健康・ボディケア・リフレッシュニュース
2016.3.1

大高博幸の美的.com通信(330) 『家族はつらいよ』『リリーのすべて』『マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』 試写室便り Vol.110

家族はつらいよ
Ⓒ2016「家族はつらいよ」製作委員会

本日は、家族会議なり。
妻よ、俺に「笑顔」を下さい。
夫よ、私に「離婚」を下さい。
わが家に「危機」が やってきた。

家族はつらいよ
日本/108分
3.12 公開/制作・配給:松竹
www.kazoku-tsuraiyo.jp

【STORY】 結婚50年を迎えようとする平田家の主・周造(橋爪功)と 妻・富子(吉行和子)。たまには妻に誕生日のプレゼントでも買ってやろうかと、周造が欲しいものを聞いてみると、富子の答えは なんと…「離婚届」!! 突然起きた まさかの〝熟年離婚〟騒動に、子どもたちは大慌て。何とか解決策を見つけようと≪家族会議≫を決行し、離婚問題について話し合おうとするものの、それぞれの不満が噴出しはじめ、事態は思わぬ方向へ…! 果たして この家族は どうなってしまうのか!?(チラシより)

永遠の国民的映画『男はつらいよ』の生みの親・山田洋次監督が、『東京家族』(’13)の 8人の出演者を再結集して作った喜劇。〝寅さん〟シリーズに相通ずる 滑稽な家族の物語です。
昨年の12月末、補助席まで満杯になって入場できない人が続出した松竹本社の試写室は、何度も何度も大爆笑に包まれていました。

僕が一番大笑いしたのは、でしゃばりの長女夫婦が 周造の浮気調査に雇った 私立探偵・沼田(小林稔侍)の登場々面。自分の事務所で 出前のラーメンをズルズルと啜っているダサいオッサン姿から一変、スタイリッシュかつシリアスな雰囲気で 周造が通いつめる居酒屋に現れ、女将の かよ(風吹ジュン)との〝親密な様子〟を テープとカメラに収める……。このシークエンス、まさか あんな風に展開するとは 想像もさせない演出が、実に実に見事でした。
これに次いで面白かったのは、林家正蔵(長女の夫役)のギャグの一場面。また、徳永ゆうき演ずる 歌のうまい鰻屋のお兄さんの 調子の良さ・朗らかさ、笹野高史演ずる コーヒー好きの警備員の人の良さetc、端役に至るまでサービス満点。

主役が後まわしになりましたが、頑固親父役の橋爪功は 子供に逆戻りしているような我がまゝぶりが愛らしく、間のびさせた頬とビーバーのような歯が利いています。
富子役の吉行和子は 本作に限った話ではありませんが、どちらかと言えばガラガラ声なのに 台詞が非常に聞き取りやすく、耳ざわりも心地いい。
次男役の妻夫木聡は 家族の緩衝剤 or 接着剤的な存在で、登場人物の中では 最も冷静かつ神妙なキャラクター。突然にヘンな話で恐縮ですが、昨年の晩秋頃、「妻夫木聡が いけない要求」をエステティシャンにしたとかで 週刊誌ネタにされていたコトを想い出してしまった僕は、本作での彼の神妙ぶりが 輪をかけて面白く感じられました(笑)。
少々 too muchな気がしたのは、長男(西村雅彦)の笑いのツボ。理屈っぽくて自意識過剰気味な彼の立場を考えれば、それはそれで 面白いとも言えるんですけれど……。

 

 

リリーの全て名称未設定-1
©2015 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

夫が 女性として生きたいと願った時、
妻は すべてを受け入れた。

T・フーパー監督 × E・レッドメイン、
『レ・ミゼラブル』の強力タッグが再び!

リリーのすべて
イギリス/120分/R15+
3.18 公開/配給:東宝東和
lili-movie.jp

【STORY】 舞台はデンマーク。風景画家の アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、肖像画家の妻 ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)と共に 公私ともに充実した日々を送っていた。そんなある日、ゲルダに頼まれて 女性モデルの代役を務めたことをきっかけに、アイナーは自分の内側に潜んでいた女性の存在に気づく。それ以来、〝リリー〟という名の女性として過ごす時間が増えていったアイナーは、心と身体が一致しない自分に困惑と苦悩を深めていく。一方のゲルダも、夫が夫でなくなっていく事態に戸惑うが、いつしか リリーこそがアイナーの本質なのだと理解するようになる。移住先のパリで 問題解決の道を模索するふたり。やがて 彼らの前に ひとりの婦人科医が現れる。(プレスブックより)

今から80年以上も前に、世界で初めて ジェンダー・コンファメーション・サージェリー = 性別適合手術を受けたデンマーク人、リリー・エルベの 実話に基づく 勇気と愛の物語。原作は デイヴィッド・エバーショフ(映画の原題と同じ「The Danish Girl」、初版発行は 2000年)。監督は『英国王のスピーチ』(通信(47))『レ・ミゼラブル』の トム・フーパー。リリー役は『マリリン 7日間の恋』(通信(93))『レ・ミゼラブル』『博士と彼女のセオリー』(通信(278))の E・レッドメイン。ゲルダ役は『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』『アンナ・カレーニナ』の A・ヴィキャンデル。

