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2014.4.16

大高博幸の美的.com通信(218) 『百瀬、こっちを向いて。』 『ブルージャスミン』 『世界の果ての通学路』 試写室便り Vol.67

momose
(c)2014 映画「百瀬、こっちを向いて。」製作委員会

僕が付き合うことになったのは
尊敬する先輩の“2番目”の彼女。
百瀬、こっちを向いて。』 (日本映画/109分)
5.10 公開。www.momose-movie.com

【STORY】  高校卒業以来、久々に故郷に降り立ち、変わらない街並みに触れた相原ノボル(向井理)は、高校時代のある「切ない嘘」を思い出していた…。
15年前。ノボル(竹内太郎)は、他人と上手く関われない自分は 女の子とは一生縁が無いと諦め、冴えない高校生活を送っていた。そんなある日、幼馴染の先輩・宮崎瞬(工藤阿須加)に突然呼び出され、そこでショートヘアの女の子を紹介される。彼女の名前は百瀬陽(早見あかり)。

「これは3人だけの秘密だ。」

瞬には神林徹子(石橋杏奈)という本命の恋人がいた。が、最近一部で 瞬と百瀬が付き合っているという噂が流れ、瞬は徹子に疑いを持たれていた。そこで、百瀬の提案で、ノボルと百瀬が付き合っている「フリ」をし、その噂を消そうと考えたのだった。恋をした事の無いノボルと、好きな人と一緒にいる為なら傷つく事を いとわない百瀬。「嘘」で始まった2人の「恋」の行方は――。(宣伝用チラシより)

 

「時間のムダになるのかも」と心配しながら観始めたのですが、結果は観て大正解でした。
実は途中まで、「噂」を打ち消すために 瞬と百瀬がノボルを利用するという話に、「いったい どれだけの意味があるのだろう」と、僕の気持ちは かなり懐疑的で…。
ところが、百瀬の家庭の描写や、瞬の子供時代の回想シーンが映し出される辺りになると、ガゼン 面白く(正しくは興味深く)なって来たのです。

そして、15歳のノボルと百瀬の最後の場面…、つらい夜が明けて 雀のさえずりも聞こえてくる土手の場面で、驚いたコトに 僕は自分の涙腺が弛んでいるコトに気づかされました。
ここは ぜひ書かせてほしいのですが、その場面では、ふたりの間で次のような会話が交わされます。
瞬と別れるコトになった(というコトは、「嘘の恋」も おしまいになる)百瀬の、「髪を切ろうと思う。もう 伸ばしても意味ないし」という言葉に、ノボルが彼女の少し後ろを歩きながら、
「切ってあげようか」 「やだ」
「動物園 行こうか」 「嘘つき…」
「もう 嘘は つかない」 「……」
「ハンカチ いる?」 「いらないよ」
「鼻水 出てるよ」 「出てないよ」
「じゃあ 見せてよ」 「泣いてないって、バカ」
「じゃあ こっち 向いてよ」 「絶対 いや」
「最後の お願いなのに? ねえ 百瀬、こっち向いてよ」 「……」。
ノボルとしては 精一杯の言葉を 真剣に、しかし かなりブッキラボウに、思いつめた表情を わずかに変えながら言う その台詞と顔が、非常に健気(けなげ)で いとおしく、最後の台詞まで来た瞬間、僕の涙腺は一気に全開状態になりました(この場面を どうしても もう一度観たくなり、僕は再度、特別に試写を観せていたゞきました。こんなコトは滅多にない話です)。
そして その数分後に映し出される 本当のラストシーンで、30歳のノボルが 向こうから歩いて来た髪の長い女性と擦れ違う…。このシーンも相当 印象的でした(僕は 幼い頃に観た新東宝映画 『月の光 トラン・ブーラン』(1954)に、似たようなラストシーンがあったコトを 想い出してもいました)。

