大高博幸さんの 肌・心 塾
2017.6.6

『 残像 』『 セールスマン 』『 世界にひとつの金メダル 』『 おとなの恋の測り方 』『 怪物はささやく 』 試写室便り 【 大高博幸さん連載 Vol.398 】

大高博幸さんによる映画試写会便り。今回は『 残像 』『 セールスマン 』『 世界にひとつの金メダル 』『 おとなの恋の測り方 』『 怪物はささやく 』 をご紹介します。

©2016-VVZ PRODUCTION-GAUMONT-M6 FILMS
©2016-VVZ PRODUCTION-GAUMONT-M6 FILMS

逆身長差だけど〝 最強のふたり 〟が織りなす フレンチ・ラブストーリー。
「 男の価値って、何で決まる? 」究極の選択に、彼女が出した答えは?

おとなの恋の測り方
フランス/ 98 分
6.17 公開/配給:松竹
otonanokoi.jp

【 STORY 】 美しく聡明な女性弁護士 ディアーヌは、偶然の巡りあわせから 建築家のアレクサンドルに出会う。彼女が 3 年前に離婚したと知ったアレクサンドルは、積極的にディアーヌにアプローチ。一方 ディアーヌも、ハンサムでリッチでユーモアあふれる、ほとんど完璧なアレクサンドルに惹かれるが、唯一 気になるのが …… 彼の〝 身長 〟!? ( 試写招待状より )

太陽が降り注ぐマルセイユを舞台とした、ユーモアたっぷり、ハートウォーミングな ロマンティックコメディ。アレクサンドル役は『 アーティスト 』( Vol.95 ) でフランス人俳優として初めてアカデミー賞Ⓡ主演男優賞に輝いた ジャン・デュジャルダン。CG をはじめとする特殊技術の力を借りながら、かなり小柄な男 ( たしか「 正身 136 センチ 」と台詞で自己紹介していました ) を熱演。ディアーヌ役は、第 42 回 ( 2016年度 ) のセザール賞にノミネートされた ロマコメの女王、ヴィルジニー・エフィラ ( 1977年生まれ ) 。

物語は、ディアーヌがレストランに置き忘れた携帯電話を アレクサンドルが届けるというところから始まり、いろいろあった揚句に ○○○○エンドと相なります。テンポがいゝ割にジレったくも感じさせる演出が面白く、脇役の ちょっとした言動までが おかしかったり、パンチがこもっていたりで、全篇を楽しく観るコトができました。

カッコよかったのは 後半、アレクサンドルを何度もチラ見しては笑い続けている男女三人組を、ディアーヌがビシッとやりこめる場面。
最も感動的だったのは、アレクサンドルと 彼を敬愛してやまない息子 ( 演ずるのは 長身の好青年、セザール・ドンボワ ) との会話場面。こんな風にジーンとくる父と息子の やりとり、僕は今までに観た覚えがありません。

 

(C)2013 - ACAJOU FILMS - PATHEÉ PRODUCTION - ORANGE STUDIO - TF1 FILMS PRODUCTION - CANEO FILMS - SCOPE PICTURES - CD FILMS JAPPELOUP INC.
(C)2013 – ACAJOU FILMS – PATHEÉ PRODUCTION – ORANGE STUDIO – TF1 FILMS PRODUCTION – CANEO FILMS – SCOPE PICTURES – CD FILMS JAPPELOUP INC.

人間を全く信じない競技馬との出会い。
父との確執、幼い日の夢。
エリート弁護士は華々しいキャリアを捨て、障害飛越競技に挑むが――。

世界にひとつの金メダル
フランス、カナダ/ 130 分
6.17 公開/配給:レスペ
http://sekakin.com/

【 STORY 】 1980 年代初頭、フランス。子供のころより父の指導の下で 障害飛越競技 ( しょうがい ひえつ きょうぎ ) に打ち込んできたピエール。彼は大人になり 父の期待から逃れるように 弁護士となる。だが、幼い日の情熱を あきらめることができず キャリアを捨て、再び選手 <ライダー> となる。気性が荒く 欠点だらけの若馬 ジャップルーとともに オリンピックを目指す――。 ( 試写招待状より。一部省略 )

