大高博幸さんの 肌・心 塾
2016.4.12

【大高博幸さん連載 vol.336】試写室便り 第113回 『スポットライト 世紀のスクープ』『孤独のススメ』『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』

spotlight
Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

本年度アカデミー賞®作品賞・脚本賞
W受賞!

混迷深まる現代に ひときわ眩い光を放つ
社会派ドラマの傑作。

スポットライト 世紀のスクープ
アメリカ/128分
4.15 公開/配給:ロングライド
spotlight-scoop.com

【STORY】 2001年 夏、ボストン・グローブ紙に 新編集局長 マーティン・バロンが着任する。マイアミからやってきたアウトサイダーのバロンは、地元出身の誰もがタブー視する カトリック教会の権威にひるまず、ある神父による性的虐待事件を詳しく掘り下げる方針を打ち出す。その担当を命じられたのは、独自の極秘調査に基づく特集記事欄≪スポットライト≫を手がける4人の記者たち。デスクの ウォルター“ロビー”ロビンソンをリーダーとするチームは、事件の被害者や弁護士らへの地道な取材を積み重ね、大勢の神父が同様の罪を犯している おぞましい実態と、その背後に 教会の隠蔽システムが存在する疑惑を探り当てる。やがて 9.11 同時多発テロ発生による一時中断を余儀なくされながらも、チームは一丸となって 教会の罪を暴くために闘い続けるのだった……。( プレスブックより。一部省略 )

脚本が 正統的かつ正攻法で、演出にも演技にも あざとい強調や衒いがなく、センセーショナルな題材を扱っている割に 抑制の利いた作品です。それでいて全篇にスリルが漲り、上映時間 128分が 短く感じられる程でした。これは 巨大な権力を相手に、正義を貫き通した≪スポットライト≫チームの 実話です。

導入部では ――グローブ紙の定期購読者の53%を カトリック信者が占めているというのに―― 新編集局長の無理難題とも言える 新方針 or 指示・命令に、戸惑いを隠せなかった≪スポットライト≫のスタッフたち。しかし、彼らが徐々に本気になって取材を開始する辺りから、観客は 思わずスクリーンに引き込まれて、その一部始終を見守るコトになるでしょう。

彼らのチームワークには目を見張らされるモノがありますが、僕は特に、比較的 若い記者の マイク・レゼンデス( マーク・ラファロ )と サーシャ・ファイファー( レイチェル・マクアダムス )の それぞれ単独での取材場面に 強い感動を覚えました。被害者( 元・少年、今は大人 )たちに 寄り添うような接し方、率直な態度、粘り強さ、重要な細部を引き出す能力、安心して話しても大丈夫だと相手に感じさせる雰囲気……。押しは決して強くはなく、また 安易に理解したような反応を示さないため、被害者たちは 事実に加えて 真の感情・悲痛な心の内をも語り始める……。これは、取材者としての技量の高さと同時に、あるいは それ以上に 彼らのジャーナリスト魂、言い換えれば 人間性の成せる術に ほかならないと感じさせられました。僕が この映画で一番好きなのは、そこです。

本作は 数々の困難を乗り越えて、2002年1月、神父( ボストンだけで70人以上 )による児童への性的虐待、及び それを教会組織が隠蔽してきた事実を発表するまでの〝軌跡〟を描いています。しかし その後、2014年3月末までに、アメリカ国内で 6,427人の神父が、17,259人に性的虐待をしたとして罪に問われている とのコト。これも≪スポットライト≫チームの粘り強い努力に 端を発しているのです。さらに 今年の2月初旬、ローマ法王庁は 本作の上映会を催した とも報じられています。

忘れられない台詞……。ここでは ひとつだけ御紹介しておきます。
「君の捜している文書は かなり機密性が高いね。これを記事にした場合、責任は誰が取る?」「では、記事にしない場合の責任は?」( 記録文書保管所の責任者と M・レゼンデスとの会話。僕は心の中で、レゼンデスに応援の拍手を送りました )。

以下は 本作の監督、トム・マッカーシー( 『扉をたたく人』『靴職人と魔法のミシン』( 通信 291 ))の言葉です。
「僕自身もカトリック教徒として育てられたから教会を理解しているつもりだし、称賛と尊敬の念を持っている。この作品で教会をバッシングするつもりはない。これは〝なぜ このようなことが起きてしまったのか?〟という問いかけだ。子供への虐待だけでなく、それを隠蔽しようとした組織ぐるみの悪しき行いが教会内にあった。未だに続いているところも あるかもしれない。なぜ 誰も声を上げずに、こんな大罪が何十年も横行することを許してしまったのか」。
「この映画は 一流の記者が成し遂げることができる 輝かしい例を扱っている。この種のジャーナリズムが いかに必要不可欠なのかということを思い起こさせたい。なぜなら僕にとって、この記者たちは 真のヒーローだからだ」。( プレスブック、プロダクション・ノートより )

脚本は、T・マッカーシーと ジョシュ・シンガーの共同執筆。
P.S. 映画を映画館で観るのは一年にホンの数回という方も、この映画は ぜひ観てください。

 

ahimanshow
(c)Feelgood Films 2014 Ltd.

