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2016.12.20

【大高博幸さん連載 Vol.373】 『 ミス・シェパードをお手本に 』『 ストーンウォール 』『 ミラノ・スカラ座 』『 ミルピエ 』 試写室便り No.129

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(c)2015 Van Productions Limited, British Broadcasting Corporation and TriStar Pictures,Inc. All Rights Reserved.

ボロは着てても心は錦!
ポンコツ車のレディがやってくる。

驚きの実話!
謎のレディと劇作家の 15 年にもおよぶ
奇妙な共同生活!?

ミス・シェパードをお手本に
イギリス/ 104 分
12.10 より公開中/配給:ハーク
www.missshepard.net

【 STORY 】 ロンドンのカムデン。誇り高き淑女〝 ミス・シェパード 〟は、路上に停めたオンボロの車で 自由気ままに暮らしていた。近所の住人たちは、年老いた彼女を心配し 世話を焼くが、お礼を言うどころか 悪態をつくばかり。ある日、路上駐車を とがめられている姿を見かけた 劇作家 ベネットは、自宅の駐車場を ひとまず避難場所として提供する……。
それから 15 年。ミス・シェパードは駐車場に居座り続け、ふたりは奇妙な共同生活を送っている。彼女の高飛車な態度や突飛な行動に頭も抱えつつも、いつしか不思議な友情が生まれていた。そして ベネットは、フランス語が堪能で 音楽にも造詣が深い ミステリアスな この老婦人に、作家としても惹かれてゆく……。 ( プレスブックより。一部省略 )

程よく知的なユーモアが全篇に漂う、笑って泣けるヒューマンドラマ。「 ほとんど真実 」に推測を加えて脚色された物語で、舞台となるのは 北ロンドン・カムデンの 閑静な住宅地、グロスター・クレセント通り。そこに居座った ミス・シェパード ( マギー・スミス ) と アラン・ベネット ( アレックス・ジェニングス ) との交流、そして近隣の住人たちの個性と暮らしぶりが 面白く描かれています。
原作は 劇作家 A・ベネットの回想録をベースとした舞台劇で、これは その主役ふたり + 演出の ニコラス・ハイトナーが、再びタッグを組んで映画化した作品です。

ミス・シェパードの不可解な謎を解くために、眼に焼き付けておくべき場面が 3 ヵ所ほどにあります。最初は、意味不明の 年代物の映像。次は、映画の前半に映し出される 50 代頃の ミス・シェパードの美しくエレガントな姿と 不吉な音声。さらに、その直後に ホンの一瞬だけ映し出される意味不明の中年の警官の姿。

胸を締めつけられたのは、ラスト近くの場面で、ミス・シェパードがベネットに「 手を握って。きょうは お風呂で洗ったから 綺麗よ 」という台詞。そのシーンが感動的だったのは、ふたりのコンビネーションが 徹頭徹尾、とても良かったから。

ベネットは 稀れに見るほどのジェントルマンで、潔癖症な人間としては驚くほど大らか。多少 二重人格的なところがあり、突然 画面に分身が現れて、その分身と会話をするという演出も巧妙。よく分からなかったのは、彼の家へ ひとりでやってくる男性が 数人いたコト。何の用事で来るのかは具体的に示されないので、特別な意味があるワケではない訪問者 or 観客に 自由に想像をめぐらして楽しんでほしいという、イタズラな演出だったのかも知れません。

それにしても、本作は M・スミスの主演作中の ベスト・オブ・ベスト。主役ふたりに次いで素晴らしかったのは、3 場面ほどに登場する近隣の女性、ミセス・ウィリアムズ役の フランシス・デ・ラ・トゥーア。彼女の自然そのものの演技は、映画中の人物というよりも、生の人間 そのものでした。

これは、ホームレスのオバアサンが第 1 主役の映画です。But、「 そんな映画 」という〝 思い込み 〟でスルーしてしまうと、これからの人生、損をするかも……。それは ともかく、ラクな気持ちで、くつろいで観てほしい佳作です。

 

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© 2015 STONEWALL USA PRODUCTIONS, LLC

R・エメリッヒ監督が史実を基に描く、
’60年代の若者たちの愛と反乱の物語。

ありのままの自分で、誰かを愛したい。

ストーンウォール
アメリカ/ 129 分/ PG-12
12.24 公開/配給:アット エンタテインメント
www.stonewall.website

【 STORY 】 インディアナ州から N.Y. グリニッジ・ビレッジの クリストファー・ストリートへやってきたダニー ( ジェレミー・アーヴァイン ) 。ゲイであることが発覚し、両親に見放され、恋人のジョー ( カール・グルスマン ) にも裏切られ、追われるように故郷を出たダニーを迎え入れたのは、この街で 体を売って暮らす ゲイのレイ ( ジョニー・ボーシャン ) だった。ダニーは 常に陽気に生きていく仲間を得て、様々なゲイやレズビアン、ドラァグクィーンや政治活動家トレバー ( ジョナサン・リース・マイヤーズ ) らと出会う。
しかし、セクシュアル・マイノリティに対する迫害と差別、警察の不当な捜査は激化。日常的に警察に殴られ、客には暴行を受ける日々が 彼らの現実だった。
ある日、彼らが常連として通うバー「 ストーンウォール・イン 」に警察の捜査が入り、ダニーやレイたちの怒りが爆発。それまで酷い扱いを受け入れるだけだったゲイたちが 初めて立ち上がり、石を投げた。それは歴史を変える暴動への始まりだった――。 ( 試写招待状より。一部省略 )

