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2014.11.7

大高博幸の美的.com通信(256) 11月の注目作 『紙の月』 + 『ドラキュラ ZERO』(公開中) 試写室便り Vol.80

ⓒ2014「紙の月」製作委員会
ⓒ2014「紙の月」製作委員会

真っ当な人生を送っていたはずの主婦が、なぜ横領に手を染めたのか。
彼女が本当に手に入れたかったものは何だったのか――。

角田光代×吉田大八×宮沢りえ。
日本映画界最高峰のコラボレーションにより、感情を ゆさぶる 衝撃のヒューマンサスペンス、ついに誕生!
紙の月』 (日本/126分。映倫 PG-12)
11.15 公開。 Kaminotsuki.jp

【STORY】 バブル崩壊直後の1994年。夫と二人暮らしの主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事をしている。細やかな気配りや丁寧な仕事ぶりによって顧客からの信頼を得て、上司からの評価も高い。何不自由ない生活を送っているように見えた梨花だったが、自分への関心が薄い夫との間には、空虚感が漂いはじめていた。
そんな ある日、梨花は年下の大学生、光太と出会う。光太と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまう梨花。最初は たった1万円を借りただけだったが、その日から 彼女の金銭感覚と日常が 少しずつ歪み出す――。(プレスブックより)

直木賞作家:角田光代のベストセラー小説の映画化で、7年振りの映画主演となる宮沢りえが 巨額の横領事件を起こす平凡な主婦:梨花役を演じています。監督は、『桐島、部活やめるってよ』で 第36回 日本アカデミー賞 最優秀作品賞を受賞した吉田大八。

ひとことで言って 完成度が相当高い映画です。日本映画の正統的な流れの上に立つ作品という印象で、その点に僕は一種の感銘を覚えました。
導入部の何気ない場面からドキドキさせられてしまうのは、これから起こる事件の怖さを知っているからだとしても、ゆったりとしているようでいて張りつめた構成と、徐々にサスペンスを高めて行く展開によるところが大きかったと思います。
ストーリーは、「原作にある梨花の旧友たちとの描写を削り、銀行内部の描写をふくらませて大胆に脚色」されているとのコトですが、原作には登場しない人物= 銀行の窓口係:相川恵子と 後方事務員:隅より子の存在が、映画全体に強いインパクトを与えています。

本作の顕著な特徴のひとつに、梨花が犯罪に手を染め エスカレートして行く過程を、類似した場面や会話や行動の繰り返しによって、周到に積み上げて行く脚本(早船歌江子)と演出のスタイルがあります。そのために尺が長くなっている感は否定できないのですが、それが観る者に強列なスリルと説得力を与えている点が実に見事でした。

宮沢りえの演技は 繊細かつ大胆。多くの場面を無感動とも虚無的とも言える硬めの表情で通しているため、光太との場面で見せる“年上の女”の輝きが 際立って美しく感じられます。

ちゃっかり者の若い銀行員:相川恵子役は、AKB48卒業後 初の映画出演となる大島優子。地のまゝのように見えて、ある種の毒を内に秘めているキャラクターを 生き生きと印象的に好演。

梨花の不正を見抜き、彼女を追いつめて行く 隅より子役は 小林聡美。クールで淡々とした役柄を真にリアルに演じていて、助演女優賞を贈りたい程の うまさ・素晴らしさでした。

光太役の池松壮亮は、梨花との逢瀬を重ねるうちに 純粋さを失って行くプロセスを好演。特に一流ホテルのテラスの場面で 「パラソルの位置を変えて」と従業員に言う(というよりは指示する)態度が、金持ちのドラ息子のようになっている演技は 微妙ながら相当ショッキング。しかし、安易に贅沢ができる身になると、人は こうなりがちなのかも…。

P.S. 映画としては どうでもいいコトかも知れませんが、ひとつ気になったのは 梨花が買い物をするコトになるクリニークのカウンターの場面。無言のまゝの梨花に対して、「何か お捜しですか? もしかして 外回りのお仕事ですか? この時季は空気が乾いているから、どうしても このヘン、カサつきますよねぇ。少しお時間あれば 御紹介しますよ」と一気に言う美容部員(中堅クラス?)の台詞。本物のクリニークの美容部員さんも、あんなアプローチ&トークを実際にするのでしょうか? 長年(昔のコトですが)、美容部員の接客の指導を担当していた僕としては、とても引っかゝるモノを感じてしまいました…。