この世に生を受けた時、リリーは〝男性〟と診断されて アイナーと名付けられましたが、リリーの性のアイデンティティーは〝女性〟でした(リリーは トランジション = 性別移行 or 性別適合する前は〝男性〟として生きてきた というコト)。
彼女(リリー)は アイナーだった子供の頃、後に画商となる幼なじみのハンス(マティアス・スーナールツ)と ちょっとした性的な経験があったらしいものの 同性愛者ともバイセクシュアルとも異なり、現に妻のゲルダとは 心身共に夫婦として結ばれていました。ところが ある日、アトリエに現れないモデルのウラ(アンバー・ハード)の代役を ゲルダに頼まれ、しぶしぶ 足元のモデルとしてポーズを取っていた時、思いがけず 女性としての意識に目覚めます。そして 最終的には、リリーにとって 本来あるべき性へのトランジションのために、外科手術(少し前までは一般的に〝性転換〟と呼ばれていた性別移行手術)を受けるコトになります。

文章表現に配慮の必要があるため 説明が少々難しいのですが、本作は 特殊とも言える実話を通じて、普遍的な ふたつのテーマを物語っている点で 注目に価します。そのひとつは、自らのアイデンティティーを命がけで追求したリリーの勇気(当時は 抗生物質が存在しなかったため 感染症のリスクが高く、治療法も確立されていませんでした)。もうひとつは、夫であるリリーを理解しようと 切ない思いを乗り越え、リリーの味方であり続けたゲルダの深い愛情(彼女は リリーのトランジションのために、ドイツの婦人科医を探し当てもします)。このふたつのテーマが相俟って、観る者の心を打つのです。

リリーが最も生き生きして見えたのは、最初の手術の成功後、高級百貨店の香水売場で セールスクラークとして働く場面でした。カウンターで接客する彼女の姿、社員用の通路で同僚たちと雑談を交わす彼女の姿は、女性として生きる喜びに満ち溢れているのでした。

観終えて、僕は感動と共に少々複雑な気持ちを禁じ得なかったのですが、キャスティングに関して、ひとつ妙なコトを考えもしました。同性愛者の青年として登場する ヘンリク(一番下のスティル。彼は トランジション以前のリリーには積極的に言い寄ったものの、トランジション以後のリリーには少しも欲望を感じない)を演じた ベン・ウィショー(『パフューム ある人殺しの物語』『追憶と、踊りながら』に主演)と、リリー役のレッドメインが役を入れ替わっていたなら、この映画は さらにインパクトが強くなっていたのでは と……。『ゼロの焦点』(1961年度作品、通信(5)でDVDを紹介)で、有馬稲子が「高千穂ひづるさんと私の役を入れ替えては?」と野村芳太郎監督に提案し、結果的に 大成功した例のように です。

 

 

マリーゴールド名称未設定-1
© Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

インドのボロホテルを愛するイギリス人男女 5人を待ち受ける、人生のクライマックス。
そんな時、ホテルに新たな客が やって来る。

イギリスが誇る名優たちと、
リチャード・ギアの夢の競演!

マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章
イギリス=アメリカ合作/123分
3.4 公開/配給:20世紀フォックス
marigold-hotel.jp

【STORY】 神秘の国 インドの高級リゾートホテルでエレガントな時を―― そんな謳い文句に惹かれてイギリスからやってきた男女7人が 新たな一歩を踏み出すまでを描いた『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』。大ブームから 3年、さらにドラマティックに もっと豪華に、装いを一新した第二章が 今、幕を開ける!
様々な事情で 5人になった男女は、高級ホテルになる〝予定〟のボロホテルを 今ではすっかり気に入っていた。そんな彼らに 新たな選択が待ち受ける。イヴリンは 才能を生かせるビジネスチャンスを手にするが、互いに好意を抱くダグラスとの関係を前に進める勇気はなかった。宿泊客から共同マネージャーとなって大活躍のミュリエルは 皆を見守っていたが、実は誰にも言えない秘密を抱えていた。一方、若きオーナーのソニーは ホテルの拡大と恋人との結婚という二大イベントを前に、次々と問題を起こしてしまう。そんな時、謎めいた客がやって来る――。(プレスブックより。一部省略)

前作のラストで ソニーとスナイナの結婚が明らかになっていたため、今回は彼らの結婚式に至るまでのプロセスを物語の核にしています。しかし 僕の印象では、良くも悪くも詰め込みすぎで、フルコースのディナーをランチに提供されたかのような気分でした。もしかしたら ボリウッド映画のスタイルを意識的に採り入れたのかと想わせるフシもあり。

出演者で良かったのは、ジュディ・デンチ(イヴリン)、マギー・スミス(ミュリエル)、ビル・ナイ(ダグラス)、ロナルド・ピックアップ(ノーマン)らのベテラン勢と、若く美しい テーナ・デサイー(スナイナ)。ゲスト出演的な リチャード・ギアは、共演場面の多い デヴ・パテル(ソニー)の騒々しいオーヴァーアクションのために、影が薄くなってしまった形。しかし、ある場面で 彼が うつむいた瞬間、その白髪の輝くばかりの美しさには目を見張らされました。

オススメしたいのは 前作のファン、及びインドに魅了されている皆様。ジャイプールの街、壮麗な寺院、古代王朝建築等の名所はモチロン、迫力のある情熱的な群舞やウェディングパーティシーンまで、心ゆくまで楽しむコトができるでしょう。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
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info@biteki.com
(個別回答はできかねますのでご了承ください。)  

ビューティ エキスパート 大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

 

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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