1961年、人類史上最悪の惨事である
ホロコーストの真実を暴いた〝世紀の裁判〟が
TVを通じて世界中に放映された――。

今まで一度も語られることのなかった
名もなきTVマンたちの、
信念と執念が胸を打つ実話。

アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち
イギリス/96分
4.23 公開/配給:ポニーキャニオン
http://eichmann-show.jp/

【STORY】 1961年、元ナチス親衛隊将校 アドルフ・アイヒマンの裁判が エルサレムで開廷された。ナチス戦犯を前に生存者たちが語る証言は、ホロコーストの実態を明らかにする又とない機会だった。〝ナチスがユダヤ人に何をしたのか〟 TVプロデューサーの ミルトン・フルックマンと ドキュメンタリー監督の レオ・フルヴィッツは この真実を全世界に知らせるため、≪世紀の裁判≫を撮影し、その映像を30か国以上に届けるという一大プロジェクトを計画する。ナチスの残党に命を狙われながらも 世紀の瞬間を捉えたい一心で掴んだ映像のすべてと 放送の裏側に迫る!( 試写招待状より。一部省略 )

哲学者の ハンナ・アーレントも実際に傍聴した アドルフ・アイヒマンの歴史的裁判……。それについては、アイヒマンが逮捕される場面に始まる映画『ハンナ・アーレント』( 通信 182 )が詳しく伝えてくれましたが、この『アイヒマン・ショー』は、裁判の模様をTV放映するコトに成功した男たちの〝舞台裏〟を描いています。
’61年は、ガガーリンの偉業に世界中が湧き、キューバ危機が注目の的となっていた時代。前項の『スポットライト』が 9.11の大事件と重なる時代であったコトを考え併せると、一層 興味深いモノがあります。

本作は、ナチスシンパからの圧力や、フルヴィッツとスタッフ間のモメゴト等の描写が、やゝ弱く感じられる点が残念でした。しかし、法廷の壁を改造して TVカメラを埋め込む場面や、証言台に立つユダヤ人たちの証言、そして かつて目にした覚えのない記録映像等に 一見の価値があります。
さらに感心させられたのは、当時の TV映像中の実物のアイヒマンと、彼に瓜ふたつとは言い難い俳優が演じているアイヒマンの再現場面とが、映画として 違和感なく、うまく繋がっている点でした。

印象に残った台詞を ふたつ。
1)「状況によっては、我々の誰もが アイヒマンになる可能性がありうる」( フルヴィッツがスタッフ連に言う台詞。この一言は、一部のスタッフを猛烈に反発させもする )。
2)「話しても 誰ひとり、信じてはくれなかった。だから 夢の中でしか 喋らなくなった。でも 今は、あなたのおかげで……」( フルヴィッツの宿泊先である質素なホテルの女主人 ――腕にナチスに焼き付けられた刻印がある―― が、TV放映後、フルヴィッツに言う台詞 )。

P.S. ホロコースト関連の映画については、通信 273297310314323等に書きましたので、興味を抱いた皆さんは クリックしてみてください( 最も重要なのは、クロード・ランズマン監督の 3作品を紹介した 273 です )。

 

(c) 2013, The Netherlands. Column Film B.V. All rights reserved.
(c) 2013, The Netherlands. Column Film B.V. All rights reserved.

すべてを失くした男が、何も持たない男から学んだ幸せとは――?