 

ⓒUniversal Pictures
ⓒUniversal Pictures

数々のドラキュラ物語のモデルとなった実在の男は、歴史に名を刻む<英雄>だった。

15世紀半ばにトランシルヴァニア地方を治め、人々から敬愛された君主、ヴラド・ドラキュラ。
なぜ、彼は恐怖の象徴になったのか? そこには、今まで描かれることのなかった、驚愕の英雄伝説が隠されていた――。
ドラキュラ ZERO』 (アメリカ/92分)
10.31より公開中。DRACULA-ZERO.JP

【STORY】 強く優しく 民衆から慕われる理想の君主、ヴラド・ドラキュラは、最愛の妻と ひとり息子と共に幸せに暮らしていた。だが、ヨーロッパ侵略を狙う大国 オスマン帝国の皇帝 メフメト2世に、ヴラドの息子を含む1000人の少年たちを、帝国の兵士として差し出せと迫られる。帝国との全面戦争を決意したヴラドは、ひとり 山に分け入り、古くから伝わる 強大な闇の力と契約を結ぶ。だが、力と引き換えに 耐えがたい代償を支払わねばならなかった。超人的な戦闘能力を得たヴラドは 大軍を打破し続けるが、日々恐ろしく変貌していく その身で、愛する家族と国を守ることができるのか――? (チラシより)

従来のドラキュラのイメージを根底から覆すと言ってもオーバーではない 前代未聞のドラキュラ映画で、最新VFXを用いて壮大な戦いを描いた アクション・エンターテインメント。
屍となって なお生き続けるために 処女の首筋から血を吸うという、不気味さの内側に性的エクスタシーを秘めた ブラム・ストーカー作の物語とは趣が異なり、実在した “串刺し公:ドラキュラ”の伝説(歴史に残る記録)を採り入れながら、オリジナル・ストーリーに仕立て上げた大作です。

本作の重要なポイントは、ヴラド・ドラキュラが 吸血鬼に ならざるを得なかった理由にあります。それは、家族と民衆をオスマン帝国の襲撃から守り抜く唯一の手段として、苦渋の決断を下した末の結果だったのです。
ヴラドは、霧深い山奥の洞窟で 数百年も生き長らえてきたという “マスター・ヴァンパイア(吸血鬼の起源として登場する怪物)”に、強大な闇の力を借りたいと願い出て、覚悟の上で その血液を飲み干します。その血はヴラドに超人のパワーを与えますが、同時に究極の犠牲を払う結果を招くのでした。

クライマックスに向けて映画はスピードを一段と高め、アクションも増幅されて行きますが、ヴラドの苦悩が人間的なドラマとして入念に描かれているため、観客は徐々にヴラドに感情移入してしまうはず。僕は “ドラキュラ映画”を観ながら、初めて涙をこぼしている自分自身に驚かされもしました。

ヴラド役は、『タイタンの戦い』や『ホビット 竜に奪われた王国』等の ルーク・エヴァンス。メークと特殊撮影技術の力に支えられているとはいえ、その形相の急激な変化等を巧みに表現しています。

ヴラドの妻:ミレナ役は サラ・ガドン。『危険なメソッド』(通信(118)で紹介)とも『コズモポリス』(通信(147)で紹介)とも異質な役柄を、美しく毅然と好演。彼女は まだ26〜27歳という若さでありながら、既に本物の大人の女優の域に達しています。

メフメト役の ドミニク・クーパーも好演はしていますが、その子供じみた復讐心と強欲な性格という印象ばかりが前面に出ていた感じ。その原因は主に、この種のアクション・スペクタクルとしては短めの尺にありそうですが…。

特筆に価するのは、マスター・ヴァンパイア役の チャールズ・ダンス。彼はラストシーンに再び登場して、ある台詞を ひとこと、つぶやきます。その姿が台詞にも増して印象的なので、彼が “彼”であるコトに、皆さんも ぜひ瞬間的に気づいてください。

次回の試写室便りは、12月上旬頃に配信の予定です。では!

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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