夢への再挑戦と 家族との絆を描いた、実話に基づくヒューマンドラマ。
映画は ピエールの子供時代、美しい田園風景が広がるドルドーニュ地方の場面に始まり、迂余曲折の後、ソウルオリンピックで優勝するまでを描いていますが、結果は既に分かっていても、祈るような気持ちで全篇を興味深く観賞しました。
LAとソウル、ふたつのオリンピックを完全に再現した場面 ( 莫大な製作費が使われている ) は、正にスペクタキュラー。しかし、挫折にあえぐピエールを叱咤激励する父と妻、厩務員 ( 馬の世話係 ) のラファエルらの言葉に対して 聞く耳を持っていたコトが、ピエールに金メダルをもたらした…、そう感じさせるところに 本作の一番の良さがあると僕は感じました。

ピエールを演ずるのは、両親が馬のブリーダーだという ギョーム・カネ ( 脚本も ) 。父親役の ダニエル・オートゥイユも、妻役の マリナ・ハンズも好演していますが、僕は特に ジャップルーに惜しみない愛情を注ぐ ラファエル役の ルーデ・ラージェ ( 撮影当時、22 ~ 23 歳 ) の生彩に満ちた演技に惹かれました。
監督は、『 ココ・シャネル 』( ’08 ) 『 シンデレラ 』( ’11 ) の クリスチャン・デュゲイ。

 

© 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU. All rights reserved
© 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU. All rights reserved

孤独な少年と怪物の <魂の駆け引き> を描く、感涙のダークファンタジー!
英文学の最高傑作を『 パンズ・ラビリンス 』の製作スタッフが映画化!

怪物は ささやく
アメリカ、スペイン/ 109 分
6.9 公開/配給:ギャガ
gaga.ne.jp/kaibutsu

【 STORY 】 13 歳の少年 コナーは、難しい病を抱えた母親と 2 人で 裏窓から教会の墓地がみえる家に住み、毎夜 悪夢にうなされていた。ある夜、コナーのもとに怪物がやって来て告げる。「 今から、私は お前に 3 つの【 真実の物語 】を話す。4 つ目の物語は、お前が話せ。 」 しかも怪物は、コナーが隠している〝 真実 〟を語れと迫るのだ。頑なに拒むコナー。しかし コナーの抵抗など意にも介さず、その日を境に 夜ごと怪物は現れ 物語の幕が上がる――。( チラシより )

始まりは、孤児院の窓辺に巨人が現われる W・ディズニーの『 BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント 』( Vol.360 ) に似ています。しかし本作は、子供向き or 家族向きの おとぎ話の類とは異質な、妖しくも激しく切ない〝 大人のためのダークファンタジー 〟。アニメーションで語られる怪物の話 ( 上から 2 番めのスティルは、その第 1 話のワンシーン ) からして、人間の心の闇を暴く意外な内容…。そんな怪物の 3 つの話に追いつめられていったコナー少年が、ひた隠しにしていた心の内を語らざるを得なくなるという展開で、僕は未だ幼い彼の本心にショックを受けつゝも、素直に納得させられました。

以下は 余計なお世話かも知れませんが、これは 100 % 無邪気なまゝのお子様方には、多分 不向きな作品です。そうとは知らずに ファミレスへ行くようなつもりで お子様と一緒に観に行くと、困惑 or 狼狽させられる可能性があるでしょう。なぜかはネタバレになるので書きませんが、これは 分別のある、全てを綺麗事にしてしまわない 大人のためのダークファンタジー。『 パンズ・ラビリンス 』( 2006 ) と比較すると、物語のスケールは小さめながら、より現実的な内容であるだけに、心理的な怖さは上回っています。
コナー役の ルイス・マクドゥーガル ( 撮影当時、12 歳 ) は 可愛らしいだけの少年ではなく、驚くべき感情表現力の持ち主。観客の多くが 彼の中に、自分の分身的な要素を発見するコトになるのでは? と僕は感じました。正直な人間であればあるほど、そう感じて当然だと思います。
監督は、『 永遠のこどもたち 』『 インポッシブル 』の J・A・バヨナ。

 

クレジット確認中
クレジット確認中

緻密な物語と繊細な演技。
スリリングな心理描写で事件の真相を紡いでゆく サスペンスドラマの傑作!

