大高博幸さんの 肌・心 塾
2017.4.4

『 ライオン 』『 人生タクシー 』『 ターシャ・テューダー 』『 メットガラ 』 試写室便り 【 大高博幸さん連載 Vol.389 】

©2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia
©2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

5 歳から 25 年間、迷子だった男の
驚きに満ちた人生。

迷った距離 1 万キロ、探した時間 25 年、道案内は Google Earth 。

ライオン
25 年目のただいま
オーストラリア/ 119 分
4.7 公開/配給:ギャガ
gaga.ne.jp/lion/

【 STORY 】 オーストラリアで幸せに暮らす青年 サルー ( デヴ・パテル ) 。しかし、彼には隠された驚愕の過去があった。インドで生まれた彼は 5 歳の時に迷子になり、家族と生き別れたまま オーストラリアへ養子に だされたのだ。成人し、幸せな生活を送れば送るほど募る、インドの家族への想い。人生を取り戻し 未来への一歩を踏み出すため、そして 母と兄に、あの日 言えなかった〝 ただいま 〟を伝えるため、彼は遂に決意する。「 家を探し出す―― 」と。( 試写招待状より。一部省略 )

切られても切れない家族との絆……。驚愕の実話を元に『 英国王のスピーチ 』 ( Vol.47 ) の製作陣が映画化した、奇跡のような感動のドラマ。
映画は 1986年のインドの小村に始まり、観客は 幼いサルーの運命を予め知ってはいても、冒頭からドキドキしながら スクリーンに のめり込んでしまうコト必至です。中盤で多少の淀みを感じさせはするとしても、僅かな記憶を頼りに Google Earth と向き合うコト 5 年、サルーが歳老いた母との再会を果たすまでを 正攻法で描いています。

幼いサルーの健気さ、素直さ、カンの良さ。成人したサルーの一途な想い、くじけそうになりながらも諦めなかった粘り強さ。加えて 養父母の愛情と懐の深さ、Google Earth での探索を提言した友人、そして 兄を想い出させるインドの揚げ菓子〝 ジャレビ 〟と、迷子になる直前に見た〝 給水塔 〟の記憶が サルーを支え導いた経緯等々、本作には忘れ難い要素が多々含まれています ( 似たような〝 何か 〟なら 誰にも必ずあるはずで、それが本作への共感と感動を一層強烈なモノにしているとも言えそうです ) 。

5 歳のサルーを演ずるのは、製作スタッフによって見い出された サニー・パワール。映画初出演とは思えない演技と存在感で数々の賞にノミネートされ、アジア太平洋映画賞を受賞。
成人したサルー役は『 スラムドッグ $ ミリオネア 』 ( ’08 ) の主役で一躍有名になった D・パテル。前作『 マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章 』 ( Vol.330 ) では騒々しすぎる演技にヘキエキさせられましたが、本作では 内向的な感情を巧みに表現して 別人のようです。
その他、養父母役の デヴィッド・ウェンハムと ニコール・キッドマン、サルーの恋人役の ルーニー・マーラ、サルーの母親役の プリヤンカ・ボゼ、兄役の アビシェーク・バラトをはじめ、端役に至るまで 全員が適役を好演しています。

監督は、本作が初の長編映画となる ガース・デイヴィス。脚本は『 ディーン、君がいた瞬間 』 ( Vol.319 ) の ルーク・デイヴィス。全篇中、中途半端な印象を受けたのは、養父母 ジョンとスーの もうひとりの養子、マントッシュの扱い。サルーとの対比と 養父母の苦悩を表現する上で重要な存在ではあるので、もしも さらに効果的な 脚色・演出が施されていたなら、作品全体が一層充実したのでは? と思いました。

P.S. 題名の『 ライオン 』 ( 原題名も『 LION 』) は、サルーの正確な名前である シェルウ = ライオンに由来しています ( 実は こゝにも、ちょっとしたドラマがあるんです ) 。

 

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(C)2015 Jafar Panahi Productions

予想外に温かく、引き込まれ、驚かされた。――ハリウッド・リポーター

映画を愛する人、物作りに関わる人、そして壁に立ち向かう 全ての人々に贈る人生讃歌!