孤独と友情、
そして解放を描く笑いと涙の物語。

孤独のススメ
オランダ/86分
4.9より公開中/配給:アルバトロス・フィルム
kodokunosusume.com

【STORY】 オランダの美しい村に暮らすフレッドは、最愛の妻を亡くし、天使の歌声を持つ息子とは 何年も音信不通になっていました。毎週日曜日の礼拝以外、周囲との つきあいを避けて ひっそりと生活していたフレッドのもとに、ある日、奇妙な男が迷い込みます。男は歳も名前も不詳で まともに会話もできませんが、庭掃除のお礼にと夕食をご馳走したことから、単調で振り子のようだったフレッドの生活が ざわめき始めます。キリスト教の厳格な教義が支配する村では、フレッドの変化を興味津々で見守ります。ところが、村人との間に起きた衝突がきっかけで、フレッドは 抱え込んでいた〝しがらみ〟を見つめ直すのでした。
心のままに生きることは難しいけれど、大切なものを失い続ける人生ほど わびしいものはありません。正しい生き方に執着して 自分を失いかけた男が、名前すら持たない男から学んだ幸せとは?( プレスブックより )

この映画、〝しがらみ〟や〝実は決して重要ではない何か〟に 束縛 or 呪縛されて、自分自身を解放できずにいる方々、真の自分を押し殺して生きているがために〝本当に大切な何か〟を逃してしまっているような方々には、どうしても観てほしい小品です。また、たとえるのはヘンかも知れませんが、『間奏曲はパリで』( 通信 281 )や『おみおくりの作法』( 通信 266 )、『ル・アーヴルの靴磨き』( 通信 96 )といった優れた小品を愛するタイプの方々には、絶対オススメの映画です。簡潔に説明するコトが僕には難しいのですが、敢えて言えば、オランダ流の静かなユーモアと深い感動に満ちた〝人生やり直しの オススメ・ドラマ〟……。

僕は 試写を観ながら、登場人物たちに ――自分自身を含めてですが、それ以上に 大切な友人や知人の姿が重なってきて、大粒の涙を流しました。今 この文を書く間にも、涙が にじんできて 困っています。
ラストに近づくにつれて、本質的にはジェントルながら 頑な人間として生きてきたフレッドが、徐々に〝しがらみ〟or 呪縛に気づき、彼自身の内なる声に従っていこうとする姿には、心の底から感動が こみ上げてきました。その展開、語り口の素晴らしさ……。本作は、ひとりの人間として 自分自身を解放するコトの大切さを、じんわりと教えてくれる〝かけがえのない親友〟のようです。

以下は、脚本も担当した ディーデリク・エビンゲ監督のメッセージです。
「『孤独のススメ』は 私にとっては、私的な悟りの物語です。宗教的な教義からの解放についての映画というよりは、主人公が ある洞察を得ることを巡る話であり、誰にでも当てはまる物語です。自分自身について、自分を取り巻くものについて、深い洞察を得て自由になるためには どれほどのエネルギーと葛藤が必要かを描いています。この映画は また、他人が どんなふうに力になってくれて、洞察を もたらしてくれることがあるかについても示しています。もっとも、自分を解放することは 一人では できませんが、それでいて 一人で やらなければなりません。脚本を書く過程で、この興味深いパラドックスが より はっきりしてきました」( プレスブック、ディレクターズ・メッセージより )。

最後に、主要登場人物について、簡単に紹介しておきます。
フレッド…… 教会の近くに ひとりで暮らしている 気難しい初老の男、敬虔なクリスチャン。ある出来事によって、彼の心は 閉ざされたまゝになっています。演ずるのは トン・カス。
ヨハン…… 絶縁の後、何年も会っていないフレッドの息子。フレッドが いつも聴いているバッハのアリアのテープは、8歳の頃に録音された ヨハンの歌声です。彼の名前は、必ず憶えていてください。
テオ…… フレッドのもとへ迷い込んできた 奇妙な男の名前。物語が進むうちに、彼は「テオ」と呼ばれます。彼の素性も分かってきます。演ずるのは ルネ・ファント・ホフ。
カンプス…… 教会の世話役であり、信者たちの手本のように生きている男、ですが……。演ずるのは ポーギー・フランセン。
サスキア…… 旅行代理店で フレッドを接客する女性社員。しかし 彼女は、そのシーンだけの端役では ありませんでした。演ずるのは アリアーヌ・シュルター( 『人生はマラソンだ!』( 通信 223 )で工場主の妻役を好演した女優さんだと思います )。
なお、シャーリー・バッシーの代表曲として知られる「ジス・イズ・マイ・ライフ」と「アイ・アム・ファット・アイ・アム」が、本作の〝ある重要な要素〟を代弁するかのように、効果的に用いられています。

P.S. 東京では 新宿シネマカリテで 既に上映中ですので、観ると決めた方は お早めに。その他の上映スケジュールは、kodokunosusume.com で チェックしてください。

P.S. この映画を観て〝本当に大切な何か〟に気づくのは、幾つになってからでも構わない、気づかないまゝ終えるよりは……。でも、若い今のうちに気づいて、それを実行していくほうが、人生、充実するって思いませんか?

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
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(個別回答はできかねますのでご了承ください。)

3-大高博幸
ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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