セールスマン
イラン、フランス/ 124 分
6.10 公開/配給:スターサンズ、ドマ
www.thesalesman.jp

【 STORY 】 教師 エマッドと その妻 ラナは 小さな劇団で俳優としても活動し、今は アーサー・ミラーの戯曲「 セールスマンの死 」を演じていた。夫の留守中に ラナが何者かに襲われ、そんな穏やかだった日常が一変する。犯人に罪を償わせたい夫と 表沙汰にしたくない妻の間には 深い溝が生じ始め、やがて苛立ちを募らせた夫は 自力で犯人捜しに乗り出すのだが――。( 試写招待状より )

今年 2 月に、アカデミー賞Ⓡ外国語映画賞を受賞した作品です。それに先立つ 1 月、イランなど 7 ヶ国の国民や難民の米国への入国を禁止したトランプ大統領令に抗議し、アスガー・ファルハディ監督と 主演の タラネ・アリドゥスティ ( ラナ役 ) が LA で開催されるアカデミー賞Ⓡ授賞式へのボイコットを表明…。その渦中にあって見事に受賞を果たした傑作 心理サスペンスドラマ。ファルハディ監督にとっては『 別離 』に続く 2 度めの同賞受賞となりました。

戯曲のリハーサルシーンや エマッド ( 演ずるのは シャハブ・ホセイニ。本作でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞 ) の授業シーンなど、主題の核心から離れる部分は多少あるにしても、語り口はダイレクト。エマッドが犯人捜しに乗り出す辺りから急速に緊張感が高まり、ついに犯人と向き合うコトになるクライマックスでは、誰もが息を潜めて 画面を見つめずには いられなくなるでしょう。そこで僕が不思議に感じたのは、エマッドの復讐心はモチロンですが、犯人の〝 今の心情 〟も痛いほど分かる気がしたコト…。そして、エマッドが ラスト直前に取った ひとつの行為への 深く重い悔恨と共に、忘れがたいエンディングを迎えます。

 

Ⓒ 2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A, EC 1 – Łódz Miasto Kultury,  Narodowy Instytut Audiowizualny, Festiwal Filmowy Camerimage- Fundacja Tumult  All Rights Reserved.
Ⓒ 2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A, EC 1 – Łódz Miasto Kultury, Narodowy Instytut Audiowizualny, Festiwal Filmowy Camerimage- Fundacja Tumult All Rights Reserved.

ひとりの実在の芸術家を通じて描かれる、20 世紀の激動の時代。
巨匠 アンジェイ・ワイダ監督、
心震わす渾身の遺作!

残像
ポーランド/ 99 分
6.10 公開/配給:アルバトロス・フィルム
zanzou-movie.com

【 STORY 】 第二次大戦後、ソヴィエト連邦の影響下におかれたポーランド。スターリンによる全体主義に脅かされながらも、カンディンスキーやシャガールなどとも交流を持ち、情熱的に創作と美術教育に打ち込む 前衛画家 ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ。しかし、芸術を政治に利用しようとするポーランド政府が要求した社会的リアリズムに真っ向から反発したために、芸術家としての名声も、尊厳も踏みにじられていく。けれども彼は、いかなる境遇に追い込まれても、芸術に希望を失うことはなかった。その気高い信念と理想は、不確かな時代に 鮮烈な光を残していく――。 ( プレス資料より。一部省略 )

昨年の 10 月 9 日に、90 歳で他界したポーランドの巨匠、A・ワイダ監督。
『 残像 』は、実在の前衛画家が 自らの信念を貫き 闘いながらも、政治体制によって破滅させられていく晩年の 4 年間 ( 1949~’52 ) を、冷徹に密度濃く描いた内容で、ワイダ監督が生涯を通じて追求し続けたテーマを 凝縮させたかのような作品となっています。

僕の眼の奥に焼きついたのは、社会主義を推し進める当局員らの浅薄さ。政府の意向・強要を主人公 ストゥシェミンスキが敢然と拒む大学内の場面。間もなく食料の配給を差し止められた上、画材の入手も不可能となり、病によって衰弱していくストゥシェミンスキ。政府の制裁を恐れずに、敬愛する彼の下へ通い続ける ひと握りの友人と学生たち。しっかりしているとはいえ、まだまだ幼い娘 ニカ。ようやくショーウィンドーの装飾の仕事を得た彼が、裸のマネキン人形を抱えながら その場に倒れ込む場面 ( ウィンドーの前を行き交う人々は、それに気づきもしない ) 等々。

主人公を演ずる ボグスワフ・リンダが、役になりきっていて 実に実に素晴らしい。I・ベルイマン監督の『 野いちご 』( ’57 ) で ヴィクトル・シェーストレムが演じた老教授の イサク・ボルイ、ワイダ監督の『 コルチャック先生 』( ’90 ) で ヴォイチェフ・プショニャックが演じた老小児科医の ヤヌシュ・コルチャックと並んで、B・リンダが演じた芸術家 兼 教師の ストゥシェミンスキを、僕は決して忘れるコトがないでしょう。

これは、ワイダ監督を敬愛するファンの皆様には、2 度 3 度と 繰り返し観てほしい、真に心を震わす 渾身の遺作です。

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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