人生タクシー
イラン/ 82 分
4.15 公開/配給:シンカ
jinsei-taxi.jp

【 STORY 】 タクシーが テヘランの活気に満ちた 色鮮やかな街並みを走り抜ける。運転手は 他でもない ジャファル・パナヒ監督自身。ダッシュボードに置かれたカメラを通して、死刑制度について議論する路上強盗と教師、一儲けを企む海賊版レンタルビデオ業者、交通事故に遭った夫と泣き叫ぶ妻、映画の題材に悩む監督志望の大学生、金魚鉢を手に急ぐ二人の老婆、国内で上映可能な映画を撮影する小学生の姪、強盗に襲われた裕福な幼なじみ、政府から停職処分を受けた弁護士など、個性豊かな乗客達が繰り広げる悲喜こもごもの人生、そして知られざるイラン社会の核心が見えてくる――。 ( プレス資料より )

簡素でありながらエネルギーに満ちた内容で、もっと長くてもいゝのにと感じさせたほど面白い 82 分 。ひと言で僕の感想を述べると、リード部に引用した ハリウッド・リポーターの評と同じになります。
監督は、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの 世界三大国際映画祭での受賞経験を持つイランの名匠 ジャファル・パナヒ。政府への反体制的な活動を理由に、20 年間もの「 映画監督禁止令 」を受けている彼が、自らタクシー運転手に扮して作り上げたのが この『 人生タクシー 』。イラン国内では上映許可が得られていませんが、’15年度のベルリン国際映画祭で 金熊賞 ( 最高賞 ) を獲得しています。

パナヒ氏は 画像の笑顔そのものの人物という印象で、乗客たち ( 彼の車は〝 相乗りタクシー 〟 ) の心理や状況を理解して、極力 対応しようとするだけの 人情・感性・知性の持ち主。乗客たちは それぞれが興味を引きますが、小学生の姪っ子 ( 賢くて大人びていながら、子供らしさに溢れた綺麗な子 ) と、女性弁護士 ( パナヒ監督の大ファンで、洗練されたユーモアのセンスの持ち主 ) の登場々面を 僕は特に楽しく観ました。しかし 最も興味深かったのは、パナヒ氏が 久々に会う 幼なじみのアラシュ氏 ( 一ヶ月前に強盗に遭い、ケガをしたという男性 ) 。長くなるので詳しくは省略しますが、僕と同じような 少し変わった考えかたをするアラシュ氏に、こういう形で出会えたコトは 予想外の嬉しいサプライズ。彼の話を聞くパナヒ氏の反応にも、僕は親近感を覚えました。意味不明かとは想いますが、この映画は いろいろな意味で とても貴重。
反対制的な主張は前面に押し出されていないので、誰もが素直に楽しめると思います。

 

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Photo by Richard W. Brown

アメリカを代表する絵本作家、
ターシャ・テューダー。
< スローライフの母 >から あなたへ贈る、永遠の生きるヒント。

人生 何があっても「 生きること 」を楽しんで。

ターシャ・テューダー
静かな水の物語
日本/ 105 分
4.15 公開/配給:KADOKAWA
tasha-movie.jp

【 INTRODUCTION 】 絵本作家として 70 年間活躍し、子育てを終えた 56 歳の時、バーモントの山奥に 18 世紀風の農家を建て、自然に寄り添いながら暮らし続けた ターシャ・テューダー。「 アメリカのコテージガーデンの手本 」となる美しい庭を作り上げた 彼女の魅力を解き明かすドキュメンタリー。10 年間に渡り撮影された映像に加え、現在のテューダー家を捉えた完全版。 ( 試写招待状より抜粋 )