プレスブックによると、原作(中田永一の小説)では8年間だった時間の設定を、映画化に際して15年間に変えた とのコト。そのために、30歳のノボルを向井理(現在32歳)、15歳のノボルを竹内太郎(現在24歳)が演ずるという ふたり一役に、少なくとも無理は感じられませんでした。
撮影は 照明・露出・フォーカスに工夫が施され、透明度が高く、とても美しい。
出演者では、百瀬役の早見あかりが適役を好演していますが、僕は 竹内太郎(本作が劇場映画での本格デビュー)に第1の称賛を贈りたい。彼の素晴らしい演技があったからこそ、僕は ここまで感動させられたのです。
もうひとり、特に好感を抱いたのは、ノボルの親友:田辺役の ひろみ(第2PK)です。彼は役を単なるコメディパートに落とさず、ひとりの登場人物としての人格を、自然かつ豊かに表現している点が 立派だと思いました。

台詞(台本)に少々練り不足な部分があるコトと、一部に ミスキャストでは? と感じさせる演技or演出があり、それは個人的に 気になっているのですが、せつなくホロ苦い青春・恋物語として、「この映画は 性別や年齢を問わず、一見の価値あり」と断言できます。
監督は、本作が長編第1作となる耶雲哉治。「やくも さいじ」と読む名前を、僕は 憶えておくコトにしました。

 

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Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.
Photograph by Merrick Morton © 2013 Gravier Productions, Inc.

人生の どん底に堕ちた、
ブルー すなわち 憂鬱な ジャスミン。
再び 夢のようなセレブリティ生活に
返り咲くことが できるのだろうか?
ブルージャスミン』 (アメリカ映画/98分)
5.10 公開。www.blue-jasmine.jp

【STORY】  ニューヨーク社交界の花と謳われたジャスミン(ケイト・ブランシェット)の華麗なる人生は、ある日 突然 崩壊した。裕福な夫との結婚生活も資産も全て失った彼女は、サンフランシスコの庶民的な妹宅に身を寄せて再出発を図る。しかし過去の栄光を忘れられず、不慣れな仕事や勉強に疲れ果て、精神のバランスを崩してしまう。やがて何もかも行き詰った時、理想的なエリートの独身男性と めぐり会ったジャスミンは、再び上流階級への返り咲きを目論むのだが……。 (試写招待状より)

ケイト・ブランシェットが、第86回アカデミー賞®にて主演女優賞を初受賞した作品です。監督・脚本は『ミッドナイト・イン・パリ』のウディ・アレンで、近年の喜劇路線からシリアスな作風へとギアチェンジした人間ドラマ。

昨年末に本作の予告編を観た時、「『欲望という名の電車』の今様セレブ版?」と興味を そゝられたのですが、本篇を観て、「『サンセット大通り』の要素を色濃く含んでいる」と感じました。
『欲望という名の電車』(1951)は エリア・カザン監督の傑作のひとつで、教養と気位の高さの中に 暗い性的パッションを隠し持ったヒロインの凄まじい悲劇を ヴィヴィアン・リーが熱演(2度めのアカデミー賞®主演女優賞を獲得)。
『サンセット大通り』(1950)は ビリー・ワイルダー監督の傑作のひとつで、往年の主演作を自宅の映写室で観ながら カムバックの機会到来を 十年一日の如く待ち続けている元無声映画のトップ女優(グローリア・スワンソンが熱演)が、ジレンマの末に殺人事件を引き起こすという物語(どちらも最後は、ヒロインが発狂状態となって幕を閉じます)。

僕は本作を上記2作と比較せずにはいられないのですが、W・アレンの演出は ヒロインに対する冷徹さと容赦のなさの点では2作と共通する一方、ドラマティックな高潮感は抑制されており、むしろ淡々と描写しようとした という印象を受けました。
ジャスミン役のC・ブランシェットも、芝居がかった結果となる危険を極力 避けたようで、崩れたマスカラに汚れた目元と 魂の抜けたような瞳、そしてブツブツとツブやく独り言の台詞とで、急速に破壊されて行く精神状態を デリケートかつ鬼気迫る程の演技で表現しています。

