ジェーン・スーさんと語る「エモストリングス、伸ばしていますか?」|作家LiLy対談連載「生きるセンス Season.7」第4話

「年齢を重ねるって、どういうことですか?」作家・LiLyさんが人生の先輩を訪ねて歩いた人気連載『生きるセンス』がwebへとお引越し。より楽しく、より自由に、より心地よく生きるべく、人生のヒントをさらに深掘りしていきます。Season.7のゲストは、ジェーン・スーさんをお迎えします。
第1話▶▶ジェーン・スーさんと語る「32才がオバサンだった時代」
第2話▶▶ジェーン・スーさんと語る「フリーランスと会社員、どっちがいいのか問題」
第3話▶▶ジェーン・スーさんと語る「『That’s life』は魔法の言葉」
中高年になればこそエモ筋のストレッチは大切です――ジェーン・スーさん
LiLyさん(以下、L) 前回は、大人がメンタルをニュートラルにもっていく大切さについて理解を深めた一方で、心の軍人化問題をどうするか、という話になったんですよね。大人だって心のペーハーを少しは傾けたい、って思いますもん。
スーさん(以下、S) だからやっぱり、本を読んだり、音楽を聴いたり、映画を観たりして、エモい気分に浸ることは大切だと思う。感情移入した結果、想像以上に泣いたりする自分に驚くこともあるけど、それって心を健やかにする体操みたいなものだから。中高年の皆さん、エモストリングスをしっかり伸ばしましょう(笑)。
L エモ筋ストレッチ、大事(笑)。
S というのも、私の友人で、自分のこと、家族のことでめちゃくちゃ大変だった5年間があって、その間、いわゆる「That’s life」方式で人生を乗り越えてきた子がいるのね。ただ、その後の数年間、心がなかなか動かなくなったと言っていて、それはそれで由々しきことだよね、という話になったの。
L メンタルを鍛えすぎた結果、ポジとネガのスイッチが固くなって、どちらにも入らなくなった状態ですよね。戦争の残酷さとは、感情が動かなくなることだって聞いたことがあって。目の前で人間が死ぬのを見て悲しんでいたら心がもたないから、何が起きても感情が動かなくなる。感情がない=人間ではなくなっちゃうってことだ、と。それに通じることですもんね。
S また私の場合、軍人メンタルになると、人の弱気に冷めた態度をとってしまう可能性が出てくるのよね。自分だって弱気になることはあるはずなのに、その想像力が足りなくなるのは、副作用以外の何物でもないから。
8年前の私へ。「行け行け、まだまだやれる!」――ジェーン・スーさん
L 感情に左右されすぎてもいけないし、感情を失ってしまっては元も子もないし、バランスが難しいですよね。「自分の機嫌は自分でとる」ってよく言われるけど、そのバランスはどうすれば? 甘やかすのもピンとこないし、厳しくするのはもっと違うし、さらに言うと年齢によっても違うのかもしれない。私はスーさんの8才年下だけど、8年前を振り返って、当時の自分に言ってあげたいことってありますか?
S 「行け行け、まだまだやれる!」ってはっぱをかけるかな。
L え〜? そうなの〜?
S うん! 「走れ走れ〜、まくれまくれ〜」って檄を飛ばすね(笑)。
L ひゃー! 「まくれまくれ〜!」って、人生のページをガンガンめくっていけって感じでもある? そうか、そうだよなぁ、43才で体力落ちたとか言ってる場合じゃないってことか〜!
S 40代は経験値が増して、まだ体力もあって、最高のパフォーマンスを発揮できる年代だと思うよ。あとは年齢って相対値でしかないから、私が8才上の人に同じ質問を投げかけたとして、同様の答えが返ってくると思うんだよね。だってさ、8才下の35才にどうアドバイスする?
L 「まだまだ若い! 走れ走れ! かませかませ!」ですね(笑)。
S でしょう?(笑) おそらく10代に対して20代はそう答えるだろうし、60代に対して70代もそう答えると思うわけ。
L ひー、いつまで続くの?
S いつまでも。ずっとだよ(笑)。
若者の夢を食い物にする。そんなオトナは許せない――LiLy
L いずれにしても人生というものが長くなって、第1回でも触れたとおり、この10年でいろんな扉がすごい勢いで開かれていると思う。当然のことながら膿も出てきているわけで、これについてはどう考えていますか?
S 出すべき膿はすべて出しきるのがいいと思ってる。前時代的なのハラスメントを受けたことがないとは言わないけど、いまだに痛みを感じるほどは傷付いたことがないんだよね。これは幸運だったと思う。でも、とにかく下の世代に嫌な思いをさせたくないという思いがすごく強い。
L 20代前半のとき、私が夢を語ると仕事を餌に夜の誘いをかけてくる最低な大人が何人かいたの。しかも、本人は全く悪気なく誘ってくるんだけど、こちらからしたら自分の夢の行方を握っている立場にいる人だったりして、断り方にもものすごく気を使ったし、一時期は夜眠れなくなるほどストレスで苦痛だった。だから今でも若者の夢を食い物にする大人は本当に許せない。これは男女問わず。権力がある女性が若い男の子をそうやって誘うこともあるのかもしれないし、とにかく「若い子の夢を大人が食い物にしようとするな!」って思う。あのときのことは今思い出しても吐き気がするし、同じようなニュースを見ると頭に血がのぼる。
S LiLyさんが若い女じゃなかったら被らなかった被害だもんね。私が頭に血がのぼるのも、医学部入試における女性差別問題や、ゼミ選考で女学生が女というだけで優遇される結果、男子学生が不当な扱いを受ける話など、人を人として見ていない理不尽な話を聞いたとき。怒りと虚しさがないまぜになって頭に血がのぼるよね。
L うんうん。わかります。自分ひとりで全ての問題解決のために動くって難しいけれど、それぞれ頭に血がのぼるポイントがあるから、それらを大人たちで手分けしてなんとかしていけたらよいですよね。スーさんは全国各地に講演に出かけているけれど、少しでも問題を解決できたら、という思いもあるのかしら。
S 私が講演会に出向く理由は主にふたつ。まだ閉鎖的な環境にいる人が、講演会に行くことで「ジェーン・スーの話を聞きたい人が周囲にこんなにいたんだ!」って可視化してもらえる、というのがまずひとつ。仲間がいるって目で見てわかると心強いから。ふたつめは、時代錯誤な価値観に縛られて自分を責めてしまう人がまだまだ多いから、「それってまやかし!」って話をあらためてしに行く、ということ。このふたつをモチベーションにせっせと足を運んでる。
L 日本全国、まだまだ膿出しが進んでいないエリアがあるんだよね。さすが、応援していますし、私もがんばります!

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次回は5月18日公開予定!
第5話「自信をつける、ただひとつの方法」
お楽しみに!
イラスト/ekore 構成・文/本庄真穂
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。