花と動物に囲まれて暮らすターシャさんの生誕 100 年を記念し、新たに製作されたドキュメンタリーです。
静謐な雪景色のコーギコテージ、赤々と燃える暖炉の炎、愛らしいコーギ犬とハンサムなチャボ、絵筆とパレットと水彩絵の具、そして キッチンに立つターシャさん……。開巻から、フェアリーゴッドマザーのお屋敷に招かれたような気持ちに誘われる、至福の 105 分。
冬から春、夏から秋、さらに再び冬へと巡る季節を 繊細かつ鮮明に映し出しながら、自然に寄り添うターシャさんのライフスタイルを、胸に沁み入る普遍的なメッセージと共に伝える穏やかな構成。インタビュアーやナレーターの声は ひとつもなく、冗談を交じえての彼女の言葉の数々は、私たち ひとりひとりに向けて発せられる 励ましのポエムのようにも聞こえてきます。

この映画は、まるで 世界にひとつの宝石箱。生きかたのヒントという以上に〝 人生の最も重要な指針 〟とでも言うべきものが、丁寧に 丁寧に 収められているのです。これから先の日々を、できるだけピュアに、かつ ほんの少しでも 心豊かに過ごしていくために、僕は「 この映画が DVD 化されたなら 即 入手して、折に触れて 繰り返し観よう 」と決めました。

サブタイトルにある「 静かな水 」は、ターシャさんの言葉のひとつ、「 静かな水のようであること。囲りに流されず、自分の道を 自分の速さで進むこと。思い通りに進めばいいのよ 」から採られています。監督は 松谷光絵、企画・プロデュースは 鈴木ゆかり、撮影は 高野稔弘。

 

©2016 MB Productions, LLC
©2016 MB Productions, LLC

〝 プラダを着た悪魔 〟が仕掛ける≪ファッション界のアカデミー賞≫に初潜入!

ようこそ、華麗なる美の祭典へ。

メットガラ
ドレスをまとった美術館
アメリカ/ 91 分
4.15 公開/配給:アルバトロス・フィルム
metgala-movie.com

【 INTRODUCTION 】 2015 年 5 月 2 日、NY メトロポリタン美術館 ( MET ) 。伝説のファッション・イベント ≪ メットガラ ≫ が華やかに幕を開けた。主催は〝 プラダを着た悪魔 〟こと、アナ・ウィンター。彼女が招待したのは、ポップスターのリアーナ、アカデミー賞の常連、ファッション界の重鎮、豪華セレブリティたち――。MET服飾部門を指揮する革新的キュレーターの アンドリュー・ボルトンと アナ・ウィンターが、伝説の展覧会と世紀の一夜のために奮闘する 8 か月に密着! ( 試写招待状より抜粋 )

毎年一回、5 月の第一月曜日に開催されるプレミアムなイベント ≪ メットガラ ≫ 。本作は 企画の立案から開催初日までの舞台裏を、濃密かつ赤裸々に追ったドキュメンタリー。オープニングナイトの豪華さは モチロン最大の見モノですが、この年の展覧会「 鏡の中の中国 」の制作過程で持ち上がる 中国との微妙な政治的問題、幾つかの横槍や摩擦、MET の他部門からの牽制 etc に対処しながら突き進んでいく、A・ボルトンと A・ウィンターの真剣勝負に目が釘付け。

大勢の登場人物中、特に印象的だったのは、デザイナーの ジョン・ガリアーノ、ジャン = ポール・ゴルチエ、及び アートディレクターを務めた中国の映画監督 ウォン・カーウァイ。レッドカーペットの場面では、主役扱いのリアーナに加え、レディ・ガガ、マドンナ、ビヨンセ、シェール、ジェシカ・チャステイン、ジュリアン・ムーア、アン・ハサウェイらの姿も……。
展覧会のコンセプトに触れる部分では、中国を題材とした昔の映画『 散り行く花 』や『 上海特急 』等の場面の捜入が眼を楽しませてくれましたが、非常に驚かされたのは、ポール・ポワレ ( シャネル出現以前のファッション界の大御所 ) のモデルの プロモーション用と想われる記録映像が、一瞬とはいえ 映し出されたコトです。そんな枝葉末節の部分を含めて、これは眼福の 91分。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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