ブルーなジャスミンは、作り話や現実逃避を繰り返しながら生きている 虚栄心とプライドの固まり のような人物。血のつながらない妹(サリー・ホーキンスが好演)と共に 里親の下で育った という背景が想像させる要素はあるモノの、その徹底的な虚飾ぶりと感情まかせの言動が招いた痛々しいまでの姿は、観客の共感or同情を誘うというレベルを ほとんど超えています。それでもジャスミンの一寸先、ひたすら堕ちて行く姿から目が離せなくなるのは なぜなのか…。そこにこそ 本作を観る真の意味が潜んでいる と僕は思いました。
興味本位で でも十分ですが、特に特に観てほしいのは、「セレブorセレブ風の生活に 優越感と虚無感の両方を覚えるコトがある」という正直な性格の方々。ジャスミンの悲劇を回避するためにも、見逃すべからず です。

 

sekainohate
© 2013 – Winds – Ymagis – Herodiade

あなたは信じられますか。
学校へ行くために 15kmのサバンナを 命がけで駆け抜ける兄妹がいることを。
見渡す限り 誰もいないパタゴニア平原を、馬と一緒に通学する兄妹がいることを。
アトラス山脈を越えた先を目指す 3人の少女たちを。
幼い弟たちに車椅子を押される少年に 溢れる自信と喜びを。
世界の果ての通学路』 (フランス映画/77分)
4.12より公開中。www.sekai-tsugakuro.com

本作は、道なき道を何時間も かけて通学する子供達の姿を追った 感動のドキュメンタリー映画。僕は77分の間に心を洗われ、ラストシーンでは 突然ドカン!と胸を打たれ、大粒の涙をこぼしました。
ここに描かれているのは、4組の子供達の学校までの”旅”の様子。そして子供達の”旅”の無事を祈る家族達の様子。それを監督とカメラマンが 愛情を込めて撮影しているコトにも気づかされます。
編集は4組の子供達の姿を交錯させるスタイルを採っていて、それが心地よいリズムと変化を生んでいます。

4組の子供達を簡単に紹介すると…、
① ケニアのジャクソン君、11歳。妹を かばいながら 片道15km、巨象やキリン、シマウマといった野生動物が出没するサバンナを、命がけで 2時間かけて 毎日 学校へ通う。しっかり者の彼の夢は、まだ見たコトもない 飛行機のパイロットになるコト。
② アルゼンチンのカルロス君、11歳。妹と一緒に石ころだらけの 片道18kmを、愛馬に またがり、1時間30分かけて 毎日 学校へ通う。羊飼いの息子として生まれた彼は、地元に貢献するために 獣医を目指している。
③ モロッコのザヒラちゃん、12歳。毎週月曜日の夜明けに起床し、友達ふたりと合流して、片道22kmを 4時間かけて全寮制の学校へ向かう。そして金曜日の夕方、同じ道を歩いて帰って来る。彼女の夢は 医師になるコト。
④ インドのサミュエル君、13歳。足に障害を持つ彼は、ふたりの弟に助けられ、オンボロの車椅子に乗って、片道4kmを 1時間15分かけて 毎日 通学する。彼の夢は、同じような障害を持つ子供を助けるため、医師になるコト。

「夢を叶えたいから」。学ぶコトで現状を よりよく変えたいと願っている彼らにとっては、信じられないような学校までの”旅”も、大して苦には ならないのです。目標に向かって本気で進む彼らの姿は、真実 美しい。
この映画は、目標を見失いがちor現状に感謝する気持ちを忘れがちになっている方々にとって、必見の作です。僕が本作の試写を観たのは、『ブルージャスミン』を観たのと同じ日…。スケジュールの都合で偶然 そうなっただけの話ですが、”美しい”というコトの本質を、改めて考えさせられる一日となりました。

次回の試写室便りは、5月中旬頃に配信の予定です。では!

 

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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