現在の セクシュアル・マイノリティの社会運動の原点となった「 ストーンウォールの反乱事件 」 ( 1969 ) を題材として、N.Y. グリニッジ・ビレッジに集まった同性愛者たちの 苦汁の日々を描いた作品です。監督は『 インデペンデンス・デイ:リサージェンス 』『 もうひとりのシェイクスピア 』 ( No.130 ) の ローランド・エメリッヒ。
巻頭の字幕には「 当時、同性愛者は精神病患者と見なされ、米国連邦法は 政府機関に対して 彼らの雇用を禁止した。彼らは 店で酒を飲むことも集会を開くことも違法とされ、病気の治療法として 電気ショックが施されていた 」とあります。
主人公のダニーが クリストファー・ストリートに到着した その日、コーヒーショップの TV は アポロ 10 号帰還関連のニュースを映し出し、ストーンウォール事件発生の少し前の場面では、ジュディ・ガーランド ( 映画『 オズの魔法使 』でドロシー役を演じたミュージカルスター。ライザ・ミネリの母 ) の ロンドンでの急死が報じられます。

事件の舞台となった バー「 ストーンウォール・イン 」は 現在も営業中で、今年 オバマ政権によって〝 国定史跡 〟に認定された場所。ついでに記すと、オバマ大統領は 就任 第 2 回目の演説で「 我が国の基本原理である『 すべての人間が平等である 』ということ。セルマ、セネカ・フォールズ、そして ストーンウォール。誰だって奇跡を起こすことが出来る 」と語ったそうです。そう、この映画は 約半世紀前の物語であると同時に、現在、そして これからも続く物語。

ダニー役の J・アーヴァイン ( 1990 年生まれ ) は、アカデミー賞®作品賞にノミネートされた『 戦火の馬 』 ( 2011 ) の主役でデビューした演技派の若手男優。僕が彼の出演作を観るのは『 レイルウェイ 運命の旅路 』 ( No.214 ) 『 ウーマン・イン・ブラック 2 死の天使 』 ( 2015 ) を含めて 4 本目ですが、『 戦火の馬 』以上に、そのナイーブで繊細な個性が引き出されています。柔和な顔つきに加えて ハリ・弾力・血色に満ちた肌の持ち主で、高校生役を演じていても異和感がありません。秘密の初恋の相手であるジョーへの一途な想い、レイを姉のように愛する気持ち等々を、ごく自然に表現していますが、特に眼を見張らされたのは ラスト近く、精神的に成長したダニーが ジョーに会いに行くシークエンス。詳しくは敢えて省略しますが、エリア・カザン監督の『 草原の輝き 』 ( 1961、青春映画の傑作 ) のラストシーン ( 苦境を克服したヒロインの ナタリー・ウッドが、失恋の相手である ウォレン・ビーティに会いに行く。その彼女の 圧倒的な、神々しいまでの美しさ ) に匹敵するほどの見事な演技を観せ、僕は強烈な感動を覚えました。

レイ役の J・ボーシャンは、一種の清々しさと妖艶な雰囲気を放つ姿から、客に顔を殴られて大怪我をした姿までを熱演。仲間を常に大切にする彼のフェアな感情や「 君は僕にとって姉のような存在なんだ 」とダニーに告げられる場面でのデリケートな表情が 特に印象的でした。

その他、ダニーの母親 ( 彼女は 最初から ダニーを見放したりは していません。STORY 紹介部の表現とは、雰囲気が異なります ) と妹 ( ダニーの全面的な理解者 ) の存在は、本作のひとつの救い。ダニーを徹底的に拒絶する父親 ( 高校の体育教師 ) には「 もしかしたら 」と想像させるようなニュアンスも、なくは ありませんでした。

かなり刺激的なセックスシーンが 3 ヶ所にありますが、エメリッヒ監督の描写は抑制されていて、良識を保っています。
これは LGBTの方々だけでなく、より多くの人に観てほしい作品。たとえ興味本位で観たとしても、感じる何か、気づく何かが、必ずあるはずです。

 

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© Rai Com – Skira Classica – ARTE France – Camera Lucida Productions 2015

伝説の歌姫 マリア・カラスは、ここから生まれた。
芸術の殿堂の全貌が 貴重な証言とアーカイブ映像で、鮮やかに紐解かれる!

ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿
イタリア/ 102 分
12.23 公開/配給:コムストック・グループ
milanscala.com

1778 年に落成し、およそ 240 年に及ぶ栄華を誇るオペラハウスの最高峰、ミラノ・スカラ座。本作は シーズン開幕公演の準備に追われる劇場関係者たちの姿を、多面的に捉えたドキュメンタリー。その舞台裏の模様を軸に、今日のスカラ座を築き上げた歴史を 折々に紹介するという内容です。

ルカ・ルチーニ監督と 脚本の シルヴィア・コルベッタは、本作について 次のように述べています。
「 スカラ座の本質を語らなければ、240 年近い歴史を持つ ミラノ・スカラ座の秘密は見えてきません。それは〝感情の工場 〟であるということ。情熱や犠牲、才能や献身が一つになる独特の場所が スカラ座なのです。私たちは 事実関係をきっちり年代順に並べるという堅苦しいことはやめ、照明や音楽、映像、静寂の急流を 下るように描くことを選びました 」。( プレス資料より )

アーカイブ写真と映像には、歴代の名歌手、演出家、指揮者らが続々と登場。さらに興味深かったのは 丁寧に作られた再現映像場面で、写譜屋が楽譜を印刷して出版するに至る経緯、劇場を電気照明に切り変えた技師や グランドホテルのコンシェルジュらが現れて、私たちに語りかけてくるところ。また 驚かされたのは、1901 年のヴェルディの国葬の実写映像が捜入されていたコトです。

個人的に激しい感動を覚えたのは、年齢を重ねたバリトン歌手 レオ・ヌッチのリサイタルの記録映像。その繊細でいて力強い、完璧にコントロールされた歌唱には「 どれだけの修練と努力を積み重ねてきたのだろう 」と想わせる威光があった上、聴衆の大拍手・大歓声を受けて喜ぶ彼の表情に、人間的な親しみも感じられたコトです。

チラシの画像に大きく扱われている マリア・カラスをはじめ、カラヤン、ヴィスコンティ、ヌレエフ、さらに 現代のスターである ロベルト・ボッレらの姿も観られます。が、本作の主役は あくまでもスカラ座。彼らの出番は 決して多くはありません。その点、期待を膨らませすぎずに 観てください。

 

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©FALABRACKS,OPERA NATIONAL DE PARIS,UPSIDE DISTRIBUTION,BLUEMIND,2016

天才振付師 バンジャマン・ミルピエが
次世代を担う若手ダンサーたちと挑む、芸術の殿堂〝 パリ・オペラ座 〟。
伝統と革新が激しくぶつかるとき、歴史に新たなページが刻まれる。

ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~
フランス/ 114 分
12.23 公開/配給:トランスフォーマー
www.transformer.co.jp/m/millepied

こちらは 1875 年に始まる パリ・オペラ座の、伝統と革新のドキュメンタリー。
20 年近くも芸術監督を務めた ブリジット・ルフェーブルの後任として、2014 年 11 月に 史上最年少で大抜擢された バンジャマン・ミルピエ ( 1977 年生まれ ) 。日本では 映画『 ブラック・スワン 』 ( No.57 ) の振付師、および ナタリー・ポートマンの夫君として知られる彼が、オペラ座の歴史に革新的な 1 ページを刻む、新作上演初日までの 40 日間に密着した内容です。

僕は まず、どのような角度から撮られても完璧にハンサムな、モデル or 映画スターのようなミルピエの容姿に感嘆。ニューヨーク・シティ・バレエ団で 2002 年からプリンシパルを務めていたそうで、当時の彼の美と技は、さぞ素晴らしかったに違いないと思いました。
しかし、それ以上に驚かされたのは、彼の意志の強さです。それも冷静かつ穏やかな態度で、変革に戸惑っているであろうベテランスタッフたちとの間に 摩擦を起こすコトもなく、全てを着々と推し進めて行くミルピエの姿 ( 彼が僅かに動揺を示したのは、交通機関のストライキの予定が報告された時のみでした ) 。彼は ダンサーたちの健康管理に細心の注意を払い、彼らの脚にダメージを与える堅硬なステージの床にクッション材を施したり、黒人ハーフダンサーを初めて主役に起用する等々、前代未聞の変革を成し遂げるのです。

全篇を通じて興味深く観ましたが、個人的に最も印象に残ったのは、ミルピエのアシスタントとしてマネージャー的な仕事をする女性スタッフの存在でした。その女性 ( 名前を失念 ) がミルピエに 確認や報告、相談をする際の態度 or 方法が 実に実に素晴らしいのです。それらの数場面を観ながら、僕は かつて仕事の場で 何度も間近で目にした デザイナーの三宅一生氏と そのアシスタントの小室知子さんとの 緊密な やり取り、及び 歌手の雪村いづみさんと その付き人の 故・大沢三枝子さんとの信頼関係の強さを想い出していました……。大変な仕事を成し遂げる特別な人にとって、アシスタントの気配り・責任感・使命感は 非常に重要なモノなのだというコトを、改めて痛感した次第です。

P.S. バレエのレッスン風景も たっぷりと盛り込まれています。今年の夏、エトワール・ガラ公演のために来日した レオノール・ボラック、バンジャマン・ペッシュ、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェらにスクリーンで再会できるので、ファンの皆様は 公開初日 ( 祝日 ) に劇場へ!

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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