうです。( 2.6 記 )

 

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©2016 Saturday Church Holding LLC ALL rights reserved.

ニューヨーク、真夜中の教会。
誰にでも輝く場所がある ――。

サタデーナイト・チャーチ
夢を歌う場所
アメリカ/ 82 分/PG 12
2.22 公開/配給:キノフィルムズ
saturday-church.com

【 STORY 】 ニューヨークに暮らす青年・ユリシーズは、女性のように美しくなりたいという願望を抑えられずにいた。ある夜、クリストファー・ストリートで出会ったトランスジェンダーたちに、〝 サタデー・チャーチ 〟へと誘われる。そこは L G B T の人々の憩いの場で、ダンスコンテストの練習の場にもなっていた。心安らぐ居場所と、同じ孤独を抱える仲間たちを見つけたユリシーズに、人生を変える 数々のハプニングが待ち受けていた ――。 ( 試写招待状より。一部省略 )

 

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© Dales Productions Limited/The British Film Institute 2017

〝 神の恵みの地 〟で、
僕らは出逢い、愛し合った ――。

ゴッズ・オウン・カントリー
イギリス/ 104 分/ PG 15
2.2 より拡大公開中/配給:ファインフィルムズ
finefilms.co.jp/godsowncountry

【 STORY 】 孤独で やり甲斐を感じられない 寂れた牧場での日々の労働を、酒と 行きずりの不毛なセックスで紛らわす青年 ジョニー。ある日、季節労働者のゲオルゲが 羊の出産シーズンに雇われる。初めは衝突する二人だったが、羊に優しく接するゲオルゲに、ジョニーは 今まで感じたことのない恋心を抱き、突き動かされていく…。( プレス資料より )

まず『 サタデー ナイト・チャーチ 』は、L G B T ( レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー ( 身体上の性別に違和感を持つ人 ) の頭文字を採ったもの ) の若者たちの実話を、ミュージカルタッチで描いたヒューマンドラマ。映画批評サイトの Rotten Tomatoes で 93 % フレッシュを叩き出し、海外の映画祭で数々の賞を獲得した作品です。
学校では同級生たちから、家では叔母から 自分の存在を否定されて悩み苦しむ 美形の青年 ユリシーズ ( ルカ・カイン ) が、クリストファー・ストリートで出会ったトランスジェンダーやゲイの青年と親友になり、自分自身を解放していくという物語。L G B T の人たちを励まし勇気づけるために作られた映画だと思いますが、正直に言うと、僕は 脚本と演出の力量不足が気になりました。脚本は筋が通っているものの、映画としては 各シーンが つながっているだけという印象で、シーンの積み重ねにより 話が深みを増したり、ミュージカルシーンで 感情が 爆発 or 盛り上がりを見せたり しなかった点を、とても残念に思いました。

もう 1 本の フランシス・リー監督による『 ゴッズ・オウン・カントリー 』は、同性間の きわどい描写が幾つかあるものの、しっかりとした作品に仕上がっています。愛情のかけらもない 行きずりのセックスを繰り返していたジョニーが、① 羊の出産シーズンのために雇われて来たゲオルゲの、羊に接する態度 & プロとしての技量の高さに心を動かされていくプロセスと、② ゲオルゲによって 愛情のこもったセックスの尊さと歓びを初めて知ったジョニーが、③ 自分の生活そのものを 立て直そうとするに至る描写が 感動的で、素晴らしかったです。傑作と評価された『 ブロークバック・マウンテン 』( ’05 ) は、時代背景のせいもあって 暗すぎるほど暗い結末を迎える作品でしたが、こちらは 明るい未来を 確信 or 予感させる内容であるだけに、後味が とても良かったです。主役のふたり ( 面長の顔が ジョニー役の ジョシュ・オコナー、ヒゲを生やしているほうが ゲオルゲ役の アレック・セカレアヌ ) の演技も第 1 級でした。
本作は Rotten Tomatoes 99 %フレッシュに引き続き、ベルリン国際映画祭のテディ賞、サンダンス映画祭の ワールド・ドラマティック・シネマ部門 監督賞・審査員特別賞 etc、数々の映画祭で作品賞や観客賞を受賞しています。『 ブロークバック・マウンテン 』の大々的なマスコミ試写会が 超満員になった時、時代は大きく変わったと感じましたが、本作は 小品ながら、それを更に前進させたと言える心を打つラブストーリーで、僕は スタッフとキャストに 心からの拍手を送りたいです。( 2.6 記 )

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
( 個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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